恋のからさわぎ1

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恋のからさわぎ1
2021年07月27日 00時25分

1.

 俺こと国坂彰の彼女は、あの超有名人、榎本遥である。
 彼女とつきあいはじめて3ヶ月が経ち、俺らは、いわば『公認のカップル』ってヤツになった。
 俺の友人どもは、今は彼女に関するコメントを慎重に控えている。だが、俺とつきあう前までは、『榎本遥』といえば、一日に一回は必ず話題にのぼる名前だった。
「あいつ、ウチの教頭とデキてるって、マジ?」
「ヤクザ風の男と歩いてるのを見た。エンコーしてるのかも」
「ここだけの話だけどよ、あいつって、アソコでキュウリ千切れるらしい」
 などという、下世話なものから、
「アメリカの大学に論文を提出したらしい。留学するって聞いた」
 という、アカデミックな噂まで、色とりどりである。
 彼女の一挙手一投足が、男どもの噂の的になる。
 なぜなら、遥は学校随一の秀才であり、遊び人であり、何よりも、誰もが振り返るような、とびきりの美人だからだ。
 そう言えば、「なんだ、彼女自慢かよ」と吐き捨てるヤツもいるだろうが、彼女はまた、とびきりの変わり者でもあるのだ。優しくて可愛くて明るくて、姉のようでも妹のようでもある、などという理想の彼女では、決してない。

 俺が彼女の存在を知ったのは、今を去ること一年半前の、入学式の日である。
 あの日、全校生徒が彼女を見ていた、と言っても過言ではない。男どもは口を開けて見愡れ、女どもも嫉妬すらも忘れた驚愕の目で、彼女を見つめていた。そのときの遥は、今みたいに髪をブリーチしておらず、黒い髪をしていた。ブービーだか、バービーだかという、脚のながい人形みたいだった。彼女は「貧血を起こした」らしく、入学式の途中で席を立って出ていった。俺の傍を通り過ぎたとき、「あー畜生、飲み過ぎた‥‥」という呟きが、美少女の唇から漏れたのが聞こえた。

 二年になって、同じクラスになった。
 彼女はしばしば学校をさぼった。休み時間はいつも机で寝ている。授業などロクに聞いていない様子なのに、成績は学年トップを誰にも譲らなかった。
「家でガリ勉してるんだよ」
「カッコつけてんだよねー」
 やっかみ半分で、そんな陰口をたたかれていたが、陰口をたたく女ですらも、ある程度は彼女の影響を受けているようだった。制服を自己流に着崩す彼女独特のファッションとやらを、女どもがこぞって真似していると、俺の友人どもが嘲笑していた。
「美人にしか似合わないっての、アホやなー、あいつら」
 確かに榎本はめったにお目にかかれない美人だが、女のことなど基本的にどうでも良い俺は「ふーん」と生返事をした。俺の頭のメモリは、野球のことで容量がイッパイイッパイなのだ。この高校に入学したのも、甲子園出場の実績を持っているからなんである。
 とはいえ、俺も男なので、何かにつけてはモンモンとすることが多い。そんな折、南校の女から交際を申し込まれた。かなり積極的だった。美人でおっぱいがでかかったので、とりあえずつきあうことにした。俺は部活で忙しい身なので、あまり構ってはやれなかったが、セックスはものすごくしたかったのだ。女にしてみれば「サイッテー!」なんだろうとは思うが、根が野球バカなのだから、しょうがない。童貞を捨てさせてもらい、何度か(いや、何十回と)セックスをすると、「こんなもんか」と次第にヤル気をなくすようになった。こっちの労力ばかり奴隷なみで、彼女は寝ころがってるだけってのは、不公平ではないか。ファッションとテレビ以外に話題がないらしい女と話をしても退屈だし、いい加減別れるか、と思い始めた矢先に、あの決定的な日がやってきた。

