1.ダメ人間のささやかな夜
それはあるどしゃ降りの夜のことだった。
そろそろ寝るかぁ‥‥と明かりを消そうとしたその時、玄関のチャイムがけたたましく鳴った。
「ったく、誰だこんな時間に2回も3回も鳴らしやがって‥‥ハイハイどなたですか?」
ドアの向こうには確かに人の気配‥‥イタズラではなさそう。じゃあ一体、誰がこんな時間に?
ガチャッ――
‥‥えっ!?
風とともに吹き付ける雨しぶきにも構わず、ドアを開けたまましばらく身動きできなくなる。
樹‥‥?
「‥‥ひさしぶり」
頼りなさげな長身のシルエットと、ずぶ濡れになって水がしたたる黒い髪。
これは現実なのか?
「な、何やってんだよオマエ、こんな雨の中‥‥傘も無いのか?」
ずぶ濡れの樹はよろめくように玄関に入ってきて、そのままその場で座り込んでしまう。
「あ~もう限界。こんな雨で野宿なんかできるかっつーの」
「オマエ、まだ家出してるのか?」
「ん~‥‥出たり戻ったりだよ。でも昨日ケンカしたばかりだから、今は戻れないなぁ」
そう言うと急に目を外らして、伏し目がちに俯いてしまう。その横顔はまるで叱られてヘコんでいる子供みたいだ。
「‥‥とにかく、その濡れてる上着脱げ。風邪ひいちまうぞ。えーと、着替えとバスタオルと‥‥」
なんだかワケの分からないまま部屋をバタバタと駆け回る。繰り返すけど、これは本当に現実なのか?
脱がせた黒のトレーナーはまるで濡れ雑巾みたいで、搾ると水がジャーと流れ出る。
「しっかし、何もこんなになるまで外ブラついてなくても‥‥家出するぐらいだったらウチ来ればいいのに」
「うん。そう思ってミノルの部屋の近くまで来た事もあったんだけどね‥‥甘えたくなかったんだ。だって、アタシはアタシでアンタはアンタ、でしょ?」
そうだった‥‥樹をこの部屋に連れてきたあの真冬の満月の夜、
「一緒にどこか遠くに逃げちゃおうよ」
と誘う樹を、
「行かない」
って拒否したんだっけ‥‥
コイツ、その決断をそんなに大事にしてくれていたんだ。こんなずぶ濡れになるまで‥‥
「ミノル‥‥」
バスタオルの中から樹がオレを見上げる。その表情は心なしかホッとしたようだった。
「アタシを泊めてくれないかな?今夜一晩だけでいいから‥‥」
そんな夜から2カ月経って‥‥
「おっかえりぃ。今日も暑かったね、お疲れさん」
玄関でオレを出迎えるのは、無防備な部屋着姿の樹。
素足にホットパンツだけの格好で長い脚を思いっきり見せつけておいて、上はボディラインギリギリの黒いシャツ‥‥乳首の膨らみ具合からいってきっとノーブラ。
悩殺一歩手前のキワドイ格好‥‥だけど本人はお気楽な部屋着だと思っているらしい。
結局、あの夜から樹はウチに居着いてしまった。
部屋に上がったオレの目の前で、脚を大きく開いてドカッと腰を下ろした樹がおもむろに缶ビールをあおり始める。見るとすでに数本の空き缶がちゃぶ台の上に転がっている。
またやっちゃったのかぁ‥‥
「オマエ、またバイト、クビになったのか?」
半分呆れたように問いただすと、バツの悪そうな顔をして目をそむけてしまう‥‥都合が悪い時のクセ、どうやら図星のようだ。
「なんかオトコの客がニヤニヤしながら近付いて来て、ムカついてひっぱたいたら近くに店長がいて‥‥一発でクビ」
「‥‥なんでひっぱたく?」
「だってオトコの目つきがすごくヤラしかったんだもん。カワイイ子発見、ヤラセてくれ~、って感じでさぁ‥‥ふざけんなってカンジ」
「‥‥オマエ、もう客商売やめろ。適性、無い。そんなにいちいち感情剥き出しにしてたら接客なんかできねーだろ」
「それは分かってるんだけどさぁ‥‥でもオトコを見るとどうしても、カラダが欲しいとか、腕ずくで支配してやる、とか考えてるように見えてしまうんだ。それでガマンできなくなって、つい‥‥」
そこまで言うと残っていたビールを一気にガブ飲みして、フゥーッと大きくため息を吐く。
「‥‥アタシってビョーキなのかなぁ?」
ポツリと一言つぶやいたまま、頭を抱えて俯いてしまった。
ビョーキ、かぁ‥‥目に映る全てが悪意に見える‥‥自分にもそう思うふしがあるような?
