自分が望んだ恋愛だから1

女性もえっちな妄想をしてもいいんです。
当サイトは、アフィリエイト広告を利用しています

アダルトな読み物のお部屋

自分が望んだ恋愛だから1
2021年06月29日 23時52分
DUGA
みるふぃーゆ

1週間ほど前のこと、隣の部屋に住んでいた唐沢春香が家庭の事情で急遽引っ越すことになった。『家庭の事情』について彼女はあまり話したくなさそうだったので敢えて訊かなかった。引っ越し作業をみんなで手伝ってあげた際に、彼女はポツリと『もしかしたら海外に住むことになるかも』と呟いた。その時の彼女の寂しげな横顔が印象的だった。言葉の端々からも彼女の無念が滲み出ており、資産家の娘である彼女の抗うことのできない特殊な事情が垣間見えた。

その後内輪で開かれたささやかな送別会で春香は泣いて、泣いて、泣きじゃくった。彼女はたまたま同じマンションの同じフロアに引っ越してきた女子大生であり、もともと性に対してそれほどに強い指向があったわけではないため、他の性奴隷達ほどに私と絡むことはなく健全な大学生活を送っていたようだが、陽気でおっちょこちょいな彼女との思い出は楽しいものばかりで、初春にやってきてこの秋に1年も経たずにお別れとなってしまうのが残念でならなかった。ちなみに彼女が住んでいた2LDKの部屋は元通り賃貸物件として他人に貸すそうだ。『変な奴が来なければいいけどな』とこちらが心配していると、『大丈夫です。うちの親がちゃんと審査しますし、皆さんの意見も聞いてから判断するって言ってましたから』という答えが返ってきて安心した。メールアドレスや電話番号などの必要な情報を交換して、最後は思い出に残るような濃厚なセックスをして別れたものの、未練を断ち切るには不十分で、春香がいない日常はやや寂しいものとなっていた。

そんな頃に水谷紀子がやってきた。今年の夏に一度遊びに来たので数ヶ月ぶりの訪問となる。紀子は私たちが『隠れ家』に住んでいた頃の性奴隷で、最年少かつ性奴隷随一の美しい巨乳の持ち主だった。彼女のスカウトの仕方があまりに酷かったためか、最初はなかなか打ち解けてくれなかったが、高校から大学へ進学する過程で彼女は私の掛け替えのない存在となった。そして大学生活を優先させるべく、同じく性奴隷だった亜美、愛とともに『隠れ家』を離れることになり、その後はメールのやり取りが主となっていた。

彼女たちが『隠れ家』を離れてもうすぐ2年が経つ。その間に私たちは『隠れ家』から今のマンションへ引っ越したわけだが、紀子は誰かの誕生日といった特別な日には必ず顔を出してくれた。今では会う度に大人の色気を増してゆく彼女の成長ぶりを見るのが楽しみになっている。紀子は今、大学3年生で、そろそろ就職活動という言葉がちらつき出す時期だ。彼女なら充実した学生生活を送っているようだから問題ないだろう。夏に彼女と会った者なら誰でもそう思っていたはずだ。もちろん私も例外ではなかった。が、意外なことに紀子は人知れず苦悩に満ちた日々を過ごしていたようで、今回は非常に危険な精神状態で私達に会いに来たのだった。

紀子は電気を消した自分の部屋で無意識に手首をさすっていた。心が苦しくて、たまらない。いつからだろう、こうして暗闇の中で手首をさするようになったのは。
(・・・ご主人さま)
『彼』の顔が脳裏に蘇る。大学受験に合格して親よりも先に『彼』の元へ報告に行った時のことを思い出す。普段はあんなにクールだったご主人さまが『良くやったな。おめでとう』と自分のことのように喜んでくれた。何度思い出しても嬉しくて涙が溢れる。高校時代、悪友と遊びほうけて大学進学なんて頭の片隅にすらなかったのに、『彼』と出会って人生がガラリと変わって今の自分がいる。
(苦しいよ・・・ご主人さま)
『隠れ家』を離れることになった時は胸に大きな穴が空いたような感じだった。放心の波にもまれ、あらゆる感覚が干からびてしまったようだった。みんなのことを思い出しては泣いて、それでも『彼』の期待に応えるように大学生活を充実させた。入学当初は変な奴らの罠に落ちて大変な目にも遭ったけど(『紀子 輪姦サークル』を参照)、その後は問題なく学業に邁進できた。高校時代の悪友や大学の変な連中とは完全に縁が切れて、新しい友達がたくさんできた。相変わらず下心丸出しの男達が群れてくるが、もう慣れてしまった。学業を優先する傍らで社会勉強のつもりでいくつかのアルバイトを経験し、合間を縫うようにサークル活動にも参加している。みんな良い人ばかりで幸いにも人間関係で悩むことはなかった。そんな恵まれた楽しい大学生活を送っているのに、たまに何かの用事で『彼』に会いに行くとハッとさせられてしまう。自分が自分を偽っていることに気づいてしまうのだ。大学生活を満喫しているなんてうわべだけの話で、自分はただ単に『彼』のことを考えまいと気を紛らわしているだけなのだと。

