三日間1

女性もえっちな妄想をしてもいいんです。
当サイトは、アフィリエイト広告を利用しています

アダルトな読み物のお部屋

三日間1
2021年07月11日 14時11分
哀れなパイセン

1.

 教室中に響いたチャイムの音が、テストの終了を告げる。
「んぁ~!やっと終わったよー」
 天井に向かって大きく伸びをすると、清水真琴はそそくさと教室を後にしようとする。と、後ろから親友の紗矢に呼び止められた。
「真琴ー!帰り、どこか寄ってかない?私、おなかペコペコー!」
「ゴメン。今日、泳いでくから‥‥」
 真琴は紗矢に通学用のとは違うもう一つのバックを見せて、そのあと手を合わせた。
「そっか~。んじゃ仕方ないかな。泳げるの久しぶりだろうしね。分かった、また明日ね」
 紗矢はそう言うと、教室の中に戻る。真琴は(悪かったかなぁ)と思いながらも、自然と学校のプールへ足を向けている自分に気付き苦笑した。一学期末テストの為に一週間程泳ぐのを止めて勉強をしていたのだが、そのテストが終わった今、思う存分泳げるので真琴は上機嫌だった。季節は梅雨を過ぎ、夏を迎えたため、毎日気持ち良く空が晴れわたっている。暑いのはさほど気にならない。むしろ暑い方が泳ぐ気もでてくる。
 いつもは屋内で泳ぐのだが、久々に外で泳ぎたくなって、真琴は、所属している水泳部の部長に許可を貰い、屋外プールへと向かった。二年前に屋内プールができてから、屋外プールを使う部員は全くと言っていい程いなかったが、それでも綺麗に管理されている。
「やっぱり、誰もいない」
 真琴は嬉しそうに言うと、素早く水着に着替えて、プールサイドに立った。サンサンと照りつける太陽の光で、水面はキラキラと輝いている。軽くストレッチをして、ゆっくりと中へ入った。水はぬるかったが心地好く、真琴の身体を撫でるようによらめいでいる。
「んー!これこれ!この感じ」
 感覚を取り戻すように、ゆっくりと泳ぎだす。やさしく水をかいて前へ進む。しばらくの間そうやっていたが、くるりと回り、壁を蹴って、物凄い速さで泳ぎだした。
 ザバザバっザバっ
 力強く水を蹴りなめらかなストロークで何往復か泳いだ後、ぷはぁ!と顔を出して、息を整えていると
「スッゲー綺麗」
と溜め息混じりに誰かが呟いたのが聞こえた。まさか見られているとは思っていなかった真琴は、ビックリして声のした方を振り返った。
 一瞬、真琴は自分の目を疑った。
 金髪碧眼とは、まさにこのことだろう。そこにいたのは、少しだけ短めの金髪に、今日の空の様に青く大きな瞳を持った少年だった。真琴が絶句していると、少年は
「あれ?驚かせちゃったかな」
と、少し困ったような照れるような笑顔を向けたが、頭の中がパニックになっている真琴に聞こえるはずがない。
(な‥‥なに?誰?ガイジン‥‥外人なのに日本語話してて、制服も‥‥あれ?あの制服、ウチのじゃない。‥‥って、何がなんだか分からないよ)
「ねぇ、大丈夫?」
 さっきとは違い、より近くで聞こえる声に真琴はまた驚き、我に返った。見ると、少年はフェンスを越えてプールサイドにしゃがみ込み、真琴の顔を心配そうに見つめていた。
「あ‥‥あなた、誰?」
 やっと言葉を発する。少年はニコリと笑って答えた。
「僕はネイス。ネイス・フラウンだよ。‥‥真琴」
 ネイスの言葉に、またしても真琴は驚く。どうもさっきから、驚かされてばかりだ。
「なんで私の名前知ってるの」
 真琴が、信じられないといった表情でネイスに問う。だが、ネイスはいたずらっぽい笑顔で一言、
「ヒミツ」
と言っただけだった。
 真琴はだんだん、目の前にいる異国の少年に興味が湧いてきた。
「日本語上手だね!なんで?」
「ひみつ」
「その制服、ここの学校のじゃないけど、どうして?」
「ひみつ」
「‥‥‥‥何歳?」
「ひ・み・つ!」
 質問すること全てに、ネイスは「ひみつ」で答えた。真琴が少しむくれている様子を見た彼はクスクスと笑う。
「ごめんごめん!‥‥でも、真琴があまりにも僕のことを忘れてるから、ちょっとイタズラしたくなっただけ」
「私が?あなたのことを忘れたって?」
 真琴の脳裏に一瞬、チラっと何かが浮かんだが、何も思い出せそうになかったので言葉を続ける。
「だって私。あなたに会うの、今日が初めてだし‥‥」
 その言葉を聞いたネイスの顔に落胆の表情が浮かんだが、それも一瞬のことで、次の瞬間にはニコっと笑い
「んー。ま、仕方ないか‥‥」
と呟いた。
「ちょっと待ってよ。私、話の筋が読めてないんだけど‥‥ひょっとして私、前にあなたに会ったことがあるの?」
 真琴が水の中から身体を半分乗り出し、ネイスの腕をつかんで言った。白い肌についた水滴が眩しい。ネイスはそんな真琴をしばらく見つめていた。
「真琴‥‥」
 ネイスが沈黙を破る。
「な‥‥何?」
 真琴は、やっとネイスが自分の質問に答えてくれるのかと思い、彼の腕を握っている手に力を込めた。
「僕と、友達になってよ」
 ネイスはさっきの真琴言葉を聞いていたのか、聞いてなかったのか、全く関係ないことを言い出した。
「‥‥はぁ?」
 真琴は眉をひそめてネイスを見る。ネイスはニコニコと微笑みながら彼女を見ている。真琴が何も答えられずに硬直していると、今度はネイスが彼女の腕を掴んで自分の方へ引き寄せ、
「よっ!」
と言って真琴を水から抱え上げる。
「きゃっ!ちょっと!」
 真琴が少し抵抗したが、ネイスは構わずに、プールサイドにそっと立たせた。そしてもう一度
「友達になろう?」
と言って真琴の瞳を除き込む。真琴はその青い瞳から目をそらすことができず
「‥‥うん」
と頷いていた。それを聞いたネイスは、優しく微笑むと真琴をぎゅっと抱き締め、彼女の少し冷たい頬に軽くキスをして
「Thanks!」
と言った。当の真琴は何が起こったのか理解できず茫然としていた。ネイスはフェンスを登り、その上から真琴に
「少しずつでも思い出してくれればいいから」
と言ってプールを後にした。