疲れたな‥‥
しばらくボーッと物思いに耽っていると、ヘコんでいた樹がヒョコっと復活して話しかけてくる。
「そういうミノルも疲れた顔しちゃって‥‥どうせまた何かあったんでしょ?スッキリ吐いてラクになっちまいなよ」
二重まぶたの澄んだ瞳が真っ直ぐにぶつかってきて、熱視線でオレをわしづかみにする。まいった‥‥やっぱり全てお見通しのようだ。
そうなんだ。ちゃんとあるんだよな、疲れてしまうその理由‥‥
「‥‥仕事のミスで責任が微妙なのがあって、オレはちゃんとやったつもりだったんだ。だけど‥‥みんな相手の言い分ばかり聞いて、お前が悪いと決め付けてきて‥‥結局オレのせいになった」
「ひどい話じゃん、それ。何でもっと言い返さなかったの、アンタだけが悪いんじゃないんでしょ?」
「最初はちゃんと説明して食い下がったんだけど、途中からもうどうでもいいやぁ、って思ってきて‥‥やっぱり自分が悪いんだよ。自分のせいにすればみんなうまく回るんだよ‥‥平気で人を悪者にして逃げたり、強いほうにばかり付いていくような連中だけど、そこに混じれない自分がやっぱり悪いんだよ」
オレの目にはそういうふうに映ってしまうんだ。
「‥‥アンタもたいがいお人好しだね、そんな連中に無理して合わせなくてもいいんだよ。辞めちまいな、そんな会社。一人で背負い込むなんてバカみたいだよ」
顔をグッと近付けて、まるで決断を迫るように樹が問いかける。もう何回目だろう‥‥コイツは事あるごとに、
「辞めろ辞めろ、そうすりゃきっとラクになる」
ってしつこく言ってくる。確かにそんな考え方が羨ましくなることもあるけど‥‥
でもね、そんなに単純な事でも無いんだよ。
「だって、辞めて他に行く場所も無いし‥‥それに、今辞めたら自分が悪いんだって本当に認めてしまうみたいで‥‥もう少し他にやりようがあるんじゃないかな、って思って‥‥」
だから、逃げることもできないんだ。
どんづまり。
二人とも全く進歩無し。
コツン、と額をぶつける樹‥‥見つめる、ではなくてもう唇が付くような距離だ。
「ダメ人間」
からかうような甘い囁き‥‥負けじと言い返してやる。
「お互い様でしょ?」
一瞬の沈黙の後‥‥憎まれ口をたたいた唇はゆっくりと一つに重なる。
甘い唾液の体温がイヤなことを全て溶かしていく‥‥
やわらかな余韻と微笑みを残して、樹の姿はシャワールームに消えていった。
「お互いダメ人間なんだからさ、やっぱり独りじゃいられないんだよ‥‥」
どしゃぶりの雨がシャワーみたいだったあの夜、ベッドの中の樹はそんな事を言っていた。
確かに‥‥独りじゃヘコんだままつぶれてしまいそうだけど、二人だから今日も生きていけるんだろうな。
涼風と風鈴の音、窓の外には綺麗な満月。
シャワールームからすうっと出てくる、一糸纏わぬ天使の裸体。
いつもの事なんだけど、相変わらず眩しくて目がクラみそうになる‥‥
「‥‥またかよ。頼むから早く服着てくれ、何度見ても目のやり場に困る」
「だって暑いんだもん。なんでこの部屋ってエアコンも無いの?」
ブツブツ文句たれながら子供みたいに扇風機にかぶりつく樹‥‥オマエが居候しなければエアコンぐらい買えたんだけどな。
裸のまま向かいに腰を下ろした樹は、突然オレの目の前で長い脚を思いっきり開いてみせる。綺麗に洗われたピンク色の割れ目がパックリと開いて、物欲しげにオレのことを見つめている。
悩殺ポーズ‥‥ではない。コイツは風呂上がりに時々こうして陰毛の手入れをするのが習慣なんだってさ‥‥知らない人が見たらヒックリ返っちゃうんじゃないかなぁ?オレだって初めて見た時の衝撃と言ったらはそれはもう‥‥
そんな事はおかまいなしに、当の本人は平然とした顔で股の下に求人広告のチラシを広げて、ハサミを片手に手入れを始める。
真ん中に綺麗に生え揃った黒い茂みが、おいでおいで、と誘ってるみたい。ホントによく手入れされてるなぁ‥‥
いや、待てよ‥‥気にしなきゃならないのはそっちじゃない。求人広告。今度は何をやるつもりだ?