この前の夏のある日、『彼』の所へ遊びに行った。『隠れ家』は自分にとって掛け替えのない場所であったが、今『彼』が住んでいるマンションも夢のような場所である。『彼』に思う存分抱いてもらい、幸せの絶頂だったその夜の帰り道。何がきっかけになったのかはよく覚えていないが、とにかく気づいた時には人気のない道端にしゃがみ込んで号泣していた。まるで『隠れ家』から離れて以来ずっと積もり溜まっていたものが心の深層部の檻から溢れ出てしまったかのようだった。今までも『彼』と別れた直後に似たような沈鬱な気分になったことはあったが、これほど衝動的で酷いものではなかった。突然襲いかかってきた絶望の渦に為す術もなく飲み込まれてしまい、その瞬間から一気に歯車が狂ってしまったのだった。

それからは無惨な生活が待っていた。『彼』に抱かれたいという思いで胸が締めつけられて、毎日のように真っ暗な部屋で『彼』を思い浮かべ自慰行為に耽った。何度もオーガズムを感じ、その度に絶望してやがてアルコールに頼るようになってしまった。飲んで、飲んで、吐いて、飲んで、吐いて。浴びるように飲んでは泣きじゃくった。孤独だった。『彼』との思い出を共有していない人と飲んだって、自分の気持ちは理解できない。だから友達を誘えずに独りで飲む。『彼』やみんなにメールをしようとしても手が震えてしまってどうしてもできない。そしてまた絶望して、部屋の灯りを消してうずくまる。気がつくと手首をさすっている。ネットでアルコール中毒患者の体験記やリストカットの話を虚ろな目で眺めては深いため息をつく日が続いた。
(ご主人さま・・・今のわたしを見たら怒るかな)
紀子は涙で頬を濡らしながら項垂れた。

それでも講義を休むことはなかったし、アルバイトやサークル活動もなんとかこなした。が、過度の飲酒、睡眠不足等で顔色は悪く、ゲッソリとやつれ果てた彼女の変化に周囲が心配し始めた。
「紀ちゃん、死にそうな顔してるよ。本当に大丈夫?」
「ありがと。大丈夫だから」
そう言うと友達は安心したように微笑む。自分の心の闇の深さを知ったら、もう友達でいてくれなくなるかもしれない。
「ねえ、紀子、飲みに行かない?」
そう誘われても、紀子は残念そうに首を横に振るしかない。人付き合いの良い彼女ではあったが、こんな状態でみんなと飲むわけにはいかない。暗闇で独りになりたくなってしまう。嗚咽しながら手首をさすってみんなを怖がらせてしまう。

