淫乱と純情のはざまで2

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淫乱と純情のはざまで2
2021年07月24日 13時28分

 3.

 嫌なことは続く。
 いやがらせが唐突に激化したのは、その翌日からだった。
 まず、上履きが隠された。おかげで来客用のスリッパでぺたぺた歩くハメになった。次に、体操着に「インランは学校をやめろ」と油性マジックでラクガキをされた。どうでもいい、というレベルをもう越えている。
 あたしはラクガキの筆跡から、犯人を確実に割り出した。例の女子グループのうちの一人だ。放課後、体育館の裏手に呼び出して待っていると、4人、ダンゴになってやってきた。上条まみゆを筆頭に、全員目が三角だ。
「超メーワクなんだけど、どーゆーつもり?」
 あたしはぶっきらぼうに言った。
「迷惑なのはこっちよ」
 上条まゆみは、瞬時に言い返した。整った顔なのに、今は頬をピクピクひきつらせて醜い。
「なんなのよあんた、石岡くんをやーらしい目つきで見ちゃってさあ、超キモイよ。石岡くんがあんたみたいなヤツに振り向くとか思ってんの?」
 ははー、と事情を察した。
 こいつ、石岡が好きなんだ。あの正義漢オトコがあたしにカマうのが、気にくわないってわけか。
「あのさ」
 あたしは薄ら笑いをうかべた。
「そんなに石岡が好きなら彼氏になってもらえば? あたしに嫌がらせするよか早道っしょ。それとも、ぜんっぜん相手にしてもらえないとか?」
 まゆみはカッと赤くなり、あたしの頬をひっぱたいた。抗議するヒマもなく、残りの三人が加勢して「インラン」「変態」「学校やめろ」と罵りながら、ひっぱる、ひっかく、殴る蹴る、もう痛いのなんのって。普段は普通の女どもなのに集団心理ってやつだ。たまりかねたあたしは二人の頭を掴んで、思いきりごっつんこしてやった。うずくまった隙に、もう二人をごっつんこ。
「いたーい。何すんのよう」
 痛いのはあたしのほうだって。
「いいか。あたしの叔父は山川組の幹部なんだよ。今度こんなことしやがったら、お前ら全員マワして、コンクリート漬けにして海に沈めてやる」
 ドスをきかせた声で言い捨て、あたしはその場を離れた。体中がズキズキして、世にも情けない気分だった。カバンを取りに教室に戻ると、カバンの中は牛乳でびしょびしょになっていた。買い替えたばかりのケータイも、財布も、メークのポーチも、牛乳のなかに浮かんでいる。トイレで拭いていると、さすがに泣きそうになった。

 あたしは牛乳臭いカバンと一緒に校門の外に出た。ブラウスのボタンは飛んでブラが見えるし、あちこち血が出ている。
 キキーッと背後で自転車のブレーキの音が聞こえた。
「大木」
 振り向くと、災厄の原因がいた。目を丸くしてあたしを見ている。
「なんだ、その格好」
「あんたに関係ない」
「誰にやられた」
 あたしはずんずん歩き出した。とうとう涙が出てきた。くそー情けない、この顔とナイスバディーだけじゃなく、鋼鉄の神経だって自慢だったのに。
「後ろ乗れよ。送ってく」
「ほっといてってば」
「いいから乗れって!」
「あんたの後ろになんか、ぜってー乗んない!」
 上条まゆみでも乗せてろ。バカ男。
 だが、石岡はあたしのあとをついてきた。ハンドルに肘をのせて、無言でたらたら伴走している。
 家の前には、24歳、「右曲がりの長いクン」が立っていた。そういえば来るってメールがあったのに、コロッと忘れてた。
「ど、どうしたの。まりなちゃん。それ・・」
「ごめん。今日は帰ってくれる。あたし、こんなんだから」
 あたしはムッツリと言い捨て、玄関の鍵を開けると石岡を振り向いた。
「あんたも帰って。ちょーウザイ」
 だが、石岡はあたしの腕をつかんで、家の中に入った。
「ちょっと! やだもー。何よっ、痛い!」
 何も答えない。勝手にあがりこみ、あたしを無理やり台所に引っ張っていった。
「帰ってよ!」
「すぐ帰るよ」
 水道を出し、引っ掻かれて血が出てるあたしの腕を、水にさらした。タオルを濡らし、あたしの顔を拭く。あたしはそれをむしり取った。
「もーいいから帰って」
「手当てしたら帰る」
「よけーなお世話! さっさと帰ってよっ!」
「泣くか怒鳴るか、どっちかにすれば?」
 あたしは石岡を睨みつけ、タオルで鼻を拭いた。

