七月の満月の頃4

女性もえっちな妄想をしてもいいんです。
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アダルトな読み物のお部屋

七月の満月の頃4
2021年07月27日 18時08分
フェチ界

4.人形遊び

「脱がせてよ」

 えっ‥‥?

 突然の樹さんの言葉の真意が分からなくて、僕はすっかり戸惑ってしまう。
「ほら‥‥どうしたの?」
「脱がせてって‥‥シャツとか下着とか?」
「そうだよ‥‥ねぇ、もしかしてアタシが怖いの?」
 強い視線で僕をクギ付けにしながら、樹さんが挑発を仕掛けてくる。
「まさか今さら[僕にはキミは抱けません]なんて言わないよね‥‥セイ君に拒否する理由は無いはずだよ、だってもうアタシを知ってしまってるんだから。さぁ、セイ君の手でアタシを裸にして‥‥抱いてよ」
 僕の前に立ちはだかって、さも楽しげな笑顔を見せる樹さん。単純に嬉しそうで、でも何かを企んでいそうで‥‥だけど僕が何を思っていても、吸い込まれるような瞳から逃れる術は無かった。

 ボディラインにぴったりと合った細身の黒いシャツ。その裾の辺りに手を伸ばして、少しずつめくり上げていく。現れたのは透き通るような白い肌と、贅肉一つ無い研ぎ澄まされた肉体だった。
 ゆっくりめくっていく手が胸の手前でピタッと止まる。ぴったり合わせた細身のサイズなので、ふくらみを乗り越える時に多少の抵抗を感じるのだった。
「んん‥‥イイよ」
 躊躇する僕を樹さんは優しい声で促す。プルンッ、という抵抗を感じながらシャツを上げると、そこには形のいい乳房が何一つ纏わずに現れた。
 薄暗くて分からなかったけど、ノーブラだったんだ‥‥
 そんなに大きくはないけど見るからに張りのありそうな白いふくらみに、僕はほぼ無意識の内に指先を伸ばす‥‥思い出すのは、樹さんの後ろ姿に追い付いて夢中で抱きついた夕暮れ時の出来事。背中から腕を伸ばして乳房を捕えた時に感じた、あの何とも言えない優しい弾力‥‥
 指先でじかに乳房に触れると、まるで火花のようにその感触が蘇ってくる。もっと感じたくなって、僕は両手をそっと乳房に被せようとする‥‥しかし樹さんはその手をやんわりと制して、
「まだだよ、全部脱がしてから‥‥ね」
 と言いながら鋭い視線で僕を突き刺すのだった。
 腕を伸ばして黒いシャツを取り去ると、次はひざまついてジーンズのボタンに手をかける。これもまたお尻のラインにぴったりのサイズで、シャツの時以上にドキドキしてしまう。
 チャックをゆっくりと下げて前を開けていくと、中からは研ぎ澄まされた肉体が再びじかにその姿を現す。
「もしかして、こっちも下着無し‥‥なの?」
 上目遣いで樹さんに尋ねると、笑いながら首を横に振る。でも、白い肌は余りにも無防備にさらけ出されていて、僕に眩しい想像を突き付けてくる‥‥
 はやる気持ちを押さえながらゆっくりとジーンズを下げる。筋肉質で弾力のあるお尻の手触りにドキドキしながら太もものあたりまで脱がせると、そこには‥‥
 黒のランジェリー。
 いけない領域をギリギリで覆い隠す、妙にヒラヒラとした黒い布。その隙間に映える白い柔肌からはまるでケモノのような匂いがした‥‥

 服を脱がせてランジェリーだけになった樹さんの裸体は、薄暗い空間の中で抜き身の刀のように妖しく光る。

「驚いた?‥‥フフッ、今日はちょっとこういう気分なんだ。昨夜、セイ君の艶っぽい姿を見て、あれからカラダが疼いちゃってさぁ‥‥」
 樹さんはひざまついている僕の肩にそっと手をかけて、ゆっくりと、しかし逆らえない力で地面に押し倒した。
「あっ‥‥樹さん、手がちょっと‥‥痛っ!」
 僕の両腕を膝で押さえ付けるようにして樹さんが腰の上にまたがる。これで僕は逃げることも手を出すこともできない。
「セイ君のオナニーをたっぷり見せてもらったお返しに、今度はアタシのも見せてあげるよ‥‥手を出しちゃダメだからね」
 何故だか楽しげな歪んだ笑顔で地面に横たわる僕を見下ろしながら、長い指をゆっくりと胸に伸ばして程良くふくらんだ乳房を軽く揺すってみせる‥‥膝と地面に挟まれた手のひらが少しばかり痛むけど、白い裸体が余りに綺麗で自然に目が向いてしまう。

「セイ君、見て‥‥」

 乳房を下から支える指が少しずつ食い込んで、やがて淫らに動きながら乳房全体を大きく変形させていく。弾けるようなやわらかさを楽しむ奔放な指遣いをじっと見ていると、[あの時]のトレーナー越しの乳房の感触がイヤでも甦ってくる。
 目の前で動く指よりも、あの時の僕のほうがもっと強く激しく乳房を虐めていた‥‥はずだ。
 長い指は乳房を強く揉みながら乳首にも伸びて、指先で挟み込むようにして器用に刺激を加えていく‥‥ハァ、ハァ、と息を乱しながらも、見下ろす視線は僕をしっかり捕えて離さない。
 あの時の樹さんも、乳房をいいように虐められてだんだんと息を乱していったんだっけ‥‥もう一度、自分の指で樹さんをあんなふうに感じさせてみたい。
 けれどそれは未だ叶わぬ願いだった。僕の両手は樹さんの膝の下で自由を奪われたままで、何もできないまま妄想だけが頭の中でふくらんでいく。