しなやかな太ももの真ん中、茂みの正面にそっと顔をうずめる‥‥あくまでも求人広告を見るために。
「ここなんかどうだ?けっこう時給もいいと思うけど」
「肉体労働はちょっとね‥‥これだけ暑いとバテそうだし」
「じゃあここは?女性優遇とか書いてあるけど」
「そこ、前に働いて二日でクビになった」
「じゃあここは‥‥」
答える代わりに、切り落としたばかりの陰毛を指先からパラパラと落としてみせる。イヤだ、ってことらしい。
コイツ、本当に働く気あるのか?
顔を上げて樹の目をじっと見る。トンボみたいなスレンダーボディが手の届く距離にあって、そのまま押し倒して犯してしまいそうな体勢だけど‥‥今はそんな気分じゃない。
「ワガママで仕事選んでる場合じゃないだろ。オマエ一つ言わせてもらうけどな、自由てのはテメエの食いぶちをテメエで稼いで初めて成り立つものなんだ。オマエは全然自立できてないじゃん。それは自由じゃなくてただの自分勝手って言うの」
そう思うからこそオレは会社辞めることもできずにガマンして‥‥あ~ダメだ、どうもこういう事を話し始めるとアツくなってしまって‥‥ゴメンナサイ。
そんなオレをじっと見つめる樹の顔はみるみるうちにムスッと曲がって、やがておもむろに手元の求人広告のチラシをクシャクシャと丸めると‥‥
ポコッ――
「痛ってぇなオイ、目に当たったじゃねーか!そういうの逆ギレっつーんだよ」
「逆ギレで結構!そんな事いちいち言わなくても分かってるよ‥‥ったく、耳にタコできちまうよ!」
言うだけ言うと樹は勢いよく立ち上がって、ホットパンツとそこらにあったシャツをビックリするぐらいの素早さで身に着ける。
「もう放っといて!アタシ一人で生きるから‥‥サヨナラ」
そんな捨てゼリフを吐いて、サンダルつっかけて出て行っちまった。
またか‥‥
追いかけたってムダ。こんな事はもう‥‥何度目だっけ?最近はもうメンドくさくなって数えてもいない。
そのくせ、一日か二日経つと何事も無かったような顔して戻ってくるんだからなぁ‥‥
サヨナラ、だって?よく言うぜ。耳にタコができそうなのはオレのほうだ。
丸められた求人広告を拾おうとして床に目をやると‥‥そこには思わぬモノも落ちていた。
黒の毛糸のパンティー。
バカだなアイツ、下着も着ないで出て行っちゃったのかよ‥‥
※
‥‥視線が痛い。
さっきからオトコの視線がいやに突き刺さってくる。チラッと一瞥するだけのものから、[ヤリたい]って訴えかけるようなアヤしい熱視線まで。
一人一人睨み返して蹴り入れてやりたいところだけど、余りに面倒でキリが無さそうなのでグッと堪えて全部シカトする。
ショーウインドのガラスに映った自分の姿をふと眺めてみると‥‥なるほど、ホットパンツの逆ハート型のふくらみがあからさまにオトコを誘ってるみたいだ。
失敗したなぁ‥‥こんな部屋着のまま出てきたんじゃあ視線だって集めちゃうよねぇ。そういえばさっきから胸とお尻がやけにスースーするような気もするし‥‥
戻ろうかな?