 夏休みに入って、5日めのことだ。
 部活の帰り道、俺は榎本遥をみかけた。露出度の高いエッチなカッコをしていたが、目をひいたのは、そのせいばかりじゃなかった。彼女は歩道ではなく、車道を歩いていた。その隣にはどうみても90歳くらいかと思われる、小さな老婆がいた。
 老婆はでっかいベビーカーみたいな手押し車を押していた。空き缶で一杯になったゴミ袋を幾つもそれに乗せている。遥は老婆に話し掛けるでもなく、涼し気な顔で一緒に歩いている。次から次へと車がやってきたが、腰が90度曲がったお婆さんが車道を歩いているとあって、クラクションの一つも鳴らさずに、上手に避けては通り過ぎていった。
「何やってんだ」
 つい、声をかけてしまった。
「歩いてる以外の、何かに見えるか」
 遥はあっさりと答えた。まともに言葉を交わしたのは、その時が初めてだった。
「車道じゃんか。邪魔じゃねーの」
「だから楽しいんだろ。このババアいつも車道歩いてんだ。御相伴にあずかってるってわけ」
 このしゃべりである。美少女がだいなしだ。
「この人、何やってる人」
 俺は、カタツムリのように黙々と歩いているお婆さんに目をやった。頭には手ぬぐい、くたびれた茶色のエプロンをしている。前を向いたまま、一言も喋らない。
「ボケババアのことなんか知るかよ。空き缶をどっかに持ってって、駄賃にするんだろ」
 その時、派手な警笛を鳴らして、バイクが通り過ぎた。当てつけるようにギリギリのところを通り過ぎた瞬間、お婆さんがよろけた。
 遥は老婆のか細い腕を乱暴に掴んで引き戻すと、バイクを見やった。薄茶色の大きな目がキラッと光り、頬に薄ら笑いが浮かんだ。何か不穏なものを感じ、俺はちょっとゾッとした。赤信号のため、バイクは急停止した。遥はバイクの男に近づき、後ろから肩を叩いた。
「おにーさん、メットはずしな」
 声と手ぶりでそう告げると、遥は男の尻に手を回した。声をかけたのが美少女だったためか、男は素直にフルフェイスのメットを外した。俺よりちょっと年上くらいの男だ。
「何か俺に用かな~?」
 遥に身を寄せられて、男の顔がデロッと崩れている。
「いいバイクだね。これなんての?」
 遥は男に流し目をくれながら、しばらく話していた。だが、俺は見てしまったのだ。遥が男のヒップバッグから、サイフを素早く抜き取ったのを。バッグのチャックを開けて自分のショートパンツの中にサイフを押し込むまで、2秒とかからなかった。立派なスリ行為である。呆気にとられて、声もでなかった。
「じゃね」
 ニコッと笑って、遥は男の傍から離れた。男は「あ、待ってよ。ねえ」と呼び止めたが、遥は路地を曲がって姿を消した。俺は彼女のあとを追った。
「な、何やってんだよ。おま‥‥んな‥‥返してやれよ」
 あまりにびっくりしたので、声が裏返ってしまった。遥は塀にもたれて、サイフから免許証を抜き取った。
「お、おい。返せって」
「こっちはあやうく轢死体になるとこだったんだぜ、免許証取り上げて悪いかよ?」
 笑って言ってのけ、サイフを俺に放り投げた。レキシタイとは何のことか、頭の中で漢字変換するのに、手間取った。
「返したきゃご自由に。名前は押上光一。住所は南篠原町3-8-7だ」
「はあ?」
 遥はすたすた歩いて老婆のところに戻った。
「ババア、次に会うときまで生きてろよ。あたしは車道を歩くのが好きなんだ」
 遥の言葉にも、老婆は仏像のごとく無反応だった。
 遥は去ってしまい、サイフを押し付けられた俺は、困惑したまま立ち尽くしていた。
 結局、匿名で、オシアゲコウイチとやらに、免許証抜きのサイフを郵送するハメになった。

