1.
 最初に断わっておくが、あたしはインランです。
 乳を揉む彼氏に向かって「あ~んダメ、あたしインランになっちゃう・・」などと可愛く甘えるようなレベルではない。ナチュラル・ボーン・インランだ。
 初めてエッチしたのは12歳の時。「オナニー」という単語すら知らない天使のような幼児のころから、あたしはそれをしてた。
 言うまでもないが、あたしが世の中で一番好きなものは「おちんちん」である。
 あたしは名前は大木まりな。
 県内で一番学力が高いと言われる高校の2年生だ。
 ハハが行けというから高校に行ってはいるが、学校ではいつもぼーっと虚脱している。友達と呼べる奴は一人もいないし欲しくもない。男はガキだし、女は異次元の宇宙人だ。
 例えば、ヤツらは実に乳臭い会話を交わす。
(以下参照)↓
「ねね、昨日さ、ユウくんに誘われちゃってさー」
「えーっ、とうとう? で、どうよどう」
「ヤリ捨てとかされたら嫌じゃん。だからとりあえずごまかしたってゆーか」
「あいつ遊んでるもんねえ。でもカナには絶対マジだって」
 アホかいな、こいつら。
 女はまんこ見せてなんぼでしょうに。
 ・・・などという爆弾発言を教室の中でぶっちゃけるほど馬鹿ではないので、あたしはアクビをしながら窓外に目をこらす。今日ウチに来るのは「27歳くん」だよな、と考<えながら。
 ウチの両親は共働きで、ふたりとも部長クラスだから、帰りはいつも遅く、情事にはもってこいの環境だ。
 あたしには27歳、24歳、22歳のエッチ友達がいる。いずれ劣らぬテク男で、性格も良く、あたしは彼らに「全幅の信頼を寄せている」といったとこだ。
 27歳は張りが大きくて、出し入れすると刺激がものすごく強い。24歳は、長い右曲がりでイケメンで虐められ上手。22歳は体が良い上に固くて極太。
 あたしは彼らの上に跨がって好きに動きながら、やがてやってくる恍惚に身をゆだねる。男ってなんて素敵な生き物なんだろう。あたしを狂わすこんな快楽棒を持ってるなんて、奇跡みたいだ・・・。
 男のモノをあたしの濡れた奥底に迎え入れキュウッてくわえこむと、「ただいま」という気分になる。これがあたしの体の本来の姿。ああ、帰ってきた。あたしのおうちに。あたしはあなた(ちんちん)なしでは、本当に生きていけないんだよ・・・。
「大木」
 誰かがあたしの腕をつついた。
 あたしは夢想から覚めて、ぼんやりと左を向いた。石岡卓巳の顔があった。短髪の下の眉を寄せ、「指されてんぞお前」と囁いた。
「なんだー、寝てたのか? 大木、前に出ろ」
 数学教師は苦笑いを浮かべ、黒板を指差した。あたしはのろのろと黒板に向かい、そこで初めて数式を見る。メンド臭いのでなぐり書きで解き、チョークを置いた。
「よーし、完璧だ。よく勉強してるな」
 教師は満足げに頷いた。
「ヤリマンのくせに・・」
 戻りがけに、こそっと誰か女の声が呟いた。クスクス笑う数人の声が、それに同調する。はいはいヤリマンですわよと心の中で答えていると、なぜか石岡がキッとそっちの方向を睨んだ。自分の悪口だと思ったのだろうか。まさかね、男を「ヤリマン」とは言わないし。
 あたしの「素行」は、ウチの生徒の間では有名らしい。ていうか、多分あたし自体が有名なのだ。自分で言うのもナンだが、何も知らない他校の生徒からコクられたりする、ブリーチしてない黒髪サラサラ、潤んだ瞳の美少女なので。
