乙女の復讐2

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乙女の復讐2
2021年07月05日 20時36分
DUGA

カーペット敷きのホテルの廊下を歩いているような感じである。所々に高価そうな絵が展示されていて贅沢な空間を演出しているが、当然ホテルのように客室があるわけでなく、壁のみの単調な光景が続く。人工迷路というと、野外や体育館のような巨大な空間に作られ、上方から中の様子が見下ろせるようになっているのが普通だが、花恋の親戚が造り上げたこの迷路はそのような開放感はない。建物内の廊下をひたすら歩いているだけである。どちらかというと洞窟探検などに近いが、洞窟のような自然の息づかいは感じられず、ただ無機的な人工空間が続くのみ。最初は良くても、徐々に閉塞感に息がつまりそうになる。それに加えて、随所に備え付けられている監視カメラが一層の圧迫感を生み出している。
「それにしても、良くできていますね」
溜まりかねたように史織が漏らす。
「僕達が思っているより、広い場所なのかもしれないですね、この屋敷は」
この迷路は子供の遊びにしては、長すぎる。しかも、分岐が多いし、錯覚やトリックを仕込んであるのか、たまに自分の位置が全く分からなくなってしまうこともあった。
「あれ、さっき、ここ通りませんでしたか?」
という会話が少しずつ増えている。
「もう少し、慎重に進めば良かったね」
優人はまさかここまで本格的な迷路だとは思っていなかった。優人の言葉に咲月が反応する。
「だからあなたは愚かなのよ。いつもそうなんだから」
「何だよ。こういう時は元気づけて欲しいものだな」
すると咲月が優人に後ろから抱きつく。
「お願い、早くこんな所から出して。出してくれたらいっぱい気持ちいいことしてあげるから」
艶のある声で、耳元で囁かれる。こうすると優人が参ってしまうことを咲月は知っている。黙り込んでしまった優人の代わりに史織が咲月に声を掛ける。
「右手法とか試してみますか?」
右手法とは右側の壁に手を付いて、ひたすら壁沿いに進むという方法である。咲月は首を振った。
「スタートから始めるなら良いけど、ここから始めたらここに戻ってきてしまうんじゃないかしらね」
「・・・そうですね」
「困ったわね」
優人が全員を見回す。
「よし、ちょっと休憩しよう」

思わぬ展開に皆、疲労していた。時計を見ると、まだ20分程度歩いただけだ。だが、まず心の準備がなかったし、非日常的な空間で闇雲に歩いたため、普段の倍以上に消耗していた。また、肉体的疲労だけではなく、理不尽な仕打ちに対する苛立ちも募る。優人は妹を救出しなくてはという義務感があるから耐えられるが、他の3人は日常生活からいきなり呼び出されて巻き込まれているだけなのだ。しかも、この先、性的な悪戯をされると予告された上での迷走なのである。
「きゃっ」
突然の舞の悲鳴とパシャッというカメラ音。
「どうした?」
休憩する優人達から少し離れた所で舞はしゃがみこんでいた。肩を小刻みに震わせている。優人が近寄る。
「大丈夫か?」
「・・・はい」
「何があったの?」
「急に下から風が吹いてきて・・・パシャって」
どうやらその風でスカートが捲れた瞬間をどこかの小型カメラに盗撮されたらしい。
「・・・何を考えているんだ、あのバカ女は」
いつの間にか後ろに来ていた史織が吐くように言う。地味だが、心理的効果は大きい。現に、これだけのことで舞は怯えきっているし、史織も警戒心から表情が硬くなっている。すると壁に埋め込まれたスピーカーから声がした。
「舞ちゃん、とっても可愛いパンティですわね。そんな下着していたら、そこのスケベ男に襲われてしまうかもしれませんわ」
からかうような口調に優人の怒りが募る。
「ふざけるな!そんなことをして何が楽しいんだ!」
「そんなに怒鳴らないでくださいな。それに本当に盗撮されたのかしら。パシャッという音が聞こえただけでは?」
「そんなこと知るか」
史織が呟く。
「いくら金持ちでも誰がいつ通るか分からないような廊下に誰にも見つからないような高性能カメラを仕込むとは考えにくいですね。ああいうのって高価な割にとっても壊れやすいですし。床とか壁の隙間から風を送るくらいなら何の造作もなさそうですが」
彼女の言い分は正しく思えた。いくら道楽でもそこまで凝ったことはしないだろう。おそらくカメラの音は擬音。『とっても可愛いパンティ』とか言っているのも花恋が適当に言っているに過ぎない。要は単なる悪戯だ。いずれにしても、舞にとっては屈辱でしかないわけだが。
「まったく、舞ちゃんはいつも可愛いから悪戯しちゃうけど、その程度で驚いていたら、これから先が思いやられるわ」
スピーカーの音が切れる。誰ともなく、ふぅとため息。花恋がずっと優人達の行動を監視していることは明らかだった。
「安藤さん、大丈夫?」
「はい。なんか騙されちゃったみたいですね」
舞は服をパタパタとはたいて、天使の笑顔を浮かべた。そんな彼女を見て、他の仲間も安心したように視線を交わす。
「よし、休憩はおしまいだ。先へ進もう」
優人達は再び歩き始めた。