でもあんなタンカを切った後だからなぁ‥‥やっぱり今夜は戻れないだろうな。
お互いダメ人間のくせに意地っぱりだからなぁ‥‥
ネオンの間から煌々と照らす満月の灯かりがワケも無く心地良い。こんな日はココロもカラダも思いっきり解放したくなる。
ひとりエッチし~よぉっと。
誰にもバレないで独りになれる場所、アタシ知ってるんだ。
大通りから路地を少し入った所にある二棟のビル。向かって左はもうずいぶん前から空きビルで、右のビルにはアヤしいバーが入っていたけど、久し振りに来てみたら無くなっていてテナント募集とか書いてある。
二棟のビルの間の狭い隙間。
その隙間のいちばん奥、四方を壁で囲まれた空間こそが、アタシにとってはとても大事な場所。
見知らぬオトコに連れ込まれて、[初めて]を奪われた場所。
出会ったばかりのミノルを連れ込んで、さんざん蹴りを入れてやった場所。
その後ミノルと再会して、初めて結ばれたのもこの場所だった。
薄暗い隙間に吸い寄せられるようにして中に入っていく。この通路を通る度に、心の衣がほぐれて本性が剥き出しになっていくような感覚をいつも感じる。
壁のつきあたりまで来た時、フッと気配を感じて思わず足を止めてしまう。
誰かいる。
この場所を知っている人間がそう何人もいるとは思えない‥‥どんな人なんだろ?壁際に身を寄せてそっと中の様子を窺う。気配を殺すのは昔っから得意なんだ。
‥‥オトコだ。
オトコは横を向いて膝立ちの格好で月明かりの下佇んでいた。シャツのボタンを全部外して胸をはだかせて、ベルトを着けたままのズボンをトランクスごと膝まで下げて‥‥剥き出しになった股間の辺りでゆっくりと手を動かしている。
オナニーしてる。
オトコの横顔をじっと覗き込んでみると‥‥薄暗い中ではあったけど、ちょっと気弱そうなその横顔にピンと閃くものがあった。
そして、その閃きは記憶の中ですぐに確信へと変わる。
[アイツ]だ。
アタシをここに連れ込んで、[オトコ]というものを焼き付けて逃げていった、名前も知らない[アイツ]。
‥‥ホント言っちゃうとアタシが誘ったようなものなんだけどね。
アイツは今でも寂しい目をして独りぼっちなのかなぁ‥‥
気配を殺して、アイツの行動をじっくり観察する事にした。オトコのひとりエッチというものにも興味があるし‥‥
長く大きく膨張した男性自身を左手で大事に握りしめて、ゆっくりと、さするように手を上下に往復させる。
男性自身と黒い茂みを中心にして、胸から太ももまで闇にさらけ出された白い裸体。華奢なカラダなのに筋肉の一つ一つまではっきりと浮かび上がって、まるで狼のような野性を周囲に漂わせている。
ふぅん。
オトコのひとりエッチって、こんなに艶っぽいものだったんだ。すごく真剣な顔をするんだね‥‥もっと性欲まる出しのアホみたいな顔するのかと思ってた。
もしかして、アタシの事を想っていたりするのかな‥‥?
アイツのそれは先端の膨らみがとても艶かしく見えて、ピンと張り詰めた姿はミノルのよりも長いぐらいかも。
アレがアタシを奪っていったんだ‥‥乱暴で痛かった[あの時]を思い出して、股の奥深くがズキズキと脈打って痺れが走る。
見てるだけで犯されてるような気分になる。
その気持ちを知ってか知らずか、手の動きが少しずつ早く激しくなっていく。さすがに声は漏らさないけど、時々口を半開きにしてハァハァと吐き出す荒い息遣いが艶っぽくてステキ。
アンタが想っている[あの人]は、たぶん、すぐ側にいるよ‥‥しっかり見守っててあげるから、昇り詰める瞬間の切ない表情、アタシにも見せてよ。
アイツの手の動きはさらに際限なく早くなって、赤みがさした裸体に汗の雫が浮かんで湯気が立ち昇ってきそう‥‥あんなに激しく擦って痛くないのかなぁ?