 変な女だ。
 相当の変わり者だ。
 だが、その日から俺は、榎本遥のことばかりを考えるようになった。愛だ恋だのという話じゃない。胸の中で増殖していたのは、純粋な好奇心だった。
 彼女に電話をかけたのは、好奇心を押さえ切れなくなったからだ。英語の宿題でわからないとこがあるので教えてほしい、という口実をつくった。
 じゃあ、ウチに来れば、と彼女は言った。
「全部、写させてやるよ。明日の2時過ぎに来な。住所は名簿があるから、わかるよな」
 素っ気ない口調で、電話はすぐに切れた。
 そして、初めて遥の家に行ったその日、俺達はエッチをした。
 仕掛けたのは彼女のほうだ。

 強制キス → 強制フェラ → エッチ。

 参った。
 惚れました。
 超変わり者だ。モラルがあるのかも怪しい淫乱。その上、エッチの時だけはいやに女っぽかったが、コトが終ると男しゃべりに戻るような女。
 俺も、相当の変わり者なんだと思う。17年生きてきて初めて惚れた女が、よりによってあの悪名高き榎本遥だったからだ。

「彰、気持ちいい?」
「んんん‥‥」
「んんん、じゃわかんねーよ」
「んー‥‥」
「ふふ‥‥気持ちよくないの? じゃやめちゃうよ」
「んー、んー!」
 この会話は、遥の部屋でなされている。
 あまり言いたくないが、シチュエーションを説明すると、下記のとおりである。
 素っ裸の俺は床に転がされ、唇にはガムテープ、紐で両手を後ろに縛られている。左足だけは自由だが、右足首はベッドの脚にくくりつけられて動かせない。
 そして遥は、手と口で俺のムスコをいたぶっている最中だ。
 なぜこんなことをしているのかというと、つまり『逆レイプごっこ』である。
 提案したのは、もちろん遥だ。
 こんなシュミなんかない俺が、これを承諾せざるを得なかった理由は『作文』である。
 俺は国語や英語などの語学系が苦手だ。作文なんか、幾ら頭を掻きむしっても主語と述語が噛み合わない始末なので、恥をしのんで遥に頼んだのだ。
「あんたの知能レベルにあわせてやるから、そのまま書き取れ」
 めちゃくちゃ無礼な台詞を吐きつつ、遥はすらすらと口述した。ベッドに寝転がってマンガを読んだままなのに、最後の一行が終ったとき、ちゃんと規定枚数ギリギリにおさまっていたので、改めて感銘を受けた。遥の頭脳はマジで非凡である。
「さてと」
 遥はマンガを放り投げて、身を起こした。
「彰、服脱いで」
「うん」
 俺は素直に頷き、シャツのボタンを外した。
 何かイヤらしいことをされるのはわかっていた。作文を頼んだとき、「お礼はたっぷりしてもらうからね」と、姦計を含んだ笑みを浮かべていたからだ。俺は不安に怯えつつも、Hな期待にかなりワクワクしてもいた。
 そして結果は御覧の通りである。

