チェロとバイオリン4

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チェロとバイオリン4
2021年07月17日 10時33分
HYPNO ART
DUGA

4.

 大阪のアマチュアオーケストラは素晴らしい陣容で、第一、第二バイオリンとも紘一達の倍近くの人数だった。いずみホールの広い舞台に所狭しと楽器が並び、隙間だらけの鹿取市民アマオケとはまったく比べ物にならない。
 演奏も充実した弦の力そのままに、重厚な上に荘厳な雰囲気さえ持っている。舞台袖から覗いていた紘一達はその演奏に圧倒され、ただ溜息をつくばかりだった。
「さすがですねぇ、新田さん。皆さん上手いですよぉ」
 斎藤も感激して声が上ずっている。
「所詮アマオケなんだから中にはヘタな奴も居るんだろうが、ちゃんと音の出る奴が揃ってる。花を持たせてもらって、逆に損をしたかもな」
「困ったなぁ、僕なんか誤魔化しが効きませんよね」
「いいんだよ。皆、やることやってきたんだ。ここまで来たら楽しんで演ろうぜ。ウチには秋山ユリっていう、すげえコンマスがいるんだから大丈夫さ」
「そ、そうですよねぇ。ユリさん、最近すごいですもんねぇ」
 ユリのバイオリンは以前にも増して格段に上手くなっていた。いや、上手いという域を既に越えているのかもしれない―――。
 夫と別居してまでもバイオリンを手放さなかったユリの行動は、別の見方をすれば狂気とも取れるだろう。安定した生活や、夫婦の絆までをも彼女は破壊し、ものの見事に捨て去ってしまったからだ。夫婦の間にも様々なすれ違いがあったとはいえ、彼を捨ててバイオリンを取った、などと言われかねない。
 しかし、それらの醜聞や雑念が、ユリを更にバイオリンに向かわせる要因となったのは確かだろう。狂ったように弦を掻きむしり、弓を叩き付ける。その姿は救いを求める殉教者の様でもあり、また全てを受け入れる聖母にも思えた。
 紘一自身、練習中のユリには近寄りがたいものがあった。いつも明るくにこやかな表情のユリが、バイオリンを構えると一転して厳しい表情に変貌していく。
 ああ、バイオリンを持った時のユリはユリじゃないんだ、と紘一は思った。
(‥‥ユリの眼にはバイオリン以外何も映っていないのか‥‥)
 紘一は夢中で練習に没頭するユリを、何時も遠くから黙って見詰めていた。

 大阪のアマオケの演奏が終わり、十五分程の休憩の後、次に演奏をする鹿取市民オーケストラの団員が舞台袖に集結した。客席はほぼ満席で、楽団が舞台に揃うのを今や遅しと待ち侘びている。
「皆さん、気を楽にして。‥‥一緒に大阪の夜を楽しみましょう」
 指揮の近藤先生が皆の緊張を感じ取り、声を掛ける。
 団員達はぞろぞろと舞台に出ていってチューニングを始める。
 控え目だった照明が段々と明るく、輝きを増してくる。
 近藤先生と一緒に司会の人が舞台に出てきて、鹿取市民オーケストラの簡単な紹介をしている。
 紹介が終わり、客席からの拍手が途絶える頃に先生は指揮棒を振り上げ、紘一達はボロディンの曲から演奏を始めた。
 特に可も無く不可も無く、淡々と曲目が進んでいく。
 大阪のアマオケに気圧されたのだろうか、今一つ、楽団に覇気が無い。
 客席のノリも悪い。
 聴衆は大阪のアマオケを聴きに来た訳だから、やはり先に演奏させて貰えば良かったな、と紘一は思う。
 次はもう最後の曲だ。
 バイオリンソロに備えて、ユリがすっ、と席を立ち、正面に進み出る。
(‥‥たのむぜ、ユリ。こいつ位はガツーンと行ってくれよ‥‥)
 ラストの曲は、例のツィゴイネルワイゼンだ。
