都内某所
ピンポーン
僕はビクッと驚いて、立ち上がった。
ピンポーン
心臓が口から飛び出そうなくらい激しく跳ね上がっている。ドクンドクンなんて生易しいものじゃない。バクン!バクン!である。震える膝を叱咤し、何とか玄関まで辿り着く。覗き穴の先には、一人の若い女性。僕が覗いているのを察したのか、僅かに首を傾げてニコッと微笑む。僕は気を失いそうになりながら、ドアを開けようとするが、ロックが掛かっているので当然開かない。慌ててロックを外して開けようとするが、チェーンに引っ掛かって途中で強制的に止められてしまった。少しだけ開いた隙間から彼女の顔が現れ、クスクスと笑っている様子が視界に飛び込んできて、僕は顔を真っ赤にして一度ドアを閉め、チェーンを外してドアを開ける。ここは僕の実家のゲストルームで、まるでマンションの一室のような造りなのだ。
「あーあ、待ちくたびれちゃったよー」
「すみません」
「冗談冗談」
穴があれば隠れたい気持ち。彼女を目の前にするといつもこうだ。僕は高校生で彼女は大学生。僕は進学校に通う受験生で彼女は僕の家庭教師。
今は夏で、彼女はとても露出の多い服装だった。スタイルに自信があるのだろう。とても綺麗な人で、雑誌のモデルのアルバイトをしたこともあると聞いたことがある。彼女は二週間ほど前から僕の家庭教師となった。金持ちで息子思いな両親が手配してくれた。以前、僕の家族の前に彼女が初めて現れた時、父は鼻の下を伸ばし、母は露骨に嫌な顔をした。僕はゲストルームで一人暮らしの真似事をしているので、家庭教師とは完全に二人きりとなる。多感な年頃の僕にこんなに美人な家庭教師が適切かどうか、一晩中、親子で話し合った。僕と父はもちろん賛成派で、彼女が一流大学の学生であることや、相手が美人な方が受験勉強へのモチベーションが高まるに違いないなどといった、根拠のない理由で強引に母を説得した。
「ロッキー君、ちゃんと勉強してる?」
彼女は僕のことを『ロッキー君』と呼ぶ。ちなみに僕の名前はロッキーユキだ。僕を『ロッキー君』と呼ぶのは、今のところ世界中で彼女一人だけだ。彼女はまず僕の部屋をじっくりと見渡し、細かい変化を楽しそうに発見しては僕に変化の理由を尋ねた。カーテンの色が変わっているだとか、本棚に本が増えているだとか、どうでもいいことばかりだったが、彼女が気に掛けてくれることが嬉しかった。
実は僕はかなりモテる。中性的な印象で、女の子みたいと言われることもある。学校にはファンクラブもあるし、バレンタインデーは箱単位でチョコをもらう。でも、男子生徒には苛められるし、友達がいない。僕は自分の容姿が好きではない。もっと男らしい容姿が良かったし、女の子みたいと言われるとキレそうになる。
彼女の名前は石田玲奈と言う。玲奈さんは都内の一流大学の学生で、家庭教師の経験は豊富らしい。頭が良いし、気さくで陽気。飲み込みの悪い僕に対して感情的になることもないし、つねに笑顔でいろんなことを教えてくれる。もしかしたら僕に気があるんじゃないかと思ってしまうくらい優しい。
初めて会った時から、僕は玲奈さんを異性として強烈に意識していた。学校では僕の周りに女の子がたくさん群れてくるけど、どうしても受け付けなかった。僕は大人の女性に憧れていていたのだ。露出の多い服装の時の玲奈さんは、悪魔的な存在だった。胸の谷間、細くて長い綺麗な脚。とても勉強どころではなく、彼女の香水の香りが鼻孔をくすぐり、何かの拍子で彼女の息が僕の耳に吹きかかると僕はいても立ってもいられなくなる。正直言うと、僕は彼女でマスターベーションを何度もしているのだ。
「・・・ロッキー君、聞いてる?」
すっかり上の空の僕の肩に彼女の手が乗る。こうしたちょっとしたスキンシップすら、僕にはたまらないのだ。
「はい。大丈夫です」
「ふーん」
