チェロとバイオリン3

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チェロとバイオリン3
2021年07月17日 10時32分
パツキン素人

3.

 ストーカーがいる、と噂になったのは秋の公演が近づいた頃だった。
 先週の夜間練習の日、何人かの団員が教育センターの気配を探る背の高い男を見たという。
 紘一は気付かなかったが、ユリは江波からその話を訊いて、恐らく彼ね、と言った。
「離婚の話は両親が一度したきりなの。そのあと、彼とは何も話をしてないから‥‥」
 実家にも全然来ないし、と言いながら、ユリはやりきれない表情をしている。ふたりは既に別居状態にある訳だが、それを正式な書類にするには、お互いの家族同士の承諾も必要だとユリは言う。
 良く晴れた日曜の午後―――。
 まだ高い日差しが、じっとりと紘一の額に絡み付く。
 もう季節は秋の筈なのに、オープンテラスのテーブル席を選んだのは間違いだった。
 建物から斜めに張り出した日除けの天幕も形ばかりで、思わず紘一はシャツの袖を捲り上げる。
 街道沿いにある流行りのイタリアンの店で、ユリと遅めのランチを食べながら、紘一は棘のように心の奥に引っ掛かっている事を訊いた。
「‥‥それってさ。もう一度やり直したいって気持ちが、あるんじゃないのかな」
「ううん」
 かぶりを振ってユリは否定する。
「彼はそうでも、わたしはもうだめ。やり直すなんて力、残ってないもの。‥‥でも、もし見かけたら、わたしにだけそっと教えてね。彼と話してみるから」
「ひとりで大丈夫かな。なんなら俺も付いて行こうか?」
 ユリの気持ちを少しでも楽に出来ればと紘一は思う。
「だめよ、そんなの」
 ユリはびっくりしたように大きな眼をして、
「きっと‥‥殺されちゃうから」
 と、脅かすように言う。
「うわ。そりゃあ、怖えぇなあ‥‥」
 紘一も大袈裟に驚くが、ユリは半ば本心かもしれない。
「取合えず見かけたら連絡するけど、どこかで話そうとか言われても、付いてっちゃだめだぞ」
「うん、わかった」
 可笑しそうに笑いながらユリは残りのパスタを巻いている。
「おいユリ。ホントに分かってんのか?」
「うん、大丈夫だから。‥‥でも心配してくれて、嬉しいな」
 つるっ、とパスタを食べると、唇についたトマトソースをユリはゆっくりと舐めた。
 紘一は、ユリの夫を見たことが無い。
 背が高く、割りに精悍な顔つきだという事ぐらいしか訊いていなかったのだが、知らないという事が逆に紘一の中に不安を募らせる。教育センターの周りで不審な人間という事なら多分見当がつくだろうから、練習の時は気を付けるようにするよ、と紘一が話し掛けると、ごめん、バイオリンパートの打ち合わせがあるから、とユリはそそくさと席を立つ。
「じゃ。後でね」
「やれやれ、置いてきぼりか」
 キイキイ鳴る肱掛椅子にだらりと寝そべりながら、颯爽と店を出ていくユリを見送る。紘一はユリの行動力を買っている反面、相手に対して無頓着なところが気になってくる。ユリの夫はそういう所が我慢できなかったのだろうか、と食後の珈琲を啜りながら、紘一は考えた。
 珈琲を飲み干すと、イタリアンの店から車を出し、教育センターに向かう。
 今日の練習は四時からだからすこし早いかな、と思いながらセンターの駐車場に車を入れる。広い駐車場には既に何台かの車が止まっていたが、駐車場の奥の方にもポツンと白いセダンが止めてある。紘一がバックで車を入れようとハンドルを切ったとき、奥のセダンに誰かが乗っているのが視界に入った。遠目ながらも、その男性が紘一から顔を背けたのが手に取るように判る。
 紘一の背中に緊張が走った。
 ―――彼だ。
 心拍が急に跳ねあがる。
