再会

女性もえっちな妄想をしてもいいんです。
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アダルトな読み物のお部屋

再会
2021年06月29日 23時18分

都内某所

「寒くなりましたね」
優奈がそっと微笑んで、コーヒーカップを置く。
「そうだな」
遠慮がちにソファーに腰を下ろした彼女の肩に手を回し、引き寄せる。抵抗はない。柔らかな温もりが、彼女の存在を主張する。
「お前も随分といい女になってきたな。初めて出会った時のことを覚えているか?」
「・・・はい。ご主人様はとっても意地悪でした」
そう言って、頬を赤らめる彼女の奥ゆかしさは、近頃の若者にはない得難い輝きを放つ。澄み切った湖面を思わせる『静』の中に、眩いばかりの『淫』の力を内包する美女。
「お前は大学には行かないのか?」
「はい」
「なぜ?」
「時間がもったいないです」
彼女の人生には学歴は不要なのだ。きっと高校へ行くことすら、疎ましかったに違いない。世の中にはそういう類の人間がいる。
「じゃあ、大学の話をしてやろう」
「はい」
「そうだな・・・大学時代に付き合っていた女の話はどうだ?」
「・・・いきなりですね。でも、聞きたいです」
私は煙草に火を点けた。

「俺が4年生の時に、1年生だった彼女と知り合ったんだ。出会ったのは図書館だった。天真爛漫な女だった」
「ご主人様も学生だった時代があったんですね」
彼女の意外な軽口に私は驚いた。優奈は口に手を当てて、自分の冗談に笑っていた。可憐という言葉が何より似合う女だ。
「お前も言うようになったな。ん?」
「あんっ」
ミニスカートをズリ上げ、瑞々しい太ももに手を滑らせる。しっとりと潤った柔肌は、私の愛撫を完璧に受け止め、計算され尽くした弾力を生む。
「・・あぁ・・あふぅ・・」
ギュッと太ももに挟まれた手は喜びを得て、どんどん内へ進む。とろけそうな肉の感触。同時に油断した唇を奪い、空いた手で胸を揉みほぐす。
「うぅ・・んぅ・・」
パンティに湿り気を発見し、私の指先は踊り狂う。熱く滾った優奈の体はいつしか『淫』の表情をちらつかせており、内に潜めた力を解放しようとしている。
「・・ふぅ・・ご主人さまぁ・・・」
私は手を引いた。周りの空気の温度が一気に下がったような錯覚を覚えた。残ったのは優奈の荒れた呼吸と、指先の湿り気だけだ。放心する間もなく、彼女はすぐに衣服の乱れを直して、微笑んだ。
「・・・ごめんなさい。お話の続きを聞かせてください」
「お前は最高の奴隷だな」

「その女とは半年だけ付き合った。今のお前達のような主従関係だ。彼女は申し分のない奴隷で、とても楽しい時間を過ごした。ところが、彼女には1つだけ問題があった」
「はい」
私は煙草を吸った。紫煙の広がりを目で追う。世の中は喫煙反対の方向に動いている。なぜ、これほど素晴らしい嗜好品を規制しようとするのだろうか。
「彼女はとても寂しがり屋だったのだ。彼女は常に私を求めた。次々に女を見つけては味見をしようとする私の行動を許せるはずもなかった」
「寂しがり屋でなくても、『浮気』は許せません」
「そうか」

ゆっくりと時間が流れる。今日の『隠れ家』には優奈しかいない。主張が少ない彼女は『隠れ家』の中ではほとんど目立たない。が、彼女がいなければすぐに分かる。そんな存在だ。たまには彼女と2人きりでのんびりするのもいいだろう。
「その女の名は『ちひろ』というんだ。良い名前だろ?」
「はい。綺麗な名前です」
「ちひろと私は半年の付き合いの中で2ヶ月だけ同棲した。今みたいに『隠れ家』なんてなかったから、彼女のマンションに住み着いていたんだ。毎晩のように燃えていた。体の相性は抜群で、彼女は無限に俺を喜ばせてくれた。若かったから相当無茶もした。満ち足りた2ヶ月間だった」
優奈は真剣な表情で私の話に聞き入っている。今の彼女なら、横から銃を突きつけられても平然と私の話を聞き続けるだろう。
「しかし、2ヶ月後には彼女は膝を抱えて泣いていた。その頃の俺には彼女以外にも何人も奴隷がいた。俺は気にもしていなかったが、彼女にとっては精神的に限界だったようだ。普段は子供のように無邪気な彼女が、涙が枯れ果てるまで泣きじゃくるのを見て、正直辛かった」
優奈の手が私の手の上にそっと重ねられる。苦い記憶が蘇り、気分が曇り始めた。
「・・・ご主人様」
「大丈夫だ」
「でも・・・なんで私にそんなお話をされるんですか?」