ある日、どうにもたまらなくなって『彼』に会いに行くことにした。特別な用事がないのに会いに行くのは初めてである。用事が無ければ来るなと言われているわけではない。ただ、気軽に会うようになると『隠れ家』の頃に逆戻りになってしまうだろうから、自分を戒めていただけだ。今の自分は『彼』の性奴隷ではなく、ただの女子大生である。『彼』を愛することに変わりはなくても、しっかりと大学生活を送るのだと『彼』と約束したのだ。
(でも・・・もう・・・だめ・・・会いたい)
紀子はその日、一睡もできずに朝を迎えてしまった。昨夜も飲酒、暗闇、手首。このままでは少しでも気を抜いたら本当に手首を切ってしまうかもしれない。怖い。だから会いに行く。でも、こんな状態で会いに行ったら嫌われるだろうか。
(それでも会いたい)
フラフラと力なく立ち上がり、ぼんやりとした意識の中で身支度を調える。シャンとすれば親しい友達でも気づかれない程度には振る舞える。『彼』やみんなに会って相談すればスッキリするかもしれない。いつもよりも念入りに化粧をして、以前『彼』に買って貰ったお気に入りの服とアクセサリーを選ぶ。『今からみんなに会いに行くのだ』と思うと気持ちが昂揚してくる。遠足前日の小学生のようなウキウキした心地よい気分になる。鏡の中の自分の笑顔を見るのは随分久しぶりだ。
(あ、なんか、いい)
気持ちが軽くなった紀子は部屋に散乱していた酒の空き瓶を整理することにした。綺麗好きな彼女の部屋はよく整頓され、掃除も行き届いていたが、アルコールに頼るようになってからは空き瓶の量が増えていき、次第にそれらをゴミに出すのも億劫になり、飲んだら飲みっぱなしといった状態になっていたのだ。酒の空き瓶以外のゴミはきちんと毎週の収集日に出せるのに、なぜか空き瓶だけはダメだった。自分の悩みを共有してくれる仲間のように、傍に置いておきたかったのだろうか。自分でも良く分からない。
「あっ、由衣さんに借りた本、返さなきゃ」
由衣に借りっぱなしだった小説を2冊、バッグに入れる。由衣は『彼』と同棲している。『彼』から初めて同棲のことを知らされた時は複雑な思いだったが、由衣は相変わらず『彼』のことを『ご主人さま』と呼んでいたのでああ変わらないんだと思って安心した。紀子は由衣のことが大好きだったし、深く尊敬していた。
(やっぱ止めよう)
紀子はバッグに入れた本を取り出して本棚に戻した。本を返さないことで由衣との繋がりを維持しておきたいという子供っぽい考えが浮かんだのだった。

昼前に近くのファーストフード店で昼食を済ませて、紀子は『彼』のマンションへ向かった。1回乗り換えて、20分ほどで最寄り駅に着く。
(あぁ、こんなに近いんだ)
同じ都内に住んでいるのだし、それほど遠い場所ではないことは知っていても、いざ遊びに行くとその物理的な近さにいつも驚く。『隠れ家』を離れた時、もう2度と会えない遠い場所へ行くような気がして泣きじゃくったが、それはあくまで気持ちの問題だったのだ。『彼』のマンションを目指して駅から10分ほど歩く。今日はみんなを驚かすために訪問のことを知らせていない。お洒落なエントランスに到着する。最上階を見上げると自然に頬が緩んだ。

紀子は心を弾ませながら、エントランスで『彼』の部屋を呼び出した。が、返事はなかった。アポイントがない客は相手にしないのだという『彼』の言葉を思い出す。パネルが冷たい質感で紀子を拒絶する。急に心細くなってパネルに備え付けられたカメラを見つめる。いくら約束がないからと言って、『彼』が自分を拒むはずはないのだ。
(お留守かな)
しばらく待ってようやく諦める。そして今度は衣緒菜と優奈の部屋を呼び出す。すぐに衣緒菜の陽気な声が聞こえてきた。
「あー、紀子ちゃんだ。いらっしゃい」
彼女は身内にはビックリするくらい気さくに接してくれる。衣緒菜は紀子の返事を待たずに、さっさとロックを解除してくれた。無条件の歓迎である。こういうさりげない気遣いが今の紀子には本当に嬉しかった。
(来てよかった・・・)
足取り軽く奥のエレベーターホールへ進み、エレベーターに乗り込む。

