1.
ひとつ年上の遥は、変な少女だ。
それに異を唱える人間は、たぶんこの世にはいない。彼女の生みの親でさえ、うなだれながらもそれを肯定せざるを得ない、というくらいに変だった。
オトコ言葉を話す。まあ、これは許そう。齢十七歳にして比類なきオトコ好き。ひょっとして、よくある話なのかもしれない。
遥は頭が切れる。あたしの五百倍は脳細胞の数がある。そして、超能力を隠し持っているのがほぼ確実なくらいに、人の心が読めた。そう、遥が変人だというのは、まさにその点だ。
夏休みの昼下がり。
遥があたしの家にやってくる。砂っぽい色の長い髪、タンクトップにショートパンツ。サンダルも履かない裸足のままで来て、足跡をぺたぺたとつけながらあがりこみ、勝手に冷蔵庫を開け、「ビールはないのかよ、けっ、シケた家だぜ」とおやじのような舌打ちをする。もちろん、招いていない。うちの親が留守だと、動物の勘でわかるらしい。
遥はあたしを振り向いて、繊細な陶器のような顔に意地悪な笑みをうかべる。
「なあ、るり。お前あたしが来る前、何やってた? なんか匂うぜ」
あたしはカッと赤くなる。
――バレたはず、ない。こんなのハッタリだ。
いつまでたっても、慣れない。二年前に遥の一家が隣に越してきてからは、あたしの生活に晴れの日はなかった。こうして家にやってきても、道ですれ違っても、遥は必ず射抜くような言葉の暴力を投げかける。
「数学四十点か? バカは辛いな」
「お前の彼、三組の奈美とラブラブだなー」
言うまでもないけれど、数学で四十点をとったことも、彼(つっても片思いだ)のことも、遥に話したことなどない。話すわけがない。
あたしは成績がイマイチで、しかも変なモテ方しかしない女の子だった。好きな男の子には振り向いてもらえず、顔面から精液を垂らしているような男にばかり迫られた。遊び人のイケイケならわかるけど、あたしはそうじゃない。
自分の顔がかなり可愛いことは、ひと様の評価で知っていた。けれど、好きな男の子の前だとガクガクにあがっちゃって、話の一つもできない内気さなのだ。
こんなんじゃ一生恋愛できないよ。
十六歳にしてそんな三十路のあせりを持つ少女、それがあたし、磯村るりだ。
あたしが夢中なのは、二年生の楢崎洋輔先輩だ。うちの学校の女子は全員、その名前を知っている、サッカー部のスター選手。小麦色に灼けた肌と、真っ白な歯が垣間見える無邪気な微笑みを持つあの人を好きな女の子は、掃いて捨てるほどいる。彼はとびきりイケメンって訳じゃない。でも、モテる。彼の練習が終るのを待っているファンの女の子たちに向かって、ちょっと照れくさげに、
「お前ら、もう帰れよ。他にやることあんだろ」
って、ぶっきらぼうに言い捨てるその顔が男の子っぽくて、すごくいいのだ。
遥はCOOのペットボトルをらっぱ飲みしながら、あたしが座っている茶色のソファーにとことこ近づく。柳みたいにほそながい脚であたしの膝を蹴り、隅にどかせる。ごろりと仰向けになって、あたしの膝の上に両足を投げ出すさまは、まるで四丁目の太田さんとこの酔っ払い亭主そっくりだった。
何しにきたの、という質問をあたしはしない。指先でつつくと玉みたいに丸くなるダンゴムシっているでしょう。今のあたしがそれだ。ただし、つつかれる前からもう玉になっている。早く帰って。あたしの目の前から消えて。あたしはそう一心に祈り続けている。
「なあ、るり。お前の彼だけどさあ‥‥」
遥は大きな切れ長の目を楽しそうに細めている。眼球自体が発光しているように、ピカリと一瞬だけ輝いた目は「いじめスタート!」と告げている。
「楢崎な。あいつ、明日あたしんちに来るぜ」
「えっ‥‥」
