梨乃の服は衿ぐりの大きく開いたものばかりなので、俺は気が気でない。
ただでさえ、梨乃の大きなバストは男達の注目の的だというのに、大きく開いた衿ぐりからは谷間が見え隠れしているので、そばで見ていると、何とも危なっかしい。
それなのに、当の本人は、自分に注がれる視線に気付いているのかいないのか、まるで平気な様子なので、余計に気掛かりだ。
「梨乃、お前おっぱい大きいんだから、そんな恰好してたら、いつか襲われるぞ! 男はみんな真っ先にそこを見るんだから」
と何度となく脅しをかけてみたのだが、
「大丈夫、大丈夫。今はみんな自分の事で精一杯なんだし、私の胸元をいちいち見るほど暇な人なんて誰もいないよ。あっ、もしかして文也は、女の子を見ると真っ先に胸元を見てるの? キャー、やらし~」と逆につっこまれる始末。
一緒に住み始めてからは、とりあえずの防衛策として、梨乃の服をシーズンオフの衣類と一緒にクローゼットの奥にしまい込み、自分の服の中から、梨乃に似合いそうなデザインの服を選んで着させるようにしてみたのだが、当然、梨乃は俺より背も低いし、髪形もセミロングヘアーなので、どうしても俺の服だとバランスが悪くなってしまう。
梨乃もまた、それがすごく不満だったらしく、再び自分の服を引っ張り出してしまったので、結局は、元の木阿弥だった。
そこで、俺は今度の給料日に、梨乃に合うサイズの服を買ってあげると約束した。もちろん、男物を。
ちょうどいい事に給料日の翌日は二人の休みが合うから、梨乃に新しい服を着せて久々にデートしよう。
※
――そして、待ちに待った給料日。
俺は仕事をいつもよりも早く片付けると、明日の計画を思い浮かべながら喜々として家路についた。
梨乃はもう、仕事から帰って来て、家にいる筈だ。
アパートの階段を駆け上がり、勢いよくドアを開ける。
「ただいまっ!」
ところが、部屋の奥からひょいと顔をのぞかせて、おかえり、と出迎えたのは、髪の短い女だった。
「す、すいません! 部屋まちがえました」
俺は慌ててドアを閉めた。
そんな馬鹿な。俺はこのアパートに住んでもう二年になるというのに、今更自分の部屋を間違えるなんて。
恐る恐るドアの上を見て、部屋の番号を確かめる。
201号室、間違いなく自分の部屋だ。
だいたい、ここは角部屋、間違えるなんてことはまずありえない。
じゃあ、中にいたのは‥‥。
その時、ドアが開き、ショートカットの女がクスクス笑いながら顔を出した。
「おかえり、文也。ここは間違いなく文也の部屋だよ」
「‥えっ、梨乃?!」
「もうっ! 自分の彼女を見分けられなくてどうすんの?」
見分けるも何も、俺はセミロングヘアの梨乃しか見たことがないし、髪を切るなんて話も聞いてない。
「ふふっ、びっくりした?」
梨乃は俺の顔を上目使いに見て、いたずらっぽく笑っている。
「今日は新しい服買ってくれるんでしょ? だから文也が選んでくれる服に合うように髪形も変えてみたの。ね、ね、早く行こう」
そう言ってはしゃぐ梨乃は、俺のだぼだぼのTシャツを着ている。
男物の黒いTシャツと、今まで髪に隠れていた、白いうなじのコントラストが妙に色っぽい。
俺はもう、居ても立ってもいられなくなってしまった。
梨乃を抱き締め、そっと唇を重ねながらドアを後ろ手に閉めて鍵を掛ける。
そして、梨乃の後ろに回ると、すうっ、と、うなじに舌を滑らせてみた。
「‥ぁ‥あぁん‥っ」
梨乃の体からふわっと力が抜け、甘い声が漏れる。
うなじ、耳の後ろ、そして首筋‥‥俺の舌が這いまわるたびに、梨乃はかわいい声で啼き、やがて、崩れ落ちるようにして俺の方へ倒れ込んできた。
肩で大きく息をしながら、虚ろな瞳で俺の顔を見上げている。
正直、すごく驚いた。梨乃が、うなじへのキスでこんなにも感じるタイプだったなんて、今まで全然知らなかったから。
と同時に、梨乃の新たな性感帯を発見した嬉しさが、どっと込み上げてきた。
「‥‥梨乃?」
「‥ぁん。‥文也」
「梨乃はエッチだね。ここ舐められただけでイッちゃうなんて」
うなじを人差し指の先で、つぅ、となぞりながらからかってみると、梨乃は俺の胸に顔を埋め、耳まで赤くなりながらイヤイヤをした。
「――よし、出掛けるか」
俺が帰ってきてから、もう30分も過ぎていた。
本当は、梨乃がかわいいエッチな声で啼く姿を、もっともっと見ていたいけど、服を選ぶ為の時間は多く取りたいし、楽しみを後に取っておくのもたまにはいいだろう。
中途半端に火が点いてしまって、まだ潤んだ瞳をしている梨乃にはちょっと悪いけど、その分後でいっぱい感じさせてあげよう。
※
――シャッ!