 ウチの学校の中では、あたしは女子には本能的に避けられ、男子には知らん顔をされている・・・ワリには、人気のないところではネットリした目つきで、次々に話しかけられたりするのだが、あたしはコドモには興味がないから、相手にすることはない。だって、テクないもんね。
 授業が終り、昇降口に向かった。ローファーを出すと、靴底に画鋲が入っていた。この手の幼稚な嫌がらせは時々ある。
おそらく、同じクラスの某女子グループ、さっき「ヤリマンのくせに」と囁いたヤツらのしわざと思われるが、別にどうでもいい。
「なんだ、これ。入ってたのか」
 にゅっと横に立った背の高い人影は、石岡だった。
「まーね、あげる」
 あたしは石岡の手に画鋲をポトッと落とした。石岡は手のひらにそれを転がし、ムスッとした顔であたしを見た。
「こーゆーの、しょっちょうなのか?」
 あたしは肩をすくめて靴を履く。
 この男は席が隣りなためか、なにげにあたしにカマうのだが、視線にネットリ感がないのが珍しい。隠れホモだったりして。
「じゃーね」
 あたしが踵を返すと、石岡は背後で言った。
「いっつもそうだな、お前」
「え」
「『あんたたちみたいなガキは相手にしません』的な態度」
「違うよ。急いでるだけ」
 軽くいなして、その場を離れた。
 石岡卓巳。
 弱小水泳部の部員。
 わりとブアイソだが、安定感のある性格のためか、なんとはなしに周囲の人間を従わせる力がある。教室でも独特の存在感を放つ・・・という程度の認識しかなかった。男としてどうのと考えたこともなかった。
 だが、まさに一寸先はヤミ。
 まさか、自分がこの男とああなってこうなろうとは、その日、五月初旬のあたしには想像することすらできなかった。
 シャワーを浴びて白のレースのブラ+パンティ、ぴちぴちのTシャツにミニスカを身につけたところで、チャイムが鳴った。ドアを開けると27歳が立っていた。
「まりなちゃ~ん♪ 会いたかったよう~」
 この男は食品会社の営業マンで、結婚している。会社をサボッてはあたしのところにくるので、左遷されるかも、とちょっと心配。
「早く部屋に来てー」
 あたしは男の腕を引っ張り、自室へと連れていく。
「俺ビンビンですよー。まりなちゃんに会えると思ったら、朝からもう歩きづらくってさあ」
「ふふっ、ホント?」
 あたしは男に体をすりつけ、彼の股間に触る。カチカチに強ばっているのが嬉しい。いやーん、発情レベルぐんぐん上昇。
 男は部屋に入るなり、背後からおっぱいを鷲掴みにした。
「まりなちゃんのおっぱい一週間ぶりだなー。元気だったかなー」
 人さし指でカリカリと乳首をイジメるので、ピクッと体が震えた。ああもう、たまらない。
 男が浅く深く・・としばらく動いたあとで、あたしは体勢をいれかえて、騎乗位になった。ダントツで好きな体位だ。完全に自分の快楽をコントロールできるから。男が触ってくれない時は、動きながら、自分でクリトリスをイジることもある。
 固いペニスを締めつけたり緩めたり、自分のこっちにあっちに当てたりしているうちに、甘く深い快楽が押し寄せる。
 赤ん坊にほっぺたをスリスリする女みたいに、あたしのヒダは男を柔らかく愛おしく摩擦する。やっぱりオナニーやバイブじゃダメだ。生のヌキ身じゃないと。熱くて固くてビンビン跳ねる可愛い奴・・・。
「んん~、気持ちいいよう・・すっごく気持ちいい・・・」
 女って不思議。自分の甘い声でますます濡れたりもするんだ。
 やがてあたしは動きを早める。今日は何回イケるだろう。