 どうやってたどり着いたのか、ぼんやりとした気分のまま家に帰った真琴は、リビングのソファーにつっぷした。
「はぁ~‥‥」
 溜め息が漏れる。
 今になって、ネイスに抱き締められたこと、頬にキスされたことを思いだし赤面してしまう。生まれて17年間、男性と付き合ったことのない真琴は、それだけでどうにかなってしまいそうだった。
「あんなの‥‥外人の挨拶よ!挨拶!落ち着け私!」
 自分に言い聞かせるが、心臓は早鐘のようにドクドクと脈打つ。
「それにしても‥‥」
 真琴はネイスの言葉を思い出す。
(やっぱり、私はネイスとどこかで会ったことがあるんだわ)
 それだけは確信を持てそうだった。
 空腹に気付き台所に行く。母がいない。
「‥‥また?まったく」
 真琴はテーブルの上に置いてあったメモをみて、それをくしゃくしゃにまるめて捨てた。真琴は母と二人で暮らしている。父と母は離婚。でも、キャリアウーマンである母のお陰で生活に苦労はしていない。しかし、そんな母は何人かの男性と付き合い、いつも家にいなかった。今回はそのなかの一人とスイスの避暑地に一ヶ月程行くとのことだった。毎度の事とはいえ、真琴は泣きそうだった。寂しかった。

 朝。
 真琴は朝食を食べる気にもならなかった。昨日の夕飯も少し手をつけただけで、後はお風呂に入り早々と眠りについた。気が重いまま、学校へ足を向ける。
「あ、おはよう真琴」
 教室に入ると紗矢が声をかけてきた。
「おはよ」
 真琴は努めて明るく振る舞った。紗矢は真琴の前の席に座り、少し興奮したように話し出した。
「聞いて聞いて、あのね、このクラスに転校生がくるんだってー!こんな時期に珍しいと思わない?」
「へぇー!どんな人だろ?」
 一瞬、真琴はネイスの顔を思い浮かべた。
(まさか‥‥ね)
 だが、その“まさか”であった。朝のホームを告げるチャイムと共に、担任の教師に連れられたネイスが教室に入ってきたのだ。
 目が合う。驚いている真琴とは対照的にネイスは涼しい顔。普段あまり生で見ることのない、金髪碧眼の美少年の登場に、クラスはザワザワといつにも増して騒がしい。
「おーい、静に!今から自己紹介してもらうから」
 少しざわめきが引く
「ネイス・フラウンです。残りの一学期間という短い間ですがよろしく」
 今は完全に静まりかえった教室を見渡し、ネイスはニコリと笑った。

 ネイスはその日のうちにクラスの人気ものになった。次の時間は体育だったため、真琴と紗矢は教室を後にする。グラウンドで短距離走のタイムをとるのだ。
「凄い人気だね、ネイス君」
 紗矢が話しかける。朝から体調が悪かった真琴は
「うん‥‥」
と冴えない返事をした。
「どうしたの?真琴。‥‥はっはぁーん、さてはあんた、ネイス君に惚れたわね」
 さっきの冴えない返事は具合が悪いからで、別にネイスとは関係なかったはずなのだが、真琴は紗矢の指摘に心臓が飛び跳ねた。
 二回ほど全力で走ってタイムをとった真琴は、みんなから離れてフラフラと校庭の隅にあるベンチに座った。すると近づいてくる足音がした。
「‥‥真琴?」
 呼ばれて後ろを振り返ると、ネイスがいた。
「どうしたの?こんなところで」
 ネイスが言いながら隣に座る。
「ネイスこそ」
「僕、今日体育があるなんて知らなかったからさ」
 ネイスは笑いながら言うと続けた。
「あのさ真琴、今日もプールに‥‥」
 いきなり真琴が倒れてきたのでネイスは驚いたが、顔色悪い彼女を見てただ事ではないと感じた。
「真琴?おい!」
 真琴の耳にはネイスの声が遠く響いていた。

