Four Pieces of Green Fruit1

女性もえっちな妄想をしてもいいんです。
当サイトは、アフィリエイト広告を利用しています

アダルトな読み物のお部屋

Four Pieces of Green Fruit1
2021年07月27日 00時28分

「あー、山や高原で綺麗な空気が吸いたいなあ・・」
 るりは、校門に向かって歩き出しながら、赤い手袋に包まれた手を空にかざした。
「可愛いお花見たり、川のせせらぎに手を浸したりさあ・・」
 今は12月で、冬である。
「花なんかないし、せせらぎに手を浸したら凍傷だ」
 遥は無愛想に言った。
「わかってるよー。言ってみただけじゃん。とにかく、あたしは自然が好きなの。田舎で暮らしたいなあ」
 アホらしいので、遥は返事をしない。
 田舎で暮らしたいなあ・・の次には「楢崎くんと」がひそかに続くのだろう。
 最近、この女はちょくちょくこういう話をする。
 るりの男である楢崎は、アウトドアでなんだかんだするのが趣味らしい。つまり、ハイキングとか、キャンプとか、胸くその悪くなるような単語が大好きな奴らの一人である。
「自然の中にいると落ち着くよね? そう思わない?」
 遥はでっかいあくびをした。
 あたしを退屈させることに関しちゃ、このチビ助はまさに名人級だ・・・と思っていた。帰りがけに昇降口で会ってしまったので、しかたなく一緒に歩いているのだが、くだらない話を聞く気分ではない。
 遥はアウトドアでセックスするのは好きだが、木だの草だのは、ああ、そこにありましたね、といった程度の認識しか持たない。いくら綺麗な空気吸ったって、東京に帰ってくりゃ元の木阿弥というものだ。
「なあ、お前さ、ごぶさただろ」
 退屈しのぎに、そう言ってみた。
「え?」
「セックスだよ。気の毒になあ。欲求不満が顔に出てるぜ」
「えっ、何それ? そん、そんなことないもん」
 るりの目が、キロキロッと泳いだ。
 まったく、バカ正直な女だ、と心の中でほくそ笑む。
 「そんなことない」訳がない。まあかなりどうでもいい話だが、わかるものはわかるのである。
「さっき、あたしエッチしてきました~(はぁと)」と、るりほど露骨に顔に出る女も珍しいからだ。その高揚は事後何日か続くのだが、最近ではそれをほとんど見ない。
「最後にヤッたのは何週間前だ?」
「うるさいなー。どうだっていいでしょ」
「まあ、お前相手じゃ勃つもんも萎えるか」
 るりの顔がさっと強ばったので、遥はニヤニヤ笑った。
 楢崎って男は、一見クールっぽいが、実は見かけ倒しの純情少年、ひらたく言えばウブなガキで、しかもサッカーオタクである。女に手を出すべきタイミングも、適度な回数なんかも、まるでわかっちゃいないのだろう。いきおい、るりは欲求不満にさせられるって訳だ。

 _____ まあ、欲求不満にさせられてんのは、あたしも同じだけどな。

 もう一週間もセックスをしていない。いや、正確に言えば、させてもらっていないのだ。るりを苛めたくなるのは、そのせいである。
「おい」
 校門を出たところで、後ろから頭を小突かれた。
 遥は振り向かなかった。誰だか確かめるまでもない。遥の頭を堂々と叩ける、この世で唯一の男だ。
「あ、国坂先輩」
 るりはぺこっと頭を下げた。
「遥、何で帰るんだよ、これから試合だぜ。見に来るんじゃなかったのか?」
 野球のユニフォーム姿の彰は、尖った目つきで言った。
「家に帰って着替えたら、またガッコに戻る」
「うす」
 目つきが和らいだ。
「ところで彰。今なぁ、こいつが楢崎にやってもらってないって話を・・」
「今ねぇ、山で綺麗な空気吸いたいなーって話してたんですよ。ね、遥?」
 るりの声は選挙カー並みに大きかった。
「その話をしてたのは、お前ひとりだ」
「おーいいねえ・・山かぁ」
 彰はため息混じりに言った。
「俺もさあ、海とか山とか、大自然のなかでガーッと叫びたいよ。何しろ野球部の後輩ども、根性がなってなくて、もう俺、ストレスたまっちゃって」
「大変ですねぇ」
 るりが言った。
「大変なんだよ」
 彰は深く頷いた。

