Four Pieces of Green Fruit2

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アダルトな読み物のお部屋

Four Pieces of Green Fruit2
2021年07月27日 00時30分
DUGA

 楽しいのか、そうでないのか、よくわからない。
 数学なんて単語は、ゴキブリよりも、チカンよりも嫌いだ。
 でも、楢崎くんが教えてくれることが____ というより、彼がそばにいて、厳しい顔をしたり、時おり微笑んでくれることは嬉しい。
「楢崎くんって、どうしてそんなにアタマがいいの?」
 数学なんかよりも、とにかく彼に話しかけたくて、るりは彼を見つめる。
「アタマいいわけじゃない。ちゃんと勉強してんの。誰かさんと違って」
「誰かさんって、誰? 遥?」
 るりはトボけて、隣人の名前を出した。教科書をザッと眺めただけで、すべてを丸暗記できる、とっても憎たらしい女の子。でも、遥は人に「教える」ことなんかできない。「わからない」ということが「わからない」のだ。だから、わからない辛さを理解してくれる思いやりもない。そこが天才の欠点だと思う。
「あー、あいつ・・」
 楢崎くんは苦笑した。
「世の中不公平だよな。まあでも、あんなのは100万人に一人です。俺らフツーの人々は、コツコツ努力しなきゃ、ダメなんですよ。わかりますか?」
「楢崎くんって、カッコいー」
 つい、本音がポロッと出た。
「あのね。オベンキョに集中してください」
 ちょっと厳しい目付きで睨まれたので、るりは素直にシャーペンを握り直した。これ以上おしゃべりをしていたら、「マジで根性なしの女」だと思われかねない。まあ、その通りの人間ではあるのだが、そういう評価は下されたくないのである。
 やっぱり楢崎くんはすごい人だ、とるりは思う。
 「一事が万事」っていうのは、楢崎くんのためにあるような言葉だ。サッカーだって、もう十分上手いのに、日ごとになお、少しずつ上手くなっているような気がする。そこにどれほどの努力があるのか、彼はそんなことを語らない。
「好きなだけだよ。それに、きちんと結果出したいし」
 サッカーだけじゃない。彼は「結果を出す」という言葉を、よく使う。勉強でも、学校の行事でも。
 そのたびに、るりはちょっと気が重くなる。楢崎くんしか見ていない自分が、なんだか下等な生き物に感じられてしまう。
 成績は中の中(時々、中の下)。こうやって楢崎くんにカテキョーをしてもらっても、飛躍的な成果などありえない頭脳の自分は、きっと適当な短大に進んで、普通のOLになる以外、なんの道もない。いや、普通のOLにだって、なれるかどうかアヤしいものだが、そんな遠い未来のことは、とりあえず考えたくない。
 きちんと結果を出す。
 彼がそう言うたびに、るりは心のなかで、ひそかに彼に問いかける。じゃああなたは、「結果を出した」から、あたしみたいな子を選んだの、と。
 夏休み、るりは彼に抱かれたくて、渾身の演技で誘惑をした。まるで自分ではないような、けもののような未知の力がわきおこり、学校の校庭でバージンを失った。あれはたぶん、生涯忘れることのない思い出になるだろう。けれど、その後の展開は予想外だった。きっと一回きりのエッチだと覚悟していたのに、「好きだ」と言われた。そして、夢見心地の四ヶ月が、あっという間に過ぎていった。
 だが、心には去ることのない不安がある。
 こんなに素敵な男の子を、あたしなんかがいつまでも独占できるはずはない。あたしが吉岡さんから彼を奪ったように、いつの日か、誰かがあたしから楢崎くんを奪っていくのかもしれない。それでもあたしは文句なんか言えない。言える立場じゃない・・。
 もちろん、そんな不安をはっきりと彼に伝えたことはない。
 楢崎くんは、「るりの笑った顔、スゲーいいよ」と言ってくれたことがある。
 だからという訳ではないが、楢崎くんの前ではいつも笑っていたいと思う。笑った顔だけを、彼に見せていたい。そうすれば、きっと幸せな時間が長く続くのに違いない・・。そう思うたびに、「守り」に入っている自分が、かなり情けなくなったりもする。