なぜ?・・・なぜだろう・・・

「お前を見ていたら、ちひろの事を思い出したのかもしれない。いや、違うな」
私はカレンダーを見た。11月5日。

ねえねえ・・・ちひろね、ずっと一緒にいたいんだ、あなたと・・・

脳裏で繰り返される彼女の声。鈴の鳴るような、甘くて心地よい声。主従関係を越えて、彼女だけは特別だった。

絶対だよ!約束だよ!

・・・約束?俺は何を約束した??

約束だよ!

思い出せない。

「ご主人様?」
「ん?」
優奈が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?苦しそうです・・・」
いつの間にか、汗をかいていた。私はコーヒーカップに手を伸ばし、一気に中身を飲み干した。
「あ、そんな飲み方して・・・」
「悪いか?」
優奈に覆い被さる。羽毛のようなふんわりとした唇。マシュマロのような胸。透き通る肌に何度も接吻し、彼女の『淫』を解放してゆく。
「あぁ・・すごい・・・」
服を脱がし、一糸纏わぬ姿にすると、優奈の目が妖しく輝き出す。
「あんっ・・はぁ・・あぁ・・」
私は彼女の凄まじい力を知っている。バイブを取り出し、彼女の奥深くへ挿入する。
「あっ!!!」
ビクンと華奢な体が跳ね上がり、バイブをしっかりとくわえ込む。
「いいぞ、優奈」
「だめぇ!!!だめぇ!!!」
「もっと、感じろ!」
「あはぁぁ!!!」

約束だよ!

「ちっ、またか・・・」
思わず舌打ちをして、行為の途中で煙草に火を点ける。青息吐息の優奈は言葉無く、横たわって肩で息をしている。彼女の細い腕。雪のような、それでいて健康的な肌。汗。

・・・11月5日?

極度に集中した私の目は優奈の汗の粒がそっと堕ちてゆく様子を眺めている。そして、一気にちひろの記憶が回復する。

11月5日。今日、彼女と会うことを約束していた。5年前の遠い約束だ。私は優奈にキスをした後、慌てて身支度を始めた。

5年前、私はちひろと約束をした。

ご主人さま、毎年11月5日に会うって約束していただけませんか?

同棲を始めて1ヶ月目のことだった。彼女とはその1ヶ月後に破局となるわけだが、時を経る毎にその約束が私の心の中で重みを増していった。

1年後の11月5日、待ち続けるちひろを遠くから眺めていた。

2年後の11月5日、待ち続けるちひろを遠くから眺めていた。

3年後の11月5日、花束を買ったが、結局踏み切れなかった。

4年後の11月5日、今の『隠れ家』で悶々とした時間を過ごした。

そして、5年後の今日、私は『隠れ家』を飛び出した。

都内には様々な『待ち合わせスポット』がある。そこには、溢れんばかりの若い男女が屯している。休日ともなると、とにかく人が多い。『待ち合わせスポット』でさらに『待ち合わせ』しなくてはならないケースもある。私もちひろもそういった場所は好きではなかった。

待ち合わせ場所は、とある本屋の前だった。駅前の繁華街から離れた、しかし寂れた感のない大型書店の前。ここはちひろと初めてデートした時に訪れた書店だ。その時は、映画館へ行く途中で寄ったのだが、初デートに興奮気味の本好きな若い2人は、お互いが手に取る本に尽きることのない興味を示し、結局、映画の上映時間を大幅に過ぎてしまった。この思い出の書店には、その後何十回と足を運んだ。

書店の入り口の脇には灰皿が置いてあり、私はそこで煙草を吸うことが多かった。しかし煙草嫌いの彼女はその度に頬を膨らませた。子供のようにブンブン両手を振り回して抗議する彼女の姿見たさにワザと煙草を吸うことも多かった。

だめです!ガンになっちゃうよ!