その後、いきなり天井から白い粘着性の液体が降ってくる悪戯があった。よく見るとリンスだったが、性的な悪戯を予想していた女性陣は悲鳴を上げた。この悪戯で史織の服と肌に大量のリンスが粘着し、史織の怒りは沸点に達してしまった。
「もう・・・許さないから」
感情を抑えた声で静かに呟く彼女。無事、花恋の部屋に辿り着いた時は、彼女の暴走を止めなくてはならないようだ。

その後も辛抱強く歩き続け、スタートから30分近く経った時、ようやくドアらしきものを見つけることができた。
「ドアか」
全員が扉に注目する。
「特におかしな所はなさそうだし、開けてもいいかな?」
優人が言うと、皆、肯いた。鍵は掛かっておらず、ドアノブに手を掛け慎重に手前に開くと、目の前に10畳程度の正方形の部屋が現れた。
「ん?誰だろう?」
部屋の隅に一人の女が立っていた。

「はい、いらっしゃい」
正面の巨大モニターに花恋の姿が現れた。隣にぼんやりした愛海がいる。
「何だよ、この部屋は」
優人が怒鳴るように言うと、花恋はヤレヤレとばかりに肩を竦めた。
「そんなに怒らないでくださらない。ここはね、試練の部屋ですわ」
「試練の部屋?」
「そう、第1の試練の部屋。今から皆さんに恥ずかしいことをしていただこうと思っていますの」
そう言って、彼女は第1の試練の内容を説明した。簡単に言うと、優人達には2つのアクションが要求される。1つ目は、優人の前で、咲月が花恋のメイド(部屋の隅に立っている女)とキスをすること。2つ目は優人、咲月の前で、史織と舞がキスをすること。
「・・・ど、どういうこと?私があなたのメイドとキス?」
咲月が身を乗り出す。史織も怒り心頭と言ったところだ。
「子供じゃあるまいし、キスの仕方くらいご存じでしょう?そうそう、ちゃんと舌まで絡めるのよ。見ててくださいな」
そう言うと、花恋は優人が止めるまもなく、愛海の唇を奪った。
「花恋!」
こちらから怒鳴ったところで意味はない。来客全員に見せつけるように花恋は愛海の口の中へ舌をねじ込ませた。先ほどの応接間の時のような軽いものではない。愛海はうっとりとした表情で彼女の舌の進入を受け入れ、舌を絡める。実の妹が他の女とディープキスをしているところを見せられて、優人は軽いショックを受けた。
「くっ」
モニター越しに眺めるしかない。目を逸らしても、ねっとりと濃厚なキスの淫靡な音が部屋中に響き渡る。
「分かった。分かったら、もう止めてくれ」
優人が懇願するように言うと、花恋はなおも1分近くキスを続けてから、ようやく行為を終わらせた。彼女の顔が満足げに火照っている。
「ふう。こんなに熱いキスをしたのは優人さん以来かしら」
「・・・」
優人は花恋とキスをした覚えはない。これは咲月への挑発である。だが事情を知らない咲月からは殺気が沸き起こる。優人は咲月を見た。
「彼女とはキスなんてしてないぞ。お前だけだからな」
咲月は複雑な表情を浮かべる。
「本当かしらね。別にどうだっていいわよ」
彼女は苛立ちを隠そうともせずに優人を睨んだ。目に見えない疲労とストレスが彼女の心を蝕み、今から始まる試練に対しての不安でいっぱいのようだ。
「お解りになったら、早速試練を始めて頂戴。やりたくないならそれでもいいですけど、当然ここから先は進めませんわよ」
主導権は完全に花恋のものだ。初対面の、しかも同性の相手にキスをするという行為に対し、強い抵抗を示す仲間を必死に説き伏せる。咲月も史織も、やるしかないということは十分に理解している。ただ、心理的な抵抗があるだけである。意外なことに、舞にはそれほど抵抗がないようだった。
「私はいつも花恋さんとキスしていますから」
天使のような笑顔でそう言われると、優人は返す言葉がなかった。5分後、ようやく踏ん切りがつき、まずは咲月と花恋のメイドが優人の前でキスをすることになった。花恋のメイドは無表情に咲月の前に立った。露出の多いメイド服姿の彼女は近くで見ると、息を飲むような美人で、巨乳だった。歳は咲月達と同じくらいだ。咲月が縋るような目で優人を見つめる。いつものツンツンした感じではない。たまに見せるこういった女らしさが彼女の魅力の一つである。自分の彼氏の前で淫らなキスを強要されるのだ。ある意味、とんでもない羞恥プレイであった。
「・・・優人」
優人は不安げな咲月の手を握る。
「大丈夫。何かの儀式だと思えよ。僕達はいつもしているだろ」
「うん。・・・いいわよ」
覚悟を決めた咲月が花恋のメイドに合図をする。メイドは無表情なまま、咲月の唇を奪った。メイドはわざと音を立ててチュパチュパと咲月の唇を犯し、同時に腰や尻に手を回す。レズ耐性のない咲月はたまらず体を離そうとした。
「いやっ!」
その時、モニター越しに花恋が警告した。
「咲月さん、ダメですわよ。ちゃんと彼女を受け入れなさい。受け入れないと、またキスのやり直しですわ」
咲月は悔しさで目に涙を溜めながら、メイドの愛撫を受け入れる。愛してもいない、面識もない女との濃厚キスを、愛する彼氏に見守られている。しかも、体のあらゆる箇所を愛撫され、背徳的な快感に浸る淫らな様を一部始終見られてしまっているのだ。
「・・・もう・・・止めてぇ・・・」
最後はほとんど泣き声だった。メイドのテクニックはキスも愛撫も実に巧みで、純情な咲月には荷が重かったようだ。青息吐息で肩で息をしている。ようやくメイドが離れると、咲月は全身の力を失い、がっくりとしゃがみ込んでしまった。顔から血の気が引いている。優人が彼女の傍にしゃがみ込む。優人も花恋と愛海のディープキスを見た時以上にショックを受けていた
「咲月、よく頑張ったな」
「・・・」
だが、咲月の精神的ショックは、優人の比ではなかった。彼氏に『よく頑張ったな』と言われたところで、何も救われないのだ。ただ、悔し涙を流すだけだった。