 これが井浦でなくてよかったと思ってる団員は多いだろう。
 紘一はスコアを確認して再度、ユリを見た。
(‥‥どうか、したのか?‥‥)
 ユリはその場に立ちすくんだまま、バイオリンを構えようとしないで客席を見詰めている。いや、どちらかと言うとユリは客席の、ある一点を睨んでいるようだ。
 紘一はユリの視線をすばやく追った。
 客席の前から3列目の中央付近に、どこか見覚えのある男性が座っている。
 じっと腕組みをして、怒ったような険しい顔をしている。
 紘一の背筋にズキッ、と緊張が走った。
(‥‥あれは‥‥いつかの白いセダンの男だ‥‥)
「新田さん、あれ‥‥ユリさんの」
 斎藤が後ろで囁く。
「わかってる。‥‥とにかく、ユリについて行くぞ」
「はい」
 舞台の照明が強く、逆に客席側は薄暗いために、紘一は彼が来ている事に全く気が付かなかった。
 ユリも今、始めて気付いたらしい。
 団員達の何人かはユリの異変に気が付いているようだ。
 紘一はユリの精神状態が気にかかる。
 前の公演の時のように荒れるかもしれないが、フェルマータの塊みたいな曲だから多分大丈夫だとは思うが―――。
 ユリは彼を睨んだまま、ゆっくりとバイオリンを構えた。
 今にも客席に降りていって掴み掛かりそうな勢いだ。
 近藤先生はユリの表情に気が付かないのか、団員を見廻して、いつもの様に指揮棒を上げる。
 皆、一斉に構える。
 指揮棒が振り下ろされた。
 瞬間、悲劇的な旋律が最大のフォルティッシモでホールに鳴り響いた。
 ティンパニが地響きのように打ち鳴らされ、物語の始まりを告げる。
 間髪を入れずユリのソロパートだ。
 一歩進み出たユリは、ジプシーの悲哀をバイオリンで語り始める。
 動揺している様子も無く、落ち着いた音色に紘一は安堵した。
(‥‥よし、熱くはなってるみたいだが、大丈夫だ‥‥)
 ユリは自分を見失ってはいない。
 そればかりか、今夜のユリは甘く艶やかな音色の中に、何物も寄せ付けないような凄みを隠していた。男性の弾くツィゴイネルワイゼンとは異なる解釈が加えられて、シルクのように優しく清純でありながらも小悪魔のような可愛さを併せ持ち、淫らな色気さえも漂わせている。
 漂泊するジプシーの運命をいたずらに悲しむのではなく、ユリは自由に愛を語り、慈しみ、アップテンポになる後半では、ジプシー達の踊りの輪の中で一緒に歌い、踊っているかのようだった。
 紘一は伴奏しながらもユリのバイオリンに耳を傾けていた。
 団員のみんなもそれぞれにユリの演奏を聴いているようだ。次第に、団員の気持ちがユリのバイオリンに集中していくのが判る。ユリの息遣いやその鼓動が、喜びと悲しみが、団員の一人一人を魅き寄せていく。
 ユリがカデンツァに入ると、オーケストラ全体が華やかな煌きへと一気に昇華し始めた。
 紘一達のツィゴイネルワイゼンは詰め掛けた客席の人波を越え、ホールを越えて、果てしなく広がっていく。
(‥‥これがオーケストラ、か‥‥)
 何故か目頭が熱くなってくる。
 スコアが滲んで読めなくても、指が旋律を覚えている。
 全身が興奮し、細かに震えるのを感じながら、紘一は無意識の内にチェロを弾く。
 最後の畳みかけるような早い旋律も苦にはならない。
 気分が高揚し、何時までもチェロを弾いていたいような衝動に駆られる。思い通りに弾けなかった早いパッセージも、難なくこなして行く。
 ユリが髪を振り乱している。
 陶酔したように、無心にバイオリンを弾いている。
 オーケストラの熱気が最高潮に達した。
 近藤先生が両手を握り締めたまま突き上げる。