 視線がうろうろと定まらないが、なんとか平静を装って車を止める。
 素知らぬ振りをして、トランクからチェロのケースを出し、肩に担ぐと入り口へ向かう。
 センターのロビーに入ったところで紘一はケースを置き、急いで携帯を取り出してユリに電話を掛けた。
「はい。もしもし」
 打ち合わせ中かと思ったが、ユリはすぐに出てくれた。
 いくばかりか、ほっとする。
「あ、ユリ? おれだけど」
「うん、わたし。‥‥何?」
「彼を見つけた。センターの駐車場」
「え?‥‥‥‥そう。わかったわ、ありがとう」
 それだけで、電話は切れた。
(‥‥まだ打ち合わせ中なのか‥‥)
 紘一は駐車場の方が気になって、そっとロビーの中から外を覗う。
 しかし、もうその場所から白のセダンは消えていた。
 その場所だけが、ぽっかりと記憶の中から削除されてしまったようだった。
 夢だったのか、と紘一は立ち竦んでいた。
 暫らくしてからユリが来て、紘一はユリに車種と人相を伝えたが、人違いかもしれないとユリは小首を傾げる。
 結局、白いセダンの男が彼かどうかは判明せず、その後は団員達の間でもストーカーの話が囁かれる事は無くなったが、紘一の脳裏にはウィンドー越しの男の影が何時までも焼き付いて離れなかった。

 楽団は秋の公演を控えて次第に練習時間が増えてきた。
 平日の夜間練習も、週に一度は必ずある。
 全体での合奏は土曜か日曜になるのだが、パート練習や管と弦、若しくは弦楽器だけの合奏と、練習は様々な形で行われる。今迄はチェロのパート練習だけの時もあったのだが、本番が迫って来るとそうはいかなくなる。奏者の技術レベルが均一で無い分、全体の纏まりが求められるからだ。
 その為に、紘一はなんとか仕事の調整をつけて、急いで教育センターに駆けつける。しかし、殆どの団員が練習で顔を揃えても、コンサートマスターの井浦がまったく顔を出さなくなった。井浦がいないと肝心のツィゴイネルワイゼンが練習できない。もちろん近藤先生の指導も受けてはいるが、井浦のOKが出ない事には他の楽曲の練習も思うように進められない。楽団員たちは不安を抱えながらも、それぞれの練習を続けていく。
「‥‥なぁ、斎藤。最近井浦の顔、見たか?」
「あ。井浦さんですかぁ? なんだか、おウチが揉めてるって言ってましたけど‥‥」
「はぁ? 揉めてるって?‥‥なんでだよ」
「なんでも秋山さんのご主人が、井浦さんの家に電話したらしいんですよね。‥‥あの、新田さん。聞いた話なんで怒らないで下さいね」
 斎藤が急に声をひそめた。
「‥‥どうやら井浦さんとユリさんが出来ちゃってるって‥‥」
「おい、なんなんだよ、それ」
 紘一は珍しく斎藤に突っ掛かる。
「それで、ユリの旦那が井浦んちに怒鳴り込んだって言うのか?」
「はぁ‥‥まぁ、そうらしいんですけど」
「うへーっ。どこをどう転んだってそんな話、誰も信じないぞ」
 飽きれたように紘一はそっくり返えった。
 しかし、斎藤は神妙に続ける。
「ユリさんの事はただの噂ですけど‥‥でも、ユリさんのご主人が電話をしたのは本当なんです。その電話にたまたま出たのが井浦さんの奥さんで‥‥。それで井浦さんの家、グチャグチャなんですって。だから暫らく出て来れないと‥‥」
「井浦が言ったのか?」
「ええ。この間、保険の事で会いましたから‥‥もう随分憔悴してみえましたよ、井浦さん」
 斎藤の仕事は保険屋で、楽団のメンバーにもあれこれと保険を勧めている。
(‥‥ユリの旦那は、ユリと井浦が出来てると勘違いしたわけか。確かに井浦はユリのコバンザメだからな‥‥)
「おまえさぁ。早く言えよな、そういうこと。みんな困ってるんだからさぁ」
 紘一はぼやきながら斎藤の肩を叩く。