ダンゴムシのあたしは、身を硬くしたまま唇だけを動かす。
「なんだかしんねーけど電話かかってきてさ、英語の宿題一緒にしねーかなんてぬかしやがんの。あれ絶対エッチ心あるぜ。ミエミエなんだよな。ま、あいつワリといいカラダしてるし、一回くらいヤッてもいいかな」
せせら笑って、COOをまた一口。チロリと赤い舌で小さな唇を舐める。
「嘘」
ショックで、あたしの頭はトイレの排水みたいに渦巻く。
「嘘よ、そんな」
楢崎先輩がこの遥に興味があるなんて有り得ない。あのサッカー少年の彼が、こんな悪魔みたいなヤンキー女に電話なんてするはずがない。そりゃ、確かに遥と先輩は同じクラスだけど。
「あー、嘘だと思うなら、明日あたしん家に来てみな。あいつとエッチの真っ最中だからさ」
「やめてよ! 嘘つき! 嘘、嘘っ」
「お前ってマジでボキャブラリー豊富な。実にいい話し相手だよ‥‥どんな気分だろうなあ。好きな男が他の女とヤッてんのを見るのは。あたし、そういう経験ないしわかんねーから、あとで感想きかせなよ」
あたしは怒りで震え出す。目に溜まった涙のために、遥の白い顔がぼうっと煙っている。
「どいてよっ! 馬鹿! 嘘ばっかついて!」
「はっ、お前を泣かせるのは、赤ん坊よかチョロい」
遥はクルリと体勢を変えると四つん這いになって、猫みたいにあたしに近づいてきた。
「‥‥オナってたんだろ?」
「えっ‥‥」
虚をつかれて、あたしはまたダンゴムシになる。遥は10センチの至近距離から、まっすぐにあたしを見つめた。唇が「イ」の形に裂けている。
「お前、オナってただろ。あたしが来たんで慌ててやめたな」
「ちが‥‥そんな、あたし」
「匂うんだよ、お前の股から出たもんがな。楢崎を想像してやってたのか? まったく悲しいヤツだなあ。あんなの、押し倒したもん勝ちだぜえ」
遥は正しい。あたしはオナニーをしてた。楢崎先輩に好きだよって囁かれてキスをされる。そして筋肉質の長い腕で抱き締められて、いろんなことをされるのを想像して、パンティーの中に手をいれていた。時々こっそりオナニーするのは、あたしだけの恥ずかしい秘密。なぜ察知されたのかわからない。恥ずかしさでゴジラみたいに火を噴きそうだ。
「あたし、そんなことしてない」
遥の口がますます横に裂ける。地獄の閻魔大王ってこんなかって思う。なのに意地悪に輝いた顔すらも、最高に美しい。遥みたいに整った顔を、あたしはテレビの中でだって見たことがない。これほど下品なのに、顔だけは皇女様だ。
「明日、あたしの家に来な。そうだな、二時頃。どうやって男をものにするか、見せてやるよ。ああ安心しな。相手は楢崎じゃない」
楢崎先輩じゃない。
その言葉を聞いたとたん、ふうっと背骨がゆるんだ。
でも、誰が行くものか。そんなの、絶対に見たくなんかない。
「来いよ。でなきゃ楢崎にバラすぜ。一年四組の磯村るりは、オナニーが日課だってな。お前バカだけど顔だけはいいから、あいつもお前の顔くらいは知ってるはずだし」
高らかに笑い、立ち上がった。
※
遥の両親は共働きだ。
だから、遥は色んな男を連れ込んでいる。高校生から、ひょっとして三十過ぎのオジサン?っていうのもいる。インランのくせに、成績は学年でぶっちぎりトップだ。お前なら東大も射程距離だぞ、なんて先生に誉められてるのを、一度学校の廊下で見た。あたしは遥の何もかもが嫌いだ。マジで死んでほしいくらいに。
なのに、次の日の午後二時、あたしは遥の部屋にいた。遥なら本当に楢崎先輩にバラしかねないからだ。オナニーしてるなんて、絶対に誰にも知られたくない。
あたしは暑くて暑くて、全身汗まみれだ。遥の家に着くなり、あたしはここに追いやられたのだ。
「声だすなよ。耳すませて、よーく聞いてな。楽しいからさ」