 あの指が自分の指だったら、もっと激しく、優しく乳房を包んであげられるのに‥‥

 やがて胸を揉む手の片方が股間に移って、ランジェリーの間に潜ってもぞもぞと動き始める。
「‥‥ぁ‥‥ハァ‥‥ぅぁ、ぁ、ハァァ‥‥」
 乳房と股間で長い指を激しく躍らせながら、樹さんが少しずつ乱れていく。身体をくねらせる度に白い乳房の真ん中で銀の十字架がチラチラと輝いて、眩いほどに美しい裸体を一層飾り立てる。
 ランジェリーの中でうごめく指は、さすったり、かき回したり、弾いたり‥‥という動作を繰り返しながら、少しずつ激しい動きに変わっていった。

 初めて樹さんのそこに指を伸ばした時は、まだ堅い感触を充分にほぐすこともできなかったけど、今、黒い布の向こうにあるそれはきっと熟した果実のようにやわらかくて、股間で硬く疼くモノも優しく受け入れてくれるんだろうな‥‥

 ピチャ、クチャクチャ‥‥ヌチャッ、ヌチャッ‥‥

 うわぁ、音が立つぐらいに濡れちゃってるんだ。見たいんだけど見えそうで見えない‥‥その焦れったさが頭の中の妄想をさらに加速させる。
 触ってみたい。自分の指で濡れた性器を包み込んで、めちゃくちゃに虐めてしまいたい‥‥あの中の感触ってどんなだろう?僕を熱く包み込んで、きつく締め付けてくれそうで‥‥股間でズキズキと脈打つモノをその中に突き刺してしまいたい。壊れてしまうぐらい激しく、いちばん奥まで‥‥

 なに考えてるんだろ僕は‥‥黒い布の向こう側を想像してるだけなのに、こんなにも気が狂ってしまいそうになるなんて‥‥

「ねぇ‥‥セイ君、見てる?‥‥ハァア‥‥アタシ、すごくヤラしいでしょ‥ほぉら‥‥」
 ランジェリーのお尻をワザとらしくくねらせて樹さんが挑発を仕掛けてくる‥‥やわらかな曲線の揺らめきを追いかけると、目がグルグルとかき回されてしまいそうだ。
「あぁ‥‥アソコがグチョグチョに濡れちゃって、もう限界。セイ君‥‥おねがい、コレ外しちゃってぇ‥‥」
 甘ったるい声で呻きながら樹さんは僕の側に移ってきて、まるでランジェリーを見せ付けるように目の前で膝立ちしてみせる。しなやかな太ももが眩しいぐらいに綺麗で‥‥手を押さえ付ける重しも僕と樹さんを隔たてる距離も、もうそこには無かった。
 やわらかなお尻に指を伸ばして、黒く薄い布を引き裂いてしまわないように、そっと、ゆっくりとずり下ろしていく。剥き出しになった桃色の果実は汗をかいたようにじんわりと熟れていて、唇から溢れ出た蜜が内股を滴ってずり下げる指の動きを追う‥‥
 最後に足首から黒い布を取り去ると‥‥ほら、僕の目の前で天使が裸になった。
「ありがとうセイ君。ほらここ、こんなに濡れちゃってさぁ‥‥触ってごらんよ。ずっとガマンして想像してたんでしょ?」
 誘われるのも待ちきれなくて桃色の果実に指を伸ばすと、そこはもう熱い蜜で満たされていてとろけそうだった。前は僕を拒否するように堅く閉じていた唇が、今はまるで僕を誘うように淫らに笑っている‥‥
「セイ君ったら、ここばっかりじぃーっと見つめてるんだもん‥‥欲しいんでしょ?この中に入れてみたいんでしょ‥‥フフッ、アタシの中で熱く締めてあげるよ、セイ君」
 甘く誘う囁きに全く逆らう事もできず、僕は首をタテに振った‥‥何故、樹さんはそうしてまで僕に優しいんだろう?

「樹さん‥‥何故あの時、僕を受け入れてくれたんですか?‥‥あの時が[初めて]だったはずなのに、何故、会ったばかりの僕なんかに抱かれたんですか?」

 ずっと聞きたかった事、聞かなくちゃいけなかった事。
 フッ、と優しく微笑んで樹さんは答えた。

「アンタと同じ‥‥寂しくてどうしようもなかったから、何も考えないで目の前の相手を求めただけさ。でもね‥‥誰でも良かった、って訳じゃないんだよ‥‥」

 腰の上で大きく股を開いた樹さんは、長い指を僕に絡み付けて蜜で満たされた秘部へと誘う。
「アタシを受け取って、セイ君‥‥」
 一呼吸の空白‥‥夕焼けの紅が消えた空に気を取られた瞬間、僕は樹さんの奥深くまであっという間に飲み込まれていった。

 腰の上でしなやかに乱れる色白のか細い裸体‥‥深く飲み込んでゆっくりと円を描いて揺すってみたり、スッと腰を引いて亀頭の段差のあたりを強く弱くくわえてみたり‥‥しばらく焦らすように弄んだかと思うと、今度は一転して激しく躍り始める。
「はあっ‥‥あっ、あ、あっ、はぁっ‥‥どぉ、ねぇどぉセイ君、気持ちいい?‥‥はぁ‥‥フフ、ねぇ正直に言ってみなよ‥‥気持ち、イイ‥ってさ‥‥」
 気持ちいい、と口に出すこともできないぐらいに僕は樹さんを感じていた。僕が樹さんの上にのしかかっていった時よりも、今の樹さんのほうが強く激しく、しかも余裕をもって僕を責めてくる。
「ダメぇ‥‥樹さぁん、そんなに激しく動いたらイッちゃうよぉ‥‥」
「またまたぁ、そんな簡単にイクわけないじゃん‥‥ハァ、ぁ‥‥いぃよぉ‥‥ねぇもっと奥までちょうだいよ、セイ君の長ぁいモノをさぁ‥‥」

