「本当に…二人きりで飲んで大丈夫なのかな」
あの日、グラスを手にしながら私がそうつぶやくと、彼は笑って答えました。
「三浦さん(=夫)から許可もらってるんだろ? 全然平気だよ」
軽い調子で言う彼の横顔を見ていると安心する反面、どこか心がざわつく。夫の部下だった彼と二人だけで飲むことに、これほど心が揺れるとは思いませんでした。酔いが回るごとに頬が熱くなり、彼との距離も自然と近づいていったのです。
「昔から…夏美さんのこと、女として見てました」
突然彼が真剣な表情で切り出しました。
「ダメよ…そんなこと言ったら…」
「ずっと言いたかったんだ。一度でいいから、抱きたいって」
胸がドクンと跳ねました。夫以外の人から向けられる欲望の言葉。止めなければと思いつつ、心の奥底ではどこかで待っていた自分がいたのです。
カラオケボックスに流れる音楽も耳に入らず、彼の手が私の膝を撫でるたびに心臓の音だけが響いていました。
「お願いだよ。こんなチャンス、もう二度とないから」
「ダメ…本当にダメよ」
「じゃあ触るだけでいい。感じてるだけでいいから」
必死に拒む言葉を口にしながらも、握らされた熱いものの硬さに、私の声はどんどんか細くなっていきました。
「旦那には絶対言わない。二人だけの秘密だ」
「…ほんとに、言わない?」
「死んでも言わない」
そう囁かれたとき、私の最後の理性は揺らいだのだと思います。
唇も合わせていないのに、私は彼のものを口に含んでいました。背徳の味に怯えながらも、舌を絡めるたびに熱が広がり、脚の奥が濡れるのを止められません。
「夏美さん、そんなにしゃぶってくれるなんて…たまらない」
「言わないで…私、もうダメになっちゃう」
責められる言葉が逆に心を縛り、快感に変換されていきます。
下着の奥を指でなぞられ、「びしょびしょだ」と囁かれた瞬間、私は思わず顔を背けました。
「夫以外の人に…そんなふうに触られちゃダメなのに…」
「でも体は正直だよ。俺のを欲しがってる」
「違う…違うのに…」
そう言えたのは一瞬。彼に四つん這いにされ、後ろから突かれたとき、喉から漏れたのは抗議ではなく甘い悲鳴でした。
「やめ…だめっ、あの人に悪い…!」
「旦那じゃこうできないだろ? 俺だけが味わわせる快感だ」
「ああっ…そんな…言わないでぇっ…!」
腰を掴まれ、容赦なく突き上げられるたび、自分が壊れていくのを感じました。ソファに胸を押し付けられ、乳首が擦れるたび新たな快感が走り、涙が滲む。
「気持ちいいんだろ?」
「だめ…認めない…認めたら戻れなくなる…!」
「もう戻れないよ、夏美さん。だって、これ旦那にはできないんだ」
その囁きに、背骨の奥まで震えが走り、私は絶頂に呑み込まれていきました。罪悪感で胸が押し潰されそうなのに、絶え間なく突き上げてくる快感の波に体が勝手に応えてしまう――。
「もっとして…奥まで欲しいの…!」
気づけば自分から求めていました。夫の顔が頭に浮かんでも、彼に突き上げられる背中は快楽に屈して震え続けていたのです。
終わった後、乱れた呼吸のままソファに崩れ落ちた私に、彼は笑いながら言いました。
「秘密にしてくれるよね」
「当然よ…誰にも言えない…」
罪悪感に押し潰されそうになりながらも、心の奥では再び彼を求める自分がいる。その矛盾こそが、背徳の快楽でした。
それ以来、夫に隠れて何度も彼に抱かれています。会うたびに「もうやめよう」と思うのに、会話の一言一言に、体はまた同じ犯される快感を思い出してしまうのです。
「旦那にバレたらどうする?」
「怖い…でも…また欲しくなっちゃう」
「だったら俺に全部委ねろよ。もう俺の女なんだから」
そう言われると、罪悪感に泣きながら、それでも背中を差し出してしまう――人妻として最も堕ちた姿が、そこにありました。