 でもその日の練習の後に、近藤先生が皆を集めて、井浦くんが体調を崩して暫らく休むという事と、代わりのコンサートマスターには秋山ユリさんを頼みたいと発表した。皆、もちろん異存は無く、ユリの廻りに暖かい拍手の輪が咲いた。ユリは再び、楽団のコンサートマスターに返り咲いた。

 プルルルルルルル‥‥。
 午後八時十七分。
 星を塗り潰したような真っ暗な夜空の下、照明の灯る新幹線のホームに発車のアナウンスが鳴り響いた。二番線に停車していた先発のこだまのドアが、ゆっくりと閉まっていく。
 このホームの一番東にあるキヨスクの前で、紘一とユリは待ち合わせていた。
「やっぱり秋だな。‥‥空気が冷えてきた」
 紘一は思わずジャケットのボタンを掛ける。
 今年の秋の定期公演は、大阪のアマチュア楽団とのジョイントコンサートになった。三日ある連休の中日を使って、大阪のいずみホールで開催される。
 大阪なら当日の朝に出れば十分に間に合うのだが、紘一とユリは楽団のメンバーとは別に移動することにした。こういう時は、大抵の団員が友達同士のグループ毎に移動するが、今回は紘一の方からユリを誘ったのだ。ユリは普段、江波達と行動していたのだが、例のストーカーの噂もあったから、などと理由をつけて江波達を断っていた。
「お待たせ。時間通りね」
 振り返るとユリが大きなボストンバッグを下げて立っていた。
 薄手のダウンのような黒っぽいアウターに、白いセーターとロングの巻きスカートを合わせている。スカートはグレーのチェックで、起毛のような暖かな素材に見える。膝下辺りには、スカートの襞を止める飾りのようなボタンが三つ、付いていた。パンパンに膨らんだ傍らのボストンバッグにはバイオリンを仕舞ってあるらしい。
「おぅ。お疲れ。それ、随分重いんじゃない?」
「紘一は? 送っちゃったの?」
「ああ。俺のは別に高い楽器でもないしな」
「ふふっ。身軽でいいわね」
「チケットはこの間渡したよな。12号車の3Dと‥‥」
「3Eね。うん、大丈夫」
 チケットを確認しながらくすくすっ、とユリが笑った。
「な、なんだよ。可笑しいか?」
「うん。だって、待ち合わせがスパイ映画みたいなんだもん」
「‥‥ったって、仕様がないだろ? 状況が状況だし」
「じゃあ、乗車まで別々にしましょうよ。わたしは向こうに行くから」
 フン、とユリはそっぽを向く。
「いいよ、そこまでしなくても。‥‥この時間に大阪まで移動する奴は居ないって」
「わたしが別居してる事はもう殆どの団員が知ってるのよ。紘一だって一応シングルなんだし」
「おい。イチオウってなんだよ、俺はれっきとした独身貴族さ」
 紘一の反論にユリは口を手で覆ってふふっ、と笑いを噛み殺す。
「だって別に隠れる必要なんてないじゃない‥‥あれ? ひょっとして紘一‥‥まだ彼の事を?」
「べ、別にこわかないぜ。ふん、どっからでも掛かって来いってんだ」
 シュッシュッ、と学生時代に齧ったボクシングの真似をする。
 なぁにそれ、足が止まってるじゃない、と紘一を見たユリが茶化す。
 再びホームのアナウンスが鳴り響いた。
 八時三十四分発の新幹線のぞみがホームに滑りこんでくる。
 先頭車両を見ると例のカモノハシだ。
「来たぞ、いいか?」
「うん。いつでもOK」
「なんなんだよ、それ」
 ふたりは笑いながら降りる客を待ち、入れ替わりにのぞみに乗りこんだ。
 フロアから響く低いモーター音が、ふたりを包み込む。まるで列車の鼓動のようだ。
 座席を確認して、手荷物を上の棚に上げたり、両方の椅子を少しリクライニングさせたりしているうちに、窓の景色がゆっくりと動き始めた。
 無数のネオンが、車窓を静かに流れてゆく。
 モーターの回転音が次第に高くなる。