 気付くとそこは保健室のベットの上だった。
「う‥‥ん」
 真琴はぼんやりする頭を、いまいましいと思いながらも、辺りに視線を巡らす。
「気がついた?」
 ベットの脇にネイスが座って、心配そうに真琴を見ていた。
「‥‥私、倒れちゃったの?」
 少しかすれた声で真琴が言う。
「うん。先生に言って連れてきた。保健の先生がいなくて焦ったけど‥‥」
「ごめんね。重かったでしょ?‥‥ありがとう」
 真琴の言葉にネイスはニッコリ微笑んで
「全然」
と言い、優しく真琴の髪を撫でた。
 真琴の心臓がトクントクンと鳴り始める。ネイスの手の感触が、とても心地良かったので瞼を閉じた。そんな真琴を見て、ネイスは軽く真琴の瞼にキスをする。真琴が驚いて目を開けると、まだ近くにあるネイスの顔が目に入る。透き通るような青い瞳で見つめられた真琴は顔を赤くし、動けなくなってしまった。
「真琴、顔真っ赤」
 ネイスが言って、今度は真琴の唇に優しくキスをした。ビクっと奮えた彼女を見て
「真琴、もしかしてファーストキスだった?」
と聞く。口を手の甲で押さえ、頬を赤くしたた真琴がコクリと頷くと、ネイスは彼女をぎゅっと抱き締めて言った
「好きだよ。真琴」
「ネイス‥‥今、何て?」
 震える真琴の声にネイスが答える
「真琴が好きだよ」
 その時真琴は気付いた。ネイスに触られる度に心臓がトクトクなったりするのは、自分もネイスを好きだからなんだという事に。自分もその事を伝えようとした時、ネイスが不意に立ち上がって、
「ちょっと待ってて」
と言って、何処かへ行ってしまった。待っていると、ネイスはジュースを持って帰ってきた。
「はい、飲みなよ。倒れたのは貧血だったからでしょ?」
 差し出されたオレンジジュースを真琴は飲む気になれなかった。
「ごめん。飲めない」
 言って俯くとネイスが
「ダメだよ。飲まなきゃ、気分悪いの治らないよ」
と真琴の顔をのぞき込む。それでも真琴がフルフルと首を振ると、ネイスはジュースを開け、自分の口に含むと真琴に口移した。
「ん‥‥っ!」
 真琴が飲んだのが分かると、ネイスは
「おいしいでしょ?」
と言った。そして何度かそうしているうちに、口移しではなく、キスに変わっていった。下唇をちゅっと吸ったり、ついばむように軽く吸ったあと、ネイスの舌が真琴の口へ入ってきた。
「んっぅ‥‥ぅぅんっ」
 真琴はネイスのキスでとろけてしまった。
 二人は我を忘れ、一心にお互いを求めあった。ネイスの舌が真琴の舌に絡んでくる。唾液が混ざりあって、トロトロと二人のキスを演出していた。
「っぅ‥‥んんっ」
 真琴が唸るとそれに反応し、ネイスはより激しく真琴を求める。
 ネイスの手が真琴の柔らかい膨らみに添えられた。
「っっ!いやっ、やめてっ!」
 我に返った真琴が、ネイスを突き飛ばした。ネイスもそれで我に返り、しまった!という顔で真琴を見た。
「ご‥‥ごめん真琴!僕、どうかしてた‥‥」
 真琴は肩で息をしていたが、起き上がるとドアへ向かう。
「真琴!」
 ネイスが追いかけて、真琴の腕を掴む。
「っ‥‥放してっ!」
 彼の手を振り払うと、真琴は駆け出して行く。ネイスは後を追うことができなかった。彼女に対する自分の気持ちが、じわじわと沸き上がってくるのを彼自身、分かってはいたつもりだ。だけど自制できなかった自分自身に腹が立って仕方がなかった。
「何が“友達になろう”だ‥‥」
 昨日、自分が真琴に発した言葉に苦笑する。結局自分は“それ以上の関係”を求めてしまっている。
「真琴‥‥」
 ネイスは呟くと、さっき真琴に払われた手を見つめる。彼の心にはある決意が宿っていた。

 真琴は教室に戻った。まだ体育の授業が終わっていないのか、教室の中には誰もいない。
 何かが頬を伝い、真琴は初めて自分が泣いていることに気付いて涙拭う。ネイスの事が好きだという事よりも、さっきはそれ以上に恐かった。ネイスに抱き締められた時に感じた、腕や胸板の感触が、彼は“男”なんだと、真琴に感じさせた。
「“友達”って‥‥言ったじゃない‥‥」
 真琴は言って、窓からグラウンドを見る。ヒーヒー言ってそうに走っている紗矢を見つけた。ジリジリと照りつける太陽。蝉の鳴き声が暑さを一層引き立てていた。涙は止まったが、今度は反対にしっとりと汗をかいている。
 窓を開けると、生ぬるい風が真琴の頬をかすめていく。
 一学期は、残すところあと一週間余りだった。

2.