 壁に囲まれた狭い空間に響く淫らな物音‥‥ヌチャヌチャヌチャッ、はぁ、ぁあ‥‥はぁぁ‥‥グジュ、グジュッ、ズチュッ‥‥音が一つ一つ響く度に、痺れるような快感が何重にも塗り付けられていく。

「アタシさ、セイ君をこうして抱いてみたくて昼間からずっと後を付けてたんだよ‥‥だって、あんなところを見せつけられたらさぁ‥‥ハァ、やっぱり欲しくなるじゃん‥‥オンナにだって、そういう願望はあるんだよ‥‥」
 獲物を前にしたケモノみたいな目で僕を見下ろしながら、じっくりと虐ぶるように、味わうように僕を飲み込んで、腰を大きく揺さぶってみせる‥‥擦って、濡らして、焦らせて、締め付けて‥‥まるで波のように押し引きを自在に操る樹さんのペースに、ほとんど初めての僕は翻弄されるばかりだった。
「樹さん、このままだと僕‥‥もうイッちゃいそうだよ‥‥おねがい、少しでいいから休ませて‥‥」
 もっとゆっくり樹さんに抱かれたいから、この幸せな時間にできるだけ長く浸っていたいから‥‥
「そうだね‥‥ゴメンね、アタシのペースで勝手に盛り上がっちゃって。いいよ、せっかくだからゆっくりしようよ‥‥ね」
 腰の動きを止めて、長い腕を絡ませて優しく僕を包み込む樹さんの温もりと、甘く吸い付く赤い唇‥‥動きは止まったけど筋肉質のお尻は僕のモノをジワリ、ジワリと締め付けて、熱い快感の中で僕を虐め続ける。

 密着したやわらかな胸の間で二人の鼓動が響き合う。全身で甘くつながったまま、鼓動は何回も何十回も‥‥互いの心をノックした。

「セイ君‥‥気持ちいい?」
「気持ち‥‥いいです。こんな気持ち良さは初めてかもしれない。僕が抱いた時とは全然違う気持ち良さで‥‥あっ、ゴメンなさい樹さん。その話はもう‥‥」
「‥‥いいさ、そんなに気にするなって。あの時はアタシも初めてで余裕ってものが無かったからねぇ‥‥でも悪くないでしょ、オンナに好きにされるっていうのも‥‥ね」
 僕が小さく頷くと、樹さんは頭を優しく撫でながら軽くキスしてくれた‥‥少し乱暴だったけど奥深くまで抱き締められて、久し振りに腹の底から安心できたような気がする。

「ねぇセイ君、アタシと人形遊びしない?」
「え、人形遊び‥‥ですか?」
「そう、人形遊び‥‥アタシがセイ君の人形になって、セイ君の望みどおりの体位で犯されるの。例えば、オナニーの時にいつも想像してる体位で犯っちゃう事もできるしさ‥‥ねぇ、セイ君の頭の中のアタシって、きっとスゴく淫乱だったりするんでしょ?」
 人形遊び‥‥そう言われて、正直僕はビビった。頭の奥に隠してあった淫らな想像を見透かされたみたいで、すごく恥ずかしくて悪いような気がしたから‥‥
 でもそう思う一方で、頭の奥のスクリーンには妄想の中の樹さんの姿がフラッシュバックのように次々と映し出されていく。正常位、後背位、騎乗位‥‥思いつく限りの体位で何回も抱いて犯していった、妄想の中の出来事‥‥言われてみればそれは確かに[人形遊び]そのものの行為だった。
 その中から、僕は一番好きで想像しやすい体位を選ぶ。それは昨夜オナニーしてた時にも想像していた体位‥‥
「じゃあ樹さんおねがい‥‥後ろを向いて四つん這いになってよ」

「‥‥こぉ?」
 白くしなやかな下肢をこっちに向けて、僕の妄想そのままの体位を再現してみせる。引き締まったお尻から長く伸びる太ももは、暗闇の中でも輝くように綺麗に映えた。
「うん‥‥樹さん、それすごく艶っぽいよ。僕の妄想なんかより、もっとずっとヤラしいよ」
 絶妙に開いた脚の間にそそり立つ下半身を割り込ませて、人形なんかではない生身のお尻にそっと手を添える‥‥その体勢のまま、僕はしばらく動けなくなってしまった。妄想の中では何のためらいも無く奥底まで突き刺すことができたのに、実際その体勢になってみると、何故だかすごくイケナイ事をしているみたいで‥‥
「どうしたのセイ君、もしかしてアタシを焦らしてるつもり?‥‥いいのよ、遠慮しないで早くおいで」
 躊躇する僕をからかうように、樹さんが優しく微笑む。その笑顔に誘われるようにして‥‥妄想と同じようにドクドクと脈打つソレを蜜の中に突き刺して、両手でお尻を優しく抱え込みながらゆっくりと奥底まで沈めていく。
 樹さんの中は想像よりもずっとやわらかくて、深く沈めたソレをまるで真綿のように包み込む。
「樹さん、いくよ‥‥」
 後ろ向きの樹さんが小さく頷いたのを合図に、僕は前後に大きく腰を揺すり始めた。