「めっちゃいい眺め‥‥。ビデオに撮りてーな」
 遥は俺のサオを握り、カリをまんべんなく舐め回しながら、クックッと笑った。
「ん、ん、んー!」
 俺はぶるぶると顔を横に振った。ジョーダンやめてよ、と言いたい。絶対やだ。
「なーんで。すごいそそるよ? まさに、囚われの王子様って風情だな」
 遥は俺の脚を無遠慮に開いた。
「んーっ」
 男といえど、これはちょっと恥ずかしい。これではコーモン様が丸見えではないか。
「ああ、違うか。囚われのお姫様だな、こりゃ‥‥」
 遥の声は、カンペキいたぶりモードに入っている。フクロを交互に口に含んでは、世にもイヤらしい舌遣いで責め出した。
「ん‥‥んんん」
 神様。ボク達がこんなことしてるの、絶対誰にもバレませんように。バレたら即座に死にます。耐えられません。
 脚を開くって、要するに「降参」のポーズだ。何もかもをさらけ出します、無抵抗主義です、ってひれ伏しているようなもんだ。それがなぜか、倒錯的に快かったりするのが怖い。
 遥の手は、俺のサオを柔らかくさすり続けている。サオとタマタマのダブル攻撃で気持ちよくなってしまった俺は、「ん~‥‥んん~」とよがってしまう。なんだか、マジで女の子になった気分だ。こうやって、人は変態プレイにはまっていくのであろうか‥‥。
 遥はタマタマの愛撫をやめた。あ、サオをくわえてくれるのかな、とちょっと期待したのだが、彼女は逆方向に進んだ。つまり、コーモン様の方向である。
「んん?」
「そんな可愛い声だすなよ」
 遥は笑ったかと思うと、ザリッと、そこを舐めた。
「んー、んーーー!」
 この「んー」は拒否のそれである。驚愕のそれである。
 俺は身をよじった。やだよう、そんなキタナイとこ舐めないでよう、と言葉にしたい。遥を蹴り飛ばしてでも、やめてもらいたい。
 さっきシャワーを借りて浴びたとき、遥が「すみずみまでキレーに洗うように。耳の穴もヘソも、尻の穴も」と命じたのは、このためだったのか‥‥。
「んんん、んんー、んっんっ」
 痛くなってきた。
 指だ。指がグニグニと入ってきているのだ。
「ん、ん、ん、ん!」
 痛い。痛いって。やめてェ。
 と、もうほぼ女言葉で、心中に叫ぶ。
 遥は指を入れたまま、俺の顔まで戻ってきた。目をキラキラさせて俺の顔を見つめている。
 目も鼻も唇も、急に芸術心にめざめた神様が、念入りに彫刻したように繊細だ。まるで地上に舞い降りた天女。だが、目は得体の知れない魔性をたたえて光る。
「さて、感想を聞かせてもらいましょうか、お姫様」
 ビリッとガムテープを外した。
「抜けよぉ、いてーよ!」
 俺は叫んだ。
「指一本だぜ? 力入れ過ぎなんだよ」
 笑いながら、指先をグリグリと動かした。
「あやっ! やや‥‥っ」
「バージンだもんなぁ。そりゃ痛いか」
 遥は楽しそうだ。笑みを小さな唇に浮かべながら、俺の唇にキスをした。
「Gスポットを刺激すると、それだけで出ちゃうヤツもいるんだと」
「俺は‥‥ちがう‥‥」
「ほーら、ここがGスポットだよ。わかる?」
「いててっ、やめ‥‥んっ」
 ディープキスをされたので、言葉が止まった。遥のキスは上手い。小鳥がついばむようなキスから、セックスそのものみたいなキスまで、緩急自在だ。
 遥が動き始めた。
 勃起したサオの裏側に、自分の股間をゆっくりとすりつけている。キモチいい。コーモンは痛いのだが、なんだか奇態な感覚が襲ってきた。何かが芽を出したような、カユいような疼きがある。
「ん‥‥あ‥‥」
「あれ? お尻がキモチいいのか?」
 遥はからかうように、俺の唇を舐めた。
「んあ‥‥ちゃうって、もぉ‥‥」
「ふふ、いいお顔だよ」
 くそー、勝ち誇りやがって。
 見てろよー。これが終ったら、今度はこっちの番だもんね。後ろから羽交い締めにして、おっぱいをグニャグニャ揉んじゃうもんね。キスマークだって、あちこちつけちゃうかんね。