 次の日からずっと、二人は言葉を交わさなかった。いや、正しく言えば真琴の方がネイスを避けていた。
「真琴!」
 廊下でネイスに話しかけられると真琴は俯いて通り過ぎる。それでも真琴は内心とても罪悪感を感じていたし、素直になれない自分に苛立ちさえ覚えた。
「ねぇ真琴」
 昼休みに教室のベランダで紗矢と二人、昼食を食べていると、ネイスが窓から身を乗り出してきた。真琴は聞こえなかった振りをしてもくもくとパンを食べている。
「ちょっと真琴っ」
 見兼ねた紗矢が肩を叩くが、真琴はそれにも聞く耳を持たない。
「ゴメンねネイス君。この子、機嫌悪いみたい」
 紗矢がすまなそうにネイスに言うと、彼は困ったように微笑み、
「真琴。今日、屋外プールで待ってるから。ずっと‥‥来てくれるまで」
と言うと姿を消した。
「真琴~、ネイスくんとどういう関係なの?」
 紗矢がニヤニヤ笑いながら真琴をからかう。
「別に。関係なんてないよ」
 真琴は自分で言っておきながら、胸が苦しくなる。
「へぇ。でも、ネイス君は気があるみたいよ。ゲットしときなよ。明日で一学期、終わっちゃうよ」
 何気無く発せられた紗矢の言葉に真琴はハッと息を飲んだ。
 そう言えば、ネイスは転校してきた時に言っていた。“残りの一学期間”と‥‥。
 真琴は後悔した。
(私が変な意地ばかり張っていたから‥‥)
「あ、雨だ。私、傘持ってきてないよ~」
 紗矢が恨めしげに空を見上げる。確かに、今日は朝から冴えない天気であった。
「ほら、何やってんの? 早く教室に入らないと濡れちゃうよ」
 弁当を抱えて、紗矢が真琴を促す。
「う‥‥うん」
 真琴はのそのそと立ち上がると教室へ戻る。ネイスは女子達に囲まれ、苦笑しながらなんとかあしらっていた。そんなネイスと不意に目が合う。
 焦った真琴は紗矢を図書館へ誘い、なんとかその場を凌いだのだった。