「・・・な、何ですか?」
目を細めて、口元を緩ませる彼女を見て、僕は意識が飛びそうになった。そんなにエッチな顔をされると、直視すら出来ない。
「ロッキー君、最近、変なことばかり考えているでしょう?」
図星。玲奈さんとエッチなことをすることばかり考えてます。
「お姉さんのせいかしら?」
戯けた言い方で彼女がグッと距離を縮めてきた。体が動かない。甘い香水の香り。
「ねえ、私のせいなのかな?」
「は、はい」
いつもの笑顔が消えて、玲奈さんは大人の女の顔になっていた。そして、聞いてはならないセリフを聞いてしまった。
「エッチしたい?」
時が止まった。ついに僕の中の境界線が消えてしまった・・・
玲奈さんは僕の手を掴んでいきなり自分の胸に押し当てた。初めて触る女性の胸。服越しだったけど、とても柔らかかった。女性の胸の感触はマシュマロに例えられることが多いが、本当に心地よい感触だった。
「触るの初めてなの?」
僕の手の震えを感じ取ったのか、意外だと言わんばかりに玲奈さんは目を見開いた。
「今時の子って経験早いと思ってたけど。ロッキー君、格好いいし」
言葉が出ない。自分の手が憧れの玲奈さんの胸に押し当てられたままである。喉がカラカラに乾く。
「ねえ、いいんだよ?ロッキー君のこと、好きだよ」
僕はゴクリと唾を飲み込んだ。いや、飲み込もうとして失敗した。軽く咽せた。
「大丈夫?」
玲奈さんが心配そうに僕を見つめる。胸の谷間がモロに目に入ってくる。その瞬間、僕はあらん限りの力を振り絞って、彼女の拘束から逃れた。相当の勇気と気力が必要だったらしく、手を引いた瞬間、僕は椅子から転げ落ち、頭を強かに打ち付けた。朦朧とする意識の中で、彼女が慌てて立ち上がる様子と、ミニスカートの奥の水色のパンティがチラリと見えた。
「ロッキー君・・・」
耳元で玲奈さんの声が聞こえる。甘くて優しい声。耳が擽られているようで、たったそれだけで僕のアソコは勃起してしまう。
「・・・大丈夫?」
どうやらベッドの上に寝かされているようだ。頭を打ち付けてから、どのくらいの時間が経ったのだろう。喉はカラカラに渇いていたし、後頭部に鋭い痛みが残っている。玲奈さんは心配そうな顔で僕の顔を覗き込んでいる。僕の位置からは危険なほどくっきりと胸の谷間が見えてしまう。ここまで完璧な角度だと、彼女が見せたがっているとしか思えない。
「だ、大丈夫です」
「・・・ふぅ」
僕の反応を得て、玲奈さんは張りつめていた気持ちを解くように肩を撫で下ろした。そしてテクテクと歩いて僕の椅子に腰を下ろした。すぐに右手で額に手をやったところを見ると、本当に心配してくれていたのだろう。
「どうなることかと思ったよー」
責めている感じではない。
「ごめんなさい」
「いいよ、いいよ」
ヒラヒラと手を振って微笑む玲奈さん。そんな玲奈さんは最高に美しい人だった。僕はこんな美人なお姉さんの胸に手を当てていたのだ。夢のような瞬間を思い出してしまい、僕のアソコはこれ以上ないくらいに屹立した。痛いくらいだ。
「ねえ、ロッキー君は緊張しちゃうの?」
言葉の意味を理解するのに少しだけ時間が掛かった。僕はモテるけど、実体験がとても少ないのだ。それに実際に女の子とエッチするよりも、アダルトビデオを見てマスターベーションする方が興奮する。だから、女性の体を見ることに対して抵抗はないが、直に触ったりすることにはあまり慣れていない。僕はこのようなことを彼女に説明した。
「ふーん、アダルトビデオねぇー」
女性から見ると、『アダルトビデオ』という代物自体が汚らわしいのだろうか。玲奈さんの反応はどこか他人事で、冷たかった。
「じゃあ、アダルトビデオみたいにエッチしてみる?」
彼女の言葉に呆気にとられる。どうも彼女はエッチがしたくて仕方がないようだった。