 ‥‥などと考えているうちに、コーモンからズルリと指が抜けた。
「は‥‥」
 ホッとして力が抜けたが、次の瞬間には挿入されていた。サオがヌメヌメしたものに覆われていく。キツい。しかも、イソギンチャクの触手で弄られてるみたいに、クネクネしている。
「う‥‥く‥‥」
 ぎも゛ぢい゛い゛‥‥と、言葉に全部濁点がつくほど、遥のアソコはすごい。
「あ‥‥」
 遥は苦し気な吐息をつく。体をのけぞらせると、大きな白いおっぱいに乗っかってる、桃色の乳首が、ますます上を向く。
 ああ、触りたい。胸の谷間で顔をグリグリしたいよう‥‥。暖かくてプルンプルンしてて、いくら触っても飽きない、遥のおっぱい‥‥。
「遥‥‥紐解けよー」
「だーめ。セクシーなお体を鑑賞したいの、あたしは」
 遥はゆっくりと動き始めた。頬が紅潮し、興奮している。『逆レイプごっこ』を心から楽しんでいるのがわかる。そんな彼女を可愛いと思う。遥がしたいなら、幾らでもレイプしていいよ‥‥なんてことを、口にしそうになる。
「うあ‥‥あ‥‥く」
 遥の中で、抱き締められたり、搾られたり。めっちゃ気持ちがいい。
「ふ‥‥っ、あ‥‥」
 段々と動きが早くなる。遥は息を漏らしながら、柳腰をひねって俺に刺激を与える。まるでハワイアンダンサーみたいだ。もう、色っぽいのなんの。眩いばかりだ。
「くぁ‥‥いいよ、いいよ‥‥スゲー」
「あん‥‥これじゃ、全然レイプじゃな‥‥い」
 遥は喘ぎつつ、女っぽく笑った。上下に動きながら、手を後ろについて腰を突き出した。本格的なピストンに入る。おっぱいがエロく揺れる。出し入れしてるトコが、丸見えだ。濡れたワレメから、ペニスが生えてるみたいに見える。鼻血もんである。
「あく‥‥う‥‥ん」
 ムスコはもう破裂寸前だ。思いっきり締め付けられて、コスられて、タマタマが我慢できず、今にも白い吐液を出したがっている。
「あ」
 唐突に、遥は動きをストップした。荒い息をつきながら、「忘れてた‥‥」と呟いた。繋がったまま長い脚を伸ばし、床に置いたカバンを、指で挟んで器用に引き寄せた。
「忘れてたって、何‥‥」
「彰にプレゼントがあったんだ」
「えーっ、そんなん終ってからにしろよ終ってからに」
 チャランと小さな音がした。
「ほら」
 差し出されたものを見ると、長さ40cmほどの細い鎖だ。両端に奇妙な形の金具がついていて、鎖の真中には、皮紐に通された鈴が幾つもぶらさがっている。
「んだよ、それは」
「ボディークリップ。こないだ買ったんだ。鈴をつけたのはあたしのアイディア」
「それで何すんの」
「はさむの。SMのオンラインショップで買ったんだもん、コレ」
 は? SM?
「あの‥‥はさむって、どこを?」
「どこだと思う?」
 遥はニヤニヤ笑っている。鈴つきのボディークリップをゆらゆらと揺らして、俺の胸を見た。 
 ま、まさか。
「おいおいおいおい、やだよ、いやです」
「可哀そうにね‥‥今日だけは拒否権を発動できないのよねえ、彰は」
 じらすように、俺の乳首の横を、指でつつ、となぞる。次の瞬間、小さな火がついたみたいな痛みが乳首に走った。最初は右に、そして左にも。
「うわっ、いてーよ、いててて」
「似合うよ。めっちゃ可愛いアクセ」
「可愛くなくていい! はずせよっ」
「タマをはさまれるよか、マシだろ」
 遥はクックッと喉で笑い、また動き始めた。乳首が痛い。ジンジンする。
 チリン、チリンと音がする。遥が動くたびに、鈴が音をたてるのだ。
「ふふ‥‥いい音。人間楽器だな」
「あ‥‥く‥‥ふっ‥‥」
 ああ、乳首が痛い。でも、チンチンは死ぬほど気持ちいい。もう降参だ。
「いいよ、先にイッて」
 遥は楽しそうに言い、体を離した。すかさずパクッとくわえられ、熟練の口技でしごかれる。
「ふぁっ‥‥うく‥‥!」
 もうひとたまりもない。吐液が、遥の口の中に発射された。
 うう、めっちゃ情けねえ。縛られて、鈴をつけられて、女の子みたいにイッてしまうなんて。