 石岡はあたしをソファーに座らせ、傷の手当てをした。何度か、誰にやられたんだと聞いたが、あたしは答えなかった。小学生じゃあるまいし、チクリなんてプライドが許さない。
「今のやつ・・彼氏か」
 青タンになったあたしの脛に冷湿布をしながら、石岡はつぶやいた。
「違う。エッチ友達のひとり」
 あたしは皮肉をこめて石岡を見た。
「お金はもらってないよ。あたしソープ嬢じゃないしね」
 石岡はあたしの膝のあたりを見ていた。複雑な、静かな顔をしていた。批難しているようでもあり、歯の痛みをこらえているようでもある。ゆっくりと目線をあげ、あたしの目を見たとき、彼が何を言うつもりなのか、あたしは唐突にわかってしまった。
「俺さ・・お前が好きだった」
 ああ、やっぱり、と肩の力がヘナヘナと抜ける。
 何でこんなときに、こんな事を言うかな。
「なんか、独特のふてぶてしさとか、いつもしれっとしてんのに、たまに笑ったりする顔とか・・」
 石岡は唇をゆがめ、笑おうとして失敗していた。
「バカみてーだよな。勝手に好きになって、腹立てて・・
勝手にゲンメツとかして」
 清く正しき青少年だ・・って思ったけど、からかうわけにはいかない。ものすごく悲しそうな目をしていたからだ。
「ゲンメツしたんでしょ。ならさ、もういいじゃん」
 何となく励ますつもりで、言ってみた。石岡は目を伏せ、再びまぶたを上げてあたしを見た。
 ああ、同じ目だ、と思った。
 ときどき道ばたに飛び出してきてコクったりする、他校の生徒の、過剰な思い込みと焦躁が閃くような目。
 あたしのことナーンもシランのにすごいなー、という感想しかなかった。
 でも、なんだか今は違った。何がどう違うのかわからない。でも、空気を伝わって、石岡の悲しみがあたしに伝染したような感じだった。好きな女の子がヤリマンと判明。そりゃショックだよなぁ・・と妙にしんみりと納得していた。

「ここ、アザになるかもな・・」
 あたしの頬のいちばん高いところに、石岡の指が触れた。
 あたしは衝動に逆らわなかった。
ゆっくりと顔を近づけ、彼の額にキスをした。
 まぶたの上に。
 肉のうすい頬に。
 彼は動かない。またこないだみたいに逃げられて、罵られるかもだけど、構わなかった。あたしはただ、なんだかそうしたかったし、そうしてあげたかったのだ。

 唇に触れても、石岡の目は閉じない。滝に打たれた修行僧みたいな顔をしている。あたしは硬い髪を撫でながら、丁寧なキスを幾度も繰りかえした。
 変な感覚だった。
 強いて言うなら、生まれて初めて男の子とキスをした、10歳のあたしが同席してるような感じだった。あれは幼なじみのマサちゃんだった。
 ____ 知ってる? 大人の男の人と女の人ってねえ、裸になっておふとんの中で抱き合うんだよ。
 あたしは、すぐ赤くなるマサちゃんを、よくからかったっけ。
 ____ まりなちゃん、すーぐそーいうことばっか言うんだから。
 すみません。もともとそういう素質なんです。その3年後には、もうエッチにハマッていました。「大きくなったらケッコンしようね」と約束したのに、マサちゃんはすぐ大阪に引っ越しちゃったんだよね・・。引っ越しの日、泣いてたなあ。あたしも泣いたっけ・・。
 ・・そんなことを思い返していたら、あたしはいつのまにか、石岡に抱きすくめられていた。