遥はニヤニヤ笑っていた。あたしは少しの抵抗もできず、遥の部屋の真っ暗なクローゼットのなかにへたへたと座り込んだ。いったいあたし、何やってるんだろう。もう泣きそうだ。
「あがって。散らかってて恥ずかしいんだけど」
やがて、遥の声が聞こえてきた。
「あれ、家族の人とかいないの?」
「うん、留守なんだ。うち二人とも働いてるからね」
「そっか。あ、英語の宿題なんだけどさ、ホントに写させてもらっていいのか? なんか悪いな。おれ全然やってないんだよ、ヒマがなくて」
聞き覚えのある声だ。でも誰だか特定できない。
「いいって。全部写しなよ。でもそのかわり、あとでごほうびがほしいな」
「ごほうび?」
「そ」
「なんだよ。おれ金とかないぜ」
男は明るい声で笑った。
「いいからサクッと写しちゃいな。ほら」
「何だか怖いなあ。榎本がこんなに気前いいとは知らなかったよ」
ふふっと遥が笑う声がした。なんだかまともな女の子みたいな笑いかただ。
それからは、会話が途切れた。何の音もしない。いったい何分たったんだろう。あたしは早く帰りたいなあって思いながら、少しうとうとし始めていた。
「あー、この頁でやっと終わりだー。ひたすら写し続けるってのも、疲れるなあ」
男の声でハッと目を開けた。
「終ったの。じゃ、ごほうびちょうだい」
遥はクスッと笑った。
「だからさ、何を?」
「んっとね‥‥ここに」
一瞬の沈黙。
「‥‥え?」
「こ・こ」
「な、何言ってんだよ、やめろよ」
男はどもりながらも、冗談っぽく笑った。「ここ」って何だろう、とあたしは首をひねった。
「おい、榎‥‥んっ‥‥ん‥‥」
いきなり声が途切れた。何かで唇をふさがれたみたいに。
かすかに音がする。湿った柔らかいものを舐めたり吸ったりしている音。
――やだ。キス、してる?
かあっと全身が熱くなった。こんなの聞きたくない。でも心臓がぱくぱく鳴り出している。
ものすごく長い間、二人はキスしてた。
「男なのに、柔らかい唇だね‥‥・でも、こっちは硬くなってるけど」
「わっ、やめろよ、おいっ」
「ふふ、すごいおっきくなってる」
「榎本、やめろってば、触んなって‥‥あっ‥‥」
最後は、なんだか女の子みたいに高い声だった。すごくびっくりした時って、男の人でもこんな声を出すのかな。遥は何をしてるんだろう。
あたしはドキドキしながら、聞き耳をたてていた。
チュッ‥‥チュッって音がする。さっきのキスみたいな音。でももっと音は大きい。唾液と唇と舌が三重奏をしてるみたい。
「ああ‥‥んあ‥‥っ‥‥榎本‥‥」
男は、ハアハア息を切らせている。嫌がってるのだろうか。悲しそうな声だ。
「んー‥‥おいひい」
遥の声は、もごもごしている。何かを食べてるときみたいに。
「なあ‥‥だめだよ‥‥こんなの‥‥で、出ちゃうよ、おれ」
フェラチオ。
その言葉が、あたしの頭のなかにパッと弾けた。同時に、胃がぐっと持ち上がった。
やだ、気持ち悪い。
男の人のアレって見たことないけど、なんか汚らしそう。彼氏でもない男の人の、そんなものを舐めるなんて、やっぱり遥って変。すっごく変。
「んん‥‥ハアッ、ハアッ‥‥」
だけど、この男の人、めちゃくちゃ気持ち良さそう。すごく悶えてるみたい‥‥。
「アッ‥‥で、出る‥‥出ちゃうよォ」
遥がクローゼットを開けた。あたしはヒッと息を飲んで凍り付く。
遥は30センチほど開けた隙間を塞ぐように立ち、手を伸ばしてティッシュの箱を取り出した。あたしと目をあわせて、ニヤッと笑う。ティッシュを一枚抜き出して、唇にあてた。あたしに見せつけるように、白いどろどろしたものを、ティッシュの上にそっと吐き出した。白い糸が濡れた唇からとろんと垂れる。それを拭った手の甲を、猫みたいにベロリと舐め上げた。扉は完全に閉めず、10センチほど開けっ放しにした。