何とかあと20分はもってほしいなあ、と男を見る。
「ああ、いいよ・・うぁ・・あっ!」
 男のよがり具合が高まり過ぎたので、あたしは彼を抜いてしまった。文句を言われたけど、キスをしながらクールダウン。ペニスの裏にクリトリスをコシコシとすりつけた。
 ちょっとオナニーちっくだけど、これで軽めにイクことができるだろう。こすっているうちに、切なさと表裏一体の小さな津波がやってきた。男を興奮させすぎないよう配慮しながら、あたしは荒い息をつき、一分後にクッと達した。
         ※
 充実したエッチライフ。たるい学校はともかく、それなりに楽しい生活。
 それでも不調の日はたまにやってくる。
 その日、あたしは朝から具合が悪かった。無理して学校に来てみたが、なんだか熱っぽい。どうやら風邪をひいたらしい。
「早退する。センセーに言っといて」
 昼休み、石岡にそう言い、立ち上がると、クラッとめまいがきた。くそー、バッドラック。今日、チチハハは北海道旅行に出かけたから、あたしはエッチざんまいの予定だったのに。
「家の人に迎えにきてもらえば」
 石岡は心配そうに言った。
「オヤ旅行中なんで・・」
 校門を出て、ヨタヨタ歩いていると、自転車に乗った石岡がおいかけてきた。
「送るわ。乗れ」
 遠慮なくそうさせてもらった。背中にグタッともたれかかると少しは楽だった。
「あ゛ー・・」
「寝んなよー。道教えろ。何町?」
「桜町2丁目・・・」
 家に着くと、石岡はすぐに学校に戻っていった。
 あたしは最初、二階の部屋で寝ていたが、テレビもないし台所に水を飲みにいくのも一苦労なので、一階のリビングのソファーで寝ることにした。
 夕方になると、ますます熱があがった。お腹が空いたのに立てないし、風邪薬は見当たらない。けっこうヘコむなーと思っていると、チャイムが鳴った。無視をこいたが、何度も鳴らされた。しかたなくフラフラ応対すると、石岡卓巳が立っていた。
「何しにきたの・・」
「差し入れ。オカユとかいろいろ」
 紙袋をひょいと差し出した。
「うわー・・さんきゅ。お願い・・・これ、あっためてくれない」
 石岡に頼み、あたしはソファーに倒れ込む。
「なんでソファーで寝てんだ。ふとんで寝ろ」
 と言いながら、氷枕は作る、カユは食べさせる、薬は買ってくる。テキパキした看護夫ぶりに呆れつつも、あたしは意識モーローとして目を閉じた。
「ふとんで寝ろ」
 頭をはたかれた。
「部屋どっち」
「二階・・」
 あたしの背中と膝の裏に手が回り、抱き上げられた。
 うわー力持ち。首筋から少し汗の匂いがする。
「あのさ・・あたし、そーゆー気分じゃ・・」
「は?」
 石岡は、ちょっと苦労しながら階段を昇り始めた。
「・・エッチィ気分じゃ・・なくて」
「はあ? ねぼけてんのか?」
 本気で呆れているような声だった。ああそか。ベッドに運ばれる=エッチではないのよね、世の中は。
 2.
 翌朝目がさめると、だいぶ体が軽くなっているようだった。
「お、ちょっと復活?」
 うーん、我ながらホレボレするような回復力。これなら男を呼べるな、とうきうきしながら、さっとシャワーを浴びた。
 裸にバスタオルを巻いた格好で台所に行くと、リビングのソファーで寝ている図体のでかい男がいたので、びっくりした。石岡だ。そういえば昨日看病してくれたんだっけ、と思い出した。うっかり眠りこんでしまったのだろうか。
「石岡。起きなよ」
 肩を揺すぶった。ひょっとして無断外泊なんじゃないの?