 最後までバイオリン・ソロを弾き切ったユリが放心したようにゆっくりと天井を見上げた時、紘一達の永遠のツィゴイネルワイゼンは終わっていた。
 ホールの空気が一瞬、しんと張り詰めた。
 三秒間程の空白の後、切り裂くような拍手が客席から沸き起こった。
 観客のほぼ全員が立ち上がって拍手をしている。
 ブラボー、ブラボーと誰かが叫んでいる。
 ユリが素適な笑顔で客席に会釈をしている。
 照明がキラキラと眩しく降り注ぐ舞台の上で、ホールを埋め尽くす絶え間無い拍手の波間に、紘一達はいつまでもゆらゆらと、揺れていた。

 アンコール曲は一曲しか用意していなかったが、ユリが遊びで弾いていた弦楽四重奏曲を音大の仲間と即興で弾いて、無事に大阪の公演を締めくくる事ができた。
 客が引けた後の舞台裏は楽器の搬出と片付けで、にわかに慌ただしくなる。
「‥‥終わったな」
 紘一は呟いた。
「‥‥うん。なんだか‥‥気持ち良かった」
 楽屋前の廊下の壁に、満足したようにユリは凭れかかっていた。
 通りかかる団員達は次々にユリに声を掛けていくが、ユリの耳には届いていないようだ。
「彼が来てたな。気にならなかったのか?」
「‥‥ううん、最初はね、怒ってたの」
「はは。よく我慢したな」
「うん‥‥でもなんだか変なんだけど、ね‥‥」
「‥‥何?」
「彼がわたしのバイオリンを聴くのは、もうこれが最後かな‥‥って思いながらバイオリンを構えた時‥‥足元に小さな女の子が近寄ってきたの」
「女の子?」
「うん、そう。外人のね、髪の毛の縮れた女の子。臙脂色の服がちょっと汚れてて‥‥ほら、ジプシーの子供みたいな‥‥」
「ツィゴイネルワイゼン‥‥ジプシーの旋律‥‥か。思い入れが強すぎて、幻覚でも見たんだろ」
「うん。そうだと思う。でもね‥‥その子が何か弾いて欲しそうにしてたから、おねえちゃん、今から悲しい曲を弾くんだけどそれでもいい?って聞いたら、嬉しそうな顔をするの。それで‥‥弾いてあげたの‥‥」
 ユリは遠くを見るような眼をして、微笑んでいた。
「‥‥ふうん」
「ホントに変でしょ?‥‥でも、曲に合わせてその子がくるくると踊ってくれて‥‥楽しかったなぁ‥‥」
「今日のユリは特別だったのさ。きっと音楽の‥‥何かに触れる事が出来たのかもな」
「わたし、幻覚とか幻聴とか信じないんだけど‥‥今はなんとなく、分かるような気がする」
 突然、何処かで人の騒ぐ声が響いてきた。
 ロビーに向かう通路の方から、何人かの争う声が聞こえてくる。
 斎藤が息せき切って走ってきた。
「あ、ユリさん。あの。‥‥ご主人が合わせろって騒いでるんですが」
「え?彼が来たの?」
「ええ。入り口でウチの何人かと押し問答してるんですけど、どうします?」
 紘一はユリの手を引っ張った。
「斎藤、後は任せる。俺はユリを裏口から逃がすから」
「あ。ちょ、ちょっと、紘一。バイオリンのケースも‥‥」
 紘一は楽屋に戻るとケースとバッグを引っ掴み、ユリの手を引いて裏口に急いだ。
 相変わらず通路の奥で誰かの怒号が聞こえる。
 ふたりはガードマンのいる通用口を抜け、裏通りでタクシーを拾う。
 宿泊先のホテル名を告げ、シートに転がり込む。
 無愛想な運転手は黙ってドアを閉め、車を出した。
 紘一はもう一度、後ろを振り返って確認する。
「もう‥‥大丈夫だろう」
 はぁはぁとふたりの荒い息が、タクシーの車内に続いている。
「残念だわ‥‥自分でも納得できた演奏だったのに」
 ユリは口惜しそうだった。
「世の中には音楽の嫌いな人も居るんだ‥‥人それぞれだよ」
 紘一は疲れた身体をどっかりとシートに沈めた。
