3. 再会
結局、今日もここに来てしまった。
ビルの谷間の壁に囲まれた空間‥‥偶然フラッと吸い込まれて見つけたこの空間が僕は好きだった。全てから遮断されて、薄暗い空気にやわらかく包み込まれるような感じ‥‥
家には帰りたくても帰れない‥‥いや、帰れるけど帰りたくない、というのが正確かもしれない。母さんはいつもの[あの男]の所に泊まって帰って来ないし、父さんは家でいつもイライラしてるから、僕は朝早くに家を出て、バイトが終わると街をブラブラしながら時間をやり過ごして、夜遅くみんなが寝静まった頃にそっと家に戻るしかないんだ。
身を寄せられる友達は‥‥いない。学生の頃はもっと友達がいたような気がしたけど、ふと振り返ると腹の底から信頼できる友達は一人もいない、って事に気付いてしまった。
寂しかった。
「好きにしていいよ‥‥」
その一言が頭から離れない。
何故、僕は[あの人]にあんな事をしてしまったんだろう?
[あの人]の後ろ姿が黒猫みたいにしなやかで、艶かしかったから。
そして、どこか寂しそうだったから‥‥
本当は、もっと優しくしたかった。何より、優しくされたかった。
だけど、あんな方法しか思い浮かばなかった‥‥
「好きにしていいよ‥‥」
それなのに、あの人は僕を受け入れてくれた‥‥[初めて]を捧げてまで。
何故、貴方はそんなに優しいのですか?
あの日以来、僕は寂しくなるといつもこの場所にたどり着く。あの人の幻影と一緒に居るだけで、心が優しく満たされるから。
そして、時にはココロだけでなくカラダも慰めてくれる‥‥所詮は自慰行為だけど、この場所だと一人じゃないような気がするから。
見られたのかな?
昨夜、ここから出ていく時にバッタリ顔を合わせた‥‥女の人だったと思うけど、なんでこんな場所に入って来たんだろう?
もしかしたら[あの人]かもしれない。
もし、あの人に再会できたら‥‥僕には何ができるんだろう?
謝んなきゃ。
土下座でも何でもいい、まずはあの日の事を謝らないといけない。到底許してもらえる事ではないって分かってはいるけど‥‥
その後、たった一瞬でもいいから‥‥もう一度優しくしてくれたら、微笑みかけてくれるのなら‥‥
「ぅわっ‥‥!?」
全く突然の出来事だった。後ろから二本の細い腕がスッと伸びてきて、驚く暇も与えずにすごい力で僕の身体を締め付ける。
背中に強く押し付けられた、二つの固い蕾とやわらかい感触‥‥まるで女の乳房のようだった。
二本の見知らぬ腕の中で、今にも心臓が爆発しそうになる。
誰‥‥?
後ろを振り返ろうとしたその時、長い指が首筋に食い込んできて‥‥ジワリ、ジワリ‥‥ゆっくりと喉笛を締めていく。
‥‥苦しい、目の前がだんだん白くなって‥‥地面から足が離れて浮かんでるみたい‥‥、‥‥怖いよ、苦しいよ‥‥
頭がボゥッとして意識が途切れそうになる瞬間、絡み付く指から力が抜けて‥‥僕は何回も何回も深呼吸をした。心臓が真っ二つに裂けてしまうぐらい激しく脈を撃って、どうしようもなく怖くて恐くて‥‥今すぐにここから消えてしまいたかった。
「壁際まで真っ直ぐに進みな。後ろは振り返るなよ‥‥」
低くて冷たい囁きと白くて細い腕に再びギュッと締め付けられて‥‥僕に選択権は無かった。
壁際の角まで僕を追い詰めると、身体を捕えていた腕からようやく力が抜ける。束縛は消えたけど、そこはもう逃げられない場所だった。
「‥‥あっ‥‥、‥‥ちょっ、やめてください‥‥そんな所、触らないで‥‥」
長い指が僕の性器に伸びて、ズボンの上から怖いぐらいに優しく、やわらかくそれを愛撫する。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。ほら、力を抜いて身体を預けて‥‥悪いようにはしないから、ね」
さっきとうって変わって、優しく解きほぐすような耳元の囁き‥‥どっちが本当なんだろう?どうするつもりなんだろう?[女]なのは確かだと思うけど‥‥
そんな迷いとは裏腹に、愛撫されたモノはすっかり硬く、熱くなっていた。そっと撫でるようにゆっくり上下しながら時々微妙に力を込めてくる‥‥そんな指の動きがすごくいやらしい。
「スゴいね、こんなにおっきくなっちゃって‥‥気持ちいいんでしょ?いつも一人でこんな事してるの?」
気持ち良くて恥ずかしくて、心がちょっとだけズキッとした。独り身の寂しさを見抜かれて、その上で背中の体温と指遣いがとても優しい‥‥
貴方は‥‥誰なんですか?