「良かったですわ、咲月さん。あなた、見かけによらず、とてもウブな女の子ですのね
場違いに明るい声が優人を苛立たせた。
「お前、彼女を傷つけたんだぞ」
「あら、でも、私は彼女のせいでこれまで随分傷ついていますけど」
「それは逆恨みだ。彼女に罪はないだろう」
「さあどうかしらね」
優人が花恋の思いを拒絶した時の彼女のことは忘れない。泣きじゃくる彼女の痛ましい姿も。それほどまでして真剣に自分のことを思っていてくれたのだと、思わず貰い泣きするくらい激しい号泣。責任は自分。咲月のことは話してあるからと自分勝手に納得し、花恋へきちんと断っておかなかった自分の責任である。ギリギリまで花恋に対して淡い期待を持たせてしまったことが原因なのだ。彼女の気持ちは痛いほど分かる気がする。ただ、これ以上、咲月が辛い思いをするのは見てられなかった。
「咲月の試練はこれで終わりでいいのか?」
「いいですわ。大満足。でも、私の本当のお楽しみはこれからですわ。ねえ、史織さん」ライバルにして犬猿の仲、史織への復讐といったところだろうか。誇り高い、真面目な史織にとって、花恋の前で同性とディープキスをするなど、屈辱以外の何物でもない。
「・・・栗原さん」
史織はこちらの心配を見透かしたように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。井上さんにくらべれば、仲間内同士、気楽なものです」
そう言って舞の方を見る。舞は先ほどの気楽な様子は消え失せ、いつも間にかガチガチに緊張してしまっていた。
「わ、わわわ・・・わたし、花恋さんとキスしたことありますから・・・だ、大丈夫・・・かな」
「じゃあ、お願いします」
優人の声を合図に、史織が舞をそっと抱き寄せた。そしてゆっくりと唇を重ね、舌を絡める。
「ほらっ、もっと抱き合いなさいな」
モニターから花恋の煽るような声。背の高い史織が舞を包み込むようにした格好で、2人はしばらく濃厚なキスを続けた。史織も舞もキスはとても上手かった。愛撫も様になっている。最後は2人とも顔を赤らめて離れる。
「どうだ?」
あまりの恥ずかしさに何も言えない2人に変わって優人が花恋に確認する。花恋は唇を尖らせて言った。
「なんか、こう、史織さんがキャーキャー喚くところを無理矢理やらせたかったのですけどね。うーん、普通すぎてつまりませんわ」
「・・・普通すぎて悪かったですね」
史織が花恋を睨み付ける。
「そんな怖い目で見ないで頂戴。史織さんって真面目そうで、案外あっちの方面もイケるくちなのかしらね。分かりましたわ、合格です。この部屋はおしまい。1号さん、部屋の鍵を開けて頂戴」
『1号さん』と呼ばれたメイドは言われたとおり部屋の鍵を開けて、そのまま立ち去ってしまった。優人達はほっとして部屋を抜けようとすると、最後に花恋が声を掛けた。
「次の試練はこんなものでは済ましませんわよ」

再び長い廊下が続いた。先ほどの試練ですっかり落ち込んでしまった咲月の肩を抱き寄せながらゆっくりと歩く。
「ねえ、もう大丈夫だから」
彼女はそう言って優人から離れようとするが、優人は無視をする。
「子供扱いしないでくれるかしら。平気だって・・・んっ!」
彼女の言葉を遮って、優人は咲月の唇を奪った。そのまま、抱きしめてキスを続ける。
「んふぅ・・・んんぅ・・・」
咲月は抵抗するそぶりを見せない。もしかしたら、あの時彼女は『よく頑張ったな』と言われるよりも、こうして欲しかったのではないかと優人は思った。キスが終わると、咲月が照れ隠しのように優人を大げさに突き飛ばした。
「いきなり何をするのよ、まったく。栗原さんも安藤さんも見ているというのに。これ以上、恥をかかせないで頂戴」
咲月が顔を真っ赤にして捲し立てる一方で、当の史織と舞は穏やかに微笑んでいた。その様子は明らかに優人の行為を肯定しているように見えたため、咲月はブツブツ言いながら、優人に腕を絡めた。
「い、行くわよ。バカ」
「さっきは悪かったな」
「もういいから!」
咲月は優人を引きずるようにして歩き出した。