 しかし、一度イッたら終り、というわけではない。
 完全復活するまで、しつこく舐められた。
 5日ぶりのエッチなので、テロテロ舐められて、あんぐりとくわえられると、倍速モードで元気になってしまう。
「ほら‥‥ここが感じるんだろ?」
 固くした舌先で、グリグリとミゾを責められる。
「あっ」
「こっちも」
 あわわ‥‥もぉタマラン。
「なあ‥‥紐‥‥とけよ‥‥ん、んっ!」
「だーめ。今日はこれでする」
 ああ、完全にいたぶられている。作文なんか頼まなきゃ良かった。
 でもいいんだ。
 遥はめっちゃ楽しそうだし、楽しそうにしてる彼女が好きだから。ていうかもう、どうせ骨抜きにされてますから、俺は。

 結局、縛り+鈴鳴り+騎乗位で3回もヤラれてしまい、俺はフラフラしながら遥の家を出た。乳首が、まだ少し痛い。
 大通りを歩いていると、洋輔とるりちゃんに会った。手をつないで仲良さそうに歩いている。
「おー‥‥」
 俺は首をコキコキ回しながら、ブアイソな挨拶をした。何しろ疲労が激しいのである。
「お、彰。榎本んとこか?」
 洋輔が言った。こいつは同級生で、俺の親友だ。
「まーな‥‥そっちは、デート?」
「てゆーか、そのへん歩いてただけ」
 洋輔は照れ臭そうに、つないでいた手を離した。るりちゃん(遥の隣の家に住む一年生だ)も、ちょっとモジモジしながら笑っている。可愛くて、小柄で、とくに上級生に人気のある子だ。子犬みたいなくりっとした眼をしている。純情っぽすぎて、俺の好みじゃないが、洋輔はえらく気に入っているらしい。もともと、こういう子が洋輔の好みだ。大人しくて優しそうなのに、たまに予想外のワガママを言って、男を困らせそうなタイプ。
 夏休み、洋輔はモトカノをフッて、この子とくっついた。どういういきさつがあったのか、今でも知らない。洋輔はその手のことを、何も話さないヤツだからだ。
 ともあれ、手をつないで平和そうに歩いてる姿は、実にほほえましく健康的だ。
 羨ましい‥‥。
 と思わざるを得ない。何しろこっちは縛られて、コーモンに指入れられて、クリップではさまれて‥‥と暗く考えていると、洋輔が「ちょっち話があるんだけど‥‥」と言った。
「彼女を送ってくるけど、すぐ戻る。時間あるだろ?」
「あー、いいよ。じゃ、そこのコンビニにいるから」
 るりちゃんが、ペコッと頭を下げた。俺は二人の後ろ姿を見送った。また手をつないで、目と目を見交わした。るりちゃんが無邪気に笑い、洋輔も少し笑う。洋輔は、モトカノとはもっとクールなつきあいかたをしていた。人前で女と手をつなぐようなヤツじゃなかったのに、変わったもんだと思う。

「奈美のことなんだけど」
 と洋輔は話を切り出した。
 茶のホット缶で手を暖めながら、俺達は公園のベンチに腰かけている。11月に入って、気温はだいぶ下がっている。
「ああ、吉岡?」
「最近‥‥よくメールが来る。なんか、やり直したいみたいで」
 吉岡奈美。洋輔のモトカノの名前だ。
「ふーん」
「断わったんだけど、もう一度話がしたいって言われてさ」
「ほお」
 なんだ、恋愛相談かよ。相談相手を間違っているとしか思えん。
「で、どーすんの?」
「断わりきれなくて、会うことになったよ。で、お前に頼みがあるんだけど」
「なによ」
「一緒に来てくんないかな」
「はああ? なんで」
「だって、二人っきりで会ったら、るりが心配すんだろ。ケッコー心配性なんだよ、あいつは」
「じゃー、るりちゃん連れてきゃーいいじゃん」
「やだよ。修羅場に巻き込みたくない」
 俺は巻き込んでもいいっちゅーのか。
「ひょっとして向こうも女友達連れてくるかもだし‥‥な、頼むよ」
「うーん」
「奢る。毎々軒のラーメン」
 ついピクッと反応してしまう。毎々軒のとんこつ醤油は、俺の大好物なのだ。
「大盛り?」
「当然」
「よっしゃ、任せとけ」
 俺は深く頷いた。