「こっちを向きなよ」
ハスキーで甘い囁き声が僕を誘う‥‥二本の腕から完全に解放されて、ドキドキしながらゆっくり身体を回すと‥‥
背の高い女の子だった。
鮮やかな黒髪と肩から腕にかけての白い肌がとても印象的で、黒いシャツの真ん中には鈍く光る銀の十字架‥‥夕焼けの赤に照らされた立ち姿はまるでトンボみたいだった。
思い出さずには、いられなかった。
[あの人]は長い指をスッと伸ばして、まるでワイングラスのように僕の顔を引き付ける。
微熱を帯びた視線が真っ直ぐに突き刺さってきて、金縛りと麻酔を同時にかけられたみたいに動けなくなってしまう。薄い微笑みをたたえた表情が優しくて、でも底無しに怖くて‥‥
気が遠くなる程の時間、僕らは無言で見つめ合った。
端正な顔がすうっと近付いてきて、半開きになった唇に瑞々しい唇を隙間なく吸い付けて‥‥ゆっくりと、僕を奪っていく。
密着した口の中、やわらかい舌が時には舌先や唇の裏をチロチロとくすぐるように動いて、時には舌全体を掬い取るように深く突き刺してきて‥‥波のように満ち引きを繰り返しながら口の中の隅々まで味わい尽くそうとする[あの人]の舌の動きに、僕は無抵抗のまま甘く酔いしれていた。
思えばちゃんとキスするのはこれが初めてかもしれない。前の時は無我夢中で押し倒しただけだから、こんな感覚を味わう余裕も無かった。
こんなにも甘くて優しくて、熱くて痺れるものだったんだ。まるで全身の生気が吸い取られていくような‥‥
粘りつく唾液をゆっくりと伸ばしながら唇が離れると、まるで深い海底から水面に浮かび上がるみたいだった。甘酸っぱい唾液の感触がいつまでも神経を犯し続けるから、僕は外の空気を何回も大きく吸って、なんとか正気に戻ろうと試みる‥‥そんなおかしな姿を、あの人は微笑みながらじっと見つめていた。
「ひさしぶりだね」
少し低くて、落ち着いていて、甘ったるい声。優しく包み込む声の中で僕は子供のようにボーッとして‥‥何か言わなきゃ、何か話さなきゃ‥‥そうだ、謝らないと‥‥
だけど、何かを言おうとしたその時、いきなりギュウッ、と強く抱き締められて‥‥開きかけた唇が再び塞がれてしまう。
僕から言葉を奪った唇は、顔や首筋のあちこちをついばむようにめちゃくちゃにキスを降らせる。たまらなくくすぐったくって、でも逃げられなくて、押し付けられた乳房がズキズキする程やわらかくて‥‥硬くなった股間にまで腰をグッと密着させてくるから、まるで壁を背にして押し倒されてしまったみたいだ。
「名前、なんて言うの?」
耳たぶに口づけながらあの人が尋ねる。僕はなんとか唇を動かして答える。
「セイ‥‥」
「セイ君、か‥‥ねぇセイ君、キミはなんでいつも独りでここに来るの?寂しい時に癒してくれる人とか、いないの‥‥?」
あの人‥‥今こんなにも近くにいる[あの人]が、熱い舌で耳の中をピチャピチャと溶かしながら僕の名を呼んで、こんなにも優しいセリフを囁いてくれる。声から肌触りから全てが僕を包み込んで、甘くゆらゆらと浸されると涙が出そうになって‥‥
腕の中で小さく頷くと、やわらかい手のひらが頭をそっと撫でてくれた。
嬉しかった。
「あなたは‥‥名前は、なんて言うんですか?」
もう[あの人]では遠すぎる‥‥もっと近くに感じたくて、僕は尋ねる。
「樹‥‥って呼んで」
さっきとは反対の耳に吹き込まれた、甘美で真実な答え。
[樹]‥‥さん?