遥がクローゼットの前を離れると、あたしは両手で口を押さえた。ドキドキして息が荒かったから。ソーッと顔を動かして、片方の目だけで外を窺う。見たくない。でも見たい。
遥は部屋のドアの前に立っている。男の人はあたしに背中を向けて座り込んでる。すっかり脱力したみたいに丸まった、Tシャツの広い背中。真っ黒な短髪。
遥は部屋のカギを閉めると、男の目の前に立って、タンクトップを脱ぎはじめた。じらすようにゆっくりとした動きだ。ノーブラだ。片腕で胸を上手に隠して、上半身裸になると、クルリと後ろを向いた。顔だけで振り向いて、男を見つめながら、恥ずかしそうにチラッと微笑う。
ショートパンツを下げはじめた。くねくねとお尻を突き出している。淡いブルーのパンティーが顕われる。ショートパンツを脱ぎ捨て、両手で自分のお尻を触る。それがいかに柔らかいか、どんなに弾力があるか、男に見せつけるみたいに。
信じられない。あたしが遥のストリップを見てるなんて、バカみたいだ。
そう思っているのに、あたしは遥から目がそらせない。
やがて、遥は、パンティーを下げはじめた。一ミリずつ、気が遠くなるくらいの時間をかけて、真っ白なお尻をあらわにさせた。脱ぐためにかがむと、お尻の割れ目の間から、くすんだピンクの性器が、あたしの目にも見えた。あたしは目をつぶった。同じ女の子のものとはいえ、見たくなかった。
男は黙っている。どんな表情をしているのか、あたしにはわからない。
遥は全裸になった。
「あたしに‥‥触りたい?」
胸と股間を手で隠して、遥は男に向き直った。からだは細っこいのに、腕からこぼれ落ちそうなくらいに、おっきな胸だ。
「触りたいんでしょ?」
「榎本‥‥」
男の声は掠れている。やっぱり聞いたことのある声だ。
「あたしね‥‥もう、濡れてるの。触ってほしくて‥‥」
いつもの遥の声じゃない。下品で、男みたいな遥じゃない。これは別人だ。遥はこんな可愛らしい声を、あたしの前では絶対に出さない。
「イヤらしい女の子だって、思わないで‥‥恥ずかしい‥‥」
嘘つけ。恥ずかしいなんてこと、あるわけない、この遥が。
「国坂くん、遥にごほうびちょうだい」
国坂。
そうだ、野球部の国坂先輩。楢崎先輩とすごく仲のいい人だ。女の子にとっても人気のあるあの人。でも、楢崎先輩みたいに、ひとなつっこい笑顔なんて持ってなくて、告る女の子をかたっぱしから冷たくフッてる人。野球部で練習してるか、図書室で勉強してるか、そのどちらかしか見たことないマジメな人が、遥に大人しくフェラチオさせるなんて、信じられない。
国坂先輩の息が、また荒くなった。
「や、やめろよ、榎本‥‥おれ、そんなつもりじゃ」
遥は両膝をついて、国坂先輩にキスをした。腕で胸を隠したままだ。先輩は抵抗しない。遥に唇を貪られるがままだ。
「国坂くんのおちんちん‥‥すっごく美味しかった‥‥唇も美味しい‥‥」
キスの合間に、甘く高い声で囁いている。
「遥のおっぱい‥‥触るのイヤ?」
先輩は答えない。だけど、突然遥を抱きすくめて、床に押し倒した。
「榎本‥‥榎本ォ‥‥」
胸を隠した遥の手をつかんで床におしつけ、白い胸を揉んだり舐めたりしはじめた。
「ああ‥‥あんっ‥‥国坂くん‥‥だめ‥‥優しくして‥‥んンッ」
遥の胸は、形が変わるくらい、めちゃくちゃに揉まれている。ピンと立った乳首を、先輩の口が吸った。チュバッ、チュバッて、すごい音がする。犬みたいにペロペロ舐めては、また吸い上げる。ぷるんって、皿に落とされたプリンみたいに胸が揺れた。