私はそう言われるとこう答えた。

ガンになって死にしそうになったら一緒に死んでくれるか?

すると、ちひろは何の躊躇いもなく、上目遣いでコクリと肯いた。彼女は私の奴隷であり、天使でもあった。

私は目的の書店の通りの向かいに辿り着いた。3年前にリニューアルを果たした建物は近代的なデザインで、誇らしげにそびえ立っていた。周辺にあった2店の古本屋はいつの間にか姿を消し、喫茶店、マッサージ店などを内包したビルディングは駅前の繁華街の賑わいと張り合うかのような存在感を示していた。

ちひろは当たり前のように立っていた。彼女が18歳の時に知り合ったので、今は23歳のはずだ。小柄で愛らしい彼女の面影を残しつつ、1年ごとに驚くほどの美貌の進化を遂げている。ここからだと彼女の横顔しか見えないが、以前よりも髪の色が明るくなっている気がする。

東京の11月はどこかしら冷たい。ちひろは真っ白なジャケットを羽織っていた。初めてのデートの時に彼女にプレゼントしたジャケットを毎年着てくれているようだ。移り気な女性ファッションの流行に逆らうように飽きもせず、着こなす。繁華街から外れているとはいえ人通りは多く、特に休日の書店の前は賑やかである。ちひろは入り口脇の喫煙所で煙草を吸う若者達に目を向けている。私を捜しているのだろうか。

時折、場違いなスーツを着て髪を染めた男達がちひろに声を掛ける。その度に私の頭にカッと血が上る。ちひろの美貌はとにかく目立つ。天真爛漫な笑顔が放つ眩さを解放しなくても、そっと佇むだけで周囲を巻き込む魅惑の力がある。私は道を横切り、彼女と同じ側の道へ移った。

こんな季節なのに汗をかいていた。柄にもなく全身が震えている。結局この5年間、一度も彼女との約束を果たしていないのだ。それでもこうして未練がましく待ち合わせ場所へやってくる自分が情けない。今の『隠れ家』には数多くの愛する性奴隷達がいる。それでも、彼女に会いに来る。彼女に会ってどうするのか。彼女を得たとして、愛する奴隷達はどうするのか。何の答えも用意していない。浅はかで利己的な自分がどんどんみじめに思えてくる。

あと数十歩。走れば数秒の距離。ちひろはじっと佇む。先ほどまで一緒にいた優奈の可憐さを彷彿とさせる美女。小柄だが、胸のサイズは紀子や杏奈と張り合うほどだ。それでいて、くびれたウエスト。どういう食生活をこなせば、そのような体型を保てるのか、小柄なのに呆れるほどスタイルがいい。あのホッソリとした腰を掴んで、背後からガンガン突き上げると、ゆさゆさと豊満な両乳が揺れ、愛嬌のある顔が性の快感に妖しく歪む。犯されていることに喜びを感じ、愛液が飛び散ることに興奮を覚え、道具で責められる恥辱に感動を覚えた美女。

ちひろ

呼びかけてみたが声が出ない。喉がカラカラである。臆病な自分を呪う。通りすがる人達が不審そうにこちらを見やる。いつもなら、相手が目を逸らすまで睨み返すのだが、今の自分にそんな余裕はない。

ちひろ

もう一度小声で呼びかけた時、ちひろは驚くべき行動に出た。あれだけ煙たがっていた喫煙スペースへ進み、バッグから煙草を取り出したのだ。私と同じ銘柄の煙草だった。無意識に私は駆けだしていた。大切な宝物が汚されるような気がしたのだ。ガラス細工の調度品が床に落ちそうになるのを受け止めようとするような、そんな反射的な行動だった。

「ガンになるぞ」

私は彼女のほっそりした腕を掴んで言った。ちひろはこちらを向かなかった。ただ、華奢な肩が震えているのが、ジャケット越しにもはっきりと見えた。喫煙スペースにただならぬ空気が充満した。空気という媒介物で繋がっているはずなのに、この喫煙スペースだけが突然のちひろの涙に慌てだしたようだった。