「樹さん‥‥?」
「ん‥‥いいねぇ、その呼び方。さん付けされるなんて生まれて初めてだよ‥‥嬉しいよ、セイ君」
嬉しい、って言われて、耳の中にたっぷりと唾液を塗り付けられて‥‥気持ちいい‥‥いつまでもこのまま浸っていたい。
でも‥‥そうだ、あの時の事、謝らなきゃ。
「あの‥‥樹さん」
「‥‥なぁに?」
澄んだ瞳が真っ直ぐに、怖いぐらいに僕を見つめる。
「あの‥‥あの日の事、悪気は無かったんだけど‥‥でも、実際あんな事しちゃって‥‥‥‥ごめんなさい。僕を、許して下さい‥‥」
‥‥こんな言葉いくら言ってみたって、謝って済むような事ではない。途中からは樹さんの顔を直視することもできなかった‥‥でも今、僕ができるのはただ謝る事だけだった。
「セイ君‥‥、‥‥ねぇ、顔を上げて‥‥アタシを見て」
優しい言葉に誘われて顔を上げると‥‥そこにはさっきと同じ微笑みを浮かべた顔があった。
「樹さん‥‥」
なんだか救われるような気がして‥‥嬉しくて、泣きそうになりながら樹さんを見つめる。
すると、樹さんは僕の肩に腕を回して、グッと身体を引き寄せて‥‥
ドスッ――
「‥‥‥‥っ!」
まるで高圧電流のような痺れが下腹部から体中に走って‥‥しばらく間を置いてジワジワと迫ってくる痛みとともに、僕は今起こった事を理解していった。
こんなに強烈な[蹴り]、今まで食らったこと無い‥‥
「今さら謝るんじゃねーよ、なぁ‥‥あんな事しといて取り返しなんかつかないんだよ」
痛みでうずくまった僕に容赦無く浴びせられる、凍てつくほどに冷たい視線‥‥怖いよ。こんなにも急に表情を変えることができるなんて‥‥
おなかがズキズキと痛くて息が苦しくて、全身に力が入らない。でも、きっと樹さんはもっと痛い思いをしたんだろうな‥‥カラダもココロも。
ごめんなさい、樹さん‥‥
しばらく立てなくてうずくまっていると、樹さんが僕の目線の高さに屈み込んできて、額にそっと口づけしながら僕の身体を抱え込む。
「ゴメンね、手荒なマネしちゃって‥‥立てるかい?」
そのまま身体をグイッと持ち上げて、倒れないように壁の角に寄り掛からせる。けれどまだ身体には力が入らなくて、壁に支えられながら棒立ちの状態を保つのが精一杯だった。
気がつくと、いつの間にかベルトを外していた細い指がズボンとトランクスをゆっくりと剥がして、裸の下半身をぬるい外気にさらしていく‥‥僕は何も出来ずに、樹さんの流れるような動作をただ眺めるだけ。
肌に触れるコンクリートの感触がザラザラと冷たくて‥‥焦らすようにゆっくり脱がされていく内に自分自身が欲情して、樹さんの目の前で長く大きくそそり立ってしまう。
「へぇ、結構いいモノ持ってるじゃん。こんなに長くて先っぽも大きくて、ステキだよ‥‥ねぇセイ君おねがい、今ここでオナニーしてくれないかな?」
えっ?‥‥思わぬ[おねがい]にハッとして尋ねる。
「‥‥もしかして、昨夜そこで見てたのは‥‥樹さん?」
上目遣いでクスクス微笑いながら樹さんが答える。
「艶っぽかったよ、昨夜のセイ君‥‥だからおねがい、目の前でもう一度見たいの」
半分優しさ半分欲望の微笑みが僕を捕えて‥‥なんだか恥ずかしいのとホッとしたのが混ざったような、ヘンな気持ちになってしまった。
「‥‥始めてよ」
戸惑いながらも、ゆっくりと手を動かして行為を始める。夕焼けの赤もだいぶ薄れて暗さが増してきた狭い空間の中、そそり立つ自分自身だけが妙にはっきりと目に映る。
樹さんと二人で共有する空間はいつもよりジットリと蒸し暑くて、動かす手に滴り流れる汗がローション代わりとなって自分自身に塗り付けられる‥‥クチャッ、ヌチャ、ヌチャッ‥‥汗で濡れた手の間から湿った音が漏れる。
「ヤラしい音させちゃって‥‥フフ、先っぽが濡れちゃってるよ。もしかしてガマン汁ってヤツかな?」
好奇心に満ちた瞳で僕を見上げる樹さん‥‥話す時のちょっとした吐息さえも僕を感じさせてしまう。空気がいつもより肉体一つ分だけ熱くて湿っぽくて、危険なニオイを察知した自分自身がはち切れんばかりに膨らんでズキズキと痛い。
一人と二人って、こんなにも違うんだ。樹さんがただそこにいるだけで、愛撫する手がもう一本増えたみたい‥‥
「セイ君ったらこんなにおっきくしちゃって‥‥ねぇ、そんなに気持ちいいの?」