 ふたりを乗せたタクシーは、知らない道を右に左に曲がりながら、派手なネオンの際立つ大阪の街へと、吸い込まれていった。

 遮光カーテンをさっと開くと、窓の外には良く晴れた大阪港のパノラマが広がっていた。
 何艘もの貨物船やコンテナ船が停泊し、遠くまでコンテナヤードが続いている。
 取りたてて何の変哲も無い港の風景だが、それでも海を見続けていると、自然に穏やかな気分になる。
 紘一は早朝の大阪港を、シーガルホテルの大きな窓からいつまでも眺めていた。
「‥‥う~ん‥‥」
 ユリが目を覚ましたようだ。
 昨日はホテルのラウンジで軽い夜食を取ったのだが、興奮覚めやらずでオーダーストップまでつい飲み続けてしまった。ふらふらした足取りでなんとか部屋まで戻り、倒れるようにベッドに潜り込んだ所までは覚えている。
「ユリ、大丈夫か?‥‥随分飲んだろ」
「ぅうぅぅん‥‥」
「シャワーでも浴びよう。すっきりするから」
 追い立てる様にして、ユリをバスルームに連れ出す。
 寝間着や浴衣を投げ捨てるようにして裸になり、熱いシャワーの中に飛び込む。
 このホテルはバスルームにも窓が取ってあり、ちょっと恥かしいくらいに、明るい。
 ふたりは子供の様に歓声を上げながら、シャワーヘッドを取合い、シャワーを掛け合う。
 温かな飛沫が散り、躰に沿って流れてゆく。
 髪の毛までずぶ濡れのユリを抱き締め、笑いながらキスをする。
 だめ、と言いながらユリも紘一の唇を吸う。
 紘一がユリの乳房をやさしく揉みしだくと、ユリもそっと紘一の陰茎に手を伸ばす。
 ゆっくりとお互いを確かめ合い、下半身が反応し始めた紘一は、
「ベッドに‥‥いこう」と、ユリを促した。
 シャワーから出たふたりは、ぽたぽたと落ちる雫を拭うことなく、ホテルのバスローブをそのまま羽織った。タオル地のバスローブはしっかりした厚手の物で、水分を良く吸ってくれる。
 全開のウィンドーを眺めながら風呂上りにベッドに寝っころがるというのはとても開放感があって、躰がうーんと伸びをする。
 ユリも濡れた髪をそのままにして、紘一の隣りにゆったりと躰を預ける。
「ああ、そうだ」
 サイドキャビネットの上の携帯に気付いた紘一は、腕を伸ばして携帯を取り上げた。
「‥‥何か連絡が入っているかもしれない」
 起きあがって携帯を開くと、やはり『不在着信アリ』になっている。
 留守電には、斎藤です電話をお願いします、とだけ録音されていた。
「何だろう‥‥あの後、怪我人でも出たのかな」
 薄笑いを浮かべながら紘一は斎藤に電話をしてみる。
「‥‥もしもし。斎藤です」
「よう、昨日はお疲れ。あの後、大丈夫だったか」
「え?‥‥ええ、まあ‥‥大丈夫でしたけど。‥‥あの、新田さん。ユリさんって、ご一緒なんですよね」
「ん?‥‥ああ、そうだけど‥‥」
 紘一は軽く舌打ちをした。
 打ち上げにも参加しなかったからバレてるだろうな、とは思ったが―――。
「ユリさんのご主人から、伝言があるんですが‥‥」
「伝えといてやるよ。何?」
「あの、すみません。‥‥直接伝えてくれと言われてまして」
「ふ~ん。‥‥そうか」
 紘一は携帯をユリに手渡した。
「彼からの‥‥伝言があるそうだ」
「え?伝言?」
 ユリはベッドの上に起き上がると、携帯を耳に当てた。
「‥‥もしもし‥‥替わりました」
 ぼそぼそと斎藤の声が漏れてくる。
 ウンウンと俯いて話を聞いていたユリは不意に口元を指で覆い、声を詰まらせた。
 ユリの瞳がみるみる潤んで、ぼろぼろっ、と雫がこぼれ落ちる。
 白いタオル地のバスローブに、こぼれた雫がきらきらと光りながら、染みていく。