 帰りのホームが終わる頃には、雨足は一層ひどくなっていた。
「紗矢、帰ろ」
 真琴が紗矢に言うと、紗矢は
「あたし、今日は一人で帰りた~い」
と言って、真琴の背中を押す。
「紗矢‥‥」
 紗矢は笑って手を振ると小走りに帰ってしまった。彼女なりの心遣いに真琴はくすっと笑った。
(でも‥‥雨ひどいし、きっといないよ)
 不意に窓から見える屋外プールを見る。次の瞬間、真琴は走りだしていた。ネイスがプールのフェンス前にいるのが見えたのだ。
 大粒の雨が顔にかかる。ローファーなのでとても走りにくい。加えてグラウンドは雨でぐしょぐしよだ。
「ネイス!」
「‥‥っ真琴!」
 ネイスは、駆けてくる真琴に気付くと、ほっとしたよな表情を浮かべる。
「‥‥っっバカ!」
「ぇえっ!?」
 肩で息をしている真琴に、開口一番“バカ”と言われネイスは混乱した。
「こんな雨の中で‥‥はぁはぁ‥‥風邪ひくじゃない。それに‥‥」
 真琴はネイスの優しい視線に気付き、少し恥ずかしそうに続ける。
「私が来なかったら‥‥どうするつもりだったの?」
「ずっと待ってるって、言ったよ‥‥現に来てくれてるし」
 ネイスは首を傾げて真琴を見る。どう返事をしたらいいのかと、困っている真琴に、ネイスは
「ねえ真琴、泳がない? 僕と勝負しようよ」
と、突然言い出した。
「えっ? こんな雨の中で? 私、水着持ってきてないよ。それに‥‥勝負って?」
 真琴は信じられないといった顔をしてネイスを見る。
「水着なんていらないよ。こんなに濡れちゃってるし」
 ネイスは自分k制服を摘む。二人共この大雨のせいで下着まですっかり濡れていた。
「それと‥‥僕が真琴より速く泳げたら、お願い聞いてほしいんだ」
 真琴はネイスの言葉に少し戸惑った。
「お願いって‥‥何?」
 真琴が聞くと、ネイスは
「それは今言えないよ。ね? 真琴が勝ったら、真琴のお願い聞くから。いいでしょ?」
と悪戯っぽく笑う。
 しばらく考えた後、真琴は答えた。
「‥‥いいよ」
「やりぃ!んじゃ、早く!」
 ネイスが小さくガッツポーズをして真琴を促した。フェンスを越えてプールサイドに立つ。雨で水が溢れているが、あまり関係なかった。靴と靴下を脱いで、真琴がネイスの方を見ると、彼は上半身裸だった。真琴の頬に、かぁっと血が上ったが、それをごまかすように
「ずるい!」
と言った。ネイスは笑うと
「じゃあ、真琴も脱げば?」
と腕組みをした。真琴は
「そんなこと‥‥できるわけないじゃない!」
と言い返して、制服の袖を肩までまくり上げる。白い腕が顕になった。普段は屋内プールで泳ぐため、あまり日に焼けない。
「準備‥‥いい?」
 隣同士のコースに二人で立つ。
「うん‥‥」
「じゃあ‥‥一往復ね」
「分かった」
 真琴は頷き水面を見つめる。
「Ready‥‥」
 しばらく間が開く。
「Go!」
 二人一斉に、プールに飛び込んだ。
 真琴は飛び込んだ直後、冷たい水の温度に顔を顰めた。
(やっぱり、いきなり飛び込みは無理があったかも‥‥)
 思いながらもひたすらに水をかく。
 隣にはネイスが負けじと付いてきている。水泳部員の意地にかけて、真琴は残り数十メートルでスパートをかけた。その時、真琴の脳裏に、ある記憶が鮮明に浮かび上がった。
 真琴はゴールして顔を上げる。少ししてネイスもゴールした。
「ぷはぁっ!だぁぁ、負けた!やっぱり真琴は速いや!」
 悔しそうな顔をしたネイスは
「覚えてないかもしれないけど‥‥」
と、最後に付けたした。
「ううん、覚えてるよ‥‥思い出したよ」
 思いがけない真琴の返事に、ネイスは彼女をじっと見つめた。
「10年前と同じ。私の勝ちね」
 そう言って真琴は微笑んだ。彼女の笑顔をネイスが見たのは、これが初めてではないだろうか。
 10年前。この町に住んでいたネイスは、同じスイミングスクールに通っていた真琴に、いつも勝負を挑み、そしていつも負けていた。思えばその頃から、ネイスにとって真琴は特別な、気になる存在だったのかもしれない。
「真琴‥‥」
 ネイスは切なくて、どうにかなってしまいそうだった。
 彼は真琴に近づき、抱き締める。突然の事に身を硬くしていた真琴だが、ネイスの背中に手を伸ばして、きゅっと抱き締める。それでも少し、恥ずかしさを感じた真琴は
「ね‥‥ねぇ、私に勝ったら、何をお願いしようとしてたの?」
と聞く。ネイスは身体を離した。
「僕、三日後にアメリカに帰るんだ」
 真琴は胸が痛んだが、ネイスを見つめ、頷いた。
「だから‥‥だからそれまでの三日間だけでいい。僕の彼女になって欲しかった」
 恥ずかしそうに俯いて言うネイスを、真琴はとても愛しく思った。
「でも‥‥」
 ネイスが続ける。
「負けちゃったからね。諦めるよ、真琴。真琴のお願いは何?」
 真琴は一度軽く目を閉じ、それからネイスの瞳をしっかり見据えて言う。
「私は‥‥ネイスに彼氏でいて欲しい。三日間だけじゃなくて、ずっと‥‥」
 ネイスは予想もしなかった真琴の“お願い”に驚いていた。
「私‥‥ネイスが好き」
 言い終わるか終わらないかのうちに、真琴の唇は、ネイスのそれに塞がれていた。
 軽くキスをした後、二人は顔を見合わせて笑った。