 初めはゆっくりと抜き刺しを繰り返して、少しずつほぐれていく感触を確かめながら、やがて徐々に激しく揺さぶりをかけていく‥‥恥骨がぶつかるぐらいに深く突き刺すと亀頭の先端が子宮を突き上げて、
「‥‥はっ、はぁっ、あっ、はあっ‥‥あっ、あぁ‥‥」
 動きに合わせて短い呻きを漏らす姿がとても艶っぽいから、僕は腰を深く密着させて、いちばん奥をノックするように執拗に責め続ける。
 僕の欲望を満たしてくれる樹さんの身体は、まさに意のままの[人形]だった。
 でもなんでだろう?前はこわばっていてキツく締まったままだった膣が、今はまるで余裕を持って僕のモノを包み込んでいる。もちろん初めての時とは違うだろうけど、でも一度や二度の体験だけでは、ここまでは熟さないはずだ‥‥
「樹さん‥‥もしかして、今、付き合ってるヒトっているんですか?」
 腰の動きを止めて耳元にそっと問いかける。答えを待つ数秒間‥‥僕の心はバラバラに引き千切られるみたいだった。
「‥‥ゴメンね、セイ君。半年ぐらい前にいいヒトと出会って、今も付き合っているんだ‥‥結構激しいエッチをするヒトでさ、今でも二日に一回ぐらいは抱き合って‥‥、‥‥ゴメン。こんな話きっと聞きたくなかったよね。ゴメンね‥‥」
 僕に気を遣って樹さんは申し訳無さそうに謝ってくれる。でも、僕の頭の中では見知らぬ男に抱かれる樹さんの姿が、それはもうとめどなく次々と浮かんでくる‥‥そこでの樹さんは、決して僕なんかには見せない満たされた表情をしていて、僕の知らないような無邪気さで乱れているんだ‥‥

 そんな妄想はやがて、吐き気がする程の嫉妬へと変わっていく。

 僕の動きは激しさを増して、樹さんの中をグチャグチャにかき回す‥‥どうすれば、どう責めれば、僕はそのヒトを越えることができるんだろう‥‥いやきっと無理だ。ならば、今ここで少しでも[僕]を焼き付けておきたい。少しでも樹さんを奪ってしまいたい‥‥
「はぁ、はぁっ‥‥つっ、ちょっとセイ君ってば、強すぎるよ‥あっ、アアッ‥‥くぅっ‥‥」
 ジュブジュブと突き刺す度に結合部から蜜が溢れて、僕の股間と樹さんの太ももにたっぷりと流れ出す‥‥強すぎるのは分かっている。だけど煮えたぎるような想いが僕を衝き動かしていて止めることができない。
「ぁ‥‥アアッ、はぁ、あ、あっ、あっ‥‥ イヤッ、ちょっと‥‥イヤッ、アァン、ハァンんっ!」
 とうとう樹さんは堪えられなくなって、絶叫に近い声で僕を拒もうとする‥‥僕はとっさに樹さんの口を塞いで、落ち着かせるために背中をグッと強く抱き締めた。

 ‥‥ハァ、ハァハァ‥‥ふぅ、はぁぁ‥‥

 乱れた呼吸が落ち着いてくると、樹さんも僕も少しずつ冷静さを取り戻す。僕は背中から胸に伸ばした腕をキュッ、と締め付けて、弱った樹さんを優しく包み込んだ。
「ダメだよ樹さん、そんなに声を出したら表に聞こえちゃうよ‥‥大丈夫、もう乱暴にはしないから‥‥ゴメンなさい」
 耳元でそっと囁くと、樹さんはまるで糸の切れた人形みたいに、コクンと力無く頷いた。
 何やってるんだろ僕は。これじゃ前と同じ、ただのレイプになっちゃうよ‥‥違うよ、樹さんは人形なんかじゃなくて生身の人間。そして、僕はただ純粋に樹さんとつながりたいだけ‥‥

 優しくしよう。

 腰の動きを止めたまま、両方の乳房にそっと指を被せる。指先に伝わる不思議なやわらかさは、ささくれた僕の心までもやわらかくほぐしてくれるようだった。
 被せた指をゆっくりと、程よい強さで締め付ける。慣れてるわけじゃないけれど‥‥気持ちを込めて何度も拍動を繰り返すうちに、黙り込んでいた樹さんがハァ、ハァ、と気持ち良さそうに吐息を漏らし始める。
 僕が優しく抱き締めると、それが伝わって樹さんを気持ち良くさせる‥‥そんな単純な事がとても嬉しかった。
「‥‥動かしてもいい?」
「うん‥‥セイ君のおっきくて感じちゃうから、優しくおねがいね‥‥」
 指先を乳首にも伸ばしてくすぐるように弄びながら、ゆっくりと腰を動かし始める‥‥あえて強く突き上げる必要も無かった。動きに合わせて乳房を揉みしだくと、面白いように膣が反応して僕のモノを締め付ける。それがすごく気持ち良かったから‥‥
「‥‥はぁ、ぁぁ、あんっ‥‥はあっ、はぁ、はぁ‥セイ君、イイ‥‥気持ちイイよぉ‥‥」
 さっきまでとは違うやわらかい喘ぎ声‥‥[人形]としてではなく、ちゃんと心の通じる存在として樹さんを抱ける、という事が純粋に嬉しかった。もっと優しく、もっと気持ち良くさせてあげたい‥‥