「ガンになったら、一緒に死んでくれますか?」

ちひろは私から顔を背けたまま、涙声で昔の私のセリフを言い回した。彼女の頭の中には私の記憶が鮮明に呼び起こされているのだろう。それはこちらも同様だった。

「いや、俺ならお前がガンになる前に煙草を止めさせるよ」

ちひろがこちらを向いた。完璧な美貌に幾筋もの涙の筋が出来ていたが、昔の無邪気な笑顔を浮かべていた。2人の時間は一気に5年前へ遡った。

書店の女子トイレが無人であることを確認すると、私達は狂ったようにお互いを求めた。私がちひろに襲いかかったといった方が正確かもしれない。ちひろの唇は驚くほど柔らかかった。舌を絡めたまま、しっとりと湿り気を帯びた彼女の股間をまさぐる。
「んふぅ」
フワフワのぬいぐるみを抱いているような、儚い感触。満面の笑顔が形づくった愛嬌のある顔立ちが、今は性の快感に歪み、『女』の表情を取り戻しつつある。
「んふぁ・・はぁ・・はぁ・・・」
彼女の体中を愛撫した後、彼女の背後に回った。細い腰をガッチリと抱え込む。
「ご主人さまぁ」
「入れて欲しいのか?」
「はいっ!」
小ぶりの美尻を高く突き出し、私の挿入を待つ。5年前と同じだ。

カツン・・カツン・・・

人の気配と同時に、私は素早くちひろの口を塞いだ。ちひろは私の腕の中で小さくうずくまる。突然の侵入者は隣の個室へ入ったようだ。トイレットペーパーを巻く音がすぐに聞こえてくる。ちひろを見ると、悪戯っ子のような目で私を見つめていた。今にも吹き出しそうな笑顔だ。学生の頃、スリルを求めてトイレの中で行為をしたことが何度かあり、その度にこうして息を潜めることがあった。その時も彼女は同じように笑顔だった。5年前と何も変わらない。

トイレを出ると、本棚と大勢の人間が視界に入った。この場の全員にたった今までの行為がバレているような不思議な錯覚を感じながら、私達は書店の中を回った。相手が手に取った本に興味を示して質問する。この『約束事』は今も健在だった。

夜になり、学生時代に良く通ったファミリーレストランで食事をした。話が途切れることはなく、笑顔が絶えることもなく、時間はあっという間に過ぎ去っていった。
「ご主人さま」
「ん?」
彼女の声のトーンが変わったので、私は一気に現実へ戻された。冷や水を浴びせられたように体の芯が冷たくなった。目の前のちひろが急に赤の他人に思えてくる。何と言っても5年ぶりの再会なのだ。学生の頃と比べて、お互いの周囲の環境が大きく複雑になっていることは確かなのだ。
「今、ご主人さまにはお相手はいるんですか?」
普段は陽気に振る舞い、世間の常識に囚われずに自由奔放に行動する彼女は決してバカではない。いや、むしろ非常に頭の回転が鋭い女性である。彼女に嘘をついても意味をなさない。私は素直に肯いた。
「いる。しかも、大勢だ」
私の答えに彼女は笑顔で応えた。
「そうですよね、そんな気がしました」
5年前なら、今の答えで彼女の精神は容易に崩壊した。
「ちひろよりも可愛い子ばっかりですよね、きっと」
彼女はそう言って、ストローに口をつけた。仕草はまるで子供だ。私は足を伸ばして、彼女の膝を割り、太ももの間に押し込む。
「あん、エッチ」
ちひろは実に嬉しそうに笑った。私もつられて笑った。彼女と一緒にいると、普段の倍以上は笑っている。
「そうだな。お前より可愛い子ばかりかもな」
ちひろはわざとらしく頬を膨らませて唇を尖らせた。
「ふーんだ、ご主人さまのバーカ」
プイッとそっぽを向く彼女の頬に一筋の涙が流れ落ちる。良く見ると華奢な肩が震えている。やはり、彼女の本質はそう簡単には変わらないようだ。
「大丈夫か?」
「・・・違うんです」
素早くハンカチを取り出して、涙をゴシゴシ拭く彼女を見て、私は胸が痛んだ。