 自然が何とかかんとか、というるりのどうでもいい話など、遥の頭からは即座に抜けていた。
 その翌日、「精液が鼻から漏れそう・・」とボヤきながら、彰が家にやってきた。
「俺さー、オナるのも我慢してたんだぜ。エライだろー。誉めて誉めて」
 彰はえらく機嫌がいい。昨日、東京西地区随一の強豪と言われる高校と対戦し、僅差で勝ったのである。ここ一週間、セックスをしなかったのは、練習に集中していたためだ。
「自分で勝手に我慢しといて、エライもクソもあるかよ」
「そんな冷たいことゆーなって。んねー」
「だいたいな、我慢してたのはあたしのほう・・ん」
 唐突に抱き締められてディープキスをされ、文句が宙ぶらりんになる。
「今日はたくさんしよー。たっくさん、たっくさんしよ。な、遥チャン」
 彰のあまあま口調が可愛いので、思わず顔が緩む。
「その前にシャワー浴びてこいよ。汗くせぇ」
 遥の命令を無視し、彰は胸をわしわしと揉み始める。勃起したペニスの感触が、服越しでもはっきりと伝わった。
「わっ・・やば。もう出そっ」
 やばいやばいと言いながら遥をベッドに倒し、のしかかってキスをした。鼻息が馬なみに荒い。
「悪いんだけど手っ取り早く濡れてくんねえ? もう俺、即入れたいの。ソク!!」
 普通なら殴られても文句は言えないセリフであるが、遥は楽しくなり、クスクスと笑った。
「もうとっくに濡れてるよ。一週間前からね」
「俺としたかった?」
 ベルトを外しながら、彰がニヤつく。
「したかった・・もう発狂寸前」
「じゃ、もう入れていー?」
「ふふ・・」
 彰の耳のなかに、とびきりイヤらしい淫語を囁くと、彰はブルッと震えた。
 遥はジーンズだけを脱ぎ、彰は制服のズボンをずりさげた格好で、つながった。
「うぁっ・・く」
「あっ・・」
 ああ、この圧倒的な感触。
 待ち焦がれていた感触だ。
 男など待ったためしのない遥だが、この一週間は「待つ女」の役割を演じさせられた。悔しいが、「野球バカ」が自分の男なのだから、まあそれはしょうがない。
 挿入の衝撃が去ると、遥はうっすらと目を開けた。彰は興奮しすぎているから、5、6分でイっちゃうだろうな、と冷静に観察をする。まあ、今日は少なくとも3回、いや4回はするだろうからそれでも構わない。どっちにしろ、今は少々痛い。モノが巨大なので、セックスの間隔をあけてしまうと、最初は痛みのほうが大きいのだ。
 一戦交えて落ち着いたら、こないだ買った例のブツを彰につけてみたい、と遥は舌舐めずりをした。キュートなフェイクファーの手錠と、揃いのアイマスクである。強靱な彰の体に可愛らしい手錠という、このミスマッチがたまらない。なあ、外してくれよ、と懇願しながら、悶えていく彰の顔が見たくてたまらない。
 問題は、どうやって着用を承諾させるかだ。
「集中しろよ」
 激しく動きながら、彰が睨んだ。
「してるって」
「してねーだろ。しょーがねーな。ほら」
 彰はペニスを抜いた。遥の両脚を持ち、膝から下だけをベッドの下に降ろさせる。自分も床に脚をつけ、両手をベッドにつきながら、再び挿入をした。脚を下げさせたこの体位だと、突き上げの角度が微妙に変わり、遥がイキやすくなることを知っているのだ。
「いいだろ?」
 彰が聞いた。
「ん・・いい。キモチいい」
「ホントかよ?」
「ホント・・あ・・んん!」
 このペニスに摩擦されて突き上げられては、どんな女だってイチコロである。本音を言えばもっと自ら動きたいが、それは後のお楽しみだ。
 遥は彰の懸命な顔をうっとりと眺めた。
 陽に灼けたかたちのいい額にうっすらと汗が浮かび、眉間にキュッと皺が寄る。快楽に負けていくその経緯をつぶさに表す、アーモンド型の眼。
 あたしの男は、セックスのとき、なんて美しいのだろうと思う。
 首だけ切り取って机の上に飾っておきたいくらいに可愛い・・と猟奇的な想念に一瞬囚われ、あたしはサロメかよ、と苦笑する。
「あ・・ふう・・はっ・・」
 彰が本格的によがり始めると、遥は目を閉じた。快感が加速度をつけて高まってきた。たぶんあと2分足らずで、彰は射精をする。タイミングをあわせられるだろうか。いや、是が非でもあわせてやろう。
 膝を立てて開き、ウエストから下だけをくねらせる。絞りはかなり緩めにする。ただでさえ、今はキツい。それに、これ以上絞れば、射精を長引かせることができなくなる。
「あ・・くっ・・、彰・・もっと動いて・・もっと」
 久々のセックスで、アソコがひどく敏感になっている。
 イケる。
 すごい。今までの最短記録だ。
「はる・・か・・はあ・・ああ・・」
「あ・・んっ・・そう、もっと、あんっ、あんっ、もっと突いて・・!」
 遥は背中をのけ反らせ、腰を激しく動かした。
 もうイク、俺もイク、と素早い確認を交わし、ほぼ同時に絶頂に達した。