「ふーん‥‥。彰がついてったとこで、何の助けにもなんねーだろうにな」
 遥はふわーとアクビをしながら、つまらなさそうに空を見上げた。
 ガッコの屋上で、仲良く昼飯を食っている最中である。俺は遥の手作り弁当、遥はコンビニで買ったパンを食べている。
「お前、俺の怖さを知らないな。俺がひとこと言えば、皆ビビッて即座に従うんだからなー」
「そりゃ、野球部の話だろ。イヤイヤ言うこと聞いてんだよ、皆」
「違いますねー。人望があるんですよ人望が。‥‥で、これな~に」
 俺は弁当の中から、得体のしれない黒いモノを箸でつまんだ。
「見りゃわかるだろ。ハンバーグだよ」
「うっそぉ!」
 どう見てもハンバーグではない。黒焦げの炭だ。俺はムカついて箸を置いた。
「お前、やる気あんのか? だいたい何で自分はパン食ってんだよ?」
「まずいモン食いたくねーから」
「じゃ、俺はどうなるんだよ!」
「おい」
 遥は俺を冷ややかに睨んだ。眼力が異様に鋭いので、一瞬呑まれる。おまけに、口元が笑っているから、なおさら怖い。
「あたしがコレつくるために、何時に起きてると思ってるんだ? それを感謝するどころか、文句とは見上げた根性だな」
 そう、この弁当は、遥が俺にしてくれる唯一の「カノジョらしいこと」なのだ。毎日ではなく、週に一、二度くらいのものだが、彼女の料理の腕は、まったく上達を見せない。
「食うよ。食えばいいんでしょ」
 俺は憤然として、黒いジャリジャリしたものを口に放り込んで、噛み締めた。
 ‥‥まずい。
 てゆーかコレ、本当に食べ物なのだろうか。
 俺は涙目で茶を口に含み、ゴクリと飲み下した。
「旨い?」
 遥がニヤつきながら聞いた。
「あーあー、旨いですよっ!」
「ふーん、泣きながら食うヤツも珍しいよな。ほら、こっちも食べてみ?」
 オカズをつまんで、俺の口の中に無理やり押し込んだ。
「ぐっ」
 これはまた、激烈にマズい。材料が何なのかさえわからない。
「吐いたら殺すぞ」
 遥が耳もとで囁いた。
「ぐ‥‥んぐ‥‥」
 まるで拷問である。涙で視界が滲んだ。
 最愛のカノジョと二人で、『ラブラブ・ランチ』のはずなのに、いったいなぜこうなってしまうのだろうか‥‥。

 保健室で胃薬でも貰うか、とゲッソリしながら1階の廊下を歩いていると、ひそやかな話し声が、どこからか聞こえてきた。
「榎本が‥‥」
「おー‥‥めっちゃいい‥‥」
 俺は脚を止めた。もちろん『榎本』という単語のためだ。会話は窓の外から聞こえてくる。こっそりと窓の下を見ると、数人の男どもが植込みの陰にしゃがみ、何かを覗き込んでいた。
「良く撮れたなー」
「ケータイカメラで、もぉバシバシよ。ほら、この写真。も少しでパンツ見えそ」
「おおー、惜しいって感じ」
 ケータイで写真を見ているのだ。
 一人は城之内だ。まっきっきの髪にピアス。いつも生活指導されてる、遊び人で有名な3年生だ。
「俺、ぜってーモノにすんぜ、あいつ」
 城之内が言った。自信ありげな声音だ。
「でも、男いんだろ」
「いーんだよ。何度かヤラせてもらえればそれで」
「ひでー奴」
 男どもは、クックッと笑っている。遥の話だろうか。わからない。『榎本』=遥とは限らないのだ。
 とにかく確かめたい。
 声をかけるべきか迷っているうちに、予鈴が鳴り、「たりーな、ゲーセンでも行こうぜ」と、3年生らはぞろぞろと腰をあげた。

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