思ったよりあっけなく2つ目の部屋に辿り着いた。1つ目の部屋と違い、部屋の中央に異様なオブジェが用意されていた。
「さ、三角木馬?」
普通に生活していれば決して関わらないであろう代物だが、常識としては知っている。元々は拷問具として開発され、現代ではSMプレイでも使われる器具のひとつだ。変わっているのは、木馬の尖った背の部分に、上向きにバイブレーターが設置されていること。つまり、木馬に跨る際は、このバイブを挿入することになる。また、木馬自体が床に固定されておらず、間にスプリングが挟まっている。スプリングの力で前後に揺れるタイプで、公園で見かける遊具に近い。その木馬が3台並んでいた。この3つのオブジェが示すことはただ一つで、女性陣の表情に不安と怯え、恐怖が浮かんでいた。部屋の隅には先ほどの『1号さん』が立っている。
「冗談・・・だろ?」
優人がうめき声を上げる。咲月も史織も舞も、予備知識として三角木馬くらいは知っているだろうが、実物を見たのは初めてだろうし、それが我が身に関わってくるなどとは考えたこともないに違いない。優人達の気持ちを察するように巨大モニターに花恋が現れた。
「そんなにびっくりなさらないで。最初は怖いかも知れないけど、とっても楽しいものですのよ」
「・・・花恋、冗談もほどほどにしないと笑えないぞ」
すると、花恋の表情が険しくなった。
「優人さん、あなた勘違いなさっているわ。私は最初から真剣にあなた方へ復讐しようとしておりますの。先ほどはキス程度で済ませましたけど、ここからは憎き女達に恥辱の限りを味わってもらいたいの。舞ちゃんだけは憎しみではないですけどね」
ここまで直接的に言われてしまうと、返す言葉もなかった。この屋敷へ来てから、普段と変わらぬ執事の丁寧な態度といい、愛海の危機感のなさといい、子供のような悪戯といい、緊張感のない展開に麻痺してしまっていたが、この人工迷路と試練は彼女の復讐なのだ。自分を捨てた優人への復讐であり、その原因である咲月への復讐であり、犬猿の仲である史織への攻撃なのだ。舞に関しては彼女の言うとおり、憎しみではなく、先輩からのタチの悪い悪戯に過ぎないのかもしれないが。
「どうしますの?ここでお帰りですか?」
花恋が勝ち誇ったように訊いてくる。
「こんなのできるわけないだろう?」
常識的に考えても、優人や花恋やメイドが見ている前で、こんな屈辱的な器具に身を委ねるなどという事は、咲月であっても、史織であっても、そして舞であってもできるわけがない。
「そう言うと思ったわ。じゃあ、愛海ちゃんに乗ってもらおうかしら」
モニター内の映像が切り替わり、この部屋と同じ型の三角木馬が映し出された。そしてすぐ傍に愛海の姿。相変わらずぼんやりとした表情。その彼女に後ろから抱きつき、胸を撫でながら花恋がこちらに向かって妖しく微笑む。
「愛海ちゃんの淫らな姿を見せちゃおうかしらね。ねえ、愛海ちゃん」
愛海は肯定も否定もせず、ぼんやりと三角木馬を見つめている。