「なあ、来週の日曜日、山に行こうぜ」
 彰は遥の髪を手で梳きながら、ニヤニヤと笑った。セックスが終わってから服を脱いだので、ふたりとも全裸である。
「山ぁ?」
「昨日洋輔と電話で話してたら、じゃ今度行こうってことになってさ。たまにはいんじゃん。四人で、ダブリュウ・デェト」
「ダブリュウ・デェト?」
「だって昨日、るりちゃんと話してたんだろ? 山とか海とかで、綺麗な空気吸いたいって」
「だから、その話をしてたのは、あいつ一人なんだってば」
 遥はガリガリと頭を掻いた。
「だいたい、四人でどこの山に行くんだよ。日本アルプスか?」
「アホか。郡里山だよ」
 郡里山。
 頭のなかのコンピュータで、素早くデータを引き出した。
 東京都の西北に位置し、新宿からは私鉄で1時間15分の距離。山頂の海抜は543メートル。山裾から中腹までケーブルカーが通っている、絵に描いたようなお手軽ハイキングコースだ。
「このクソ寒いのに、やーなこった。3人で行ってこいよ。あたしはパス」
「お前なあ、お前が来なかったら、俺はただの間抜けだろうが」
「じゃ、行くのやめれば」
「いや、俺は行く・・てゆーかさ・・」
 彰は遥の耳の側面をパクッと銜え、そのまま囁いた。
「今って、行楽客が少ねーんらよな。だから、ひょっとして、何かできたりひて・・」
「何かって何」
「わかってるくせに。遥チャン」
 彰はフッフッと、鼻息を荒くしている。ペニスが勃起して、遥の腰のあたりをピョンと叩いた。
 おいおい、「大自然に向かってガーッと叫びたい」と抜かしてたのはどの口だ。
 でも悪くないかな、と考え直す。凍るような寒さの山で、ひそやかな、淫蕩な、野外セックス。下手したら風邪をひくかもしれないが・・。
「まあ、行ってもいいけど・・ね」
 遥は彰の胴に腕を回し、額に唇をつけた。人さし指で、頬をコチョコチョとくすぐりながら、頭を女モードに切り替える。
「こっちもお願いがあるわけなのよね」
「ん、なあに」
「彰にかわい~いプレゼントがあるの・・」
「え」
 彰の顔が微妙に強ばった。
「彰・・外でエッチしたいでしょ? 寒~い山で、あたしを滅茶苦茶に抱いてみたいでしょ?」
 片手を下にやり、優しくペニスをさすった。
「あ・・う、ま、まあ・・な」
「だったら、遥のお願いも聞いてほしいなあ。ね?」
 唇にそっとキスをすると、彰は「願いの中身が何かによるけどな・・」と、もごもごと呟いた。遥は体を離し、ベッドの下に隠してあった手錠とアイマスクを取り上げると、にっこりと笑った。