玲奈さんがデスクで勉強をしている。僕は背後から彼女の肩をポンポンと叩く。
「あ、先生・・・」
そう、今回だけは僕が家庭教師役なのだ。玲奈さんは僕の生徒。僕が『責め派』と知った時、彼女は喜んでこのシチュエーションを受け入れた。どうやら彼女は『受け派』らしい。これは『家庭教師ごっこ』とでも言うのだろうか。
「先生、ここ・・分からないですぅ」
甘えた女子学生。完全に役になりきった彼女は、『責め派』のツボを突くような絶妙の演技で僕を興奮させる。あまりに見事なので、『もしかしたらいつもこんなことをしているのだろうか』と勘ぐりたくなってしまう。
「先生ったらー」
美人な生徒の背後に立つ先生。まさか、これほど興奮するとは。ネットでイメクラのホームページを覗いたことがある。プレイ紹介のページで、まさに今から僕がしようとしているような内容が動画で配信されていた。高校生の僕は風俗経験はないが、イメクラのプレイ紹介の動画を見ては想像力を逞しくして興奮していた。こんなところでイメクラが体験できるなんて思ってもみなかった。
「どうやら肩が凝っているみたいだね」
僕はいつもより声を低くして、玲奈さんの華奢な肩をさすった。ピクッと敏感な反応が返ってくる。役になりきるのも結構大変だ。センスと勇気が求められる。
「先生、肩はいいですからぁ」
「何を言っているんだ。勉強は姿勢が良くないとだめなんだよ」
そう言って、僕の手は肩から少しずつ下りてゆき、胸の辺りをまさぐる。
「あん!だめです!」
甘くてエッチな声。たまらない。今すぐ玲奈さんの中に入れたい!心臓が爆発しそうな勢いで鼓動を繰り返す。僕の手は無意識に彼女の両乳を鷲掴みにしていた。
「あふぅ・・いやん!」
ゆっくり、そして大胆に胸を揉むと玲奈さんは僕の手の上に自分の手を重ねて、全身で快感に浸った。ミニスカートから伸びる細い脚は、突っ張ったり、内股に閉じられたり、胸の刺激のリズムに合わせて動いている。
「あんっ!あんっ!そんなに揉んだらぁ・・・」
「ここが凝っているのかな?」
「だめですぅ!先生っ!」
ブラジャーのホックがなかなか外れなくて焦ったが、玲奈さんが手を伸ばしてさりげなく外してくれた。ブラジャーが外されると、彼女が綺麗な巨乳の持ち主であることが判明した。
「すごい。こんなに大きなおっぱい・・・」
「ああん!それ以上、揉んだらだめぇ・・・」
乳首をクリクリと摘むと、感極まったように上体が反り、喘ぎ声が大きくなった。ここが性感帯のようだ。僕は彼女の前に回り込み、アダルトビデオみたいに乳首を舐め始める。
「だめぇ!だめぇ!」
玲奈さんは我を忘れて声を上げ、どんどん姿勢が崩れてゆく。最後は椅子から滑り落ちそうになって、僕が支えた。
「だめじゃないか、そんなエッチなことばかり考えていたら」
僕が意味もなく彼女を責めると、彼女は口元に拳を作って上目遣いで僕を見つめる。
「でもぉ・・先生が玲奈のおっぱい触るモン」
その仕草を見た瞬間、僕は我慢できなくなって彼女に覆い被さった。
それからは僕の拙い実体験と、豊富なアダルトビデオの知識で彼女を責めまくった。玲奈さんはエッチモード全開で感じまくり、途中からは通販でこっそり購入したバイブを使って彼女を刺激した。最後は『イクッ!イクッゥ!!!』と大きな声を張り上げて、玲奈さんは昇天した。
玲奈さんは体中をヒクつかせていた。僕は少し心配になった。バイブを使ったのは初めてで、加減が分からなかったのだ。アダルトビデオのようにズボズボと激しく出し入れしたのが良くなかったかもしれない。興奮が一気に冷めて、僕のアソコも萎縮してしまった。
「大丈夫ですか?」
彼女は返事をせず、ただ小さく首を振っただけだった。肩で息をしている。この短時間ですごい消耗だった。僕は愛液まみれのバイブをティッシュで拭いた。ベッドのシーツにも愛液が飛び散っている。やがて玲奈さんはうつ伏せから仰向けになった。笑っていた。