「ハァハァ、ハァ‥‥あっ‥あぁぁ、ぃくぅ‥‥!」
あれだけ激しかった手の動きが突然ピタッと止まって、根元を握りしめたまま動かなくなる。その直後‥‥先端から白い液体が放物線を描いて闇に放たれた。
続けて二発、三発、四発‥‥出し尽くした後は、濁った半透明の筋が地面に向けて長く長く伸びていく。
側で見ているだけでドクドクッて感じてきちゃったよ‥‥
昇り詰める瞬間、アイツは空を仰いで救いを求めるような顔をしていた。
アイツは、一体誰に救いを求めているのだろう‥‥心に焼き付いたアタシの姿だったりするのかなぁ‥‥
アイツのモノはまだしばらくは膨張を保っていたけど、やがてそれまでの姿がウソのように小さく縮んでいった。そして完全に縮みきると、アイツは急に慌てふためいて服を元通りに着直し始める。
その姿が余りに可笑しくって、下を向いてクスクスと笑ってしまう。だって、してる最中の艶っぽい姿と全然違うんだもん。
やがてヒョコっと顔を上げると‥‥アイツが出てきたばかりで、バッタリと目が合ってしまう。
血が凍りつくような一瞬。
アタシもビックリして目をひん剥いたけど、アイツのビックリはその何百倍も大きかったに違いない。瞳が洗濯機のようにグルグルと回って、酸欠状態の金魚みたいに口をパクパクさせている。
ムリも無いか。オトコとして一番見られたくない場面を見られてしまったんだもんね‥‥
「‥‥ごっ、ゴメンなさいっ!」
アタシの身体を乱暴に押し除けて、アイツはそのまま全速力で逃げていってしまった。
‥‥うん、間違いない。アタシを奪っていったのはアイツだ。
あの時、罪の意識を浮かべて脅えていた顔と、今そこで慌てふためいていた顔は、アタシの記憶の中ではピッタリと一つに重ねることができる。
結構、可愛い顔してるじゃん。
次に会ったその時は‥‥
さぁて、と。今度はアタシの番ね。
月明かりが淡く照らすステージにムーンウォークで歩を進める。足元に目を凝らすと、アイツの置き土産の白い液体が地面にたっぷりと飛び散っているのが見える。
そのすぐ側に腰を下ろす。こうすると、アイツが側にいてくれるような気がするから‥‥
レモン色の満月に向けて、長い脚を思いっきり開いてみせる。しなやかに伸びる白い脚線美‥‥自分で言うのもなんだけど、すっごくセクシー。
ねぇ‥‥アタシの淫らな姿、見てて。
両手を乳房の上にあてがって、被せた長い指を少しずつ締め付けていく。初めは弱く、ゆっくりと‥‥身体がほぐれてくるのを待って、ジワジワと深く食い込ませていく。
ぬるい空気の対流が肌をそっと愛撫して、身体の底に一滴ずつ快感が溜まっていく。時間がゆったりと流れて‥‥たゆたうようなリズムで胸を締め付ける。二人でするのと違って自分のペースでゆっくり昇り詰められるから、一人というのもキライじゃない。
布の上からの感触がもどかしくてシャツを脱いでしまおうとする。その時、ふとした拍子で乳首に手が触れる。
「‥‥あんンッ!」
ちょっとツンッと触れた‥‥それだけなのに声が漏れてしまう。ヤだ、こんなツンツンに乳首が立っちゃってる‥‥反応がいつもより早い。始める前にあんなもの見せつけられちゃったからかなぁ?