 紘一は思わず携帯を奪い取った。
「おい斎藤、どうしたんだ」
「新田さん‥‥あの、秋山さんのご主人なんですが‥‥バイオリン、がんばれよって、言ってました。それをユリさんに伝えたくて楽屋まで来たそうです。それをぼく達が止めたものですから押し問答になっちゃって‥‥秋山さんのご主人、泣いてました‥‥俺は恥かしいって‥‥皆の前で‥‥」
「そうか‥‥わかった。ありがとう」
 紘一は携帯を閉じた。
 ユリは溢れる涙を指にすくっている。
「‥‥大丈夫か、ユリ」
 濡れた指もそのままにしてユリは暫し呆然としていたが、やがて気が付いたように顔を上げると、紘一に訊いた。
「‥‥許して、くれたのかしら」
「多分‥‥な。ユリのしてきた事が、やっと理解できたんだろ‥‥でも遅かった、という訳か」
 紘一はベッドに寝転がると大の字になった。
「‥‥ひとりになって、やっと分かったの‥‥わたし、彼に甘えてたんだわ‥‥甘えた自分に、腹を立てて、怒ってたのよね」
 紘一は、ぼそっと呟いた。
「‥‥元に、‥‥戻るのか」
 ユリは即座にかぶりを振った。
「戻らない‥‥戻れないの‥‥一度ずれてしまったら、もうお仕舞いだから‥‥後戻りは、出来ないの‥‥」
 瞳を潤ませたまま、ユリが紘一の上に覆い被さってきた。
「‥‥ユリ」
「紘一、キスして‥‥」
 ユリが、唇を重ねてきた。
 ぽつぽつ、と紘一の瞼に涙が落ちてくる。
 唇を濡らした涙の塩味が、紘一の舌に残る。
―――ちゅっ‥‥ちゅぅぅぅっ‥‥
 柔らかな唇が、小さな舌が、紘一の脳髄を痺れさせてゆく。
 ユリの熱い吐息を、紘一は漏らさぬように吸い尽くす。
 濡れたユリの髪が顔に掛かる。
 血脈が、一気に陰茎に通い始める。
 次第に形を取り戻して、びくびくと脈打ちながら起き上がってゆく。
 紘一はユリのバスローブの紐を、荒々しく解いた。
 バスローブを左右に開き、生まれたままのつるりとしたユリの躰を指先で撫でる。
「ああん‥‥」
 ユリの躰がぶるっ、と震え、乳房が妖しく揺れる。
 紘一は躰をずらし、四つん這いになったユリの乳房の下に潜り込んだ。
 下から持ち上げるようにして、たっぷりとした重みを両手で楽しむ。
 たぷたぷ、とした乳房の軟らかな感触と、時折り薫る、甘い匂いが紘一を狂わせていく。
「あ‥‥はぁん‥‥」
 紘一は首を持ち上げ、右の乳首を口に含む。
 硬くなった乳首を転がす様に愛撫すると、電流に撃たれたようにユリが躰を硬直させる。
「うっ‥あうっ‥」
「ユリ、乳首が‥‥硬くなってる」
「う‥うん‥‥感じる」
 更に片方の乳首を左手できゅっ、と摘み、右手を陰毛の茂みに絡めると、中指を花陰に挿し込んだ。
―――くちゅっ‥‥
「あ‥‥あぁあんん‥‥」
 花陰の外側は意外にさらさらとしていて、濡れたような感触は無かったが、割れ目から奥に向かって指先を挿しこんでゆくと、待ち兼ねたように熱い雫が溢れてきた。
「ユリ‥‥中はもう濡れてるぞ」
「‥‥だって、紘一が好きなんだもん‥‥キスしただけで、濡れちゃうんだもん‥‥それに‥‥」
 好き、と言われて、紘一の乱れたバスローブの下から極まった陰茎がびくん、と弾み出た。
 ずきずきと硬く、張り詰めていく。
「‥‥それに?」
 紘一はユリに訊いた。
 ユリは後ろに手を伸ばして、硬くそそり立つ陰茎にそっと触れた。
「‥‥濡れてるじゃない。紘一だって」
 細い指できゅっ、と締め付けられて、陰茎がまたびくっ、と跳ねた。
 先端の尿道口から、透明な雫が滴っている。
「ユリが好きなんだから、仕方ないさ」