夜の11時を過ぎた。由衣と亜美から1本ずつ電話があったが無視した。私は完全にちひろの虜になっていた。レストランを出て、時間を惜しむようにキスを繰り返し、人目を気にしながら、お互いを求め合った。
「あふぅ・・・イッちゃいます」
「こんなに濡れてるぞ」
「だめっ、そんなに・・・人、見てます」
「ここだな?」
「あっ!!」
ちひろは何度も昇天を繰り返した。昇天する度に小柄な体が跳ねるように震える。ビクッビクッと痙攣する彼女の股間はグチョグチョに濡れており、私の指をくわえこんで離さない。
「また、イッちゃいました」
ペロッと舌を出して私に微笑む彼女は紛れもない天使だった。

決断の時が迫っていた。私は『決定』しなくてはならない。
「ちひろ」
「はい」
彼女にも私の苦悩が伝わったようだ。僅かに眉をしかめ、私の言葉を待っている。私は極度の緊張に耐えきれず、思わず煙草に火を点けた。ちひろがハッとした顔になる。
「悪いな。ちひろの前ではなるべく吸わないように我慢してたんだけどな」
「いいです、大丈夫」
驚いたことに、彼女は私の吐いた煙を吸おうとした。
「おい、やめろ」
ちひろはあっさりと引き下がった。力無くうつむいている。この仕草を見れば、世界中の大半の男性は彼女の頭を優しく撫でたくなるに違いない。こういう無邪気で真摯な仕草が私の心を削ってゆく。
「大丈夫か?」
「うん」

腕時計は夜12時を指そうとしていた。寒かった。周りには誰もいなかった。私はちひろを抱きしめた。
「どうする?」
「・・・ご主人さま」
「俺は決めなくてはいけないぞ」
「そうですね」
「泣くなよ」
「泣いてないです」
「・・・そうか」

携帯電話が鳴った。由衣か亜美だろう。愛する性奴隷達はこんなに遅くまで寝ずに待っていてくれる。掛け替えのない宝物。彼女達を手放したくない。
「ちひろ」
「もう少しだけこのまま抱いてください、ご主人さま」

・・・ちひろも手放したくない

終電を逃したスーツ姿の男性がタクシーに乗り込んでいる。寒い。私達は目的無く夜の道を歩いた。ちひろが何度かクシャミをしたので、近くのインターネットカフェに入った。眠そうな店員が別世界の生き物に見えた。私はコーヒーを、ちひろはレモンティを個室へ持ち運んだ。
「ふぅ」
どちらともなく溜息が出た。私は彼女のジャケットを脱がしてやった。
「まだこのジャケット着てくれてるんだな」
「はい。大切な宝物です」
「新しいのを買ってやろう」
そう言うと、親に抵抗する子供のように彼女はジャケットを胸に包み込んだ。
「いやです。これがいい」
「・・・そうか」
胸が痛い。

個室のソファーは窮屈だったが、私は彼女に覆い被さり、激しくキスを求めた。甘く柔らかい唇。ネットリと舌を絡めると、体が熱くなってゆく。ちひろは完全に私を受け入れている。腰が勝手にリズムを刻み、彼女の太ももが私の股間を擦りつける。
「んふぅ・・あふぅ・・」
押し殺した彼女の声が余計に私を興奮させる。スカートをズリ上げると、室内の照明の元で妖しく輝く色白の太ももが私の理性を掻き乱す。

ブブブ・・・

携帯電話が机の上で跳ねて、慌てて手に取る。何かの弾みで通話ボタンを押してしまった。
「ご主人様?」
由衣の声が聞こえてくる。このまま切るわけにもいかない。ちひろがこちらを見ている。
「由衣か」
分かっているのに聞き返すあたり、自分に余裕のないことを自覚する。
「どうしたんですか?残業ですか?」
由衣の声に微かな苛立ちが含まれているのを感じ、罪悪感に苛まれた。
「すまん。今夜は帰れそうもない。先に寝ていてくれ」
「ご主人様」
「ん?」
「無理しないでくださいね」
「ありがとう」
由衣は私を信じて疑わない。どうしてこんな時間になっても『隠れ家』へ戻らないのか、その理由を問いただすことはない。電話を切ると、病的な仕草で煙草に火を点けた。
「ご主人さま、お悩み中」
場違いな明るい声。ちひろは満面の笑みを浮かべていた。