「脚をできるだけ大きく開いてみて‥‥」
 脱ぎ捨てられた衣服の上で仰向けになった樹さんにおねがいすると、長い脚をクネクネと見せつけるように動かしながら、余裕の表情で淫らなポーズを作ってみせる‥‥熟した性器を中心にして蜘蛛のように長く伸びる手脚が、暗闇の中で悔しいぐらいに艶っぽく映った。
 開いた脚の片方を両手で抱えて、太ももの真ん中辺りにかぶりつくように唇を吸い付ける。そして程良い弾力を唇に感じながら、真芯に向かってゆっ‥‥くりと熱い舌を這わせる。
「‥‥あっ‥ぁぁ、ぁはぁっ‥‥あんっ‥‥」
 舌が真芯に近付くにつれて甘い喘ぎ声が少しずつ漏れ出す。でも真芯の割れ目に届くちょっと手前でスッと舌を離して、今度は反対側の太ももからも同じようにジワジワと迫る‥‥それを何往復も繰り返して、じっくりと樹さんを狂わせていく。
「あぁ‥‥もうっ、セイ君のイジワル‥‥焦らさないで一気にきてよぉ‥‥あんっ‥‥」
「でもそんなこと言いながら樹さん、すごく気持ちいいんでしょ‥‥その表情、なんだか艶っぽくてステキだよ」
 大きな瞳を妖しく光らせて、半開きの唇で樹さんが微笑う‥‥ヤラしくて、それでいて楽しげな表情が僕をさらに欲情させてしまう。
 桃色の果実の割れ目はすっかり熱くとろけていて、添えた指をちょっと動かすだけでも崩れてしまいそう‥‥
「はぁ‥‥あっ‥‥そこぉ‥‥そう、いいよぉ‥‥もっと強くきて‥‥」
 割れ目の真ん中にそっと指を添えて、熱い蜜の中に沈めていく。一本、二本‥‥傷つけないようにゆっくり優しく、奥まで入れたりクチャクチャとかき回してみたり‥‥
「‥‥樹さん、痛かったらすぐに言ってよ。僕あんまりやり方分からないから、ちょっと自信無いんだ‥‥」
「ハァ‥‥あぁ‥‥いや、そんなことないよぉ‥‥ぁあんっ、中でクネクネ動くのがスゴくイイっ‥‥ハァ‥‥セイ君ったら謙遜しちゃって、スゴく上手いじゃん‥‥オンナ泣かせのテクニシャンになれるかもよ‥‥」

 いつの間にか僕と樹さんは、まるで会話するように自然に求め合っていた。[人形遊び]ではなく、互いに思いやって求め合うセックス‥‥それが一番気持ちいいって事を、知らずしらずの内に樹さんは僕に教えてくれてたんだ。

「ねぇ‥‥見て。ほら、僕のモノがこんなに大きくなって樹さんの中に入っていくよ‥‥僕もうガマンできない、弾けそうだよ‥‥」
 硬く大きく膨らんだ亀頭をゆっくりと差し込みながら、樹さんに向かって熱く囁く。
「あぁ‥‥でももう暗くてはっきり見えないよ、セイ‥‥くぅうんっ!‥‥あっ、アアッ!」
 すごい‥‥こんなに大きく口を開けて僕を飲み込むんだね。眼下に映るとっても淫らな姿、見えないのならせめて感じて欲しい‥‥
「樹さん‥‥ほらここ、僕が中に入ってるでしょ。触って‥‥そう、感じてよ‥‥」
 樹さんの長い指を結合部にそっと導いて、浅く突き刺した亀頭で入口をゆっくりかき回してあげる‥‥そう、伸ばした指先に亀頭の膨らみを感じさせるように。
「イヤ‥‥すごぉい、こんなに太いモノでアタシを‥‥あぁっ、美味しい‥‥はぁ‥‥ねぇ、そのままアタシを貫いちゃってよ‥‥奥まで‥‥」
 おねだりする樹さんのハスキーな喘ぎ声がとても心地良いから、僕は浅く挿入したまま焦らすようにゆっくりと腰を動かし続ける。
「はぁ、はぁ‥‥ぁんっ‥‥もうっ、セイ君ったらイジワルばっかり覚えちゃって‥‥ひと思いに犯っちゃってよぉ‥‥早くぅ‥‥」
「全部、欲しいの?‥‥こんなにおっきいモノを?」
「うん‥‥欲しいよぉ。奥まで突き刺してぐちゃぐちゃにして欲しいの‥‥ねぇセイ君、おねがい‥‥」
 長い指が亀頭から竿にまで伸びてきて、求めるように絡み付いてゆっくり上下に動く‥‥気持ちいい‥‥ギチギチに膨らんで弾けそうで、僕ももうガマンできなくなる。
 うごめく指をそっと除けて、しなやかな太ももを両手に抱えて‥‥僕は樹さんを完全に射程内に捉えた。

「いくよ‥‥」

 ズブッ‥‥ジュブッ、グチュ、グチュ、グチュッ‥‥

「あぁっっ‥‥はぁ‥‥はぁっ、はぁ‥‥あぁっ‥‥あぁんっ‥‥」

 一刺し一刺しゆっくりと、槍のように膨らんだモノで入口から奥底まで貫いてあげる‥‥無理に激しくする必要はもう無かった。だってこんなにも気持ち良さそうに喘いでくれるんだから。
「あぁ‥‥セイ君がこんなに奥まで入ってきちゃってる‥‥気持ちいい、スゴくイイよぉ‥‥」
「あぁ樹さんその顔、僕の前でそんなに気持ち良さそうな表情を見せてくれるなんて‥‥嬉しいよ。だから、もっと気持ち良くしてあげる‥‥」
 僕は樹さんの乳房に両手を伸ばして、指で包み込むように優しく揉んであげる。そのまま腰の動きを止めて感覚を集中させると‥‥乳房を揉む動きに合わせて強く締め付ける膣の動きが、たまらなく僕を感じさせる‥‥
「はっ、はっ、はあぁ‥‥セイ君、もうイジワルしないで‥‥早く奥まで貫いて、アタシをめちゃくちゃにしちゃってよ‥‥」
「もうちょっと待ってて‥‥いい、おっぱいをこうしてキュッキュッて締め付けるとね、樹さんの中の僕のおちんちんもキュッキュッと締まって、僕とっても気持ちいいんですよ‥‥」
 そんな事を囁きながらキュッキュッと乳房を揉みしだくと、樹さんはとても気持ち良さそうに吐息をつく‥‥でもその顔はもっと強い快感を求めてるみたいだった。そして僕も、もっともっと強く樹さんを求めたくなる。