 まるで他人事のように言い放つと、ユリの腰に手を廻し、ユリの躰をゆっくりと落としていく。
 花陰が陰茎にに近づいてゆく。
 ユリのバスローブが肩口から外れ、ほっそりした肩と、二の腕が露わになっている。
 半開きになった唇からは、はぁはぁと荒い呼吸が吐き出されている。
 縮れた恥毛が陰茎に触れた。
 ユリは眼を閉じて、股の隙間から手を伸ばすと極まった陰茎をかるく握り、位置を合わせる。
 陰茎が外側の肉襞に触れた。
―――くちゅっ‥‥
 割れ目に沿って暖かな花蜜が滑っている。
 陰茎に押され、小さな肉襞がめくれてゆく。 
「あ‥‥はぁぁん」
 陰茎を握ったユリの手が、前後に動いている。
 硬くなった亀頭に蜜を擦りつけ、自分の肉襞に塗り広げている。
「うっ‥‥ああぁぁ‥‥」
 亀頭への刺激に、紘一がぐっ、と仰け反る。
 ぬるぬるとした感触に、陰茎がまたびくっ、と反応した。
 ユリは腰の位置を僅かに下げて、その中心に亀頭を捕らえる。
 ゆっくりと、躰の中に納めてゆく。
―――ぬちゅぅぅぅ‥‥
 狂おしそうに眉を潜め、唇をめくり上げている。
「あん‥‥あぁん‥‥ぁぁあああぁぁん」
 ユリの声が一際大きくなり、艶やかにきらめき出す。
 膣が一度狭くなるような感触があり、更に力を込めてぐぅぅぅっ、と挿し込まれてゆくと、紘一はユリの膣の中に、ぴったりと納まった。
 熱いシャワーを浴びていたせいか、ユリの中はとても熱く、陰茎が熱を帯びたように感じる。
 粘膜の襞が、うねうねと紘一を包み込んでいく。
「ユリの中が‥‥中が熱いよ」
 はぁぁん‥‥と吐息を吐きながら、薄目を開けて、ユリが妖しく微笑んだ。
 頬が紅潮して、ふるふると小刻みに震えている。
「‥‥紘一が‥‥あん‥‥入ってる‥‥冷たくて‥‥んっ‥‥気持ちいい‥‥わ」
 ユリはつま先を立てて紘一の肩に手を突き、ゆっくりと腰を上下し始めた。
 ぬるぬるとした肉襞が紘一の陰茎を撫で上げ、また、ゆっくりと呑み込んでいく。
「‥‥紘一を‥確かめたいの‥‥あぁん‥‥これが‥紘一ね‥‥紘一なのね‥‥」
「‥‥ああ」
 紘一は震えながら上下するユリの腰に手を添えたまま、唸った。
「ユリと‥‥ひとつになってる‥‥繋がってるんだ、俺達‥‥」
「ぁああん‥‥いい‥‥いいぃぃ‥‥繋がってるのが‥‥キモチ、いいの‥‥」
 ユリは紘一の上に寝そべると、下腹と胸を紘一にくっつけて、腰だけを浮かせた。
 背中をぐうんと反らし、丸い臀部をきゅっ、きゅっ、と持ち上げて、膣全体で陰茎をこすり上げていく。
「あん‥‥‥こうすると‥‥あ‥‥あ‥‥いいぃ‥‥いいわぁ‥‥」
 リズミカルにお尻が上下する。
 敏感な亀頭を、ぬるぬるとした肉襞が包み込み、愛しそうに撫で上げてゆく。
 反り返った陰茎の幹を、割れ目に沿った大きな肉襞が挟み込み、むにゅむにゅと動き回る。
「あん‥‥あん‥‥あん‥あん、あん、あん‥‥」
 溜息を吐きながら、ユリの動きが次第に早くなってきた。
 紘一も両足を突っ張り、押え付けられた僅かな空間をこじる様にして、ぐっ、ぐっ、と陰茎をユリに挿し込んでゆく。
「あっ‥‥うっ‥うっ‥うっ‥‥あん‥‥いいぃ‥‥いいのぉ‥‥」
 痛いほどに反り返った陰茎が、ユリの粘膜のぬめりにどうしようもなく悦び始める。
 ゆるんでいた陰嚢がきゅっ、と縮みあがり、下半身が痺れたような感覚に満たされていく。
 陰嚢の奥に築かれた精の泉が急激に満杯になっていって、今にも堤が切れてしまいそうだ。
「あん、あん、あん、あん‥‥いや‥いや‥‥いやぁん‥‥」
「ユリ‥‥ユリ‥‥」
 躰の限界が近づいた事を紘一は知らせる。