「わー楽しみ」
 るりは、ほっこりと笑み崩れた。彼女のこの笑いかたは、いつも洋輔をなごませる。満月のように大きな瞳が三日月程度に細くなり、左のほっぺただけにエクボが浮かぶ。
 彰とWデートの約束をした翌日の土曜日、洋輔はるりを誘ってラーメンを食べに出た。今日は学校は休みなのだが、彼女に会いたくてたまらなくなり、呼び出したのだ。
「あち、あち」と言いながらラーメンを啜る、るりのおでこが汗をかいている。
「いつ? 来週?」
「そーだね。来週の日曜日は俺も部活ないし」
「あたしWデートなんて、はじめて」
「あ、実は俺も」
「嘘。あるでしょ」
「ないって」
「ふーん・・」
 ちょっと疑り深そうに、洋輔を上目で見つめる。
「ホントだって」
「はいはい」
 ふっと笑顔に戻った。だが、たぶん信じていないのだろうと、洋輔はひそかなため息をついた。るりはいつまでも基本的な勘違いをしたままだ。彼女は決して問い詰めたりしないので、あえて説明などしていないが、るりが思うほど、洋輔の「モテ歴史」は長くない。
 ハッキリ言って、中学の時は大してモテやしなかった。背も低かったし、女の子からはガキ扱いされていたのだ。
 洋輔達が通っている高校は、スポーツ方面では定評がある。彰の所属する野球部しかり、サッカー部もまたしかりだ。そこで少しでも目立てば、「女なんか、ギャーギャー騒ぐぜぇ」と友人が言っていたような気がするが、まさか我が身に「ギャーギャー」が降りかかるとは、予想だにしていなかった。最初こそ嬉しかったが、練習の邪魔になることもあり、次第に迷惑になった。彼女らが、よってたかってるりを苛めていたと知ってからは、嫌悪と軽蔑しか抱けない。あの事件後、洋輔は彼女らを呼び出して批難し、はっきりと「迷惑だ」と告げた。その結果、彼女らはぱったりと寄ってこなくなった。最近では、陸上部の男のほうが、ずっと人気があるらしい。
 つまり、俺のモテ度なんて、せいぜいこの程度なんだけどな、と洋輔は考えている。
 なのに、るりは、いつまでも誤解をしている。
 「経験豊富」だとか(たらしという意味じゃないとは思う、もちろん・・)、「女の子の扱い方がうまい」とか、時々不安そうに、たまにチクリと口に出したりするのだ。
「るり、今日俺んちに来いよ。カテキョーしてやるから」
 洋輔はさりげない口調を装って言った。
「うん。でもこれから練習でしょ」
「今日グラウンドの整備の日だろ。だから外ランニングだけで終わる」
「な~んだ。観にいこーかと思ってたのに」
「たまにはベンキョーしろよな。特に数学」
「はぁい」
 るりは目をパチパチさせて、気まずそうだ。
「でもあたし、楢崎くんみたいに、頭良くないんだもん」
「またそんなこと言って」
「だって、ホントじゃん」
 おどけて拗ねた顔をするが、すぐにコロッと笑顔に戻る。
 そんな彼女を、羨ましいと思うことがある。
 るりは、あまり勉強が得意なほうではない。だが、成績を気に病んでいるふうでもなく、のほほんとしているその顔を見ると、洋輔の肩からふっと力が抜けるのだ。
「ふう、暑くなってきちゃったよ」
 るりは、手でパタパタと頬をあおいだ。
 熱いラーメンに火照った顔が可愛くて、桃みたいなほっぺたやピンクの唇に、キスしたくなる。そんな自分を悟られたくはなく、洋輔は音をたててラーメンを啜り込んだ。