衣擦れの音と共に試着室から出てきた梨乃は、細身のストレートジーンズに黒いTシャツを着て、上から白いジャケットを羽織っている。
「すごい! 梨乃かっこいいよ」
本当に今日は梨乃に驚かされてばかりだ。
どちらかといえば、なごみ系だった梨乃が、今、男装の麗人へと華麗な変身を遂げて、俺の目の前に立っている。
「す、すいません、これ全部、今すぐ着せたいので値札はずしてくださいっ!」
興奮気味の俺に少し戸惑いつつ、店員も「たいへんよくお似合いですよ」と梨乃に笑いかけている。
今日はこの一揃えの他に、シャツを二枚とシルバーのチョーカーを買って店を後にした。
「なんだか生まれ変わったような気分」
大喜びで夜の街を歩く梨乃を見てると、俺もうれしくなってくる。
「気に入った?」
「うん! ありがとう、文也」
そう言いながら梨乃は俺の腕にしがみついてきた。
男物のジャケットを通して、ふにっ、と柔らかい感触が伝わる。
俺がドキドキしている事に気付いたのか、梨乃は離れようとせず、それどころか、より一層、胸を押し付けるようにしてきた。
「お、おいっ! 梨乃、そんな事したら‥‥」
しどろもどろになっている俺を見て、梨乃は少し背伸びをすると、耳元でささやいた。
「文也はエッチだねー。梨乃の胸が当たってるだけでこんなにドキドキして」
どこかで聞いた台詞だ。
俺だって負けてはいない。
梨乃の新しい弱点であるうなじに、ふうっ、と息を吹き掛けてやる。
案の定、梨乃はよろめいて俺にもたれかかってきたので、すかさず肩を抱き寄せる。
「梨乃、行こうか?」
そう言って、俺はそのまま歩き出した。
「どこに?」
「わかるでしょ?」
「‥‥もしかして‥‥」
「‥‥じゃわからないなぁ」
わざと聞き返してみる。
もう随分使い古された会話ではあるけど、男というのは、こういうやり取りを楽しむ生き物なのだ。
「‥‥ホテル?」
恥ずかしそうに小声で答える梨乃がかわいいので、更に困らせてみる。
「ホテルっていってもいろいろあるじゃん? 何ホテル?」
「もうっ! 困らせないでよっ」
梨乃は顔を赤くして、俺の腕をぱしっ、と叩いた。だけど力が入ってないので全然痛くない。それがまたかわいい。
「困ってるの? じゃあ、質問を変えようか。ホテルに行って何するの?」
「‥イイ事するの」
「どんなイイ事?」
「‥‥エッチな事」
言い終わるや否や、梨乃はまた俺にしがみ付いてイヤイヤをした。
「よしよし、ちゃんと最後まで言えたね」
髪の毛をくしゃくしゃと撫でながら歩いていると、洒落た造りのホテルの入口にたどり着いた。
「ここにしようか?」
梨乃は何も言わず、頭を俺にもたせ掛けるようにして寄り添った。
Yesのサインだ。
「梨乃、着いたよ」
俺は梨乃を先に部屋に入れ、後ろ手にドアを閉めた。と同時に、梨乃をひょいと抱き上げてベッドへ運んでいく。『お姫様抱っこ』といわれるやつだ。
「きゃあっ!」
「ほら、梨乃、じっとしてないと落ちるよ」
部屋の中央に置かれている、きれいに整えられたオフホワイトのダブルベッドにそっと梨乃を降ろすと、俺はそのまま覆いかぶさるようにして唇を重ね、するっと舌を滑り込ませた。