「優人さん、どうしますの?5分待ってあげますから、やるかやらないか決めてくださいな。やらないのなら、当然、愛海ちゃんは返しませんし、その場でお帰りいただくことになりますわ。あ、でも、愛海ちゃんの三角木馬初体験の様子は帰り際にサービスでお見せしますわよ」
優人は絶望のあまり何も考えられなかった。
「・・・優人」
咲月が涙声でしがみついてくる。
「ここまで腐った女だったとは思いませんでしたよ」
史織の声も辛そうだった。舞は無言のまま、床を見つめている。時間だけが刻々と過ぎてゆく。
「あと、1分ですわよ」
無情な花恋の声。その間にも彼女は愛海の体を愛撫し続けていて、時折愛海がビクッと震え、甘い喘ぎ声をあげる。それを見ているのも辛かった。
「ねえ、優人」
咲月が静かに言った。
「何だ?」
「優人は私がこれに乗っても、私のこと嫌いにならない?」
咲月の目は真剣だった。
「・・・大丈夫なのか?」
「大丈夫。よく見ると、木馬の背も結構丸いし、痛いとか怪我をするってことはなさそう。だから、これ、恥ずかしいのを我慢できれば大丈夫」
咲月の言葉を受けて史織が続けた。
「不本意ですが、ここまで来たのも妹さんを助けるためです。・・・それに、多少興味もあります。ねっ、井上さん」
「そうね。優人、女って男が思っている以上にエッチなんだよ」
「・・・咲月、栗原さん」
彼女達が無理に自分自身を納得させようとしているのが痛いほど解るため、優人は辛かった。本当に素晴らしい女性達である。舞も続く。
「あ、あの、私も大丈夫・・・かな」
「安藤さん」
「これ・・・乗ったことがあるんです。花恋さんと遊んだ時に」
舞の顔が真っ赤に染まる。
「井上さんの仰るとおり、これは痛いとか全然ないです。ただ、とても・・・その・・・あの・・・気持ちいいので」
舞はしきりに優人の方を伺いながら、恥ずかしそうに続ける。
「私、何度も何度も気持ちよくなってしまうんです」
天使のような彼女の時折見せる裏の顔にドキリとする。咲月も史織もゴクリと唾を飲み込んでいる。こうなると見られているという恥ずかしさを克服するだけである。
「時間よ」
花恋の冷たい声。
「で、どうしますの?」
優人は花恋を睨んだ。
「やるよ。だから愛海はやめてくれ」
「そうなると思っていましたわ」
「但し、条件がある」
「何ですの?」
「僕は部屋から出てもいいか?」
優人が見ていないというだけで、彼女達の負担はかなり軽減されるだろう。しかし、花恋は首を横に振った。
「ダメ」
あっさりと拒否されてしまった。彼女が一旦『ダメ』と言ったことは何があっても覆ることはない。
「だって、殿方に見られることで辱めるというのが目的なんですもの。それがなければただ気持ちよくなるだけですわ」
「くっ・・・」
「そんなに厳しいお顔をなさらないで。男だったら嬉しいはずですわ。こんな素敵な美人3人が三角木馬に乗って目の前で絶頂しまくるんですから。そう考えただけで、涎が出そうじゃありませんこと?」
花恋の言葉は容赦がない。精神的にどんどん追い詰められていく。
「さっさと始めてくれ」
こうして、第2の試練が始まった。