 週刊誌を取り出してやっと座席に落ち着いた時、窓際に座ったユリが、真っ暗な窓の外を見詰めながら紘一に訊いた。
「大阪は‥‥何時着?」
「さあ‥‥」
 紘一も一緒に窓の外を見詰めながら、言った。
「いつになるのか‥‥」
 ふふっ、なあにそれ、と暗い車窓に写るユリが、微笑んだ。

 洗面に立ったユリが、なかなか戻ってこなかった。
 後ろの通路を振り返って覗いて見るが、人影は無い。
 最終の新幹線は混んでいるものだが、中途半端な時間帯だからか、意外に座席はまばらだった。
「どうかしたかな」
 心配になった紘一は座席を立つと、ユリの行った方へ通路を歩き出す。
 ゆっくりした車両のローリングに、時々座席の背に掴まりながら後部をめざす。
 客室の自動ドアが開き、デッキに出た紘一は、暗い昇降口に佇むユリを見つけた。
 僅かな蛍光灯の明りの下で、デッキの壁に凭れながら、ユリは真っ暗な景色を眺めていた。
「どうした? こんなところで」
「あ、ごめんね。心配させちゃった?」
「いや、別にいいんだけど‥‥一人で居たかったのか?」
「うん。ちょっと考え事、してたの」
 紘一はユリの傍に寄り添った。
 外を見詰めるユリの華奢な肩を、後ろからそっと抱く。
 ユリの甘い香りが、微かに薫って来る。
 レールの継ぎ目の振動が、規則正しく続いている。
「ここで、何を考えてた?」
「ごめんなさい。正直に言うとね。彼の‥‥ことなの」
「‥‥まだ好きなのか」
「可笑しいわね。あんなにぼろぼろになって出てきたのに」
「やり直したいのか? 彼と」
 紘一の口調が少し強くなる。
「そうは‥‥思わないけど‥‥でも、あんなに幸せだったのに、どうしてなんだろうって考えちゃって‥‥まだ、自分なりに理解できていないのね」
「いつまでもジメジメしてるなんて、ユリらしくないな」
「わたしって、結構ジメジメしてるのよ。ジメジメして、その後はぽんっ、て忘れるの。忘れたら、また全力で走れるから」
 紘一は腕を廻して、ユリを向かい合わせる。
「ユリ、俺のことは?」
 紘一の真剣な眼差しに、ユリが一瞬、呼吸を止めた。
 瞳が、潤んでいる。
「俺の事は考えてくれないのか」
 ううん、と微かに首を振って、
「紘一のことは、いつも想ってる‥‥だから‥‥」
 ユリは紘一の広い肩に手を伸ばし、引き寄せるようにして精一杯、抱き締めてきた。
「‥‥許して‥‥」
 唇が、わなわなと震えている。
「ユリ‥‥」
 紘一もユリをしっかりとその手に抱く。
 ユリの柔らかな唇が紘一の唇に重なる。
 まるで生きるすべがそこにあるかのように、お互いの唇をきつく吸い合う。
 紘一の躰の芯に、ぱあっと衝動の火花が散った。
 皮膚の表面が、ちりちりと燃え上がっていく。
 縮こまっていた陰茎が、陰毛の中でじわりと動いた。
 血脈が、海綿体に送り込まれてゆく。
 ユリを求める躰の反応と、ユリを想う紘一の気持ちが、リンクした。
 もう二度と、ユリの夫の事は訊くまい、と紘一は心に誓った。
 これ以上、ユリを悲しませたくは、無い。
(‥‥ユリの中に、俺のしるしを刻みたい‥‥)
 一刻も早く、と躰が急ぐ。
「ユリ‥‥ユリが欲しい」
「‥‥うん」
「今すぐに、ユリを確かめたい」
「‥‥今でなきゃ‥‥だめなの?」
「ああ。今、欲しいんだ」
 熱く沸騰した激情が、躰中をめまぐるしく駆け巡っていた。
 ユリの夫に対する嫉妬が、紘一を駆り立てているのかもしれない。
 しかし、そんな事を考える余裕は無かった。
 ほんの少しでもいいから、ユリと重なりたかった。
 手や唇という接触ではなく、軟らかな粘膜を通して、確実にユリと繋がりたかった。
「うん‥‥いいけど‥‥ここでなの?」
 流石にユリは困ったような顔をしている。