 あたしたちは終始無言だった。
 こういうのは、サイレント・セックスとでもいうのだろうか。
 ソファーの上で、二人の高校生が絡み合っている。「好きだった」と過去形をつかった男と、自分の原風景をなぜか思い出している女。
 エッチをする前に、彼はずっとあたしにキスをし続けていた。
 石岡のキスにはあまり技巧はないけど、唇も舌も唾液も美味しかった。どこかしみじみとする美味しさだった。
 体が熱くなりはじめる。あたしの色白の肌は、発情し始めるにつれ桃色を帯びていく。サルみたいだと自分では思うが、男達はいつも誉めてくれた。
 石岡は何も言わない。あたしのブラウスのボタンをはずし、ブラのホックを外そうとするが、手付きがぎこちない。あたしは背中に手を回してそれを外した。彼の頭を自分の胸にひきよせる。石岡は、どんな男もすることを、同じようにする。
赤ん坊みたいに乳首を口に含み、もう一方の手で胸を揉んだ。不思議だ。いつもあたしの隣に座って、シャーペンを弄んでいる手が、今はこれをしている。
「あ・・」
 あたしは吐息を漏らした。体に触られるのって気持ちいい。
 石岡は、今どんな気持ちであたしを抱いているんだろう、とふと考える。
 あたしを自分のものにしたいのか、逆に気持ちをふっきろうとしているのか、ただ単に衝動に身を任せているだけなのか。
 変なの・・。男がどう思っているかなんて、今まで考えたこともなかったのに。いい性格といい体と、テクと、立派なおちんちんさえあれば、あたしの思考はいつもゼロにリセットされたのに。

 あたしは石岡のシャツのボタンを外して脱がせた。骨と筋肉のバランスのとれた、とても綺麗な体をしていた。鎖骨に舌を這わせながら、ゆっくりと倒し、ちっぽけな乳首を口で愛撫した。ベルトを外し、制服のズボンを降ろした。抱き合っていた時から、勃起しているのはもうわかっていた。
 ペニスの根元を握ったとたん、それはビクンと怒張した。予想はしていたけど、けっこう凄い。威風堂々のふぜい。なのに、比較的薄い色合いのせいだろうか、妙に清潔感があるのが可笑しさをそそる。

 裏側を、下から上へと舐め上げた。たっぷりした睾丸を手で優しく揉みながら、長さを楽しんで、同じ動きを繰り返す。先端はもうビッショリと濡れている。ミゾをチロチロと舐めまわし、お汁を飲み込んで味を確かめる。亀頭をくわえ込み、唇の輪と舌の両方で刺激を与えては、スポッと離す。ペニスがまたビクッと震える。石岡の顔を見ると、苦し気な表情をしている。

 あたしのチチは駄菓子が好きで、あたしが子供の頃、綺麗な色のアメをよく買ってきてくれた。あたしはアメ玉をしゃぶっては取り出して、唾液に濡れた、美しい宝石のようなそれを眺めたものだ。ペニスをしゃぶるのは、それと少し似ている。愛おしく、口から取り出しては幾度も眺めずにはいられない。アメと違って、だんだんと大きくなりはするけれど。

 歯を唇で覆い、奥までくわえた。限界まで入れても、根元までは入らない。最初はいつも苦しくて、涙が目に浮かぶ。少しの生臭さが、これは人間の性器なのだとあたしに告げる。根元を手できつく締めて、先っぽを喉でくにゅっとくわえこむと、石岡の腹筋がぺこんとへこんだ。
「ん・・」
 抑えられたうめき声が、あたしをゾクッとさせる。
 舌先で裏側を舐めながら、唇をすべらせてゆっくりと上下運動をした。もう、あたしの唾液でベトベトだ。キュッと締め、頭をリズミカルに動かして、あたしは石岡を快楽に導いていった。このまま口でいっても構わないと思っていた。
「うぁっ・・あ・・」
 石岡の息遣いを聞いていると、あたしの我慢も限界に近づく。
 あたしはおフェラをしながら、片手でスカートを脱ぎ、パンティを膝まで降ろした。ビショビショに濡れてしまって気持ち悪いっていうのもあるが、どうしても刺激が欲しくなるのだ。クチュクチュと音をたてながらアソコをいじった。一方でフェラに没頭する。だが、長い髪が頬に落ちるのがうっとうしく、動きをとめて片側にかきあげると、石岡は身を起こした。あたしの頬に手をやり、ペニスを口から抜かさせた。石岡のお汁と唾液が混じって、先端からぬとっと糸をひく。