 楢崎くんに教えられて、なんとか数ページをクリアすると、頭痛が起こりそうになった。
「疲れました。ひと休みしていいでしょうかー、先生」
「だめ。るりは『ひと休み』ばっかだから」
「そろそろ夕ご飯にしようよ。美味しいのつくってきたんだよ?」
「そんなこと言ってもだめです。せめてあと30分」
 楢崎くんの眼が、るりの顔を覗き込んだ。いたずらっぽい、薄い茶色の眼だ。
「ごほうび、やろうか。そしたら頑張る?」
「うーん・・」
 るりは首をかしげて考えるフリをした。ほっぺたにキスをされ、耳たぶにもチュッとやられた。
「やん・・」
 ああ心臓が壊れそう、と思いながらまぶたを閉じると、唇が覆われた。顎を優しくつかまれて、穏やかなキスをされる。今まで何度もキスをしているのに____ それに、回数こそ多くはないものの、エッチだって時々はしているのに、全然慣れない。楢崎くんの唇は、まるで解けることのない魔法だ。
 ひょっとして、今日はこのままエッチだろうか、と考える。最後にエッチしたのは、かれこれ三週間も前だ。いくらなんでも、放っておかれすぎやしないだろうか。楢崎くんが本当に憎たらしい、とつくづく感じる。
「ん・・」
 もう、濡れ始めてしまった。
 首筋を支えてくれる彼の暖かな手が、るりはとても好きだ。ウエストを抱える楢崎くんの腕の力が、だんだんと強くなる。キスをされると、るりの背骨はぐにゃりとなってしまうからだ。
「さて」
 楢崎くんは唇を離し、照れたように笑った。
「ごほうびタイム終わり」
「え・・」
 嘘ぉー。冗談でしょ~。ありえない・・と、るりは激しい抗議の声をあげた。もちろん、心の中でだが、当然顔にも現れているはずだ。
 だが、楢崎くんは体を離し、るりにシャーペンを持たせた。
「あと30分頑張って」
「ごほうび、足らない」
「あとで」
 笑いながらもキッパリとはねつける。「この参考書貸してあげるから」と、本棚に手を伸ばす横顔は、いつものクールな彼に戻っている。

  _____ 意地悪なんだからもう。

 もっとキスしたい。
 それに、彼に抱かれたい。
 ベッドのなかで、楢崎くんと他愛もない話をする甘いひとときが(そんなの、あんまり経験はないのだが)、るりは何よりも好きなのだ。でもそんなことは口が裂けても言えない。楢崎くんは勉強モードに入っているのに、ケーベツされかねない・・。
 でも、いい、と、何とか気を取り直した。
 今週末はデートなのだ。Wデートなんて、生まれて初めてだ。本音を言えば、二人っきりのほうがいいのだが、皆でデートするって、つまり「彼女として公認の存在」ってことだ。それがなんだか嬉しい。
 だがもちろん、楽しみなWデートにも、多少の問題はある。
 そう、ひとつだけ問題があるのだ。つまり、あの遥が一緒だ、ということだ。
 気紛れで、唯我独尊の彼女。
 何かヘンなことが起きなきゃいいけど・・とかすかな不安を意識しながら、るりは数学の教科書と再びニラメッコをした。

 カテキョー・タイムが終り、ダイニングでごはんを済ませると、「じゃ、送るよ」と楢崎くんは立ち上がった。
「ちょっと遅くなったし。お母さんとか心配してないかな」
「全然ヘーキ」
 嘘だ。
 るりに彼氏ができてからというもの、娘の帰宅時間を厳しくチェックし、最近ではますます眼を光らせている母親の顔が、頭にパッと浮かんだ。
「まだ、時間だいじょうぶだよ。テレビ観ようよ~」
 ドキドキしながら、誘ってみる。
 もう一度だけ、せめてキスをしてほしかった。
「だめだよ。タイム・アップ。家で観なさい」
「はーい」
 るりはニッコリ笑いながら、立ち上がった。内心では、凄まじい失意に打ちのめされている。
 これでは、何のためにミニスカを履いてきたのかわからない。