「気持ち‥‥いいです。今日はいつもより特に‥‥」
「いつもここでオナニーしてるの?」
「‥‥うん‥‥寂しかったりイヤな事があったりするとここに来て‥‥なんだか落ち着くような気がするんだ」
「‥‥もしかして、アタシの事を想ってたりするの?」
下から見上げる樹さんの澄んだ瞳がとても真剣で‥‥ドキドキしながら僕は答えた。
「‥‥なんだか、この場所に来ると樹さんに癒されるような気がして‥‥優しさにすごく救われるような気がしたから、だから今日ホントに会う事ができて、すごく嬉しかった‥‥」
下半身裸でオナニーしながらの告白‥‥ものすごく間抜けな状況で笑ってしまいそうだけど、思いの丈は本当だった。
「好きにしていいよ」
そんな優しいセリフで僕を受け入れてくれるのは樹さん以外に考えられないから‥‥
「ウソつき」
えっ‥‥?
突然に僕を突き刺す鋭い言葉‥‥その真意が知りたくて、すがるように樹さんに尋ねる。
「なんで‥‥?」
「‥‥セイ君が想っていたのはアタシなんかじゃなくって、セクシーなオンナのカラダなんじゃないの、ねぇ?」
ちょっ、いくらなんでもそんな‥‥
「そんな事無いよ、僕は本当に‥‥」
「綺麗ゴト言うなよ、なぁ‥‥昨夜オナニーしてた時、アタシのお尻を後ろからズボズボ突き刺して犯す場面とか、想像していたんだろ?」
ハスキーでドスの効いた囁き。怖いぐらいに意地悪な視線に射すくめられて、思わず手が止まってしまう‥‥何も言い返せなかった。だって、今でも樹さんが言ってたシチュエーションをそのまま想像して、僕は自分自身をさらに熱く硬く興奮させていたんだから。
その今にも弾けそうなモノに、突然フウッと湿った吐息を吹きかけられる。
「ぅぁ‥‥!」
寒気のような弱い電流のような刺激が脊髄を走って、思わず全身がブルッと震えてしまった‥‥悔しいけど、逆らい難く気持ちいい。
「こんなに長く硬くしてアタシを汚して奪っていったくせに‥‥もしカラダが無かったとしたら、アンタはアタシの事思い出せるの?」
射抜くような瞳の真正面で、僕は何も答えられなかった。何を言ってもウソになってしまいそうだから‥‥そして、そんな自分自身が悔しくて哀しかった。
硬くそそり立ったまま行き場の無くなった自分自身に、樹さんの長く細い指がやわらかく吸い付いてくる。
「‥‥もし、本当にアタシの事を想っているんだったら、自分の欲望ぐらいコントロールできるよね‥‥フフッ、さぁセイ君はどこまで堪えられるかな?」
蛇に睨まれたカエルみたいに、僕は逃げることも拒否を口にすることもできない。上目遣いで僕を捕える妖しい目つきはまるで人質に拷問する兵士みたいで、何故かとても楽しそうだった‥‥
細い指がゆっくりと上下に動いて、まるで自分の指のように的確な強さでソレを包み込みながら、徐々に熱を帯びて少しずつ快感を塗り付けていく。
蒸し暑さでジワジワと涌き出る汗が、ソレと指の間を滑って絶好のローション代わりになる。自分で手を動かしてない分、ヌチャヌチャ‥‥というヤラしい音がダイレクトに耳を犯していく。
「‥‥ハァ‥‥、‥‥ハァァッ‥‥ぁ‥‥」
表情に出さないようにガマンしても、息が乱れていくのをどうすることもできない。下からチクチクと僕を突き刺す熱視線から逃れるために顔を目一杯そむけてみたりもするけど‥‥それは無意味で哀しい抵抗でしかなかった。
「‥‥ぅあっ‥あ‥‥」
熱い舌先が先っぽの割れ目をチロッと突っつく。続いて裏筋や亀頭の淵にも‥‥ピチャッ、ピチャッと突っつかれる焦れったい快感が、湿った吐息と一緒にボディブローのようにゆっくりと僕を追い詰めていく。
「あっ‥‥ぅわダメッ、くすぐったい‥‥イヤ、ダメぇ‥‥」
「ほぉら、やっぱりカラダは正直だ。もっと気持ち良くしてって、先っぽからよだれを垂らしながら訴えてるよ‥‥ホントは早く口の中に入れて欲しいんだろ?」
樹さんは突然スッと立ち上がって、頭の後ろに腕を巻きつけて強く口づけする。ワザとらしく押し付けられた胸のふくらみ、甘くてかすかにしょっぱい舌の味と自分自身をやんわり虐め続ける指のうごめき‥‥体中の感覚が勝手に足し算されて、ある行為の場面が頭の中に導き出される。
ビデオでしか見たことのないフェラチオの映像‥‥自分のモノが唇にくわえられる眺めって一体どんなだろう?