 紘一は通路を見渡すと、『身障者用』と書いてあるトイレを見つけ、素早くユリを曳き込んだ。車椅子でも利用できるように、中は十分な広いスペースが取られている。白々とした無機質な蛍光灯だけが、冷ややかな明りを灯している。
 紘一は回転式の鍵を掛けると、有無を言わさずユリを抱き締めた。
「あん‥‥」
「好きだ‥‥好き‥なんだ‥‥ユリ」
 気持ちが昂ぶって、言葉が途切れる。
「うん、好きよ。紘一」
 荒々しく、ユリのうなじを掻き分ける。
 弾力のある唇を、貪る様に吸う。
「ん‥‥んぅん‥‥」
 ふいに、客車がグラグラと揺れた。
 上りの列車が通過したようだ。
 揺れはすぐに治まり、相変わらず低いモーター音が続いている。
 右手で白い手すりを掴んだまま、左手でユリを抱いて、荒々しく舌を絡ませてゆく。
「ん‥‥あぁぁぁん‥‥」
 腕の中で、ユリがくねくねと身をくねらせる。
 淫らな喘ぎ声に、トランクスの中で陰茎がビクッ、と跳ねた。
 自らの形を殆ど取り戻している。
 高速で移動する密室の僅かな揺れにも負けないように、紘一は両足を少し開いて右手をユリの胸の膨らみに這わせた。セーターの下のゆるやかな起伏が、紘一の脳髄を甘く痺れさせてゆく。
「あ‥‥あぁぁん‥‥」
「胸が、柔らかいよ」
 力を入れず、指先でやさしく撫で上げていく。
「あっ‥‥ああぁぁぁん‥‥感じるぅん‥‥」
 鼻声で、ユリが応える。
 熱い吐息が、紘一をくすぐる。
 左手でユリの髪を掻き上げ、形の良い耳にキスをして、うなじに舌を這わせる。
「あん‥‥いやぁん‥‥」
 コロンの甘い香りが、紘一の鼻腔に染み渡る。
 ユリの細い指が、紘一の硬くなった陰茎にスラックスの上から触れてきた。
 しなやかな感触に、陰茎がびくびく、と緊張する。
「うふっ‥‥すごぉい‥‥」
「ユリが欲しくて仕方ないのさ。練習に追われてたからな」
「大阪に着いてからでも良いじゃない。時間はあるんだから‥‥」
「いや、待てないんだ」
 紘一は否定した。
「止められない‥‥誰かが追ってくるようで」
 それを訊いて、ユリはこくりと頷く。
「紘一の‥‥好きに、して‥‥」
 ゆっくりと頷き返すと、紘一はセーターの上からユリの乳房にキスをした。少しずつ、キスの位置を下げてゆく。
「ん‥‥んん‥‥」
 巻きスカートの隙間から深く右手を差し入れると、思った通り、ストッキングに覆われた滑らかな太腿に触れる。
「あん‥‥だめ‥‥」
 突然、ガラガラと密室の外を車内販売のカートが通りすぎた。
 ふたりは呼吸を止め、耳を澄ます。
 そのまま、カートは止まることなく隣りの車両に入っていった。
 ほっとした右手は、再びユリの太腿をまさぐる。
「あ‥‥んぅん」
 紘一はユリの下腹辺りにしゃがみ込み、巻きスカートのボタンを外した。
 巻きスカートの襞を持ち、左右に開いてゆく。
 黒革のヒールから伸びたしなやかな足が徐々に現れてくる。
「綺麗な‥‥足だ」
「いや‥‥恥かしい」
 ユリの太腿近くまでスカートを開いた紘一は眼を見張った。
 ユリのストッキングは内股の辺りで突然途切れ、その廻りには上品なレースがあしらわれていた。ガーターベルトのものらしい赤いリボンが腰の方から降りていて、かわいらしい留め具でストッキングを止めている。ユリはその赤いリボンの上に、ピンクのシルキーなショーツを履いていた。
「ユリ‥‥‥‥わざわざ‥‥これを?」
「‥‥びっくりさせようと思ってたの。ホテルに着いたら‥‥」
「うん。とても素適だ‥‥嬉しいよ」
 紘一はガーターストッキングに覆われていない、素肌が剥き出しになっている腰骨の辺りを指先で撫でた。
「あ‥‥はぁぁん‥‥」
 紘一は左右に押し開いたスカートの襞を、ユリにそのまま掴ませた。
 新幹線のトイレの中という無機質な密室の中で、ユリの下半身がすべて露わになる。