準備はすべて『1号さん』の手によって行われた。まず、バイブにローションをたっぷり塗り、それに下半身のみ裸になった咲月、史織、舞がそれぞれ跨る。両手を後ろ手に拘束され、木馬から落ちないように足の部分も固定。最後に念のための痛み止めとして何やら液体を飲まされる。これが史織、咲月、舞の順番に行われた。
「おい、痛み止めって何だよ?」
3人とも既に飲み終えてしまったため、今更の質問だったが、案の定『媚薬』だった。
「お前、絶対に許さないぞ」
「あら、これは彼女達のためですのよ。媚薬を飲めば、彼女達の羞恥心も薄らぐでしょう?アルコールと同じですわ。素面でこんなことさせたら、それこそ地獄だとお思いになりませんか?」
彼女の言うことはもっともだったが、何か言い込められた気がして優人は不満だった。だったら、単にアルコールで良かったのではないかとも思う。媚薬で性感が高められるのは間違いない。おそらく普段では見られない彼女達の本性を目の当たりにしてしまうのだろう。
「で、いつまで乗ればいいんだ?」
「1時間ですわ」
「い、1時間だと?」
試練の準備は終わっている。今更どうしようもない。だが、1時間もこんな器具に揺られて大丈夫なのだろうか。
「大丈夫よ、舞ちゃんはいつも、1時間くらい平気で乗ってるから。じゃあ、スタート」
『1号さん』の手で三角木馬にスイッチが入れられた。木馬はスプリングを軋ませて前後へ動き出した。ブーンというバイブの音も聞こえてくる。同時に美女達の悲鳴が部屋に響き渡った。