口の中はきっと熱くてやわらかいんだろうな。亀頭に唾液をたっぷり塗り付けられたらそのまま溶かされてしまいそう‥‥
「イッちゃいなよ」
たった一言の甘い囁きが、果てしなく広がった妄想に火を付けて爆発させてしまった。
もうガマンできない。口でも子宮でもいいから、樹さんの中で絶頂を迎えてみたい‥‥カラダが目的?それでも構わないさ。
樹さんは再び僕のモノの前に屈み込んで、僕のモノを指先でそっと捕まえる。そして‥‥僕の膨らみきった亀頭をゆっくりと、甘い吐息を被せながら口の中に導いた。
ジメジメして熱い洞窟の中で、焦れったいぐらいゆっくりと舌が絡み付いてくる。思ったほどすぐには感じなかった‥‥けど、熱い舌に撫でられたり弾かれたり、塗り付けられた唾液をジュルッと吸われたり、返しに湿った吐息をたっぷり吹きかけられたり‥‥してる内に段々とおかしくなっていく。
竿に絡み付く細い指は、ガチガチに固まったソレをマッサージするみたいに強く弱く優しく揉む。指の拍動に合わせて血流と神経がドクドクと股間の一点に集中して、愛撫する舌と指の動き以外は何も分からなくなっていく‥‥
「ぁ‥‥ぅぁダメ‥‥はぁっ、つっ‥‥ハァ‥‥」
舌先のわずかな動きだけで全身が痺れたり震えたり、好きなように弄ばれてしまう‥‥自分で樹さんを抱いた時よりも今のほうが全然気持ちいい。あの時の僕は無我夢中だったけど、今の樹さんは醒めた目で僕を観察しながら、自在に快感へと導いているみたいだった。
「セイ君のってホントにおっきいね。先っぽだけで口が一杯になっちゃうよ‥‥フフ、もっともっと欲しいなぁ」
まるで欲情するのを計算済みのようなセリフを囁きながら、熱い唾液をツゥッと竿に滑らせる‥‥少し遅れて、痺れるような弱い電流が体中に流れる。
「はぁ‥ぁ‥‥ぁっ」
竿全体にたっぷりと唾液を塗り付ける舌のうごめき。ぬるい空気が流れるだけでもゾクッと感じてしまう‥‥唾液に混ざった遅効性の毒が全身に回って、なんか頭までボーッとして‥‥
「‥‥大丈夫?」
「‥‥ぅ‥ぁぁ樹さぁん‥‥イッちゃてイイ、かなぁ?」
途切れとぎれに願望を口にしてみたけど、正直イケるかどうかも分からなかった。その前に頭がおかしくなってしまいそうで‥‥
「ラクにしてあげるよ、愛しいセイ君」
僕の感極まった表情を察して、甘い声で樹さんが答える。そして、僕の大きいモノを亀頭からズブズブと唇の中に飲み込んでいく。
長いモノの半分ぐらいまでくわえ込んでおきながら、なおも唇を突っ張らせて奥まで飲み込もうとする‥‥ヤラしいというよりも、剥き出しになった樹さんの肉欲が底無しに怖かった。
飲み込んだソレを唾液まみれにしながら吐き出して、熱い吐息をつきながら再び飲み込んでいく。その往復運動はだんだんと早く、激しくなっていった‥‥
ブチュッ、ブチュッ‥‥ジュブジュブッ、ジュルルッ‥‥ジュルッ、ジュ‥ブッ‥‥
ダメぇ‥‥今まで虐められた分まで一気に感じちゃって、あっという間に昇り詰めてしまう。
「ンン‥‥ん、セイ君の‥スゴく、美味しい。入りきらないよ‥‥もっとぉ‥‥」
さっきまでの醒めた樹さんとはまるで別人のように、淫らな音を立てて夢中で僕を貪っていく。女性が本当に男を求める時はこんなにも激しく狂ってしまうのか‥‥なんだか本当に怖かった。