 _____ あたしから、誘ったほうがいいのかな・・。

 でも、できない。
 だって、楢崎くんはきっと、したくないから誘わないのだ。部活で疲れている上に、るりの勉強の面倒まで見て、そういう気分になれないのだ。こんなに涼やかな顔をしている人をどう誘えばいいのか、るりには少しもわからない。
 あの夏の日の大胆さは、捨て身の戦法だった。今は、彼に嫌われたくない。わずかなミスでも犯したくない。嫌がられる可能性があることは、避けたかった。
 楢崎くんの自転車の後ろに乗り、背中にぴったりとくっつくことさえためらわれ、るりは少し涙ぐんだ。
「来週、あったかくして来なよ。あっちのほうはかなり冷えるし」
 楢崎くんが言った。
「うん、すっごく楽しみ」
 るりはまばたきを何度もして涙を払い、明るく答えた。

 遥の家からの帰り道、彰は一人でニヤついていた。頭のなかにあるのは「山でエッチ」という短い言葉である。
 まあ、本当はWデートなんかじゃなく、二人っきりのほうがエッチな行動はしやすいだろうが、アウトドア好きの洋輔と一緒なら、何かと便利だろうし、弁当はるりちゃんにつくってもらえばいい。それに、皆でワイワイ楽しみながらも、途中でヌケてひっそりとエッチという、そのギャップにコーフンするのだ。
 それにしても・・・と彰はニヤつきを一層濃くして、今日のエッチを反芻した。目隠しをされ、手錠をかけられた時は少し怯えたが、実に実に興奮した。視界を遮断され、どこにどういう愛撫が加えられるのか、全く見えないし予測もできない、という不安と大いなる期待。おフェラも激烈テクだったから、天まで突き抜けるようによがってしまった。またコーモンに指を入れられて、さんざんイタぶられてしまったが、実を言えば、今回はそれもキモチよかった。恥ずかしくて人には絶対言えないが、慣れてくれば、この穴もナカナカの優れものなのかもしれない・・。
 なんだか、だんだんMを開発されているような気がする。
「彰は両刀だからな」
 遥はそう言った。
「SとMを使い分けられるのは貴重だよ」
 そんなもんなのだろうか、と首をひねる。彰にしてみれば、遥の「女」の使い分けこそ、芸術の域だと感心するのだが。
 それはともかく、山でのエッチとなると、これはかなり寒そうだ。こっちはズボンを下げるだけでいいが、遥は下半身スッポンポンになる必要がある。山へ行くのにスカートって訳にもいかない。なるべく気温が高くなればいいのだが。

 ____ うー・・めっちゃ楽しみ。もう待てねぇ。

 遥に苛められるのも大好きなのだが、こっちが優位にたつのも楽しい。山ではそうするつもりだった。なにしろ、体力的にはこっちがはるかに勝っているのだ。ガバッと押さえつけて、有無を言わせずに、エッチをしてしまおう。

 _____ 寒~い山で、あたしを滅茶苦茶に抱いてみたいでしょ・・?

 あの甘い囁きが、頭にこだまする。
 そう、何が楽しいといって、あの遥を征服する瞬間ほど楽しいものはないのである。あの頭脳、あの性格、そしてあの顔にあの体。彼女を知ってしまった今とはなっては、他のフツーの女など興奮の対象にならない。
 まだ陽の高い昼のひなかに、遥を枯れ草の上に押し倒して脚を開く。白く長い内腿・・その奥にある、濡れたピンク色の裂け目が、冬の弱い日ざしを浴びてテラリと光る。
 遥は演技がウマいから、「いや、やめて」なんて、ちょっとしたレイプごっこもしてくれるかもしれない・・。
 その光景を想像するだけで股間に血液が流入する。
 タラリ、と鼻の奥から熱いものが垂れた。立ち止まり、鼻の穴に指をあてて見ると鼻血であった。
「なんだコリャ・・」
 彰はつぶやいた。
 コーフンしすぎて鼻血なんて、ギャグだ。