「すごかったねー」
僕は何て言えばいいのか分からなかった。憧れの玲奈さんが全裸で愛液まみれのベッドの上で横たわっているという事態が僕の想像を超えていた。ついさっきまでは、彼女の胸を触っただけで椅子から転げ落ちていた自分が、バイブで彼女を昇天させてしまったのだ。
「ねえ、入れたい?」
トロンとした目で、彼女は僕を誘った。僕のアソコは再び力を取り戻した。アダルトビデオの流れなら、この辺りで彼女のフェラの番だ。しかし、憧れの玲奈さんにフェラチオをしてもらうなんて想像もできない。
「じゃあ、今度はこっちの番かな?」
驚いたことに彼女は既に『そのつもり』だった。僕のズボンを手際よく脱がすと、洗ってもいない僕のモノを口にくわえたのだ。生暖かい口内の感触。絶品な心地よさ。あまりの快感に僕はあっけなく彼女の口の中で果ててしまった。いきなりだったので彼女に避ける余裕はなく、彼女は激しく咽せた。僕は泣きそうになりながら、とりあえずティッシュを彼女へ差し出した。
「はぁ・・はぁ・・いきなりだもん」
「ごめんなさい」
「ふぅ・・・びっくりしたー」
口内の精液をティッシュに吐き出し、口周りを綺麗に拭った彼女は僕を安心させるように優しく微笑んだ。そして、僕の頬にキスをしてくれた。
甘美な時間。僕と玲奈さんは何度もキスを繰り返した。ネットリと舌を絡め、お互いの乳首を刺激し合う。
「また、大きくなっちゃったねー」
僕のアソコを擦りながら、玲奈さんが目を細める。
「いつも生徒とこんなことしてるんですか?」
夢見心地で僕はついつい訊いてしまった。今なら何でも答えてくれそうだったからだ。僕の問いに玲奈さんは首を振った。何故か嬉しそうだった。
「そんなことないよ。ロッキー君、可愛いし。今回は特別・・・」
そう言うと、玲奈さんは固くなった僕のアソコを口に含んだ。
ピンポーン
同時にビクッと驚いてから、僕達はスッと離れた。立ち上がってズボンを穿く。玲奈さんも慌てて服を手に取る。
ピンポーン
なんとか服を着終えた玲奈さんが肯いたのを確認して、僕はゆっくりと玄関へ向かい、覗き穴から来訪者を確認する。
(・・・父さんだ)
妙に緊張しながらドアを開ける。頬が強ばるのを意識しながら、父と向かい合う。
「どうしたの?」
情けないくらい声が上ずっている。逆に父はニコニコと微笑んでいる。
「ちょっと石田先生にお話したいことがあってな」
「勉強中なんだけど」
さりげなく断ろうとしたが、父は笑顔のまま、部屋の中へ押し入ってきた。
「大事なことだからね。部屋、ちょっと借りていいか?」
「えっ?」
この部屋はゲストルームで、厳密には僕の部屋ではない。最近は受験勉強に集中するために使用しているだけで占有はできない。ここで父の頼みを無下に断ると、逆に怪しまれてしまうかもしれない。僕は父に気付かれないように玲奈さんに合図をした。彼女は思い詰めたような表情で僕を見つめていた。
僕はゲストルームを出て、母屋の自分の部屋へ戻った。しかし、戻る途中でだんだん不安になってきた。愛液まみれのベッドのシーツが頭に浮かんだ。うまく言い訳できるだろうか。使用したバイブはちゃんと片づけてくれただろうか。ゲストルームで玲奈さんと二人きりになった父が暴走しないだろうか。急激に不安が募り、思わず廊下で立ち止まる。
(戻ったほうがいいかな)
数秒考えて、僕はそのまま部屋へ向かった。今さら戻ったところでどうしようもない。何事もないことを祈るのみだ。
悶々とした時間を過ごす。ベッドに体を投げ出してから三十分近く経った。玲奈さんとの素敵な時間を思い出す。本当に完璧な時間だった。今日のついさっきまで、玲奈さんは雲の上の憧れの女性だったのだ。そんな玲奈さんと・・・
ピッピッピッ