最上階に着くと、エレベーターホールの備え付けの椅子に座っている五十嵐怜に気づいた。相手もほぼ同時にこちらに気づく。
「あら・・・」
怜はやや目を見開いて驚いたような表情を浮かべた。てっきり別の人間が来たのだと思ったのだろう。怜と紀子は『隠れ家』で何度か顔を合わせていたが、親しく談笑するような間柄ではなく、肉体的な絡みも皆無だった。そうした関係は『彼』がこのマンションに引っ越してからも続いていた。これは彼女に対して苦手意識があるというのではなく、単に彼女の意識がいつも衣緒菜に向けられるためである。
「怜さん、こんにちは」
紀子が丁寧に挨拶すると怜は優しく微笑んだ。『彼』の性奴隷達は実に魅力的な笑顔を浮かべる。ただそれには個性が出ていて、例えば優奈には保護本能を強烈にくすぐられるし、由衣には無限の抱擁と安心感を与えられ、衣緒菜には健康的でポジティブな気分にさせてもらえる。そして目の前の怜にはそのミステリアスな妖艶さで一瞬にして虜にさせられてしまう。
(わたしはどんな笑顔を浮かべることが出来るのだろう)
一瞬だけ、暗い気持ちになる。あまりに魅力的な彼女達と比較して自分は『彼』にどのように見られていたのだろう。
(私なんて・・・)
怜に笑顔を向けられただけで落ち込んでしまうほど不安定な自分に紀子は情けない気持ちでいっぱいになった。そんな彼女を気遣うように、怜が優しい声色で声を掛けてくれた。
「久しぶり、紀子さん。嬉しいサプライズね」
「・・・はい」
せっかく怜が気を遣って話しかけてくれているのだ。黙ってしまってはだめだ。
「あっ、あの、こんなところでどうされたんですか?」
すると怜は紀子の質問には答えずにスッと立ち上がり、紀子の方へ歩き出した。あの衣緒菜と互角に渡り合う淫惑の美女。背丈は紀子の方が僅かに高いが、身に纏っているオーラというか威圧感が比較にならない。怜に真っ向から見つめられてガチガチに固まってしまった紀子の背中に細い腕が回り、2人の美女はお互いの息づかいが感じられるほどに密着した。
「あぁ・・・怜・・・さん」
怜の香りや温もりを感じて、紀子は心を奪われ惚けてしまう。無意識に目を瞑ると期待通りに柔らかな唇が重なってくる。
「んっ・・・んふぅ」
体中が蕩けてしまいそうな濃厚なキスが終わると紀子は夢見心地にそっと目を開いた。怜は少し身を引いてニッコリと微笑んでいた。いつもは衣緒菜に向けられる愛らしい笑顔だ。
「驚いた?」
「・・・はい」
「あのね、自分でもビックリしてるの。どうしてだろう、あなたが纏っている陰鬱な心の闇に惹かれちゃったのかな」
照れ隠しなのか、怜はやや意味不明な言葉を紡ぎながら顔を伏せた。紀子は恥ずかしいほど心臓の鼓動を高鳴らせていた。怜は紀子と視線をそらせたまま呟いた。
「誰かを好きになるって大変だよね。胸が締め付けられて、苦しくて、恋い焦がれて、暗闇の中で壁を背にうずくまって・・・」
紀子はまるで自分のことを言われているような気がしてハッとした。そんな紀子に怜が肩を竦めて見せた。
「あの馬鹿女と喧嘩しちゃったの」
「馬鹿女?」
紀子が首を傾げていると、いつの間にか2人の背後に立っていた衣緒菜が叫んだ。
「馬鹿女って誰のことよ?」
2人の視線が同時に彼女に向けられる。
「あっ、衣緒菜さん!」
紀子は嬉しさのあまり声を上げた。久しぶりに見る衣緒菜はやはり極上の美女だった。どれほど努力しても絶対に敵わない領域にいる存在である。そんな衣緒菜がプンプンしながら近づいてきて、紀子と怜を引き離した。
「大事なお客様に手を出さないでよね」
そう言って、衣緒菜は紀子の腕を引っ張った。
「紀子ちゃん、行こっ!こんな人と関わったらダメだよ!」
当の本人は本気で怒っているようだが、紀子は年上のはずの彼女の表情や仕草が可愛く思えて仕方がなかった。と同時に以前、『彼』がメールで衣緒菜と怜の喧嘩について愚痴をこぼしていたことを思い出して思わず吹き出してしまった。
「ほらっ!・・・って、何で私が怒ってるとき、みんなそうやって笑うの?」
「・・・だって、可愛いんだもん」
紀子の気持ちを怜が代弁した。怒りの対象にそう言われて衣緒菜は顔を真っ赤にして自分の部屋に帰ってしまった。
「衣緒菜さん!」
紀子は慌てて衣緒菜を追おうとしたが、怜が紀子の腕を掴んで『ちょっと放っておきましょう』と言うように肩を竦めたため、紀子もその場に留まることにした。
「もうすぐご主人さまも帰ってくるよ。ここで一緒に待ちましょう」
怜は紀子を安心させるように優しくそう言った。紀子としては怜よりも衣緒菜の方が気楽で良いのだが、怜が珍しくかなり打ち解けた様子だったので、紀子は気になっていたことを訊いてみることにした。
「怜さん、さっき私におっしゃった『陰鬱な心の闇』って何のことですか?」
「え?・・・インウツ?」
「陰鬱な心の闇に惹かれて・・・とか」
「あぁ、それね。うーんと、それはね、何て言えばいいのかな、さっき紀子さんがエレベーターから降りてきた時、今までに見たことがないような苦しげな雰囲気だったから。何か辛いことでもあったのかなって。夏に会った時とはまるで別人。気を悪くしたらごめんなさい」
そう言われて、紀子は心底驚いた。日頃一緒に過ごしている親しい友人にもこれほどはっきりと言われたことはなかった。それに今朝までは確かに鬱気味だったが、身支度をしてここに来る過程ですっかり以前の自分に戻ったつもりでいたのに。
「そんな紀子さんの雰囲気が以前の自分に似ていたのかも。で、気づいた時にはキスしてた」
「そうだったんですか」
紀子は彼女とのキスを思い出して思わず唇に手を当てた。
「影のある人って惹かれるの。衣緒菜もそうだし、ご主人さまもね」
何となく分かる気がした。衣緒菜は普段は陽気だが、たまにゾッとしてしまうような深い闇を垣間見せる時があることに紀子も気づいていた。『彼』については言うまでもない。
「だからね、もうね、我慢できないの・・・」
突然、怜の口調が熱を帯びたものになった。紀子もいつしか怜の魅力の虜になっており、2人はしっかりと抱き合いながら唇を重ねた。
(素敵・・・怜さん)
衣緒菜はいつもこんな夢のような誘いを受けているのだろうか。羨ましい。紀子の身体は性の期待と歓喜で疼いた。