 ____ イカン。こんなことばっか考えてたら、俺はダメダメ人間になってしまう。

 彰は歩き出した。ティッシュの持ち合わせがないので、指で鼻孔を押さえつつ、上を仰ぎながら歩く。通行人が振り返ってクスクス笑うが、もともと人のことなど気にしないタチなので平気だ。
 遥がいけないのだ。
 まったく、なんであんなに刺激的な女なのか。
 彰には予感がある。おそらくこれからの生涯、ああいう女に出会うことは二度とないだろうという予感だ。
 それが証拠に、学校を見渡してみても、他の女など凡庸そのもの、ドングリの背比べだ。
 彰は平均点レベルの女など全く興味はないが、もちろん、そういう女を好む男はたくさんいることもわかっている。
 多少顔が可愛くて、性格に難がなければそれでよし。
 あんまり非凡で個性的だとコッチが疲れる、というのが男の本音なのかもしれない。洋輔なんかいい例だ。陸上部で活躍している奈美を捨て、普通の大人しい女の子を選んだ。
 遥は男の注目の的だが、凄すぎて誰も声をかけられない。憧れている奴は多いはずとはいえ、面と向かってコクッたりすれば、あの粗暴かつ冷酷なしゃべりをぶつけられる。その恐ろしさのほうが、勝ってしまうだろう。
 だから、自分だけなのだ。
 彼女のヴィーナス顔負けの肢体、ゾクッとするほど女らしいひととき、優しいキスを知っているのは、自分ひとりなのだと思うと、熱い誇りがじわ~っとこみあげてくる。そしてまた、彼女とちゃんと渡り合えるのも、自分ひとりなのである。要するに「選ばれた男」ってわけなんだよな、と、妙な自惚れにくすぐられたりもする。
 何だか、誰かに、そんな誇らしさを話したくなってしまった。
 「榎本遥」とつきあっている、と学校中に知れ渡ってからは、誰もが「で、どーなの?」と、微に入り細をうがり詳細を聞きたがる。だが、そんな興味本意の奴らなんかに、何も話す気はない。

 _____ とりあえず洋輔かな。

 あいつなら何を話しても胸の内におさめてくれるから安心だ。
 彰はケータイを取り出し、洋輔に電話をかけた。ワンコールで出た。
「おー彰? どした」
「いやー、ちょっと話したくてさ」
「今どこ」
「遥ん家から歩いてるとこ」
「えー? なんだ、じゃあ・・ああ、いたいた。後ろ向いて」
 振り向くと、チャリに乗った洋輔がいた。すぐに彰に追いつき、キッとブレーキをかけた。
「こっちは今、るりを家まで送ったとこなんだ。・・あれ? なんか血出てない?」
「いや、まあな。ちょっとぶつけて」
 慌てて、手の甲で鼻をゴシゴシとこする。
「んで、そっちはおデートっすか」
「ウチで勉強教えてたの」
 ふーん、と生返事をしながら、なんちゅう健全な人達だろうか、と彰は考えていた。交際歴四ヶ月となれば、普通ならとっくに初エッチをすませている頃だが、洋輔とるりちゃんは、やることやってんだろうか。どうもこの二人が絡み合っているところなど、想像ができない。だいたい、るりちゃんで勃つのだろうか、洋輔は。
 自分が小柄な女の子に興味がないせいか(なにしろ彰の身長は186cmあるので、あんまり小さいと、視界にすら映らないのだ)、かなり失礼なことまで考えてしまう。
「なー、今からお前んち行ってもいい?」
 彰は言った。
「いいよ。乗る?」
「俺のほうが重いぜ。運転できんのかよ」
「甘く見てもらっちゃ困りますねー」
 洋輔はフッと笑った。彰より10cm背の低い洋輔だが、運動神経と体力では甲乙つけがたいものがある。学業成績となると、これは彰よりもずっと優秀だ。
 決して押し付けがましくはないが、いつもほのかな自信を漂わせているこの親友を、彰はものすごく好きである。もっとも、この男を嫌うヤツなどめったにいやしない。「できすぎだよなーあいつ。異様にモテるし」などとやっかまれることはあっても、やっかむ奴でさえ、本音ではこの男と友達になりたいと思っているはずだ。そう、洋輔は、彰が知っている限り、もっとも「いいヤツ」の一人なのである。
「おし、途中でビール買ってこうぜ」
 彰は洋輔の後ろに跨がった。
「ビールぅ? 飲む気分じゃないよ」
「俺は飲む気分なの。昨日試合にも勝ったしな」
 それに、来週は「山でエッチ」だし、と心のなかで言い足すと、彰は声をあげて笑った。

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