「樹さん‥‥ハッ、ハァッ‥‥あぁ、僕もっと樹さんが欲しいんだ‥‥ゴメン、もうガマンできないよ‥‥」
「‥‥はぁっ、あ、あ、あぁんっ!‥‥そう、そうやってめちゃめちゃに犯されたかったの‥‥やぁあんっ!‥‥もっときて、もっと強くぅ、強く貫いてよ‥‥」
 僕らは理性から解き放たれて、狂ったような激しさで互いの性欲を奪い合う。どれだけ強く激しく求めても、全てがめくるめく快感となって二人の身体に吸収されていく‥‥そう、僕はこの感覚を樹さんと一緒に味わってみたかったんだ。

「樹さん‥‥初めて見かけた時から今までずっと、僕は貴方をこうして抱いてみたかったんだ。後ろ姿がとても寂しそうで、艶っぽかったから‥‥貴方を求めて奪って傷つけて、その後で少しでも優しくしてあげられたら‥‥それだけで僕はよかったんだ。だって、誰にも愛されも傷つけられもしなくて独りきりなんて、貴方も僕も寂しすぎるよ‥‥」

 ぱっくり開いた傷口にナイフを突き刺すように、僕は樹さんを求め続ける。痛みにも似た快感に激しく悶えるその表情までも腕の中に奪ってしまいたくて‥‥僕は身体ごと樹さんに覆い被さって、想いを遂げようとした。
 その時だった‥‥バラバラに乱れていた樹さんの両手が突然スッと伸びてきて、僕の頬を手のひらの中に包み込む。そして、ハァハァと激しく喘ぎながらも鋭く見上げる視線に脳髄を突き刺されて‥‥僕は樹さんにのしかかったまま身動きが取れなくなってしまった。
「そう、その顔‥‥アタシ、セイ君のその表情が見てみたかったんだ。アタシの事を真っ直ぐ見てくれて、それでいて欲望に正直でケモノみたいで‥‥スゴくいい顔してるよ、今のセイ君‥‥」
 言われた事の意味が分からなくて呆然としていると、物欲しげに開いた唇が強く吸い付いてくる‥‥口の中をねっとりとうごめく舌がとても甘酸っぱくて、僕は目を見開いたまま、張り詰めた意識が少しずつ溶かされていくのを感じていた‥‥
 その次の瞬間、樹さんはまるでバネみたいに僕の身体を軽々と抱き起こして、一瞬の内に体位を入れ替えてしまう。
 座り込むような体勢になった僕の腰の上に、樹さんの引き締まったお尻が吸い付くように密着する。しなやかな長い手脚に全身を包み込まれて‥‥まるで食虫花の花びらの中に取り込まれてしまったみたいだ。
「ンフフ‥‥この前はセイ君にいいように犯られちゃったけど、今度はアタシがセイ君を犯してあげる番だよ‥‥なんてね。大丈夫だよ、悪いようにはしないから‥‥ラクにしてなよ」
 か細い身体が僕の全身を包み込んで、ゆっくり、ゆっくりと揺すり始める。頬に押し付けられた乳房のあたたかさが僕を満たしながら、抵う気力を少しずつ奪っていく‥‥
「‥‥どぉ、気持ちいいでしょ。セイ君のおちんちんって長いから、ほぉら‥‥こんなに大きく動くこともできるんだよ‥‥」
 根元までズッポリと飲み込んで腰を大きく揺さぶって、さっきとは逆に樹さんが僕を虐める‥‥僕は波に流される流木みたいに、樹さんの温もりの中をただ漂うだけだった。
「はぁ‥‥はぁ‥‥ねぇ、アタシ一人で感じちゃっても寂しいじゃない‥‥ハァ‥‥素直に言ってごらんよ‥‥気持ちいい、ってさ‥‥ほら、さっきまでの激しいセイ君はどうしちゃったの?」
 溶かされるような快感に身を任せながら、自分でも不思議に思った‥‥なんでこんな穏やかな気分になってしまったんだろう?さっきまでケモノみたいに樹さんを犯していた僕とはまるっきり別人みたいだ‥‥
「気持ち‥‥いいよぉ‥‥」
 かすれた声をなんとか搾り出して、僕は樹さんに応える。
「‥‥なぁに、よく聞こえないよ。今なんて言ったの?‥‥分かった、もっと激しくして欲しいんでしょ?いいよ‥‥もっと強くアタシを感じさせてあげる」
 耳元に意地悪な囁きを吹き付けながら、樹さんは弾むように動きを早めていく‥‥ヌチャッ、ヌチャ、ズチャッ、ズチャッ‥‥しなやかな肉体と甘い快感に全身を縛られて、僕は逃げる事も抵抗する事もできない。
「‥‥はぁ、はぁ‥‥あぁぁ‥‥んはぁっ、はぁっ、はぁ‥‥」
[気持ちいい]って伝えたいんだけど、力ない吐息をつくのが精一杯で言葉になってくれない‥‥ギュッと抱き締める熱い腕の中で、僕はそのまま溺れてしまいそうだった。

 僕は樹さんを激しく奪ってしまいたかったのか、それともただ優しく包んでもらいたかったのか、どっちだろう?
 分からない。
 ただ一つだけ分かった事‥‥樹さんの温もりの中で、僕は確かに安らぎを得ることができたんだ。