 石岡はあたしを仰向けに倒すと、キスをした。深いキスじゃなく、唇で唇を遊ぶような感じだった。あたしの顔をじっと見つめている。切ない、切ない目だ。あたしは彼の目に魅入られてしまったように、目を閉じることができない。無言のまま、テレパシーを交わしているみたいな感覚が、胸に落ちていく。
 あたしのアソコに手がすべり込んできた。クリトリスをいじられ、あたしの唇が開いたまま凝固した。小さな豆はもう勃起して、愛液で濡れているはずだ。さっき自分で湿らせたから、それはわかっている。意外なほどデリケートな触りかただ。最悪を想像していたせいで、そう感じるのかもしれないけど。
「あ・・あ・・」
 欲情したアソコを触られ、声帯が震える。石岡の指はクリトリスをさすり、その周囲を優しく探っている。指が中に入ると、自然にキュウッと収縮した。石岡の指がそれを押し開いていく。熱いものがトロリと流れ出るのがわかる。
 入れてほしい。すぐに。
 あたしは硬く張りつめた彼のモノを握った。先端を自分の股間にあて、石岡の顔を見た。石岡は腰を沈め、少し苦労しながら亀頭をあたしの肉に埋めた。この感覚はあたしをいつも狂わせる。アソコが、あたしが一番欲するかたちに戻っていく序章。
「は・・あっ!」
 腰を浮かせて脚を開き、挿入の感触をどん欲に味わう。まだ締めていないが、最初の段階だから、かなりの閉塞感が、石岡にはあるはずだ。歯の間からもれる軽いうめき声が、それを伝えてくる。

 石岡の尻を引き寄せ、お腹をぴったりと密着させる。つきあたりまで入った。あたしの腰が快楽を貪ろうとして動き出す。このペニス、すごく好きだ。
 ディープキスをする。石岡の舌を吸って、あたしの中に誘い込む。くねる二枚の舌が、それ自体がひとつの交わりのように動く。
 あたしは挿入してからは、股間だけに集中したいタイプなのに、今は石岡のキスが欲しいと願った。彼の唾液は本当に美味しかったから。
 徐々に体勢を逆転させ、あたしが上になって動いた。腕を前に伸ばして、ソファーの縁をつかみ、石岡の顔を見つめる。あたしの髪が彼の頬に落ちている。
 なんて悲しそうな表情をしているんだろう。まるで捨てられた犬みたい。これがセックスの最中の男の顔だろうか。
 そんな顔をしないで。
 あたしたちは、今エッチしてるんだよ。ねえ、もっと楽しんで。
 あたしは額と額をすりつけて微笑んだ。彼の頭を抱き、頬に優しくキスをする。
 あたしのアソコはあなたのペニスが大好きだって言ってる。初対面だけど、すぐにそれはわかる。嬉しがって、どんどん濡れているんだよ。それをわかって欲しい。
 ゆっくりと動くうちに、徐々に思考が麻痺していく。体の奥底は、尽きることのない泉を放出させている。体を浮かせるたびに、あたしの粘膜は、それを惜しがってペニスにまとわりつき、沈めるときつく抱きしめる。

 4.

「ああ・・は・・」
 あたしの吐息を、石岡は聞いている。快楽に溺れていくあたしの顔を、見つめ続けている。彼はあたしのお尻を抱え、体の位置を前にずらして、自分の頭をソファーの縁に乗せた。あたしのリズムにあわせて、下から突き上げる。
「ああっ」
 のけぞったあたしのウエストをつかみ、何度も何度も突き上げる。はね飛ばされそうな力だ。まるで股間に砲弾を打ち込まれているみたいだ。
「いぁ・・ぁっ・・あんっ」
 すごい。気持ちいい。気持ちいい。もっと欲しい。
 ・・・いつのまにか、あたしはまた下になっていた。全力疾走しているみたいな、石岡の顔を見上げていた。 性器と性器がぶつかりあう。石岡は激しく動いている。
「う・・あ・・っ」
 圧された声を聞きながら、あたしは目を閉じた。息が荒い。もうイキそうだ。快感のボルテージがみるみるあがってくるのがわかる。
「んあっ、いああんっ!」
 抵抗できない。彼の背中に手を回し、しがみついた。体が揺さぶられる。貫かれた股間が快楽の悲鳴をあげている。あたしはどんどん壊されていく。
「あっ、いく・・いくぅっ・・!」
 それが、あたしが発した唯一の言葉だった。直後に、頂点がやってきた。
体が痙攣し、視界が白く濁った。
 石岡はまだ動いていたが、やがて苦し気なするどい声をあげ、あたしのお腹の上に精液を吐き出した。