今日は土曜日だからガッコは休みだけど。
 あたしはその時、初めて石岡卓巳という男を、まじまじと見た。
 びっちりと生えた短いマツゲ。
 薄いひとえまぶた。
 引き締まった小麦色の顔。
 真っ黒な短髪。
 ふだんは、どっちかと言えば大人っぽい印象なのに、寝顔はあどけなくて、子供みたいだ。
「かわいー顔しちゃってぇ・・」
 あたしは軽い気持ちで、制服のシャツ越しに肩や胸を触ってみた。水泳部だけあって、それなりに筋肉がついている。あたしを軽々と抱き上げた力の強さを思い出した。
 この子ドーテーかなあ、と考えた。
 なんとなく、つまみ食いをしたくなってしまった。そういうのは、めったにしないんだけど、もう二日もエッチをしていない。でもドーテーくんを教え込むシュミは、あたしにはない。
「石岡」
 あたしは囁いた。
「起きないとちゅーしちゃうよ」
 目は覚めない。イタズラ心で、あたしは彼の唇にキスをした。
「ん・・」
 石岡の目は閉じられたままだ。唇をそっと舐めてみると、かすかに反応があった。あたしはソファーに体をねじ込ませて、もう少しキスをしてみた。ものを食べているみたいに、石岡の唇が動き、舌と舌が少し触れあった。無意識のまま、長い腕があたしの体を抱き寄せた。かなりドキドキした。いい感触だ。好きな女の子を抱いてる夢でも見ているんだろうか。
 石岡の目が糸みたいに開いた。機械的にまだキスをしていたが、寝言のように呟いた。
「おい・・何やってんの・・」
「キスしてるだけだよ」
「なんで・・・」
「おはようのキス」
 石岡の目が、カッと開いた。
「バカかお前!」
 あたしはソファーから転げ落ちそうになった。石岡はガバッと半身を起こし、あたしを睨んだ。ガリガリと頭を掻きながら、みるみる顔が赤くなる。
「なに、なにやってんだよ、なんだよこれ!」
「なーによ。あんたもちゃんとキスしてたよ?」
 クスッと笑うと、あたしは石岡の膝の上に跨がって、顔を覗き込んだ。
「もっぺんする? 石岡、けっこーキス上手い」
 この男が慌てていることが面白かった。笑いながら彼の首に手を回して、顔を近づけた。触れる寸前にストップして顔を見つめる。石岡は凝固しているので、あたしは一方的にディープキスをした。寝起きだから、唾液は少し粘ついている。だけど清潔ないい味だった。
 あー困った。本格的に発情しそう。
 このさい、もうドーテーでもいいか・・と考えを一新したあたしは、誘惑モードで微笑みながら、彼の胸をさわさわした。
「・・ちょい待て」
 石岡は唇を離して言った。あたしは待たない。手は胸から降りて引き締まったお腹に、そして股間に触れようとしたとたん、「待てって!」と手首をつかまれた。
「お前・・男の寝込み襲うのシュミかよ?」
「え? んーん、今日がはじめて」
 それは本当だ。いつもは合意の上のエッチだし。
「寝顔がかわいーから、ちゅーしたくなっちゃった」
 からかって笑うと、石岡は赤い顔のまま眉をギュッとひそめた。
「・・・のわりには、ずいぶん慣れてるようだけど」
「どーかなあ。試す?」
 石岡の視線が、バスタオル一枚のあたしの体にさっと這い、顔へと戻った。この目つき。たぶんドーテーじゃない。隠れホモ疑惑も消えた。
「俺、嘘だと思ってた」
 石岡は呻くように言った。
「お前、いろいろウワサされてるけど、デタラメかと思ってたよ」
「ああ・・」
 あたしはクスクス笑った。
「ねえ、ウワサってどーいうの?。教えてよ」
 石岡は目をそらした。
「どけ」
「え?」
「俺の膝の上からどけっつってんの」
 はっきりとした拒絶だった。逆らえない雰囲気だった
のでその通りにすると、石岡は黙って立ち上がった。
「怖いんだ?」
 悔しまぎれに、後ろ姿に言ってやった。
 やがて玄関のドアが閉まる音が聞こえた。
 ・・・拒絶された。
 あたしは、かなりのショックを受けていた。
 今まで、エッチを仕掛けて拒絶されたことは、一度もなかったからだ。
 何が悪かったのだろうか。やっぱホモなの? 寝てるあいだにキスじゃなくて、おフェラをするべきだった?