「こうして、持ってて‥‥」
「う‥‥うん」
 露わな下腹に顔をよせ、淫らな匂いを嗅ぐ。
「ユリの‥‥いい匂いがする」
「う‥‥いや‥‥」
 恥かしそうに、ユリが顔を背ける。
 紘一は構わず、ショーツの両端に指先を挿し込み、静かにピンクの薄布を引き降ろす。
 黒々とした茂みが現われ、僅かに恥毛が逆立つ。
 そのままショーツを下まで降ろし、左足から抜き、右足の踝にそれを掛けたままにする。
「何時見ても‥‥淫らだな」
「そんな言い方‥‥しないで」
「だってそうなんだから‥‥ほら」
―――くちゅっ‥‥
 ユリの足元にしゃがみ込んでいた紘一は、ユリの黒い茂みの奥に中指を挿し入れ、透明な花蜜を掬い取った。
「うっ‥‥」
 びくっ、とユリが反応する。
「こんなところで下半身を曝け出して‥‥随分、躰が悦んでるぞ」
「‥‥いやぁぁん‥‥」
 官能に麻痺した躰は、悦びを隠せない。
 唇がだらしなく半開きになり、瞼がとろんと降りかけている。
「しっ‥‥喘ぎが、聞こえるぞ」
「んっ‥‥んううん‥‥」
 一生懸命声を殺しても、漏れてしまう。
―――くちゅ‥くちゅっ‥‥
 秘花の中でゆっくりと前後する紘一の指先に、ユリはびくびくっ、と反応してしまう。
「いやぁん‥‥我慢出来ないぃ‥‥」
 耐えられない快感に、膝がガクガクと崩れかける。
「もぅ‥‥もぅ‥‥早くぅ‥‥ちょうだい‥‥」
「随分、火照ってるみたいだな‥‥」
 紘一はユリの前に立ちあがった。
「意地悪しないで‥‥誰がこんなにしたの」
「わかった‥‥じゃ、少し足を開いて」
 ユリは自分のスカートの裾を持ち上げたまま、僅かに足を左右に開く。
「まだだ。もっと開いて」
 命じられるままに、じりじりと足を開いてゆく。
 紘一の腰が入る位まで、膝頭が開いた。
 極度の緊張で、ユリの太腿が震えている。
 待ち切れなくて、躰が欲しているようだ。
 紘一はスラックスのベルトを外し、チャックを下ろした。
 スラックスが足元まで落ちてしまわないように、両足を広げる。
 トランクスの真ん中のボタンを外し、反り返った陰茎を取り出す。
 びくびくと血脈が漲る陰茎は笠肉の張りも逞しく、最大に極まった形を保っている。
「足を‥‥上げて」
「え? もっと?」
「ああ‥‥こうして‥‥」
 紘一はユリの左足をぐっ、と抱え上げると、右手をその下に差し込んで、水平に取り付けられた手摺を掴んだ。左手は縦になった手摺をぎゅっ、と握り締める。
 ユリは紘一の目の前で、足を大きく開かれたままの淫らな姿を晒していた。
「ああっ‥‥すごい‥‥」
「欲しくなるだろ‥‥もうここが、欲しいって言ってるぞ」
 反り返った陰茎が、ユリの茂みの奥に触れている。
 たっぷりと濡れた小陰唇に、くちゅくちゅと陰茎が当たっている。
「そう‥‥欲しい‥の‥‥‥‥あん‥‥大丈夫だから‥‥いっぱい‥‥いっぱい欲しいのぉ‥‥」
 ユリの望む声に、紘一は踏ん張っていた腰をぐっ、と突き上げた。
「あうっ‥‥」
 一瞬、ユリが仰け反り、白い首筋を見せる。
 ぐにゅうぅぅ、と狭い肉感を感じた後、陰茎は熱い膣の中に滑り込んでいた。
「ああぁぁぁぁぁぁ‥‥す、すごぉい‥‥」
 わなわなとユリの唇が震え、必死に嬌声を噛み殺している。
 はぁはぁと紘一も荒い呼吸だ。
 ゆっくりとユリの中を前後しながら、ぬるぬるとした肉襞を楽しむ。
「ユリ‥‥俺の形が分かるか」
「うん‥‥うん‥‥」
「ちゃんと‥‥分かるか」
「うん‥‥もう‥‥紘一から‥‥抜けられないの」
 緩やかにカーヴした紘一の陰茎を、ユリの柔らかな肉襞は優しく包み込んでいた。
 陰茎が挿し込まれているその刹那、確実に紘一はユリを繋ぎ止めていた。
 ユリ‥ユリ‥と声を漏らしながら、紘一はユリの中を激しく動き始める。