「はふうっ‥‥」
遥がピクッと震える。胸はもう国坂先輩の唾液まみれで、テラリと光っている。
「ああん‥‥気持ちいい‥‥いや‥‥あんっ」
あたし、濡れはじめてた。見たくもないものを見せられてるのに、アソコがじわって熱くなってきた。
遥の股間に滑り込もうとする先輩の手を、遥が制した。
「国坂くん‥‥ここじゃイヤ。お願い。遥をベッドに連れてって」
「あ、ああ‥‥」
国坂先輩は遥を軽々と抱き上げて立ち上がった。背が高くてがっちりしている。抱き上げられた遥が子どもに見えるくらい大きい。
国坂先輩は遥をベッドに横たえると、もう気が違ったみたいに、剥ぐように服を脱ぎはじめた。Tシャツ、ジーンズ、ボクサーショーツをあっという間に脱いで、全裸になった。ごつごつした背中が、あたしからは見える。硬く引き締まったお尻も。
綺麗。
男の人の体って、こんなに綺麗なんだ‥‥。筋肉も骨も太くて、欅の大木みたい。女の子とは全然違う。
覆い被さろうとする国坂先輩を、遥は器用に身をかわし、自分が上になった。
「国坂くん‥‥ね、ちょっと目をつぶってくれる? 国坂くんに触ってほしいんだけど、明るすぎて恥ずかしいの‥‥ね、ちょっとだけ目を閉じて」
遥の背中が邪魔しているので、先輩の顔はあたしからは見えない。でも、遥がベッドの脇のサイドキャビネットから、白いすべすべした長い布を取り出したのがわかった。先輩の目に布をかぶせて、頭をぐるぐる巻きにすると、きゅっと縛った。わずか十秒たらずの早業。
「お、おい、何してるんだよ」
「大丈夫‥‥すぐに外してあげるから、取らないで。ね?」
先輩にチュッてキスをする。ベッドから降り立つと、全裸の遥はクローゼットまで歩いて、そっと扉を開けた。人さし指を唇の前に立て、声を出すなとあたしに合図をする。目がキラキラ光っている。残忍な、異常な好奇心に満ちた目。まるで、以前ビデオで見たサスペンス映画の犯人みたいな、快楽殺人者の目。
嫌だ。何をするつもりなの。
あたしは恐怖に震えながら、遥の目に射すくめられて、何も抵抗ができない。
遥はあたしのスカートを脱がせ、パンティーを引き摺り降ろした。「イヤッ」という声すらも、あたしの喉からは出ない。ただ震えながら、この淫乱女のなすがままになっている。
遥は、あたしの耳のなかで囁く。
「触ってほしいんだろ? もう濡れてるんだろ?」
とにかく怖くて、常のごとく見すかされてしまった悔しさすらも、胸に浮かばなかった。そう、遥の言う通り、あたしはもうビショビショに濡れてる。
遥は、下半身を丸出しにした恥ずかしい格好のあたしを、国坂先輩の目の前に、泥棒を捕えた刑事みたいに引き立てた。先輩の腿の上あたりに、あたしを馬乗りにさせ、自分はあたしの後ろに膝をついて、あたしが逃げないように胴を抱えた。
目隠しをされてベッドに横たわった国坂先輩。ペニスは不自然に、体とほぼ垂直になっている。はじめて見る男の人のアソコは、すごく大きくて、ちょっとヌラヌラしてて、体よりもずっと色が濃くて、生き物を股間に飼ってるみたいに見えた。
「国坂くんのおちんちん、またおっきくなってる。嬉しいな‥‥」
遥はあたしの後ろから腕をのばして、膨れ上がっているように見える先端に指を這わせた。先端はトロリと濡れているみたいだ。遥はそれで指を湿らせると、ぎゅっと握って、上下に動かした。先輩はアッて声をあげて、遥に懇願する。
「榎本‥‥なあ、おれ、こんなの嫌だよ、目隠し、取っていいだろ?」
「ダーメ。もう少し我慢して」
あたしはもう泣き出しそうだ。いったいあたしは何をされるんだろう。わからない。どうして遥のなすがままになってるんだろう。
「ねえ、遥のアソコも触って‥‥そっとよ。そっと、触って。優しくして‥‥」