「‥‥んぅん‥‥いやぁん‥‥このまま‥‥このまま‥ちょう‥‥だい‥‥」
 時折り襲う強烈な快感に、紘一にぴたりと重なったユリの躰がびくっ、と硬直する。
 紘一はユリの背に両手を廻し、ユリの躰をぎゅうっ、と抱き締めた。
 ユリの丸いお尻と、紘一の腰の動きが激しくなる。
 はぁはぁと息遣いが荒くなり、お互いの恥骨が何度も打ち付けられる。
 強く眉を潜め、物をねだるような、泣きそうな顔をしている。
「あ、あ、あ‥‥あぁん‥‥あん、あん、‥‥あん‥だめっっ‥‥だめぇぇ‥‥」
 びくっ、びくっ、と細い躰が痙攣して、ユリが先に頂点を超えていく。
「あ、あ、あ、‥いくっ‥‥あ、いくっ‥あ、いくっ‥‥‥‥‥いっ、くっっ、うっっっっ‥‥」
「んっ‥‥んっ、‥‥ぅうぅぅ‥‥」
 精の堤も一気に切れ、どくどくどく、とユリの中で熱く弾けてゆく。
 躰の中で、陰茎がびくびくびくと烈しく跳ねる。
 精を送りこみながらも、紘一は更に腰を押し込む。
「うっ‥‥うっ‥‥うぅぅぅぅ‥‥」
「あん、あん、‥‥‥‥あぁぁぁ‥‥‥‥」
 細く長く息を吐き出しながら、ユリが緊張をゆるやかに解いていく。
 バスローブの前を肌蹴たまま、ふたりはぴたりとくっついて、紘一とユリは官能の空間をゆっくりと降下していく。
 際限なく、どんどん、どんどん落ちていく。 
 ふっ、と現世の意識が遠退いた時、ふたりは際限の無い深い眠りに、落ちていった。

「アメリカに、行きたいな‥‥」
 指先で紘一の胸板を遊びながら、ユリがぽつりと囁いた。
 そう言えば、紘一はユリが外国にこだわる訳をまだ訊いていなかった。
「どうして‥‥アメリカなのさ。日本でもバイオリンは弾けるのに」
 ふふっ、とユリは笑う。
「だって、出来るの、英語だけだもん。」
 そんなの答えになってないぞ、と笑いながら紘一は傍らのユリを抱き締めた。
 頬が、少し冷たい。
 バスローブのままでいたから、躰が冷えてきたようだ。
「ね、紘一‥‥紘一もアメリカに行かない?」
「え?俺もか?」
 紘一は苦笑しながら起きあがる。
「うん‥‥私がバイオリンで頑張るから」
「俺は‥‥無理だな。仕事があるし。それにユリに食べさせて貰うっていうのもな。‥‥ユリ、日本じゃダメなのか?」
「‥‥うん」
 ユリの表情に影がさした。
 紘一は不意に、ユリの立場を思い出した。
 彼女にとって、ここは住み難い国なのかもしれない。
「日本が‥‥嫌い‥‥なのか」
「違う。違うわ‥‥」
 ユリは否定した。
「確かに‥‥紘一の知らないことがわたし達にはいっぱいあるけど‥‥生まれ育った国だから、それだけで嫌いになるわけじゃないの。そうじゃなくて‥‥もっと挑戦したい、っていうのかな‥‥自分を試したいのよ」
「ここでだって、プロにはなれるぜ。まだ勉強する事があるんじゃないのか」
「立ち止まりたくないの。いつも、走っていたいの‥‥全力で‥‥」
「‥‥‥‥全力で、か‥‥」
 紘一はベッドからゆっくりと立ちあがると、窓に近づいて、目の前に広がる大阪港を見渡した。
 大阪港のずっと向こうは、もう霞が掛かった様にかすんでいる。
 知らないうちに、太陽が高く登っている。
「先に行けよ、ユリ。俺はここにいる。疲れたら、戻ってくればいい」
「‥‥‥‥‥うん。‥‥‥‥そうね。‥‥待っててくれる?」
 紘一は振り返って、精一杯の笑顔を作った。
「ああ、待ってる。有名になれよなユリ。仲間に威張れるぜ」
「ふふっ。‥‥ありがとう、紘一」
 涙で溢れそうに潤んだ瞳で、秋山ユリは微笑んだ。

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