蕩けてしまうような甘い官能の意識の中で、エレベーターの到着を知らせる音に気づいた。絡み合っていた2人の美女は慌てて服の乱れを直した。エレベーターの箱から出てきたのは『彼』と由衣だった。心臓がドクンと跳ね上がり歓喜に満たされそうになった瞬間、紀子は2人が手を繋いでいるのを見て一気にどん底へと突き落とされた。あまりに鋭角な急降下だった。怜との絡みで夢心地であった直後でもあり、そのショックは凄まじいものだった。
「紀子じゃないか!」
『彼』が嬉しそうに声を上げる。由衣が紀子の視線に気づいてハッとしたように『彼』から手を離す。怜が『彼』の方へ歩み出す。全てがスローモーションのようにゆっくりと流れ、紀子は心臓を鷲掴みにされたままその場に立ちつくした。紀子の異変にいち早く気づいた由衣はすぐに紀子の傍に来て優しく声をかけた。
「大丈夫?」
紀子は返事をしようとしたが声が出なかった。自分は何に対して動揺し、混乱しているのだろう。何に対して怯え、絶望しているのだろう。ぼんやりと霞む意識の中で紀子はひたすら自問し続けた。しかし、その答えは既に分かっていた。『彼』と由衣が手を繋いでいたのを見た時、2人のあまりに強い絆に他人の近寄る余地がないことが分かってしまって、懸命に抑え込んでいた絶望の感情が鎌首をもたげたのだった。手を繋いでいるだけ、ただそれだけなのに、紀子の鋭く研ぎ澄まされた感覚は自身に向かって牙を剥いてしまったのだ。
「紀子ちゃん!」
由衣の心配そうな声。この天使のような女性は何も悪くない。もちろん『彼』にも罪はない。今まで持ち合わせたことのない嫉妬という醜い感情。『隠れ家』で大勢の性奴隷の一員として過ごした時でさえ、紀子は嫉妬とは無縁だった。今、そのグロテスクな思念の塊が紀子の存在そのものを握り潰そうとしていた。
「おい、紀子!どうした?」
慌てたような『彼』の声、由衣の柔らかな感触、さっき知ったばかりの怜の温もり。いろいろなものが手を伸ばし、暗く深い闇の中から紀子を救い出そうとしている。
「・・・助けて・・・助けて」
紀子は涙を流しながら上の空でそう呟いていた。

この小説がよかったらいいねしてね
0
シリーズ連載 : 私と性奴隷たちとの日々