「‥ん‥‥んふぅ‥っ‥‥」
上あごや舌の裏側にも舌を滑らせ、時々舌先でくすぐるようにしてみる。
「ん‥んん‥ぅっ‥ふぅ‥んっ‥‥」
ジャケットをはだけ、Tシャツの上から丸い膨らみをそっと撫でると、先端がすでに尖っているのがはっきりわかった。
最初は優しく円を書くように撫で、少しずつ力を入れて揉み始めると、梨乃は時々唇を離し、体をのけぞらせて甘い声で啼き始めた。
「ん‥ふぅ‥っ‥ゃあん‥っ‥あんっ‥」
二つの膨らみを交互に愛撫しながらゆっくりと梨乃を抱き起こし、後ろへ回るとジャケットを脱がせ、Tシャツも裾を掴んで一気に引き上げた。
今日は、白いレースで縁取られた、黒いサテンの可愛いブラを着けている。
「ゴスロリ系だね。可愛いよ。でも、これ着けたままだと梨乃を気持ち良くしてあげられないから、取っちゃおうね」
ホックを外して、肩を撫でるようにストラップを下ろし、あらわになった胸をきゅっ、と優しく揉んだ。
「やぁん‥‥」
うなじにキスしながら片手は胸を愛撫して、もう片方の手はジーンズのボタンをはずし、ファスナーを引き下ろす。
そして、隙間から手を差し入れると、ショーツの上から爪先で軽く掻くように刺激を与えた。
「あっ! あんっ‥‥」
梨乃の体がぴくっと跳ねる。
カリカリと掻き続けていると、もどかしそうに腰を動かし始めたので、少し腰が浮いたところでジーンズを膝まで下ろし、梨乃を再び横たえると、足元に回り込んで肩脚ずつ引き抜いた。
ブラとお揃いの黒いショーツは、両サイドにリボンがついていて、簡単にほどけるようになっている。
「これほどいたら、全部見えちゃうね」
リボンの結び目をつまんで、きゅんきゅんと引き上げながら囁く。
「‥っく‥んん‥んっ‥‥」
さっきより鈍い刺激に焦れているのか、梨乃の声は低く呻くようになり、くねるように動いていた腰も、頼りなげに震えている。
「両方ともほどいちゃおうかな? ここも染みが出来てるし」
脚を開かせ、染みのできているところに指先を軽く押し当てると、ひくっ、とした感触とともに、染みが更にひとまわり広がった。
「――んぁ‥っ!」
「じかに触ってほしい?」
「‥んっ‥さ‥触って‥っ‥‥」
リボンをほどいて解き放ってやると、露に濡れて少し開いたピンクの花びらが、甘酸っぱい芳香(かおり)で俺を誘っている。
――もっと美しく、淫らに咲かせたい。
そっと口づけ、舌先で少しずつ開いていく。焦らずに、ゆっくりと、花びら一枚一枚を慈しむように。
「――ひぁあっ、あんっ、あぁ‥っ、んっ‥‥、と、溶け‥ちゃう、っ‥‥」
梨乃が啼くたびに、淫らな花は蜜を滴らせながら開いていき、やがて、包み込まれていた小さな真珠も姿を現した。
「あぁん、だ、だめぇ‥っ‥梨乃、もう‥おかしく、なっちゃう‥っ‥」
「‥はぁ‥っ‥いいよ、梨乃‥‥おかしくなっても、いいんだよ‥‥」
軽くねじ込むように人差し指を埋め、出し入れを繰り返しながら、真珠の粒を唇で挟み、舌で転がす。
「はぁ‥っ‥あんっ‥ぁふ‥うっ‥あぁんっ‥‥だ、だめ‥っ、あんっ‥イッちゃう‥あっ、あっ、あっ、あぁっ、あうぅ‥っ‥‥!」