 頭を左右に大きく振って、樹さんが少しずつ乱れ始める。逆に僕は体中の力を吸い取られて、感覚がだんだん曖昧になってくる。
「‥‥ぁぁ‥‥はっ、ハアッ‥‥っあぁ‥っ‥‥こんなに、求めているのに‥‥ねぇ‥‥セイ君、答えてよ‥‥あ、アアッっ‥‥スゴくいいよぉ‥‥」
 やわらかな色情魔と化した樹さんの欲望のままに貪られて、果てていく‥‥それは僕がいまだ体験したことの無い、歓びの瞬間の連続だった。

「‥‥樹さん‥‥僕を、奪って‥‥もっと強く腰を揺すって、僕を‥‥溶かして‥‥」
「セイ君‥‥、‥‥いいよ。アタシと一緒に‥‥行こう」

 身体を捕える長い腕にギュウ‥‥ッと力がこもって、真芯を貫くような最期の振動が始まった。

 ズブッ‥‥ジュブッ‥‥グチュッ、グチュ、ヌチュッ、ヌチャヌチャグチャグチャグチャグチャッ‥‥ジュブズブズブズブッ‥‥ジュブ、グチュ、ジュブッ‥‥

「ぅわぁ‥‥はぁはぁはぁっ、ああっ‥‥イッちゃうよぉ‥‥樹さぁん‥‥はぁっはぁっ‥‥ぅあぁ‥‥」
「あっあっあっ、ハアア‥‥ッ‥‥セイ‥くんっ‥‥もっと奥まで、奥までぇ‥‥串刺しにして、グチャグチャに‥‥溶けちゃいたいよぉ‥‥あっ、あっ、あっ‥‥ハウッ、ハアァ、ッ‥‥」

 捕えた男の腰の上で暴力的なまでに乱れながら、狂った欲望を満たしていく[メス]としての樹さんのどうしようもない本能を、僕はむしろ羨ましく思った‥‥男は女の身体に乗ってしまえば、割と簡単に欲望を満たすことができる。でも女は、どうしたって相手まかせの受け身の性欲‥‥だから、自分から求める時にはこんなにも狂おしくなることができるんだね‥‥

「‥‥ハァッ‥‥ハアッ‥‥樹さんもうダメぇ、僕もう止められないよ‥‥」
「はぁ‥‥はぁ‥‥ぁああっ‥‥ちょうだいよ‥‥熱いモノでアタシを、いっぱい‥‥あっ、あぁ‥‥はぁぁ‥‥」

 言葉がだんだんと少なくなって、僕らは同時に最期の一線を越えてしまう‥‥もう引き返せない。あとは絶頂に向けて突き抜けるだけ‥‥
 腰を揺する動きがピタリと止まって、花びらの中で膣がキュッキュッと締まる動きだけが僕をなおも求め続ける。でも‥‥僕はもう、それだけで充分だった‥‥

 花びらの奥底の甘い蜜の中に、熱い欲望のカタマリを吐き出して、僕は‥‥、‥‥‥‥

 赤く灯る煙草の灯だけが、暗闇の中の二人を淡く照らし出す。
 僕らはすっかり暗くなった狭い空間の中、全裸のままで身を寄せ合って佇んでいた。ぼんやりと目に映るのは樹さんの横顔のシャープな輪郭‥‥煙草をくわえる唇の膨らみが瑞々しくてとてもセクシー。
 僕は甘えるようにして、樹さんの肩に寄りかかる。すると樹さんは黙ったまま、腕を回して抱き寄せてくれる‥‥すべすべした素肌の温もりとグッと引き寄せる確かな力が、何よりも僕を一杯に満たしてくれた。
「樹さん‥‥やっぱり、ごめんなさい。あんな事しておいて‥‥僕すごくずうずうしいですよね‥‥」
 二人してこんなカッコになっても、僕にはやっぱり謝る事しかできなかった。それぐらい、業の深い過ちを犯してしまったんだから‥‥
「うん。初めてセイ君に襲われた時はそりゃあショックだったよ‥‥だけど、今日はアタシがセイ君の後を付けて、襲っちゃったから‥‥仕返し、みたいなカンジかなぁ?」
 赤い灯を大きく膨らませて、樹さんは煙草を吸い込む。フゥ‥‥と煙を吐き出す息遣いさえ、僕をゾクッと痺れさせてしまう。
「だからおあいこさ‥‥忘れちまいなよ。きっと寂しすぎて魔がさしただけなんだよ」

 言葉が途切れた後のやわらかな沈黙までも僕を愛撫してくれるような‥‥そんな底無しの優しさが、むしろ怖いぐらいだった。

「なんで家に帰らないの?‥‥それとも、帰れないのかな?」
 えっ?
「なんで‥‥?」
 何でそんな事まで分かるの?‥‥半分畏れにも似た目で暗闇の中の樹さんをじっと見つめる。
「図星だね‥‥フフッ、半日もストーキングしてればそのぐらいは分かるさ。アタシもおんなじような事してたから‥‥ねぇ、話してみなよ。せっかく二人になれたんだからさぁ、今のうちだよ‥‥」
 クスッと微笑みながら、ふわっと毛布を被せるように樹さんが問いかける‥‥どこから話せばいいのか全然分からない。でも切実に、素直な[僕]を聞いて欲しかった。
「‥‥居場所が無いような気がするんだ、僕‥‥親は仲が悪くて僕のことなんか見てくれないし、友達は‥‥いや、本当に[友達]だったのかなぁ?‥‥はぐれるのが怖いから、愛想笑いして話題を合わせていただけなのかも知れない‥‥家には帰ってないって事はないけど‥‥帰る、って実感が‥‥無いんだよね‥‥」
 ‥‥なにを言ってるんだか。想いを整理もしないままバラバラバラバラと吐き出してるだけ。こんなので樹さんに伝わるのかなぁ‥‥?
 でも、心の内をここまで打ち明けられたのは樹さんが初めてなんだ。