 あたしは、とろとろ眠ってしまったらしい。途中まで、石岡と抱き合っていたのは憶えている。いやに優しい手つきで、髪を撫でられていた感触もまだ残っている。だが、目が覚めると、彼はもういなかった。
「石岡・・・」
 あたしはつぶやいて、身を起こした。暗いので灯をつけてみたが、メモのひとつも残さずに帰ってしまったのだとわかった。
 あたしは脱ぎ散らかした制服を抱えて部屋に戻り、Tシャツと短パンに着替えた。女どもに蹴られた脚が、あちこち青タンになっているのが、格好悪い。ベッドに腰かけ、しばらくぼーっとしていた。胸のなかに得体のしれないモヤモヤがたまっていた。
 台所に降り、夕食用にパスタをゆで、生野菜を刻む。冷蔵庫の奥にタッパーがあった。石岡がもってきてくれたお粥が入ったタッパーだ。そういえばまだ返してなかった、と思いながら、それを取り出して眺めた。
 唐突に気づいた。
 あたしはなぜか今、ものすごく淋しいのだと。

            ※

 それからは奇妙な日々だった。
 あたしを抱いた男が、隣の席にいる。
 朝は「うぉっす」と小さくつぶやいて、儀礼的な笑顔を一瞬だけうかべる。ただのクラスメートの横顔を、あたしに見せている。
「数学の宿題、どこまでだっけ」
「28ページの問3まで」
 普通すぎる会話を、ぽつぽつと交わす彼の声のなかに、親しみはもうない。そう、石岡はさらりとページをめくるように、あたしへの接しかたを変えた。微妙に、誰にもわからないように。
 数日それが続くと、モヤモヤがますます濃くなった。
 悪く言えば、あたしは「ヤリ捨て」にされたのだ。
 石岡は勝手にあたしを好きになって、勝手にゲンメツした。それは彼の言った通り。そして一度エッチして、それでぜんぶ終わりにしたのだ。それならそれでいい。あたしはあの時、彼としたいと思ったからそうしただけ。こんな風に傷つくほうが、どうかしているのだ。
 昼休み、あたしは屋上に行った。校庭が眺めおろせる場所だ。
 やんちゃな男どもが、シロートサッカーで遊んでいる。あたしの目はすぐに石岡をとらえた。たいしてうまくもないサッカーを、結構楽しそうにやっている。ボールを蹴りそこねると、わりーわりー、と謝る声がここまで響く。
 別にヘーキだ、とあたしは唇を噛んだ。
 エッチしたいならエッチ友達だっているし。
 あたしはコンクリートの屋上に座り込んで、ケータイを取り出すと、24歳・右曲がりのイケメンくんにメールした。

「まりなちゃ~ん、ごぶさたー」
 うっとりするような整った顔が、にこやかに笑み崩れた。
「こないだ、ごめんね」
「いいっていいって。なんかとりこんでたみたいだもん。大丈夫だったの? ケガしてたよね」
「うん、へーき。転んじゃっただけ」
 ベッドに並んで腰かけ、男はあたしにキスをした。上手なキスだ。たぶん、石岡よりずっと上手い。あたしのTシャツのなかに手をいれ、プチッとブラのホックをはずす。
「どしたの・・なんか元気なくない?」
「そんなことないよ」
「そ? あ、乳首たってきた・・」
 コリコリと乳首をつまんで、あたしの耳にチュッとキスをした。
「今日は・・っと、いちおーゴムつけたほうがいいかな」
 あたしの体のことも、ぜんぶわかっているから、安心して任せられる。この男にはちゃんと彼女がいるが、それはそれ、これはこれだ。
「まりなちゃんさえウンって言えば、いつでも乗り換えるのになー」
 なんてセリフも、いかにも遊び人。でも実はちょっとマゾが入っていて、布で目隠しすると、めっちゃ喜ぶ。超イケメンだから、虐められるのもまた似合ったりするのだ。
 イチャついていると、どうにか濡れてきたので、あたしは男のモノを自分のなかに入れた。もちろん、多少は気持ちよかった。でもあたしのアソコは男にすりよらなかった。いつもみたいに、「ただいま~」って気分にはほど遠い。
 男は目隠しされているから、わからないだろう。あたしの目に失意の涙が浮かんでいることは。
 あたしは機械的にペニスを摩擦し、一方的に男をイカせた。
 どっちかっていうと、なんだかもう義務感に近かった。