「ああ‥‥」
先輩は仰向けのまま、手を伸ばす。あたしのお腹に国坂先輩の大きな手が触れた。イヤ、触らないで。そう叫びたいのを必死でこらえる。
そのまま下に降りて、あたしの大切なところに、手が滑り込んでくる。好きでもない男の人に、こんなところを触られるなんて、信じられない。あたしの陰毛を探って、奥まで手が入った。怖い。誰か、助けて。
「濡れてる‥‥」
「いやん‥‥恥ずかしい」
触られてもいない遥が、あたしの代わりに甘い声で答える。悪魔だ。この女は頭のいかれた悪魔だ。
「すごく濡れてる。ビチョビチョだね‥‥柔らかい」
先輩が興奮しているのがわかる。綺麗に割れた腹筋が、浅く早く上下している。先輩の指は、あたしの溝を滑るように前後に動いている。だめ。声が出ちゃう。
遥は、先輩の手を優しく導いて、あたしが一番感じるところに指先を当てた。いつもオナニーをするときに、指の腹をつかってこすりあげるところだ。
「あんっ」
これはあたしの声。でも先輩は疑った様子もなく、あたしのちいさな突起を一心にさすった。遥のものだと信じて。男の人のごつい筋張った手が、あたしのアソコを弄り回している。自分以外の誰かにされることが、こんなに恥ずかしくて気持ちいいなんて、知らなかった。
クチュ、チュルンって、変な音がする。先輩はわざとみたいに、指をすべらせて、あたしの柔らかい肉を弾いて音を立てている。
「はあ‥‥イヤ‥‥あん‥‥ん‥‥」
さっき遥が出していたのと、同じような喘ぎを、今度はあたしが出している。
「気持ち‥‥いいか?」
「うん‥‥とっても気持ちいい‥‥」
と答えたのは遥だ。
「国坂くん‥‥遥、いっちゃいそう‥‥国坂くんの指でいっちゃいそう」
「いいよ、いって‥‥もっと触ってやるよ」
先輩はもう戸惑いをかなぐり捨てている。さっきまであんなに動揺していたのに、男の人ってこういうものなんだろうか。それに、たぶん、何だか触り慣れてる感じ‥‥真面目な人なのに、どうしてなんだろう。
あたしのアソコは崩した豆腐みたいにグチュグチュにされている。なぞられ、つままれ、さすられる。濡れたところを掻き回され、指の動きが激しくなった。
「クリトリス‥‥おっきくなってるな」
「あっ‥‥はうっ、あ、あ、あ、」
クチュ、クチュ‥‥クチュン‥‥。
いやらしい音が鼓膜に届く。
一番感じるところを、集中攻撃されて、もう声がとまらない。心のどこかが情けなくって、涙が溢れ出した。体が崩れ落ちないように、遥がしっかりとあたしの胴を抱えているから、動くこともできない。でも、あたしの腰が勝手にくねりだした。
「ああんっ、ああっ、ふにゃあっ、あにゃあ」
「クリトリス」を激しく責められて、あたしはおかしくなってしまった。頭のなかに、ミルクが流れ込んだみたいに、真っ白。何も見えない。
「はにゃっ、はああああ、ああーん、ん、ん、ん‥‥・ンンッ」
あたしは背中をのけぞらせて、イってしまった。よく知らない男の人の手でイッてしまったのだ。もう我慢できずに、先輩の膝の上にへたへたと座り込む。
「‥‥榎本‥‥イッたのか?」
あたしは返事なんか出来ない。ぼうっと脱力して、なんだかすごく悲しくて恥ずかしくて、啜り泣きしそうだ。
遥はあたしの腕をつかんで、降りろ、と指図した。服を持って、クローゼットに隠れろと身ぶりで示すと、先輩の上に一人で跨がった。あたしは呆然としたまま、服を拾って、遥の横顔を見つめる。
「あたし‥‥おかしくなっちゃった‥‥国坂くんが欲しい。今すぐ‥‥」
ぞっとするような冷酷な笑みをたたえているくせに、声だけは甘い。あたしの奥から出たぬるぬるしたものに拳までびっしょりと濡れた先輩の指をとって、口のなかに含んだ。真っ赤な舌が、あたしの蜜を丁寧に舐め取っている。