 扉の向こうを何人かが通り過ぎたようだが、今は声を押し留める余裕も無い。
 紘一は密室の手摺に掴まり、ユリの中に陰茎を押し込んでゆく。
 ユリは片足を大きく持ち上げられたまま、必死に紘一を抱き締めている。
 堅い陰茎が、ぬめった膣を何度も突き上げる。
 ユリのわななきの隙間を、肉感的な湿った音が埋めてゆく。
「紘一‥‥いい‥‥いい‥‥」
 紘一の下半身に、全身を融かすような熱い感覚が産まれた。
 ざわざわっ、と躰が震え始める。
 背中に廻したユリの手が、紘一のシャツをぎゅっ、と掴む。
 ユリの中に挿し込んだ陰茎がびくっ、と跳ねた。
 同時に、ユリも全身を硬直させる。
 突き上げるスピードが早くなるに従って、うわ言の様にユリは歓喜を繰り返し、意識を薄れさせてゆく。
「すごいぃぃ‥‥すごいぃぃ‥‥」
 流石に人の気配が気になって、紘一はユリの唇をキスで塞いだ。
 うんっ‥うんっ‥とくぐもった声をユリが漏らす。
 陰嚢がぐうっ、と縮み上がってきた。
 耐えきれない官能が全身を襲う。
「ユリ‥‥ユリ‥‥好きだ‥‥好きだ‥‥す‥き‥‥だ‥‥」
 うんうん、とユリが応えた直後、ユリが仰け反った。
「すごい、すごい、すご‥‥いっ‥‥‥‥すうっ‥‥ごっ‥‥‥いっっっ‥‥ぃいぃぃぃぃぃ‥‥」
 先にユリが絶頂を越えていく。
 荒々しく突き上げる陰茎もその限界を超えた。
 びくっ、びくっ、と脈打つ陰茎を奥深くに挿し込んだまま、紘一もユリの中にどくどくと熱い吐息を吐き出していく。
 手摺を持つ手が握力を無くし、今しも落ちてしまいそうだった。
 ひくひく、と痙攣しながら、ユリが手摺をずり落ちていく。
 紘一もユリの中に陰茎を挿し込んだまま、支え切れずに崩れてゆく。
 ずるずると、手摺を持つ手が滑り落ちる。
 大阪に向けてひたすら疾駆する新幹線の冷たい床に、折り重なるようにしてはぁはぁと荒い息を吐きながら、ふたりは暫し、座り込んでいた。

 京都駅着のチャイムを聞いて気が付いたふたりは、通路に人が出てくる前に密室を後にした。
 個室の内部が清潔に清掃されていたお蔭で、ずり落ちていた紘一のスラックスも汚れたような痕は殆ど無く、ユリのスカートも染み一つ無かった。ふたりは通路でお互いの後ろを確認した後、席に深く腰掛けてしばし無言でいた。京都駅を出ると、大阪まではもうすぐだ。
「‥‥ユリ、手とか腕は大丈夫か?」
「‥‥うん、大丈夫。鍛えてるもん」
 ユリは腕を出して力こぶを作る真似をする。
「さぁすがぁ‥‥トレーニングは欠かさないんだ」
 紘一は少し茶化すが、紘一自身、ユリの努力には舌を巻いている。
「別居してからはバイオリン一筋だったわね。音大の先生に教えてもらう時間も出来たし‥‥」
「実家で随分、楽してんだろ?」
「わかる?‥‥ふふっ。どうしても甘えちゃうのよね‥‥出戻りで迷惑掛けてるのに、悪い娘だわ」
 ハンセイ、と笑いながらユリは紘一に凭れかけた。
「でも、井浦でなくて良かったよ。サラサーテはあいつがやりたいって言ってたのにいい加減なんだから」
「ふふっ。でも、井浦さんにも悪い事しちゃったなぁ」
 ユリは少し反省する様に言う。
「いいんだよ、あれくらい。音楽の神様の罰さ」
 大阪着のチャイムが鳴り、続いて案内のアナウンスが流れ始めた。
 あちらこちらで溜息やら伸びをする声が聞こえる。
 ユリはバッグの中のバイオリンを確かめ、上着を取り出した。
 ホテルは港の方だから乗り換えの路線を何処かで聞かなくちゃ、と話ながら身なりを整える。
 静かに開いた新幹線のドアから人波に押し出されるようにして、紘一とユリは新大阪駅のホームに降り立った。

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