それだけじゃない。下着を忘れてきたおかげで胸と股間がぬるい外気にジワジワと侵され続けて‥‥まるで裸で歩いてるような感じだったんだ。
テニスボールみたいな手触りの乳房に指を強く絡ませて、いつもより反応がいい身体を煽るように小刻みに揉みしだいてやる。
「‥‥ぁぁ、はあぁんっ‥‥ハァ、ハァッ‥‥はぁっ、はっ、はっ‥‥」
さっきまでのゆったりしたペースがウソみたいに、あっという間に昇り詰めていく。胸だけでなく股の奥までズキズキと脈打ってきて、蜜がとろけ出して割れ目をヌルヌルに濡らしてしまう。
乳房だけじゃ物足りなくなって貪るように手を伸ばすと、長い指が下着の無い股間をすり抜けて割れ目にピタリと吸い付いて、本能に任せて淫らに暴れ出す。
感覚の重心が乳房から性器へと移っていく‥‥もっと感じたくなって両手ともホットパンツの隙間に突っ込んで、無数の指で濡れた性器を虐める。唇を揉みほぐしたり蕾をつま弾いてみたり‥‥やがて一本、二本‥‥と膣に指が入っていく。
「あっ‥‥ぁあぁ‥っ、はぁ、痛い‥‥やぁんっ!」
割れ目をこじ開けた指は、まるで自分の意志とは関係無くアタシの中をめちゃくちゃに犯していった。
朦朧とする意識の中でアタシを襲うのは、ミノルなのかそれとも[アイツ]なのか‥‥どっちでもいいや。だってどっちも美味しそうだもん‥‥
※
「‥‥ふぅん。それで結局オナニーだけしてさっさと戻ってきちゃったってわけか。バカだなぁ樹、そんな格好で表に出るからだぞ」
「ハァ‥‥だって、ミノルがあんなこと言うから‥‥やん、ぁぁ‥いぃ‥‥なんにも考えないで、ハァッ、飛び出しちゃったんだよぉ‥‥ァアッ、おねがい‥そんな虐めないで‥‥」
「ハァ、いぃ‥‥ゴメンな。でも戻ってきてくれてよかったよ。どう、少しは気が済んだ?」
「うん‥‥でも、やっぱり‥ハアッ‥‥抱かれるって、いいね‥‥」
ここはミノルのベッドの上、細くも逞しい腕の中‥‥汗だくになってちょっと暑苦しいぐらいだけど、やっぱりここが一番居心地がいい。
子宮まで貫く腰の動きはいつもよりも乱暴で激しい。やっぱり怒ってるのかなぁ‥‥お尻にはホットパンツを履いたまま、割れ目に当たる部分をハサミで切ってしまって、そこから太いモノをズボズボと突き刺してくる。
結局、あれから急に恥ずかしくなって、逃げるようにしてミノルの部屋まで戻ってきてしまった。だって上も下も下着が無くて、歩いてるだけで胸や股間がくすぐられるみたいだったんだよ‥‥
やっとの思いで部屋に戻ったら、いきなりミノルが後ろから抱きついてきて、耳元に熱い囁きを吹き付ける。
「今までガマンしてその格好を眺めていたんだけど、もう限界‥‥勝手に家出した罰として、その格好のままでヤラせてよ」
そのまま自分だけ服を脱いで、ちょっと手荒にアタシをベッドに押し倒す。上から見下ろすミノルのヤラしい笑顔‥‥さっきまでアタシを見つめていたレモン色の満月が、ガマンできなくて襲ってきたみたい。
胸の上までめくり上げられた黒いシャツ、激しく揺れる白い乳房の間には銀の十字架のネックレス‥‥この姿がそそるんだってさ。
ミノルのエッチ。
本能剥き出し、サイテーだね。
だけど、そんなヤツを上に乗せて淫らに狂っちゃってるアタシ‥‥おかしいよね、他のオトコだったら絶対許せないのに。
「ぃやっ‥‥そんな、かき回さないで‥‥はぁあんっ‥‥裂けちゃうよぉ、イっちゃうよ‥‥ァァ、はぁんっ」