 それから二週間、あたしは誰ともエッチをしなかった。
 本格的にエッチに目覚めた13歳のときから、これだけごぶさただったことは、一度もない。
 あたしはインラン体質だ。なのに、する気になれない。異常事態だ、体がおかしくなっちゃったんだ、とヘコみまくってしまい、友達に電話をかけた。25歳のOL、クミコさんだ。あたしの友人は年上ばかりなのだが、クミコさんは昔あたしの家庭教師だった。今でもたまに彼女のマンションに遊びに行き、お酒を飲んだりする。
「元気ないじゃない? 泊まりにいらっしゃいよ。今日は彼氏も来ないし」
 おコトバに甘えて、お泊まりセットを持っていくことにした。チチハハは「クミコさん」と一言いえば、安心して出してくれる。
「あたし、不感症になったみたいなんだ」
 彼女のマンションにつくなり、開口一番あたしはそう言った。
「やっても感じないし、やりたくないの。エッチしすぎで体が鈍感になっちゃったのかな」
「うーん。でもあたし、今の彼氏と知り合ったとき、三週間毎日したけど、そうはならなかったわよ。ヒリヒリはしたけどね」
 クミコさんは婉然と微笑み、缶ビールを出してくれた。オンナのイロケというのは、この人のためにあるような言葉だ。ほっそりしているのに、どこもかしこもヤワヤワと丸みを帯びているような印象。ガッコの女どもとは格が違う。
 軽い酔いも手伝って、あたしは石岡のことを話した。どうやら、あれ以来不感症になったらしい、ガキとエッチしたのが間違いだったかも、と。
 クミコさんはクスッと笑った。
「まりなちゃんって、女の子だったのねぇ」
「なんすか、それは」
「あのね、まりなちゃんってヘンに男らしいのよ。外見はものすごく可愛い女の子でも、中身が男なのね。性格もそうだけど、セックスを純粋な快楽として楽しめる。あなたは男の人に恋をしないのかなあって思ってた。でも違ったのね」
「はい?」
 あたしは眉をしかめ、彼女のビューティホーな顔をみつめた。
「やだ。気がつかないの? ホントに?」
「だからなにを」
「やあね。まりなちゃんは、その男の子のこと好きなのよ。恋に落ちたの」
 クミコさんは可笑しそうに目をくるっと動かしてあたしを見つめた。
 なんですと?
「ひょっとして、初恋?」
 あたしはぶるぶると首を振った。
「初恋は、マサちゃん。10歳のとき」
「それからは?」
「・・・・」
「じゃ、二度めの恋ってわけね。成就しますよーに。カンパイ」
 クミコさんは缶ビールをちょんと合わせてウインクをした。

 カンパイって言われても困る。
 なんであたしが、あの正義漢オトコを好きになんなきゃいけないの。しかも、見事にシカトされてるんだよ?
 英語の教師にさされて、りっぱな日本語発音で教科書を音読している石岡は、いつものことながらいやに堂々としている。読めない単語も平気で読む。クスクス笑われても気にしない。あたしは右に視線をずらし、うっとりと石岡を眺めている上条まゆみを見やった。
 あの暴行事件以来、嫌がらせはピタッとやんだ。あたしのことなど、まるで気にしていないようだ。それは別にいいが、世にもいや~な噂を、あたしは女子トイレで聞いてしまったのだ。
「ねーねー、知ってる? 石岡と上条って、つきあってるらしいよー」
「えっ、まじー?」
 個室にいたあたしは、女どものおしゃべりに、耳がいきなり5倍に膨れた。
「上条、石岡の部活終んの待って、一緒に帰ったりしてるみたい」
「うそー。キッツイ性格のあいつに、よくあんないい感じの彼氏が・・」
「そーそー。なにげに男っぽいっていうかさあ。ああいうヤツって、可愛いくて明るい子とか好きなのかと思ってたよ」
 ___ そんなに石岡が好きなら、彼氏になってもらえばいいじゃん。
 上条まゆみに投げた自分の言葉が、耳にまざまざと蘇った。