 ひとまずプールから上がり、真琴は部室の自分のロッカーに置いてあったジャージを上から引っ掛けた。制服が身体に張りついて下着の線までくっきり分かってしまうのだ。
「はい、部長のだから入ると思うよ」
 部長のジャージをネイスに渡す。
「でも‥‥」
「大丈夫だよ。洗って、ちゃんと明日の朝、返しておくから」
 真琴はネイスの肩にジャージをかけた。
「よし、じゃあ行こう。私の家すぐ近くだから。服乾かさなきゃ」
 部室を出ると外はすっかり暗くなっていた。
「ごめん‥‥遅くなっちゃったね。おばさんには僕から謝るから」
 すまなそうにネイスが言う。
「気にしないで‥‥お母さんいないから」
「えっ?なんで?」
 理由は言いたくなかったが、仕方がない。真琴は歩きながら話し始める。
「あのね、うち、お父さんとお母さんが離婚したの‥‥。お母さん、それから男性関係ひどくなっちゃって、いつも家にいなの。今も、男の人と旅行に行ってる‥‥」
「‥‥うん」
 ネイスは真琴の手を握った。ただそれだけだったが真琴は嬉しかった。今まで誰にもうち明けられなかった事が、彼にはこうもすんなり打ち明けられる。不思議だった。
「お風呂、そこの突き当たりね。先に入って。着替え持っていくから」
 真琴はネイスにバスルームを教えると、母の部屋へ直行した。そこのタンスには、男ものの服から下着まで揃っているのを真琴は知っていた。この時ばかりは、男付き合いの荒い母に感謝する。
 バスルームへ行くとシャワーの音が聞こえる。少しドキドキしながら、中にいるネイスに声をかける。
「着替え、置いておくから」
「ありがとー」
 真琴も着替えると、二人分の制服を洗濯機に突っ込んだ。
 しばらくすると、ネイスがバスルームから出てくた。
「ありがと。お陰で暖まったよ。真琴も早く入ってきなよ。風邪ひくよ」
「う‥‥うん」
 返事をして真琴はバスルームに向かった。男女が交互にシャワーを浴びるというシチュエーションに少し抵抗があったが、気にしないことにした。
 髪と身体を洗い終わって、そろそろ出ようかと思い、シャワーを止めたと同時に、バリバリッ!ガガー!と音がして、バスルームの電気が消えた。いや正確に言えば、この辺一帯の家屋の電気が消えた。落雷による停電だったのだ。
 突然、明かりが消えたので、真琴は驚いてその場に座り込んでしまった。
「真琴!大丈夫?何処にいるの?」
 少し慌てた様子のネイスが壁を伝って来る気配がする。
「ここだよ。バスルーム‥‥」
(私、服着てない!)
 真琴は慌てて付け足す。
「待って!来ないで!」
 でも遅かった。目の前で気まずそうなネイスの声がした。
「来ちゃったよ」
 真琴が裸だということが、さっきの彼女の言葉で分かったらしい。
「私‥‥ふ、服着てないから‥‥」
 慌てる真琴にネイスは落ち着いた口調で言う。
「大丈夫だよ。暗くて何も見えないから」
 言われてみればそうだ。早く服を着ようと、真琴が急いで立ち上がった時、あまりに焦っていたせいか、足元に残っていたボディーソープの泡で滑ってしまい、そのまま前に倒れ込んだ。
「ひゃっ!」
「真琴?」
 真琴はネイスに思いきりしがみついてしまった。二人の心臓が飛び上がる。
「ご、ごめんネイス。今離れるから」
 真琴が体制を立て直し、ネイスから離れようとした時、ネイスの腕が真琴の背中にそっと回る。
「ネイス?」
 真琴はビクっと震えたが、おそるおそる腕をネイスの背中に回した。
 ネイスは理性が飛んでしまいそうだったが必死で堪える。真琴を恐がらせないようにしたい。
「真琴‥‥」
 まだ濡れている髪にキスをして、次に耳を優しく噛む。
「んっ」
 真琴が身体をよじった。頬にキスをし、その唇を真琴のそれへと運ぶ。ちゅっと軽く。その後は緊張の為だろうか、引き結ばれた彼女の唇を解すように吸う。
「‥‥んぅ、ふぅ」
 真琴の口から吐息が出るようになった。
 ネイスはゆっくり舌を入れる。真琴は弱々しくではあったが、ネイスの舌を吸った。
 ネイスは唇を離し、真琴に問う。
「真琴、大丈夫?恐くない?」
 真琴がこくりと頷く感触があった。
「うん‥‥大丈夫、ねぇ、ネイス」
「ん?」
「ごめんね」
 いきなり謝られて、ネイスは戸惑う。
「何が?」
「私、ネイスの事、忘れてた。それを謝りたくて‥‥」
 あぁ、と思い、ネイスは笑った。
「ははっ。いいよ、ちゃんと思い出してくれたし、それに‥‥僕も真琴の事忘れてたんだ。一年‥‥ちょっと前まで」
「どうして、思い出したの?」
「テレビだよ」
「テレビ?テレビで思い出したの?」
 おかしなもので思い出すものだと真琴が思った時、ネイスが答えた。
「そう。テレビで真琴を見たんだ‥‥。七歳ん時に親の仕事の関係でアメリカに行った時から、子供心に真琴にはもう会えないだろうなって思ってたんだ。それから何回か日本とアメリカを行き来してたんだけど、ここに戻ってくることも無かったし、子供の時期にありがちな、“変わりやすい好き”だったんだろうって自分で納得してたつもりだったんだけど‥‥」
「だけど?」
 早く続きが聞きたくて、真琴はネイスを急かした。
「真琴、大きな水泳の大会に出た記憶はない?」
 ネイスに聞かれて、真琴はちょうど高校に入ったばかりの時に出場した、ほぼ全国規模に近い大会の事を思い出した。
「そう言われれば‥‥あるよ」
 それを聞いてネイスは頷く。
「その大会がテレビで流れたんだ。ちょうど日本に来てる時で、ずっと見てたら、そこで真琴を見つけた」
「よく私だって分かったね」
「だって、名前がコールされるでしょ? 最初は耳を疑ったんだけど、泳ぎ方で“あの真琴”だって分かった」
「泳ぎ方‥‥」
「うん。凄く綺麗な泳ぎ方。そして速い」
「そんなに綺麗かな? 自分じゃ分からないよ」
「綺麗だよ、とても‥‥。真琴を見た時に、眠っていた想いが甦ったんだ。あぁ、やっぱり僕は真琴の事が好きなんだってね。会いたい会いたいって思ってたら、幸運な事に親父が仕事でここに行くって聞いたから、頼んで一緒に連れて来てもらった。まぁ、仕事先でも学校に行くってのが条件だったんだけど‥‥」
 ネイスは真琴の頬にキスをして続ける。
「それも、結果的にはラッキーだったかもね。お陰で真琴に会えた」
 真琴はこんなにも自分を思ってくれる人がいることを幸せだと思った。たとえ、あと三日でネイスの顔を見れなくなるとしても。
 パチ――
 いきなり視界が明るくなったかと思うと、ネイスの顔がはっきり見えた。電気が、停電の呪縛から解放され、二人を照らしだす。当然、真琴の身体も隠してくれる闇もなく、顕になる。
「やっ!見ないでっ」
 ネイスは突然明るくなった視界をしばたかせていたが、目前にある真琴の裸体を見ていた。
 白く、女性特有のふっくらとした身体つき。水着の上からでも分かったが、あの力強い、綺麗な泳ぎを生み出す身体とは思えないほど、水泳をしている女性にしては華奢だった。
「なんで? 綺麗だよ」
 ネイスは胸を隠している真琴の手を握る。
「見せて。もっと真琴のこと見たい」
 真琴は恥ずかしそうに俯くと、腕にこめた力を抜く。ゆっくりと手を退けると、まだ成熟しきってはいないものの、十分に女性を思わせる膨らみが見えた。
「は‥‥恥ずかしい‥‥」
 真琴は手で顔を覆う。ネイスはそんな真琴を愛おしそうに見つめ、抱き締める。彼女の身体は熱かったが、ネイスの身体も十分に火照っていた。
「真琴、可愛いよ」
 キスをする。だんだん激しくなるネイスのキスに翻弄されながらも、真琴は彼を求め、貪る。ネイスが真琴の背中を手で撫でる。
「ぁっ!」
 身体が敏感になっているらしい。
「真琴‥‥移動しようか」
「きやっ」
 真琴を抱え上げると、ネイスはリビングに移動する。
 ソファーに真琴をそっと寝かせ、自分も服を脱ぐと真琴に覆いかぶさりキスを始める。
 そっと真琴の胸を掴む。
「んっ!ゃぁっ」
 ネイスはつき飛ばされなかったことに安心しつつも、柔らかな感触を夢中で楽しむ。不意に指先にコリコリしたものが当たった。そこを集中して攻める。
「っっやぁぁっ‥‥」
 声を出すまいと必死で堪えていた真琴だが、ネイスの指先が桃色の蕾に触れる度に訪れる快感の波の前では、そんな努力は効を成さない。
「気持ちいい?真琴」
 ネイスは蕾をキュッと摘む。
「ぁあんっ‥‥はぁっ‥‥ネイス‥‥」
 真琴の口から甘美な声が発せられる度に、ネイスの芯が熱く、硬くなっていく。理性なんてとうの昔に吹き飛んでいた。真琴にディープキスをすると、そのまま舌を胸へ這わせる。真琴の口からそこまで、つつーと唾液でできた一本の線ができた。蕾にキスをすると、優しく口に含む。舌で刺激しながら、ちゅるっと吸い込む。
「ぅやぁっ!あ‥‥ぁん」
 真琴は身体をビクビクと痙攣させながら、初めての感覚に身悶えている。ネイスが下腹部の茂みに手を伸ばすと、そこはもう潤んでいた。
「真琴‥‥こんなに感じてくれたの?」
 優しく真琴の耳もとで囁くとそれだけで感じてしまうらしく、
「や‥‥ん、恥ずかしい‥‥」
と潤んだ目でネイスを見つめた。その表情がとても愛らしくて、ネイスは微笑む。
「恥ずかしがることないよ、ありのままの真琴を見せて」
「う‥‥うん」
 ネイスは真琴に軽くキスをすると彼女の足の間に滑り込んだ。
 ゆっくりと真琴の足を広げる。まだ男性というものを知らない彼女の密部を見て、ネイスは一応真琴に問う。
「真琴‥‥はじめて?」
 頷いたのが見えた。保健室でのキスが初めてだったと判った時にも感じていたのだが、とても意外だった。
「意外だな。真琴、凄く綺麗だから、彼氏の一人や二人ぐらいいてもおかしくないのに」
 思ったことを口にする。真琴は少女から女性へと移り変わる時期にあるためか、はたまた本来のものなのだろうか。たまらないくらい不思議な感覚を男性に与えることがあった。
「そんな‥‥私、全然綺麗なんかじゃないし‥‥男の人が‥‥その‥‥苦手で‥‥」
 真琴はしどろもどろに答える。彼女の男性不信は、男付き合いの激しい母親を見てのことだろうとネイスは考える。それで、真琴に変な虫が寄りつかなかったこと[正確に言えば、真琴が告白してくる男子達を受け入れなかったこと]は、彼にとって有り難いことであったが、同時にそんな真琴を救ってあげたいと心から思ったのだった。
「でも‥‥ネイスだったら‥‥」
 真琴が続けた。
「ネイスだったら信じれるから」
 その言葉に、ネイスの胸はキュゥと詰まった。