 
 ランニングを済ませて急いで家に戻ると、るりはもう門の前で待っていた。大きな紙袋を手に下げている。きっと夕食用に料理をつくって持ってきたのだ。
 洋輔の父親は去年盛岡に赴任し、母親はしょっちゅう世話をしにいくので、留守がちだ。洋輔が転校したくないと強硬に主張したため、一人暮しもどきをすることになった。母親はカレーやらギョーザやらを大量に冷凍してくれているのだが、るりの手料理はやはりありがたかった。
「早すぎだよ」
 洋輔は笑った。
「バスが早くきちゃったんだもん」
 さっきはジーンズを履いていたのに、今はミニスカートだ。すべすべした腿が目に眩しい。
 彼女を家の中に入れるたびに、まだ胸がドキドキする。こんな俺のどこが「経験豊富」だというのか、と苦笑いがこみあげる。
「楢崎くんちに来るの、ひさしぶり」
 るりが言った。
「そうだね。俺も忙しかったし・・」
 自室に連れていき、数学の教科書を広げさせた。るりが最もニガテな科目だ。
「授業はどこまで進んだの?」
「ここ」
 るりは俯いて、ページを指差した。
「どこらへんがわかんない?」
「どこがわからないのかも、わからない」
 つい吹き出しそうになる。
「じゃ、とりあえずこっちの応用問題解いてみて。前のページにちゃんと説明があるだろ。それ読んで」
「数学なんか出来なくたって、いいもん」
「あのね、『ちゃんとする』ってことに意味があんの。怠けてばっかじゃ、一生そーゆー癖がつくよ」
 洋輔は、必要以上に厳しいものの言い方をすることがある。そう接することで、彼女と会うたびに、どこまでも甘く崩れそうになる自身のバランスを取りたいのかもしれない。一つ年上の男として、体面を保っていたいというプライドも、もちろんある。
「わかってるけど・・」
 るりは恨めしそうな眼で洋輔を見つめた。湖を思わせる、潤んだ瞳だ。
 洋輔は、瞬時に後悔に襲われてしまう。
 いいよいいよ、そんなに嫌なら数学なんかしなくていいから、と慌てて言いたくなる舌を押さえ、にっこりと笑ってみせた。
「解けたら、ごほうびあげるから」
「なあに?」
「チュー一回」
 平静を装いながらも、胸の内は高鳴っている。「ごほうび」だなんて偉そうに言っているが、キスをしたがっているのは、自分のほうなのだ。
「でも、どーせ解けないから、ないかな」
 内心を隠して笑ってみせると、るりは「ふんだ、見てろぉ」と生意気な笑いを返し、教科書に目を戻した。
 こうやって、「上に立つ」自分を、洋輔はかなり好きなのだと思う。考えてみれば、ちょっと情けない心理だが、こういう立場というのは、男の自尊心を満足させてくれるのかもしれない。
 だが、心のなかでは、彼女を押し倒したがっている自分がいる。
 もちろん、彼女をどうこうする目的で、自宅に呼んだのではない。いや、実は「どうこう」したくてたまらないのだが、なぜかそうできない。あまりのパラドックスに、自分でも考え込んでしまうのだが、つまりは「大切すぎて出来ない」のだと思う。
 まるで、古陶器の蒐集家のお爺さんのようだ。
 掘り出し物の陶器を奥の間に飾り、家族にも触らせず、自分はひがな一日それを見つめて満足している、といった光景と似ているかもしれない。
「や、やっぱ、わかんないです。助けて・・」
 るりが、パタッとガラステーブルにうつ伏せた。情けなさのあまりか、クスクス笑っている。
「おっけ。じゃ、基本からやろ」
 るりの頭をポンと叩き、教科書のページをめくった。

この小説がよかったらいいねしてね
0
シリーズ連載 :