              ※

 ・・日曜日の夕方、あたしは石岡の家に向かった。きれいに洗ったタッパーをコンビニの袋にいれて、たらたら歩き、名簿と地図を照らし合わせて、どうにか家に着いた。学校で返せばいいのだが、タイミングがつかめない。
 恋、なんて絶対嘘だ。
 恋ってのは、もっと浮き浮きするもんだと思う。淀んだドブ川を歩いているような、こんな気分になんか、なるわけない。
 チャイムを鳴らすと、「はーい」と声がして、石岡のハハオヤがでてきた。あたしはぺこりと頭をさげ、タッパーを渡した。
「あのー、これ石岡くんからお借りしたんですけど、返しに来ました」
「あら、卓巳のお友達? ちょっと待ってね」
 いやいいです、と断わる暇もなく、「え、誰?」と言いながら本人が出てきた。
 だが、本人の後ろからひょいと覗いた顔に、あたしの目玉は3センチも前に飛び出した。
 上条まゆみだったのだ。
「やだー、大木さんじゃない。どうしたのぉ」
 あきらかに勝ち誇った顔をしているが、声はキモいほど優しい。
「べつに。借りたもの返しにきただけ」
 あたしは石岡の胸のあたりを見た。石岡は何も言わなかった。
「ありがとね。そんじゃ」
 くるりと後ろを向いて、歩き出した。
 来なきゃよかった。見なくてもいいものを見た。胸のなかに、どんどん重りが投げ込まれていくみたいだ。あまりの重みに耐えきれず、角をまがったところで、あたしはとうとうしゃがみこんでしまった。
 自転車のブレーキの音がした。目をあげると、通り過ぎた石岡がUターンして戻ってくるところだった。
「何やってんだよ」
「・・歩いて疲れたし」
 あたしはブスッと答えたが、石岡は気まずそうに腕をボリボリと掻いただけだった。
「あんた、けっこうシュミ悪いね」
 あたしは石岡から目をそらして、電柱を見た。
「上条とつきあってるんだ。あいつ、超バカでインケンだよ? シュミ疑う」
 石岡は黙っていたが、やがて静かに言った。
「よけーなお世話。お前に関係ない」
 グサッときた。はっきり言って、ものすごく傷ついた。
「そーだよね。あたしに関係ない。どうせ一度エッチしただけの関係だし」
 でも、あのエッチはあたしにとって、特別だった。なにしろ、あれ以来不感症になっちゃったんだから。でも、石岡にとっては、あれはあたしを切り捨てるための手段だったのだ。あんなインケン暴力女でも、好きなヤツの前では可愛くふるまってるんだろう。だったら、もうそれでいいのかも。
「じゃ、どーも、お幸せに」
 あたしは立ち上がり、のろのろと歩き出した。
「・・・なんで、わざわざ来たりするんだよ」
 石岡の声が後ろから飛んできた。
「ガッコで返しゃいいだろ! なんでウチまで来たりするんだよ」
 顔が見たかったから。
 それだけ。
 学校ではさ、あんたはもう横顔しか見せてくれないじゃん。でも家に行けば正面から見られるかも、なんて、バカなこと考えたんだよね。
「送るって。乗れ」
 あたしの腕を乱暴につかんだ石岡の声はイライラしていた。
「いいよ」
 顔なんか見られなかった。
「送ってもさ・・・すぐ帰るんでしょ? 上条だって待ってるし」
 あたしは言葉をとめようとしたが、二日酔いのゲロがとめられないみたいに、口から言葉が飛び出した。
「あの日みたいに・・あたしが寝てるスキに、何も言わないで帰っちゃったり・・それからシカトこいたり、しまいにゃあんなバカ女とつきあうよーなね、そんなヤツに送ってもらいたくないよ!」
「お、おい、ちょい待て。・・なに?」
 こらえきれず、あたしはとうとうぼろぼろ泣き出した。
「どーしてくれんのよ? あたしあれから、誰ともエッチできなくなっちゃったんだよ。全部あんたのせいだ、ばか!」
 石岡の脛を蹴飛ばした。ああもう、完全なやつあたりだ。
「いでっ!」
 ガシャンと音がして、自転車が横倒しになった。あたしは一目散に駆けだした。この世からドロンと消えちゃいたかった。

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