 ゆっくりと真琴の密部を指先て撫でた。濡れているとは言え、初めての真琴だからたかが知れている。ワレメを優しく行き来して、入口をちょんちょんと刺激してみる。
「やっぁ‥‥んっあぁっ!」
 真琴が切ない声を上げた。そのまま刺激していると、ピチャピチャと愛蜜が溢れてくる。それを指ですくって、彼女の敏感になっている丘をこする。
「あぁっ!」
「ここ?ここが一番感じる?」
 返事の代わりに真琴は愛蜜をダラダラと流していた。ネイスは彼女の足を少し広めに広げさせて、顔を埋める。
「やっ!ネイス‥‥そんなとこっ‥‥はぅんっ」
 ちゅるちゅると溢れてくる愛蜜を吸う。舌をゆっくりと入れようとすると、真琴はずるずると上へ逃げた。太股を捕まえて固定し、にゅるっと舌を出し入れした。
「ひゃぅっ」
 腰がビクついたのがわかった。
「真琴、指入れるけど‥‥痛かったら言ってね」
 ネイスは中指を愛蜜で湿らせ、ゆっくりと挿入してくる。
「ん‥‥はぅっ‥‥」
「痛い?」
 真琴は首を振って微笑む。思えば7月の蒸し暑さの中、クーラーも付けてなかったので、二人ともじっとりと汗をかいていた。