キングサイズの熱いモノがアタシの中をしゃぶり尽くして、奥底まで容赦なく貫いていく。アタシより背が低いクセにこんなとこだけ発育良好なんて‥‥でもそんなところもとってもステキ。
「ぁあぁん‥‥アタシもうダメぇ‥‥イキそう、ハアッ、イクよ‥‥」
「なんだよ、今日はずいぶん早いじゃん。もうちょっと頑張ってよ、オレもすぐにイクから」
そう言いながら太ももを左右に思いっきり開いて、ホットパンツのお尻をもっと強くたたきつけてくる。ベッドをギシギシ軋ませながら太い杭を打ち付ける激しいリズムが気持ちイイ。
「ああっ、この眺め‥‥イイっ。ホットパンツのふくらみがすげぇヤラしくて、真ん中にオレが刺さってる‥‥そぉら、もっとめちゃくちゃにしてやるよ‥‥」
「‥‥ハァ‥‥、‥‥ァッ、アッアッあ、あ、あ、んン‥‥ぃやっん、あん、あんっ、はぁぁんっ!」
もうダメ‥‥ミノルのヤラしい顔と[アイツ]の亀頭の膨らみと満月の灯かりとショーウインドに映ったお尻の形と熱視線と‥‥全部が溶けて混ざって揺すられて、意識が蒸発していく‥‥
ギシッ、ギシッ、ギシギシギシッ、ギシギシッ‥‥
グチャグチャグチャッ、パン、パンッ、パン、ジュブジュブッ、ズチュグチュズチャッ‥‥
頭が真っ白に輝いて、彼方にマグマのような胎動を感じて‥‥二人一緒に溶けていった。
※
「アタシ、明日ちょっと実家に帰るから‥‥独りにしてゴメンね」
すっかり縮んだミノル自身からゴムを外すと、熱い体温と確かな重みがズッシリと伝わってくる。ベッドの脇には切り裂かれたホットパンツ‥‥あ~あ、せっかくお気に入りだったのに。
「そういや‥‥ずっと聞きそびれてたけど、樹ってどうして家出なんてしてるの?親とケンカしてるってよく聞くけど」
‥‥そうだね。今まではぐらかしてきたけど、そろそろ話してもいい頃かもね。ミノルにまでそんなこと背負わせたくない、って思ってたけど‥‥
「それはね‥‥」
思わせ振りに囁いたその口で縮んだモノにしゃぶりついて、舌で綺麗にしてあげる。
「あっっ、気持ちいい‥‥けど、オマエいつもそうやってごまかすよな。もう話してくれてもいいじゃん」
もうちょっと待ってて。
ミノルのエキスをたっぷりと含んだ口をそのまま唇に吸い付けて、ベッドに優しく押し倒す‥‥セックスの時以外のベッドの主導権はだいたいアタシが握る。コイツはセックスの時は荒々しいくせに、意外に甘えん坊で寂しがりやなんだ‥‥
「‥‥ウチの親ってさ、両方とも浮気してるんだ。父親は相手のオンナの所に入り浸りで、その留守に母親がオトコを取っかえ引っかえ連れ込んできて、たまに顔を合わせれば大ゲンカ‥‥ってカンジ」
「ふぅん‥‥それで家に居場所が無いから帰れないんだ。でもそれって樹が悪いんじゃないじゃん」
「うん。母親とはまだ一応会話が成り立つんだ‥‥父親なんだ。自分のしてる事を棚に上げてエラそうな事ばかり言うから、会うたんびに大ゲンカ。それでアタシから家を飛び出して、学校も辞めてやったし‥‥」
「ふぅん‥‥でも、親は心配してるんじゃないの?」
「あんな男に心配なんてされたくないよ。自分の都合のいい事ばかり並べやがって、だいだいアタシがオトコに蹴り入れたくなるのもあの男のせい‥‥って、おいっ?」
スーー‥‥
‥‥寝ちゃったよ、自分から聞いといてそりゃないだろ。
まっ、いいや。
安心しきったミノルの寝顔をそっと抱き寄せて、虫の音を一緒に聞きながら‥‥ゆっくりと眠りに落ちていった。