 くわえていた煙草を指に挟んで、樹さんはフゥ‥‥ッと煙を吐き出す‥‥その次の瞬間、頬を包んだ手のひらが僕をグイッと引き寄せて、
 乱暴だけど優しい口づけ。
 ‥‥煙草の匂いが甘く溶けこんだぬるい唾液は、どんな麻酔よりも強く効いて僕の全身を痺れさせる。

「いいかい‥‥友達なんてね、そんなに何人もいるもんじゃないんだよ。ほとんどは幻を見てるようなものさ‥‥偶然近くにいるから友達や恋人に見えるだけで他人は他人でしかないんだから、友情とか愛とか、そんなものまで求めたって困っちゃうだけだよ‥‥家族も友達も恋人同士も、たまたま都合がいいから一緒になった、ってだけの関係なんだよ‥‥分かるかな、セイ君?」

 蒸し暑い夏の夜だというのに、ゾクッと寒気すら覚えてしまう‥‥他人は他人でしかない‥‥突き放すような言葉で宇宙の真ん中に放り出されたみたいだった。
 樹さんが僕を受け入れてくれた理由が、少しだけ解ったような気がする。
 樹さんが寂しい時にたまたま僕が近くにいて、気分を紛らわせるのに都合が良かった‥‥要するに偶然の気まぐれ‥‥それだけの事だったんだ。

「もうちょっと現実的な話しようか‥‥セイ君の親はなんでそんなに仲が悪いの?」
 低くて落ち着いた声が胸をズシンと打って、僕の心の扉をまた一枚押し開けようとする‥‥抗う事なんかてきないすごい力だ。

 他人は他人でしかない‥‥それなら何故、偶然出会った他人でしかない僕に樹さんはここまで入り込んでくるんだろう?

「‥‥僕の親は共働きで、少し前から母さんがあまり家に帰ってこなくなっちゃったんだ。最初は仕事が忙しいとか、得意先との取引が‥‥って言っていたんだけど、ある日父さんとケンカしてるのを聞いて‥‥そこで初めて[オトコがいる]って事が分かって‥‥その日から母さんはほとんど家に帰って来ないんだ‥‥」
 初めて他の人間に打ち明ける僕の家の事情‥‥若干の沈黙を挟んで、返ってきたのは意外な言葉だった。
「ウチと一緒だね」
「えっ‥‥そうなんですか?」
「うん。ウチの場合は父親の浮気なんだけどね‥‥その話、もうちょっと詳しく聞きたいな。同じ境遇として興味があるんだよね‥‥」
 唇から煙草を離して、闇夜でも分かるぐらいに樹さんがジッと僕を見つめる‥‥同じ境遇として興味がある、それだけのはずなのに‥‥全てを知ろうとする視線の強さに気おされて、僕はさらに話を掘り下げていく。
「その‥‥ケンカしてるのを聞いてたんだけど‥‥オトコは取引先の会社の人みたいで、一緒に仕事をする内にだんだんと深い関係になっていったんだって。最初は商談の後に喫茶店に行くぐらいだったのが、そのうちに食事に誘われたり休日に二人で出掛けたりするようになって、それで‥‥」
「ンん‥‥?」
 何かに気付いたんだろうか‥‥樹さんは突然パチッと目を見開いて、僕の目をさらに深く覗き込んでくる。
「あ‥‥いいよ、そのまま続けて」
「うん‥‥母さんも[このままでいいのかな?]って後ろめたい思いをしていたみたいなんだけど‥‥それを言い出せない内に、何かの重要な取引と引き換えにとうとうオトコとベッドを共にするようになってしまって‥‥そのままズルズルと別れられなくなった、って‥‥うん。そんな事を言ってたような気がする」
「そっか、なるほどねぇ‥‥ん~~~‥‥その話どっかで聞いたような気がするんだよなぁ‥‥???」
 煙草を地面にゴシゴシと擦りつけながら、まるで訳の分からない数学の公式を前にした時のような困惑した顔をして、樹さんは首を傾げてしまう‥‥そして、一見おかしなその姿にさえボー‥‥ッと見とれてしまう僕。
 樹さんが首を傾げる理由は分からない。分かったのは、僕はもうどうもこうもなく樹さんに惚れてしまっている、という事だけ。
「‥‥ねぇ、なんだか根掘り葉掘り聞くようで悪いけどさ‥‥そのオトコの名前って、分かる?」
 なんでそんな事まで聞くのか僕には分からない。ただ、心当たりはあった。それを言ってどうなるのかは分からないけど‥‥
「うん、一回だけそれらしい名刺を見た事があるんだけど、確か‥‥神崎‥‥って名前だった‥‥気がするよ」
 そう答えた途端、樹さんは突然堰を切ったように笑い出して、狭い空間一杯に開き直ったような笑い声を響かせる‥‥何なんだろ一体?さっきから僕には樹さんの言動の理由が全然分からない。
 しかし‥‥その全ての理由は次の一言に集約されていた。

「驚いたよ。そんな偶然ってあるんだねぇ‥‥セイ君の母さんが付き合ってるのは、多分アタシの父さんなんだよ‥‥アタシの本名、神崎樹って言うんだ」

 僕はポカンと口を半開きにして、マヌケなお地蔵様みたいにそのまま固まってしまう‥‥そして、全ての事情と樹さんとの間に結ばれた[関係]を理解するために、しばらくの時間を要するのであった。

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シリーズ連載 : black angel