 ちゅっ‥‥くちゅ――
 ネイスが指を出し入れする度に、真琴の愛蜜が音を立てる。
「ぅうぅん‥‥ぁっ」
 はぁはぁと息を荒げる真琴の、首筋に流れる汗が綺麗だった。ネイスは自分自身がこれ以上にないほど膨れ、真琴を欲してその先端から蜜を出していることに気付く。真琴の手をとって、それに導くと
「真琴‥‥触って?」
と言ってキスをしながら、自分は休めていた指の動きを再び始める。
 真琴は恐る恐る、ネイスの熱く、硬い彼自身に触れる。
「あ‥‥ネイスの‥‥熱い‥‥」
 そろそろと動く真琴の指は頼りないが、高ぶったネイスに快感を与えるのには十分であった。
「‥‥あぁ‥‥真琴、もうダメだ‥‥入れる‥‥よ?」
 真琴はネイスの肩に載せた手に、ぎゅっと力を込め、頷く。
 ネイスはしばらく彼自身の先端で入口を探り、ゆっくりと身体を沈め、慣らすように先だけを出し入れし、じわじわと奥へ進めてくる。真琴はさっきの、ネイスの舌や指と違って太く硬い‥‥そして熱いものの進入に顔を歪める。
「い‥‥っ、痛いっ」
「大丈夫、大丈夫だよ真琴。力を抜いてごらん? ずっと楽になるから」
 言われて真琴は自分自身がこわばっていることに気付き、息を吐きながら力を抜くと、下半身に走る痛みがかなり緩和したような気がした。
「そう‥‥楽になったで‥‥しょ?」
 ネイスは真琴を感じて息が荒くなっている。ズズッと彼が奥まで入り込むと、切ない痛みと、心地のよい圧迫感が真琴の身体に広がっていく。
「あっんぅ‥‥ネイス‥‥」
「真琴‥‥真琴っ」
 不思議だ。名前を呼び合うだけで、より一層、互いの存在感が高まる。
 真琴がだんだんネイスの感触に慣れてくると、
「動くよ‥‥?」
と言い、真琴の頬にキスをして、じわじわと動きだす。
「ん‥‥あぁっ!」
「痛い?」
「んっ大丈夫‥‥慣れてきたから‥‥んっ」
 互いに唇を合わせ、気持ちの交換をする。
「ネイス、暖かい‥‥」
「真琴も‥‥」
 だんだんと激しく動きだしたネイスが真琴を攻める。彼女の愛蜜が潤滑剤となってスムーズに動くことができた。不意に真琴が、キュッと締めつける。
「ん‥‥ぁっ‥‥」
 真琴はネイスの切ない顔を見ると、もうたまらなく愛しくなって涙で頬を濡らす。その涙をネイスが唇で吸い、頬を擦り寄せる。
「んっ‥‥真琴、もうダメみたいだ‥‥」
 ネイスが真琴に言い、彼自身を抜こうと身体を離しかけたが、真琴はネイスの背中に手を回してそれを止めた。
「真琴?」
「大丈夫だから‥‥」
「大丈夫って‥‥分かってんの?」
 少し強いネイスの声。真琴はこくりと頷く。
「紗矢がね‥‥。あの子、詳しいから‥‥こういう話に。この前言ってたの‥‥安全日のこと。だから‥‥ちゃんと‥‥分かってるから‥‥大丈夫だから」
 ネイスは真琴を強く抱き締めた。指と指をからめて手を握ると、再び動きだす。
「ん‥‥ああぁっ」
 真琴の腰がじわじわとそれにあわせて動く。互いに高め合って、動きを早めていくと、グジュっグジュっと粘質の音が響き、ついに――
「あっ!ネイスっあああっん‥‥あああぁっ!」
「真琴っ‥‥ っん‥‥ああぁっっ!」
 ネイスは真琴の中で果て、また同時に真琴も、骨の髄に響き渡る電撃のような絶頂を迎えたのだった。

 朦朧としたまま、互いの腕の中で眠りについた二人は、同じ夢を見ていた。
 あと二日後には脆くも崩れ去ってしまう、“永遠の時”の夢を‥‥。真琴の閉じられた瞼から涙が一雫、頬を伝った。

この小説がよかったらいいねしてね
0