乾いた電子音。携帯電話が鳴っている。サイドテーブルに無造作に置かれた携帯電話を取り上げた。ディスプレイには十一桁の電話番号が表示されている。つまりアドレス帳に登録されていない番号だ。非通知でなかったので、とりあえず出ることにする。
「もしもし?」
「・・んぁ!あっ!あっ!」
電話の向こうから、女性の喘ぎ声が聞こえてきた。いきなりだったので、あやうく電話を切るところだった。切らなかったのは、声の主が玲奈さんだと確信したからだ。
「うぅ・・ロッキーくぅん・・・うぅ・・」
泣き声にも聞こえる。僕はベッドから跳ね起き、ゲストルームへ走り出した。
ドアには鍵が掛かっておらず、僕は部屋の中の光景を見て絶句した。天井にフックされた縄で、立ったまま全裸で吊された玲奈さんがいた。そして玲奈さんの巨乳にむしゃぶりついている父。玲奈さんの股間には僕のバイブが縄で固定されており、むっちりとした太ももには愛液の筋が何本も伝っていた。
「父さん!」
僕は声を張り上げた。それしか出来なかったのだ。息が苦しい。目の前の事実を現実として認められない。
「おう」
玲奈さんの体から離れた父は先ほどの笑顔のままだった。
「さすが、美人は違うな。お前も楽しめ」
何事もなかったかのように振る舞う父を見て、僕は驚き、そして怒りを覚えた。
「何やってんだよ!」
しかし、父はビクともしない。
「何やってるって、お前もやってたんだろ?」
父はニヤニヤして、玲奈さんの股間にズッポリ埋め込まれたバイブを指さした。僕が閉口するのを得意げに見やってから、そのバイブをさらに突き刺した。
「あはぁ!!!」
グッとつま先立ちになった玲奈さんは涎を垂らしていた。
「あぅ・・くぅ・・あっ!」
「お、先生、またイッちゃいますか!」
父が嬉しそうにバイブを何度も突き刺す。同時に乳首に舌を這わせる。両手を吊された玲奈さんは体を捩るだけだ。
「イッ・・・イクイクっ・・・イクッ!!!!」
四股が張り、玲奈さんは僕の前で激しく昇天してしまった。僕の頭は真っ白になった。
「ほら、お前もしゃぶってもらえ」
拘束を解かれてグッタリと座り込む玲奈さんの頭を無理やり持ち上げた父が言った。
「ふざけるなって!」
「何を怒っているんだ。この子はこういう意味で家庭教師に呼んだんだぞ」
父の言っている意味が分からない。玲奈さんは口をパクパクさせた。それが『ロッキー君のをしゃぶりたいの!』って言っているように見えて、僕は急に二人のことが怖くなった。ゲストルームの中の空気が有毒に感じた。
(ここは僕のいる場所じゃない!)
父が自分のモノを玲奈さんの口にねじ込もうとしているのを横目に僕はゲストルームを飛び出した。
結局僕は受験に失敗し、予備校に通うことになった。あの夏の出来事は今も鮮明に脳裏に焼き付いている。あの事件以来、玲奈さんは家庭教師として僕に会いに来ることはなかった。急に受験勉強のモチベーションが下がった僕はブラブラと遊ぶようになったが、不思議なことに両親は何も言わなかった。
あれから、一度だけ玲奈さんの姿を見た。夜の駅前の繁華街。玲奈さんは派手な衣装を身に纏い、煙草を吸っていた。それは僕の憧れだった玲奈さんの姿ではなかった。そして、隣で歩いていたのは、僕の父だった。
「何を怒っているんだ。この子はこういう意味で家庭教師に呼んだんだぞ」
あの時の父の言葉が少しだけ理解できたような気がした。玲奈さんは僕の知らない世界の女性なのかもしれない。でも、あの甘美なひとときに交じり合った玲奈さんは僕の憧れの玲奈さんで、たしかに掛け買いのない女性だったのだ。僕は玲奈さんに裏切られたとは思っていない。世の中には、高校生では理解できないことはたくさんあるし、彼女から見れば僕なんてまだまだ青臭いガキなのだ。
父の煙草の匂いが大嫌いだった僕が煙草を吸うようになったのはちょうどその頃からである。