 わかんないけど、何だか乙女心が傷ついた。それにしても困った。このホテった体をどうしてくれるのだ。
 体がホテりだすと、オナニーでは鎮まらない。
 なので22歳クンを呼び、来るなりベッドに押し倒してしまった。
 エッチ友達のなかでは、一番体のいい男だ。コトの最中によくしゃべる。あたしの内腿に唇を這わせて「んー、すべすべ。キレーな脚だよねー」と誉めまくり、クンニ中ですら明確に話すので、口が二つあるのかと疑うが、クンニはめちゃくちゃ上手い。舌をワレメに突っ込んでじっくりと掻き回す。時おり音を立てて啜り込む音がいやらしい。
「どんどん溢れてるよ・・まりなちゃん、これじゃナメきれないよ・・・」
「やあん・・イジワル・・あん・・」
 とがらせた舌が、クリトリスを転がしている。尿道も包皮も、アナルに至るまで舐められて、ビンビンと刺激が背骨に走る。
「はぁン・・あぁ・・気持ちいい~・・」
 あまりの気持ち良さに、お尻が勝手にグラインドしてしまう。
「まりなちゃん、俺のもナメて・・」
 シックスナインの体勢に入る。あたしはおフェラが大好きなので、舐めて舐めて舐めまくる。唾液でベトベトにすると、はぐっと奥までくわえて硬くしなったペニスを唇の輪でしごく。男はあたしの骨盤を抱えて、舌が三枚あるような絶妙クンニをしている。こっちでチュボチュボ、向こうでペチャペチャ。なんていやらしいんでしょ。
 いつもの通り、あたしは快楽の獣と化した。
 今日は危険な日なので、コンドームをかぶってもらい、男が挿入して動き始めると、なぜか石岡卓巳の顔が浮かんだ。ヘンなの。逃した魚は大きく見えるということなのだろうか。あー何だか萎える。かなり傷ついたし。
 男は、あたしの左足を伸ばさせ、右足を肩にかけさせている。大開脚をものともしないほど、あたしの体は柔らかい。犯す楽しみを味わえる体位とのことで、「まんぐり返し」もよくやられる。あたしは実はコレが苦手だ。ロクに動けないし、第一苦しいんだもん。
 男は入れたり抜いたり掻き回したり。あたしの股間をじっくり観察している。
「すっごくいやらしいよ。バラ色のおまんこがピクピク震えて、透明なお汁がもうお尻までじゅわって垂れてる・・」
 いいってば。小説じゃあるまいし、集中させてよ、もう。
 というわけで、騎乗位になった。いったん抜いて、グニュグニュッて、奥まで一気に入れる。
「あー・・ん」
 やっぱりいい気持ちだ。ホッとする。我が家に帰ってきたこの感じ、ホント大好き。
 目を閉じ、しばらくクネクネと動いたあとで我慢ができなくなり、もう全力疾走でアップダウンした。パワー全開の腰使い。我ながら、暴れ馬を乗りこなしているみたい。胸がゆさゆさ揺れて、ちょっと痛い。
「やああ~ん、ああん、あたしもうイキそ・・」
「あっ、ちょっとまっ・・ウワッ、クアァッ!」
 男は声をあげ、あたしの中で果ててしまった。愕然としてあたしは動きをとめた。
 えっやだ。力加減を失敗しちゃった?