「いやぁぁぁ!!!」
咲月の悲鳴が響く。彼女は最初からずっと悶え狂っていた。羞恥と快感の入れ混ざった衝動が彼女をひたすらかき立てていた。
「お願いっ!もうっ・・・いっ・・・イクッ!!!」
開始5分で既に2度目の絶頂。彼女とのエッチで騎乗位は何度も経験しているが、これほど乱れた彼女は見たことがない。木馬の動きも凄いがバイブの強さも相当なのだろう。そして媚薬。とんでもないレベルまで性感が高められているようだ。咲月は涙を流し、涎を垂らし、愛液を飛び散らせながら、何度も何度も絶頂した。手も足もがっちりと拘束されているので身動きもできない。今更助けることもできない。木馬は彼女の媚態を嘲笑うかのようにゆっくりと動いたり、いきなり激しく動いたりと自在な動きを見せている。外からは見えないが、バイブも同様に強弱をつけた振動で彼女の膣内をえぐっているのだろう。色白の太ももは桃色にそまり、腰が無限に動き続けている。

史織の場合は正視できなかった。彼女はその強靱な精神力で、相当に堪えていた。唇をギュッと噛みしめ、モニター越しに花恋を睨みながら、木馬とバイブの振動に耐えていた。
「史織さん、どうしたの?あそこはもうグチョグチョなんでしょ?」
花恋の容赦のない言葉。
「早くイッちゃいなさいよ。いつまでも優等生ぶっても仕方がないじゃない」
「クッ・・・」
何か言おうにも、下半身の刺激が強烈すぎて我慢するしかないようだった。
「あっ、今、すごくビクッビクッとしましたわよね。もしかしてイッたのかしら」
花恋がしつこく史織を言葉責めする。
「花恋、頼むから黙ってくれ」
たまらずそう言うと、花恋はニヤリと笑っただけだった。
「ねえ、史織さん。優人さんがあなたのいやらしい姿をじっと見つめていますわよ。あなたの綺麗な太ももを見ながら、グチョグチョのアソコとかを妄想しているのですわ」
驚くべき事にここまで侮辱されても史織は声ひとつ漏らさず堪え忍ぶ。そんな彼女を見て、花恋は舌打ちをした。
「仕方ないですわね。ねえ、『1号さん』。史織さんの木馬、Bタイプにしてちょうだい」
不吉な予感がして優人が声を荒げる。
「おいっ!Bタイプって何だよ?」
「まあ、見てなさい」
『1号さん』が史織の木馬のスイッチを入れ直した。すると、木馬は前後の動きを止めて、スプリングを使った上下運動に切り替わった。グラインドからピストンへの変化。これにはたまらず史織は悲鳴を上げた。
「いっ、いやぁぁぁ!!!!」
このBタイプは今までの刺激とは比べものにならないくらい強烈なようだった。強力なスプリングの力でバイブに串刺しにされているのだ。
「あっ!あっ!いやっ!・・・いやぁぁぁ」
必死に守っていた防波堤が力づくで決壊させられ、史織は為す術なく波に飲み込まれてしまった。咲月に負けず劣らずの悲鳴で彼女も何度も絶頂を迎えてしまった。

舞も終始、喘いでいたが、咲月や史織のように大きな悲鳴を上げることはなかった。体が慣れてしまっているのか、素直に快感に身を浸し、絶頂の波に身を任せていた。時折、優人を見ては恥ずかしそうに俯く。だが、大人しくて天使のような彼女が下半身を剥き出しにして、快感に喘ぐ姿は優人には刺激が強すぎた。咲月、史織の媚態を見て股間が熱くなったのは事実だが、舞の時は痛いくらいに脈打つほど興奮した。
「あぁ・・・あんっ・・・あふぅ・・・いっ・・・くぅ」
可愛らしい喘ぎ声と絶頂。しばらく彼女から目が離せなかった。