軽い飛沫を上げ、弾けるように咲いた花は、俺の指を包み込んだままで、驚いたように震えている。
俺はそっと指を抜くと、力を失って肩で息をしている梨乃の隣に横たわり、優しく抱き締めて髪を撫でた。
時間が経つにつれて、少しずつ梨乃の瞳に光が戻る。と同時に俺は、下腹の辺りにぞわぞわするような感覚を覚えた。梨乃が俺の大切な所を優しく愛撫していたのだ。
つぅ、と細い指先が先端をなぞり、雫をすくい取ると、小さく円を描くようにして、それを塗り広げる。
梨乃の指が滑る度に、小さなスリットからは先走りが止めどなく溢れ、微かに水音が聞こえるようになってきた。
「‥‥いっぱい濡れてる」
耳元で梨乃が囁いた。なんだか嬉しそうだ。
「梨乃にさわってもらえて、喜んでるんだよ」
そう言いながら、俺は梨乃の手に自分の手を重ね、全体を包むように握ると、きゅっきゅっとリズミカルに上下運動を始めた。
梨乃の手の中で目覚めたそれは、歓喜の涙を流しながら、次第に硬さを増していく。
「あぁ、梨乃、すごく気持ちいいよ‥‥」
重ねた手に、自然と力がこもる。
梨乃もそれを察したのか、時々締め付けるような動きを加えて、もう片方の手では、はち切れそうな膨らみをすくい上げるように優しく揉み始めた。
「‥っ‥くっ‥‥ぅあっ‥‥」
梨乃の手に翻弄され、思わず声が漏れてしまう。
「イッてもいいよ」
吐息交じりに耳元で囁く声に、思わず我を忘れそうになるのを堪えて俺は答えた。
「梨乃の中でイキたい。今日は、大丈夫?」
「ん、来て‥‥。梨乃の中に‥‥」
梨乃は潤んだ瞳で俺を見つめると、腰に手を回し、唇を重ねてきた。
「んっ、ふぅ‥っ‥」
少し先端が触れただけで、そこは容易(たや)すく開き、俺を受け入れた。
四つん這いになった梨乃は背中を弓なりに反らせ、枕をぎゅっと抱え込んでいる。
奥まで挿し込んだまま、腰だけを少し強めに送り出してやると、中がひくひくと動いて、俺を包み始めた。
「ん、んっ‥‥うっ‥‥んん‥‥」
梨乃と俺の間から、完全に隙間が失われたのを確かめ、少しずつ出し入れを始める。
深く、浅く、時に回転を加えながら。
「‥あっ、あぁんっ、あぁ、っ‥‥んっ、文也‥‥文也‥っ」
ぐちゅぐちゅと湿った音と、俺の名を呼び、歓喜の叫びを上げる梨乃の声が、俺の高ぶりに一層拍車をかける。
「‥うっ‥あぁ‥っ、梨乃、梨乃っ‥‥」
俺は少し上体を倒して、梨乃を押し潰すようにすると、うなじに軽く歯を立てながら舌先でくすぐり、梨乃を更に煽った。
「ひぁあっ! あんっ、ああぁっ、あふぅっ、うぅ‥っ」
身をよじり、枕に爪先を食い込ませながら、甘い声で啼き、今までにない程に激しく乱れている。
そんな梨乃が、たまらなく愛おしい。
少しスピードを緩め、梨乃の腰を掴んで、つながりを保ちながら体重を後ろに掛け、座った姿勢から梨乃と向かい合わせになるようにすると、緩やかに突き上げながら、胸の膨らみに手を添えて、ピンクの飾りを交互に口に含む。
「ひぁぁん、あん、あぁんっ、やぁん、あぁっ‥‥」
胡座をかいた俺の上で、梨乃の腰がなまめかしくうねる。
「梨乃、自分から腰動かしてる‥‥すごくエッチだよ」
俺は後ろに上体を倒し、梨乃の腰に両手を軽く添えた。