 ・・あちゃ。
 月曜日の朝、教室に行くと、石岡はもう席に座っていた。頬杖をついてケータイを見ている。あたしは鋼鉄の神経の持ち主だが、それでもかなり気まずかった。
「すいませんでした、看病とか」
 と言ってみたが、無視をこかれたので、むかついた。
「怒ってんの? ねー」
 ツンツンと腕を突つくと、硬質の横顔がムッと険しくなった。
「悪かったって。ほんのデキゴコロってやつです。もーしない」
 数秒おいて、「ドーテーに興味ないしね」とつけ加えると、ピクッと石岡の頬が痙攣する。横目でこっちを睨んだので、あたしはニヤーと笑った。こっちも怒っているから、たぶん意地悪な顔になっているだろう。
「放課後、屋上に来い。話がある」
 石岡は睨み目のまま、言った。
「話? 話ならここですれば」
「とにかく来い」
 なんなのー? なんか嫌な雰囲気だなあ。
 あたしは、ひそかにため息をつき、前を向いた。刺すような視線を右手に感じ、振り向くと、上条まゆみって奴と目があった。「必殺一撃!」的形相でこっちを睨んでいる。どういうわけか、この女は、あたしをゴキブリのように嫌っているのだ。まあまあの美人で成績も良いが、性格がキツいし、いまいち男受けしないタイプだなー・・くらいの印象しかないが、画鋲などの嫌がらせも、たぶんこの女と、彼女の仲良しグループのしわざだと、あたしはほぼ確信している。そんな事をして何が楽しいのかワケわかんないけど、ヒマなんですねきっと。
 放課後、屋上に行くと、石岡は柵に背をもたれて腕を組んでいた。
「なによ、来たけど」
「こーゆーこと言いたかないけどな」
 じゃ言うなよ、と内心でつっこむ。
「お前な、俺じゃなかったら、おとといのこととかも、すげー噂になってんぞ。人間ってモンが、どれだけ口軽いかわかってんのか? ただでさえ、お前はとんでもねー事言われてんだから、男どもの間で」
「へー、どんな」
「だから・・つまり・・」
 石岡は、ブスッとした中にも、羞恥の表情を見せた。
「2組のだれそれがヤッたとか、3年のイケメンはもう総ナメだとか・・」
「ふ~ん、あとは?」
「・・・誘われれば誰とでもヤルとか・・まあそーゆーこと」
 あたしは吹き出した。
「超くだんない。それ本気にしてんの?」
「本気になんか、してなかった」
 あ、過去形ですか。
「でも、自分が襲われたんで、信じ込んだワケね。はいはい」
「ほんとなのか。噂は」
「あんたねー、なんであんたに説明しなきゃいけないの」
 うんざりして頭をボリボリ掻いた。
「いいよ、ハッキリ言うよ。そりゃエッチ好きだよ?
死ぬほど好き。たぶん、異常はいってるくらいにね。けど、手当りしだいってワケじゃない。説教される筋合いないよ」
「手当たりしだいじゃないってか」
 石岡はどこかがキリキリと痛むような表情をしていた。
「・・・じゃあ、あんとき俺とやってたら、どーするつもりだった。ヤリ捨てかよ」
「だから悪かったって。そこまで熟考してなかったの」
「それが女のセリフかよ!」
 いきなり声のトーンがあがった。
「お前フツーじゃねーよ。マトモじゃねー。それちゃんとわかってんのかよ?」
「はいい?」
「少しはちゃんと考えろって言ってんの。そんなんじゃソープしか就職先ねーぞ」
「ソープぅ?」
 あたしはビックリして凍り付いてしまった。
 いったい何なのよこの男。この薄っぺらい正義感って、すごすぎる。
「・・・あのさ、あたしは『フツー』じゃないんだろうけど」
 あたしは言った。
「少なくとも、自分の『フツー』を人に押し付けるよーなマネだけはしない」
 何だかむなしくて、心の底がめっちゃ冷えてきた。あたしは出口に向かった。
「ちょ待てって。話終ってねーよ」
 無視をして、階段を駆け降りた。