「終了!」という花恋の言葉とともに、『1号さん』の操作で木馬とバイブが停止し、手足の拘束が外された。
「1号さん、隣の小部屋へ彼女達を運びなさい」
ぐったりとして下半身の痙攣が止まない3人。彼女達の下半身にこびりついたローションを温かい湯に浸したタオルで拭き取ると、『1号さん』は一人ずつ抱きかかえて運んだ。そんな様子をただ見守る優人に花恋が声を掛けた。
「楽しいショーでしたわね、優人さん」
満足げな花恋の声。
「ふざけるな」
「あら、食い入るように見ていたスケベさんはどなただったかしら?」
優人は反論できなかった。彼女の言うとおり、最初は怒りに満ちていたのだが、途中からは性的本能が芽生えてしまっていたのだった。大切な仲間達を欲望の対象として見ていたのは事実である。
「ちょっと、休ませてあげてくれ」
「いいですわよ。『1号さん』に飲み物と食べ物を持たせてあげますわ」
そう言うと花恋はモニターから消えた。

しばらくすると、まず、舞が復調したようだった。
「お疲れさま」
そう声をかけると、舞は恥ずかしそうにうつむいた。試練の間、何度も彼女と目が合っている。
「あの・・・私のこと・・・いやらしい女に見えましたか?」
「そんなことないよ」
「・・・そうですか」
優人の答えに満足しない様子で、舞はそっぽを向いてしまった。今日初めて出会った女性である。見た目では分からないことは多々ある。
「辛いことさせてしまって申し訳ない」
「そんなことないです!」
小声な彼女にしては大きめの声だった。
「私、エッチな女なんです。さっきも全然辛くなかった。気持ちよかった。青木さんが見てて興奮しちゃった・・・かな」
そう言って妖艶に目を細める舞に優人は驚いた。と同時に性的な興奮を感じた。股間が漲る。
「あのね、まだ、媚薬の効果残ってて・・・体がうずうずしてるの・・・青木さん」
「えっ、おいっ!?」
いきなり抱きついてきた舞に慌てる優人。舞は優人の耳元で囁く。
「さっきの木馬の代わりになってもらえませんか?」
甘い声。天使の微笑み。胸の感触。火照った体。優人の理性が吹き飛びそうになる。初対面の印象とのギャップが彼女の魅力を引き立てる。だが、優人は首を振った。
「だめだよ、安藤さん」
「舞って呼んでください」
「じゃあ、舞。気持ちは嬉しいけど、僕には咲月がいるんだよ」
わざと怒ったように言うと、舞はシュンとしたように黙ってしまった。
「ごめんなさい、青木さん。でも嫌いにならないでください」
「うん。僕のためにこんなに頑張ってくれているのに嫌いになるわけないよ」
舞はコクリと肯いて、用意された飲み物を口に含んだ。とりあえず、彼女の悪魔的な魅惑から解放されて優人は安堵した。まさかこれほど官能的な女性だとは思ってもいなかった。

そのうち、咲月と史織も体を動かし始めた。
「ふぅ・・・」
第一声はため息。ミネラルウォータを一口、そして温かいスープとお菓子。少しずつ回復する。
「死ぬかと思いました」
「・・・そうね」
ポツリポツリと2人は感想を言い合った。そんな2人に舞が頭を下げる。
「皆さん、ごめんなさい。でも、花恋さんは本当はとっても優しい人なんです」
後輩兼アシスタントとして、2人には申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。
「まあ、いろいろ気配りはしているようだがな」
花恋は、史織や咲月に恥辱、屈辱を与えてはいるが、苦痛や肉体的ダメージに関してはできるだけフォローしようという心配りが見られる。この部屋の快適さ、食事の十分さ。そして、彼女は一切触れなかったが、1時間のはずだった試練は30分程度で終わっていた。
「確かに根っから悪い人ではないみたいね」
咲月が言う。そして腕時計を見ながら続ける。
「30分くらいしか経ってないし」
さすがに気づいていたようだ。史織も不満そうに言う。
「あの女、性格は確かに悪いですが、悪者になりきれてはいないですね。だからと言って、青木さんの妹さんを餌にこのような仕打ちをしていることを許すつもりはありませんが」
優人は史織に肯いて見せた。史織は恥ずかしそうに優人から目を逸らす。どうしても先ほどの彼女の痴態が忘れられない。頑張ってくれたお礼や励ましも何となく言いにくい。間の悪い空気のまま、ゆっくりと時間が流れていった。

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