「ぁぁ‥‥樹さんもうダメぇ、このままじゃあ口の中に出しちゃうよぉ‥‥」
「いいよ、きて‥‥アタシの中をセイ君でいっぱいにして‥‥」
快感に溺れる最期の瞬間‥‥でもイキそうでなかなかイケなくて、精力だけが唇に吸い取られていく。身体に力が入らなくなって、膝がガクガク震えて立っているのもつらい‥‥
でも、その時は突然にやってきた。
「はっ、はぁぁ、イク‥‥あっ出ちゃうよぉ‥‥」
その瞬間、樹さんは僕のモノを両手でしっかり捕まえて‥‥全てを受け入れてくれた。
ドビュッ‥‥ビチャッ、ビチャッ‥‥ドクッ、ドクッ‥‥
樹さんの熱い口の中に、僕はたっぷりと精液を注ぎ込んだ。こんなにいっぱい出したのは初めてかもしれない‥‥満足感と罪悪感が混ざった甘酸っぱい余韻が後頭部を痺れさせる。
しかし、樹さんはそれでもまだ足りないのか、出し尽くしたはずの僕のモノにジュルジュルと音を立てて強く吸い付く。
「うぁ‥‥樹さんもうダメだよ、やめて‥‥もうダメ‥‥」
身体の中身まで吸い出されるみたいにくすぐったくて、立っているのもつらい。快感よりもむしろ貪られる苦痛が身体を支配していく‥‥
僕を吸い尽くした唇が離れると、動く気力すら無くなって壁に身を預けてボーッとしてしまう。まるで身体の中が空っぽになってしまったような感じ‥‥そんな僕の目の前で樹さんは妖しく微笑む。そして長い両腕を後ろに回して身体を強く引き寄せて‥‥
えっ、これってもしかして‥‥イヤ、それはやめて、やめて‥‥
心の中でいくら訴えてみても身体が言うことを聞かない‥‥なす術も無く唇がこじ開けられて、そこに僕の精液をたっぷりと含んだ唇が隙間なく吸い付けられた。
ドロリ、とした熱い液体が口の中にいっぱい流れてくる。味や匂い以前にその感触がイヤで、背筋にゾクゾクと寒気が走ってしまう。でも、その液体は紛れもなく自分の性器が吐き出したものだから、自分のモノに自分自身が犯される、って事なんだ‥‥
そのドロリとした液体を樹さんのやわらかい舌がじっくりとかき回す‥‥どうして、こんなモノを口にしても平気なんだろう?それが[愛]だとしたらそれは本当にすごいと思う‥‥舌にかき回された液体が口中に塗り付けられると、言いようのない感触の中にほのかに甘い匂いを感じた。
あぁそうか、樹さんはこの感触を僕に伝えたかったんだ‥‥
白濁色の液体をツウッと伸ばしながら唇が離れていくと、僕は急に気が抜けて膝をカクンと折ってしまう‥‥そのまま倒れそうになった僕を樹さんは慌てながらも力強く支えてくれた。
「あらら‥‥っと、大丈夫かい?‥‥ははっ、ちょっとセイ君には刺激が強すぎたかな?」
そのまま僕の身体を壁に押し付けて安定させると、樹さんは耳元に唇を移して、低く甘く囁いた。
「分かった‥‥?オンナを愛するっていうのは、こんなにドロドロしたモノを身体の奥深くにブチまけちゃうって事なんだよ。決して綺麗ゴトなんかじゃないんだよ‥‥それだけはよぉく覚えておいてね、可愛いセイ君‥‥」
僕をグッと抱き寄せる樹さんの腕はとても熱くて優しかった。でも心の奥には得体の知れない恐さも‥‥ただ、今はこの深い胸の中で何も考えずに漂っていたかった。できるだけ長い間、ずっと‥‥