「知らなかった、国坂くんがこんなに上手だなんて‥‥」
遥は国坂先輩のペニス――さっきよりもずっと大きくなっている――をつかんで、自分のからだのなかにスルリと埋めた。ペニスが、あたしの視界からすっかり消えた。遥の奥まで、巨大なそれが埋まってしまったのだ。
「あッ‥‥」
呻いたのは、先輩だ。
「ああん‥‥国坂くん、おっきいよ‥‥。遥のなかが、もう一杯になってる」
白く小振りなお尻をダンサーみたいに揺らして、ペニスに刺激を与えはじめた。あたしを振り向き、さっさと隠れろ、と唇だけを動かしてクローゼットを指差す。あたしは棒のように硬直した脚を運んで、その通りにした。頭が混乱して、からだがブルブル震えていた。涙に曇った目で、クローゼットの隙間から、先輩を犯す遥を見つめた。
「遥をメチャクチャにして‥‥国坂くんのおちんちんで、もっと掻き回して!」
そう言いながら、メチャクチャにして掻き回しているのは、遥のほうだった。国坂先輩の目隠しをシュルッとはずすと、繋がったままキスを繰り返す。国坂先輩は遥の背中を抱いて、ああ‥‥ああ‥‥と低いうめき声を出し続ける。
「榎本‥‥ああ、いいよ、すご‥‥すごく、いい‥‥」
先輩は体を起こして、遥を膝の上に乗せた。ベッドがへこむんじゃないかと思うくらいに、二人は激しく動いた。遥がのけぞる。じゅぽっ、じゅぽって音がする。遥のお尻の間からピンクのアソコが見え、それを大きく割って出し入れしている、先輩のペニスが見える。
「国坂くうん、遥、メチャクチャになっちゃう‥‥おかしくなっちゃうよう‥‥」
「おれも‥‥おれも‥‥だ」
先輩は遥を仰向けに倒した。枕が彼らの足元にあり、あたしからは先輩の顔がよく見える。でもこっちに気づいた様子はまるでない。
――こういう顔をするんだ‥‥男の人って‥‥エッチのとき、こんな苦しそうな顔をするんだ‥‥。
先輩の整った顔が、紙みたいにくしゃくしゃに歪んでいる。でも、遥を見る目はぞくっとするくらい男っぽかった。汗が額から散って、首筋が膨れ上がっているみたいに見える。
先輩は遥の両足を持ち上げて自分の肩にかけさせた。ひっくり返した遥の股間を、一心不乱に突きまくる。痛くないんだろうか。華奢な骨盤が、まっぷたつに割れてしまいそうなほど、国坂先輩のはおっきいのに。
――あんなに裂けてる。遥のアソコ‥‥。
ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ。叩き付けるような音と共に、二人の陰毛がひとつになっては、また離れる。遥はすごく濡れているらしい。パカッと割れたピンクの裂け目がぐちゃぐちゃに湿っているのが、ここからでもわかる。
「きゃううっ‥‥きゃあん、ふわあっ!」
遥が壊れはじめた。訳のわからない言葉を叫んで、国坂先輩にしがみついている。
「気持ちいい‥‥遥のおまんこ、気持ちいいのっ、いっちゃうよ、いっちゃうっ」
「じゃ‥‥じゃあ‥‥一緒にいこう‥‥な? おれも、もう‥‥げん‥‥かい‥‥」
激しい息の下から、先輩はやっとという感じで、言葉を漏らし出す。
「中で‥‥遥の中で出して‥‥大丈夫‥‥だ‥‥から‥‥」
二人は、動物みたいな声をあげて、本当に同時にイッたみたいだった。先輩の大きな体がどっと、遥の上に崩れ落ちる。
あたし、さっきイッたばかりなのに、またアソコがじんじんしだした。服を腕に抱えたまましゃがみこんでいるあたしの脚の間から、ジュルリと熱いものが流れだす。
あたしの中で、何かがパキン、と壊れた。
――こんな風にされたい。
楢崎先輩に、あたしこんな風に激しく抱かれたい‥‥。