「なあ」
「何ですか?」
「眠くないか?」
「ぜーんぜん」
ちひろは私にダッコをせがんだ。私は覆い被さる彼女を受け止め、キスをしてやった。
「お前と一緒にいたいよ」
「はい」
「でもな、俺には掛け替えのない奴隷が他にもいる」
「はい」

我慢できずに店内のトイレでちひろと交わった。こんな時間だと誰も使っていない。
「あんっ!そっ、そんなに激しくぅ!!!」
「もっと激しくしてほしいか?」
「あっ!いやぁぁ・・もっとぉ!もっとぉ!!!」
ちひろは2度昇天したところで消耗しきってしまい、そのまま眠り込んでしまった。無理もない。5年ぶりの再会。僅かな『ズレ』も許されない極度の緊張。私だってクタクタだ。彼女の満足そうな寝顔を確認した私も気が弛み、個室へ彼女を連れて行くと泥のように眠りに落ちた。

長時間の利用を警戒した店員が個室のドアをノックする音で目が覚めた。朝の8時だった。私はちひろを促して、料金を払って店を出た。

ファーストフード店で軽い朝食をした。妙な興奮状態の彼女は、店内のあらゆるオブジェクトや出来事に対して感想を述べた。私はボンヤリした頭でひとつひとつ丁寧に相づちを打った。
「ご主人さま」
「ん?」
「戻らなくていいの?」
「今日は戻るよ」
彼女には察しがついているのだ。

「俺と一緒に来ないか?」

昨夜からずっと言えなかったセリフが今頃になって突然、口から飛び出した。ちひろは目を大きく見開いた。
「びっくりしました」
「そうだろうな。俺もびっくりした。で、どうだ?」
答えは分かっている。でも、一縷の望みを捨てたくなかったのだ。案の定、彼女は首を横に振った。
「だめです。ちひろはそういうのダメなんです」
「分かってるよ」

結局、ちひろは愛人のような関係になった。たまに会い、好きなだけお互いを求め合い、快楽を貪る。もう学生ではない。自分の主張がすべて通らないことくらいは分かっている。毎日顔を合わせなくても、週に1回、月に1回、会えればそれでいい。まるで子供が店に来るたびに、ショーケースの向こうの手に届かない高価なオモチャを眺めるような感じだった。

しかし、そんなある日、彼女は突然『隠れ家』へ行きたいと言い出した。私は驚いたが、何事にも縛られない彼女の精神の自由さには慣れている。せっかくのチャンスなので、奴隷全員を集めて、ちひろに紹介することにした。『隠れ家』に勢揃いした奴隷達を前にして、ちひろは大きく目を見張り、恨めしげに私を見た。
「あの時の言葉は冗談じゃなかったんですね」
「あの時の言葉?」
彼女は頬を膨らませた。
「レストランで聞きました。『ちひろよりも可愛い子ばかりだ』って」
「ああ、そんなことも言ったかもな」
「ご主人さまのバーカ」
「・・・お前だって負けてないぞ」
彼女は聞こえないフリをした。が、きっと聞こえたはずだ。

その後、ちひろは持ち前の明るさで一人ひとりに自己紹介した。簡単な歓迎会が行われ、終始、彼女は楽しそうに笑っていた。心配していた『摩擦』はなかった。彼女達だって、皆、大人の考えができる女性ばかりなのだ。それ以来、彼女は『隠れ家』へ顔を出すようになった。

「ちひろが溶け込んでくれて本当に嬉しいよ」
これは本心だ。
「なんか思ってたより全然、素敵な人ばかりです。共同生活みたいで楽しいの」
「そうか。だが、お前にも負けず劣らずのエロ女ばかりだから気をつけろよ」
エロエロな天使はニッコリと微笑んだ。
「衣緒菜ちゃんとか?」
「あいつは別格だ。普段大人しそうな優奈や由衣も相当だぞ」
ちひろは目を丸くして驚く。
「ウソッ?優奈ちゃんも?え?由衣さんも?」
何度か会った程度では、優奈や由衣の真の姿を見破ることは難しいだろう。私は煙草に火を点けた。

「我が『隠れ家』へようこそ!」

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シリーズ連載 : 私と性奴隷たちとの日々