「もっと動いて見せてごらん‥‥」
茂みに隠された真珠を探り、指でなぞる。
「あぁっ!」
梨乃は一瞬体をひきつらせると、両手で胸を包み込み、一層激しく動き始めた。
「ん、あっ、あぁっ、あぁんっ、あぁぁ‥‥」
「あぁ‥すごいよ‥梨乃、すごくいやらしくて‥‥きれいだよ‥‥」
梨乃の中で俺は翻弄され、締め付けられる。しばらくすると中は少しざらざらした感触に変わり、締め付けも強くなってきた。
脚の間がきゅっ、と疼く。
「‥うっ‥梨乃、お、俺、もう‥イキそうだ‥っ‥」
俺は腰に添えた手に力を込め、梨乃を貫いた。
「あ、あ、あっ、あぁっ、あんっ、あん、あぁあっ、イ、イクぅっ、イッちゃうっ‥」
突き上げる度、梨乃は体をがくがくとさせ、胸の膨らみに指を食い込ませる。
白い肌はところどころ指の跡で赤く染まり痛々しい位だ。
「‥っ‥くっ‥‥ううっ‥ぅあっ‥梨乃‥っ‥イクよ‥‥」
「あん、ああんっ、文也っ、来て、来てっ、あ、あ、あっ、あぁ、ああぁんっ――!」
梨乃は体をのけぞらせると、一際高く啼いて、ふっ、と力を失った。
「――うっ、くぁぁっ‥!」
激しく脈打ちながら、溢れんばかりの精を解き放ち、俺の上に覆いかぶさる梨乃と共に、ベッドに沈み込む。
このままふたり、桃色の靄の中に吸い込まれていこう。
梨乃のぬくもりを感じながら、満たされた気持ちで俺はそっと目を閉じた。
「‥‥文也、文也」つんつんと鼻をつつかれ、俺は目を覚ました。
「‥‥ん、梨乃、おはよ」
薄目を開けると、梨乃はまだ少し眠そうな目をして俺の上に覆いかぶさっていた。
梨乃も起きたばかりなのだろう。
「‥ぅわ、梨乃、お前、もしかして一晩中俺とつながってたの?」
「――えっ?‥や、やだぁっ!」
そっとお尻の方から手を回し、自分の大切なところを確かめた梨乃は、すっかり縮んだ俺のものが、わずかに入口付近に引っ掛かってることに気付くと、あわてて飛びのいた。
「はははっ、エッチな体になったね~」
きゅっ、とお尻を揉みながらからかってみる。
「バカ! エッチ!‥‥わ、私、シャワー浴びてくるからっ」
梨乃は顔を真っ赤に染めると、しどろもどろになりながらバスルームへ逃げ込んだ。
すかさず俺もバスルームに向かう。
そしてドアを開けると、シャワーを浴びている梨乃に後ろから近づき抱きすくめる。ところが梨乃はひらりと身をかわすと、シャワーヘッドをこちらに向け、俺の頭からお湯を浴びせた。
「――うわっぷ! こ、こらっ! 梨乃!」
俺はずぶ濡れになった顔を拭い、前髪をかき上げると、素早く梨乃を小脇に抱え込み、シャワーヘッドを取り上げて、頭からお湯を浴びせ返した。
磨りガラス越しの柔らかな朝の光りが差し込むバスルームに、響きわたる梨乃の悲鳴と俺の笑い声――。
そこには昨夜のような激しさなんて全然ないけれど、とても大切で愛おしい、幸せの色彩(いろ)。
それは、ひとつふたつと増えていき、いつしか混ざり合って、二人だけの色になっていくのだろう。
梨乃とならきっと、最高の色が作り出せる。誰にも負けない、とびきり美しい色を。
決してモノトーンになんかさせない。
俺はそう心に誓った――